「・・・指揮官様、なんだか手慣れてません?」 「・・・人の性事情は詮索するものじゃないよ、カリン」 指揮官様の声が近くてこそばゆい。なんだか、耳が性感帯になったみたいだ。耳たぶを撫でられる、ただそれだけで、腰が浮いてしまいそうだ 「ふっ、んっ、なんだか、手つきがいやらしいです・・・」 「そりゃ、いやらしいことするからね」 手が頭から胸に降りて来る。触れるか、触れないかのフェザータッチ。乳頭が痛いくらい勃っているのが嫌でもわかる そして・・・ 「うわ、すごい濡れてる。もしかして期待してた?」 「言わせ、ないでくださいよ・・・んんっ!」 わざわざ目の前に持ってきて、指にかかる銀糸を見せつける。サディストめ・・・。待ってください!今、クリ弄られたらっ! 頭が白一色に染まる。目の前がチカチカして、身体はふわふわする。いつもの自慰とは違う、多幸感が押し寄せて来る そんな私を放って、ベッドの脇をごそごそしだす 「カリン、ゴムは何処?」 「・・・そんなもの、ありませんよ・・・安全日だから、ナマでしてください・・・」 そういって、今度は逆に押し倒してやった。今度は逃がしてあげませんからね、指揮官様 「ふぎゅっ!」 寝転がったベッドから悲鳴が上がった。何事かと身体をどけると、潰れた人形が姿を現す 「酷いよ指揮官・・・」 「・・・ミシュティ、クルカイが探してたぞ」 だから逃げてたのに・・・口を尖らせ、そう宣う。エルモ号でも彼女の睡眠欲求は留まるところを知らないらしい 「どう?エルモ号はもう慣れた?」 「ふあぁ~~・・・そうだね、寝れる場所が多いのはいいね」 そういうことじゃないんだが。まぁ、エルモ号は彼女にとっていい環境らしい 「足りない物とかない?」 「う~~ん、もっと柔らかい枕と、寝る時に温かい抱き枕が欲しいな・・・」 安眠グッズか。今度衛星都市に立ち寄ったら買っておこう そろそろ報告書でも書くか、と立ち上がると、腰にミシュティがへばりついていた 「もうちょっと、ここに居て・・・」 抱き着いたままのミシュティの頭を撫でてやる。仕方ない、午睡するとしよう 「カリン・・・ッ!クソッ!10年で随分と鍛えたなッ!」 「指揮官様こそッ!衰え知らずじゃないですかッ!」 ぎりぎりとカリンと八手組む。もはや何が原因だったのか。ケースレス弾の調達とかだったか? 徐々に、だが、確実にカリンに押し込まれる。 理由は明白だ。単にカリンに怪我をしてほしくない。これ以上力を込めてぽっきり骨折、なんて目も当てられない 「ぐっ!」 とうとう膝が折れ、カリンが馬乗りになる。どっちも息は上がり、見るも絶えない光景だ 「これで、どちらが、上か、わかりましたよね」 ぜーぜー言いながら勝ち誇られても、そんな言葉は酸素を求める呼吸にせき止められた 暫く、お互いに息を整える。今更、カリンを跳ねのけることも出来まい。次は頭をぶつけるかもしれないのだ 「わかった。好きにすると言い。望みとあらば指輪だろうが首輪だろうが猫耳だろうがつけてやる。だが、心までは渡さない」 「私が最低みたいないい方しないでください!」 「指揮官、久しぶり」 「ヴェクター、久しぶりだね。また会えてうれしいよ」 短い銀髪を揺らす彼女。少し大人びたように感じるのは、自分が歳を取ったからだろうか 「・・・そうだね、指揮官が出て行ってから10年だしね」 「事情も言わずに出て行ったのはすまないと思うよ。あの時は、あれが私にも君たちにも最善だと思ってたんだ」 思わず苦笑してしまう。この台詞、会う人形全員に言ってる気がする 「・・・そう、ならいいんだけど。それで、私の部屋は何処?まぁー、何処でもいいんだけど」 気だるげな気性は変わっていないようで安心すら覚える。 「でも、デールを10m以内に近づけないでよ?」 「わかったわかった」 男嫌いも変わってなさそうだ。特にデールは、ゲームサーバーの件をいまだに引きづっているのか 装備は404に入隊してかなり重装備になったようだ。放火魔からナパーム弾にレベルアップといった風情を感じる 「後で指揮官の部屋に行くから。今度こそ、消えないように、証を身体に刻んであげる」 「・・・痛くしないで・・・」 やはり、性格はあまり変わってないようだ 「♪~♬~♪~、イェイ!」 澄んだ歌声と、キレのあるダンスに思わず拍手。スタンディングオベーションまでしてしまおう 「応援ありがとう♡」 ヴェプリーと同じアイドル人形を自称するシャークリーであったが、確かにアイドルに違わぬパフォーマンスだ 「さすが、ズッケロの看板アイドル。特等席で堪能させてもらったよ」 「でしょ?シャークリー以上のアイドルなんていないんだから♡」 自信満々に言い放つ彼女。ズッケロでも彼女目的で来店する人間がいるのだから事実なのだろう 「ヴェプリーいるんだし、二人でアイドルとかしないの?」 「も~、シャークリーは自分の力でトップアイドルになるの!あいつは関係ない!」 心外!とばかりな言動。彼女と過去に何かあったのだろうか その時、前触れもなくドアが開き、ヴェプリーが飛び込んでくる。日課のソロライブの時間だったか 「あっ、シャークリー☆こっちに来たんだ!ね!一緒にユニット組もうよ!☆」 「近いのよ!もう!指揮官も笑ってないで!あ~!セット舌髪が~!」 グリーンエリアでも影の部分は存在する。漆黒の闇に染まった路地裏、そのさらに奥、深淵の奥に彼女はいた 「あら、指揮官。お久しぶりですね」 「・・・生きてたのか」 想定していた結果ではあったが、苦々しい顔を隠せない。パラデウスが生き残っていたということは、それを統括する存在もまた生き残っているのは自明の理ではないか 「死んでほしかったみたいな顔しないでくださいよ、ロ・ビ・ン」 「また、頭と心臓に鉛玉をプレゼントしてほしい?」 甘く囁くモリドーに、吐き捨てるように言葉を投げる 未だに服従しているのか、軛から逃れたのか、それはどうでもいい。 「冗談はここまでにしておきましょう。それで、今更私に接触して何がお望みです?」 「今のパラデウスの動向、情報、戦力と目的。すべてだ」 情報が欲しい。404もカリンも頑張ってくれているが、やはり蛇の道は蛇だ 「相変わらず人使いが荒いですね。ロビン」 「黙れ。次は物理的に口を塞ぐ」 そう言って闇のさらに奥へ誘う女についてゆく。背後で重い音を立て扉が閉まった 「(—_— )!」 ブルートがローカルストレージで発見したのは、旧時代のSF小説であった 暗黒メガコーポ、カラテ、ヤクザ、そして忍者 初めはデータ採取が目的だったが、気づけばのめり込んでしまっていた 初期装備の迷彩服の上からボロ布で作ったドーギを着込む 近接ユニットが幸いし、書かれている忍者の動きの1/5の再現を可能にした。 だが、未だにニンジャ・ソウルは顕現しない。修練が足りないのだ ドンッ!ダダッ!ちょうどいい時にグリフィンの雑魚共が来てくれるものだ。カラテの錆にしてくれる ---- 「状況終了。負傷者なし」 「いつもの鉄血の哨戒みたいだね。それにしても・・・」 「うん、変な服。鉄血で流行ってるのかな?」 シュカカッ!短い連射音はサプレッサーによってほとんど無音だった。それがただ一人の人間の頭に寸分違わず吸い込まれ・・・ そのすべてを手刀で叩き落した 「何よアイツ!デタラメじゃない!本当に人間なの!?」 隠密が絶対条件のスナイパー、マキアートから思わず絶叫が漏れる (・・・どこにいても補足される、そして、あの身のこなし。さらにはどんな体勢からでも正確に狙ってくる。尋常ではない!) フジキドの背に冷たい汗が流れる。幾たびの戦場を歩んできたし、死合も2桁は優に超えたが、これほどまでニュービーがいたのか ((ここで仕留めなければこっちがやられる)) 両者の思考は一致する。距離は500mもない。ビルを、看板を飛び、照準から逃れるが、 (掠めたか・・・) (当たらないっ!) 200m。 (左脚ッ!ウカツッ!) (これ以上近づかれるとマズイ) それでも忍者は止まらない。距離はもう100mも離れていない 「ねぇ、指揮官。抱いてほしいの・・・指揮官の温もりを、私に頂戴・・・」 あの時、断っておけばよかった。後悔先に立たずとはよく言ったものだ 「ふんふん♪」 「上機嫌だな・・・」 理由は分かってる。それでも言わずにいられない。 「そりゃ~そうでしょ♪でで、どうだった?私のナカ」 「・・・最高だったよ」 最低なことを言ってる・・・言わされてる・・・セクハラで訴えれないかな。 「も~、そんな底辺レビューじゃ炎上するよ!もっと誇張して!もっと良かった点を具体的に上げて!」 「・・・どうすりゃいいんだよ・・・」 人形の記憶の一部を消す方法ないかな。ペルシカに聞いてみようかな・・・でも、そしたらMDRのことバラして中身吸いだすよな・・・ 「指揮官~、なんか適当じゃな~い~?おりゃっ!」 「うわっ!」 MDRに押し倒される。オッドアイは嗜虐的な色に染まっている 「昨日は指揮官が上だったから、今日は私が上になってあげる。そうだ!このまま配信もしてあげよう!楽しくなるぞ!」 夜のエルモ号は静謐が支配していた。エンジンルームを除く、すべての部屋は寝息とサーバーの少しの音しか聞こえない そのエンジンルーム 「んっ、ちゅっ、はぁっ、指揮官、もっと・・・」 二人の間に銀の糸が架かる。指揮官はメイリンの言葉に答えず、再び口付けを再会する 酸素を求める彼女を無視して、口内を蹂躙する。歯列をなぞり、唾液を交換し、彼女が酸欠に喘いでも指揮官は止めない。 咽かえるほどの牝の淫気で窒息してしまいそうな空間。 「はーっ❤はーっ❤」 「もう十分?」 彼女を見れば更なる愛撫を求めているのは明白だったが、あえて挑発するように言う。自分だって我慢出来ないのに 蕩けた顔と潤んだ瞳で指揮官を見つめるのは、一匹の牝だった。 「・・・もっと、もっとください、指揮官♥私のここ、ぐちゃぐちゃに乱暴してください♥」 そういって、パンツに手をかける。黒のそれには隠し切れない愛液のシミが出来ていた 「指揮官♥」 媚びるような声は、指揮官の耳に届き、そしてエンジンの轟音に消えていった 「へぇ、ここが指揮官様のお部屋ですか」 「エルモ号は初めてだっけ?」 「えぇ、誰かさんが後方に送ったせいで」 悪かった、そう投げれば、もう過ぎたことです、と拗ねたように返してくる。朱に染まった彼女の横顔が可愛らしく、つい微笑んでしまう 「ちょっと!もう!指揮官様の意地悪・・・」 「ごめんごめん」 指令室、エンジンルーム、倉庫、そして人形のメンテルーム。何処もグリフィンや非軍事勢力管理局のものより数段劣るだろうが、ここが今の私の大切な家だ 「あっ、指揮官。と、カリーナ、さん?」 「こんにちは~、メイリンさん。今日はちょっと査察で~す」 ふと人形修復部屋に入る。エルモ号の第二の心臓ともいえるこの場所。最近はデールが詰めていることが多いが、今日はメイリンがいた 返事もそこそこに、メイリンが慌てて修理工具を放り投げる 「ちょっと!メイリン!身重なのに何してるの!?」 「何もしてません!何も!」 「指揮官様!今なんて言いました!?」 「あなたのペットのアントニーナです・・・」 「悪いものでも食べた?」 はて、今日はハロウィンだったか?いつも通り素っ気ない顔でアントニーナが変なことを言い出す。可愛らしい猫耳にご丁寧に尻尾までつけいる 「猫がお好きと聞いたので」 「ペルシカと間違ってない?」 ペルシカは猫が好きらしい。好きすぎて自分の頭に猫耳がついてるほど ただ動物としては犬の方が好きだ。それもハスキーとかデカい奴が 「?確かにペルシカさんは教授は猫が好きと言っていましたが?」 「あぁ、ベッドの話?そうね、ネコは好きね」 「は~い💙指揮官、上着脱ぎ脱ぎしましょうね~💙」 「たかが健康診断で変なこと言わないで・・・」 健康診断である。健康とは縁遠いイエローエリアのエルモ号でも、医療用人形のコルフェンが来たことでようやく実現した。・・・普通の会社なら行政処分ものだ 「外傷と打撲痕、内出血が多く診られますね。心肺機能は問題なさそうです。本当はもっと専用設備で検査したいんですが・・・」 「流石にそこまでは求めないわ」 真剣な顔でコルフェンが結果を下す。健康さと頑丈さは取り柄の一つだ 「ではでは~、下の方を💙」 「下も診るの?」 腰とか脚に何かあったら嫌でしょう?そう言われてしまえばしたがるを得ない。患者衣に手をかける 「ちょっとコルフェン!どこを触ってるの!」 「触診ですよ~💙気にしない気にしない💙」 太ももに手を這わせる彼女の手つきは、何処か変態的だ。上に下に、触れるか触れないかの距離で動かされると、身体が意志に判して『そういった』反応をしてしまう 「・・・コルフェン、もう・・・」 「おやおや~💙指揮官、どうなされました~?💙」 わかっている癖に。コイツは私に言わせたいのだ おい!野郎ども!コーラップス塗れにならない方法は知ってるな! へい!防護服を着ることでさぁ! 50点だ!外に出る時は防護服は当然だ!さては、うちに帰って防護服脱いでそのままだな! へい!その通りでさぁ! このボンクラが!うちに帰ったら防護服の洗浄!そして徹底的にシャワーを浴びろ!特に身体に触れやすい手!そして露出しやすい顔! でも、ボス。そんなマルチに使える薬なんて・・・ 安心しろぉ!このヴァリャーグ印の石鹸を使え! おぉ!すげぇぜボス!手もピカピカ!顔もツルツルだ! だろう?イエローエリアどころか、グリーンエリアでもお目にかかれねぇ品質だぜ? でもボス・・・これ高いんじゃ・・・ 心配いらねぇ!6個セットで150000サルディスゴールドぽっきりだ!うがい薬もつけてやる! 流石だぜボス! お求めはここ!ヴァリャーグ運輸が責任を持ってお届けするぜぇ! ボス!大変だ!麦の値段が下がってやがる! 何だと!どうなってやがる! パラデウス麦ってやつが大量に安く売ってやがるんだ! クソが!あのカルトみてぇなやつらか! ボス!米も軒並み下がってるぜぇ! チクショウが!イエローエリアの農家を馬鹿にしてんのか! ど、どうする?ボス・・・ ・・・焦るな。おい!そいつらの米と麦を大量に仕入れろぉ! で、でもよぉボス・・・そんなことしても買い占め出来ねぇと思うぜぇ・・・ だから焦んじゃねぇよ!奴らは未加工品、つまりは1次産業だ。これを加工してやりゃぁ・・・ な、なるほど! テメェら!醸造所をかたっぱしから抑えろ!酒は高く売れるぞ!蒸留で純度高めりゃ製薬会社からも買いが入るかもしれねぇ! 服を抱く人形が一人。センタウレイシー。指揮官のメイドを名乗る人形だ 「すぅ~~・・・はぁ~~~・・・」 二度三度と、深く匂いを吸い込み、メモリに記憶する。今日のシャツは少々汗の匂いが染みついている。昨日の戦闘の影響だろうか 「ふぅ~~~・・・はぁ~~~・・・」 こんな匂いを振り撒かされてしまうと、こちらとしても仕事にならない。もっとご自覚していただかなければ 「はぁ~~・・・」 そのままベッドに倒れ込む。あぁ、ご主人様の匂いに包まれてしまった。あぁ、ご主人様。このようなこと、困ります・・・私はあなたのメイドなのです・・・あぁ、いけません・・・ 「・・・何してるの?センタウレイシー・・・」 「・・・申し訳ございません。少々躓きまして」 「いや、その手に抱えてるシャツは?」 「洗濯物の回収に参りましたので」 ダッシュ一番。シャツを胸に抱いて指揮官の脇をすり抜ける こんな顔を、あの人に見られるわけにはいかない 「指揮官、ハグ、していただけません?」 「急だね、スプリングフィールド。何?寂しいの?」 「ふふっ、そうですね。そうかもしれません」 スプリングフィールドがそういうのであればそうなのだろう。両手を広げ彼女を迎える 「どうしたの?何かあったのかい?」 「・・・いえ、少し不安になっただけです。・・・もう少し強くしてください・・・」 さらに力を籠める。気丈に振舞う彼女でも、こういう感情があることに安心すら覚える 「・・・指揮官、少し汗の匂いがしますよ」 「すまない。さっきまでトレーニングしててね」 「もう、カリーナさんやセンタウレイシーや他の人形と会うときはしっかりシャワーを浴びてくださいね。エルモ号の品位から疑われますから」 「そうだな。すまない」 そう言われ、離れようとするが、スプリングフィールドの拘束が解けない 「・・・私はそのままで構いませんから・・・」 スプリングフィールドが首元に顔を埋める。吐息がくすぐったい 結局、拘束が解けたのは10分後であった 「指揮官様~、ポルドニッツァさんから物資が届きましたよ」 「ありがとう、カリン。メイリンに点検させておいて」 横目で指示を飛ばす指揮官様。真剣な顔をして作戦マップをじっくりと眺めている姿に思わず見惚れてしまう 「ん?どうしたの?カリン」 「い、いえ!何でも!」 視線に気づいたのか、指揮官様がこちらに歩いてくる。貴方に目を奪われてました、なんて言えるわけがない 「このところ働きづめだったからね。搬入が終わったらちょっとくらいお休みしようか」 そういって、頬を愛撫するように優しく撫でる。大きくゴツゴツとした指にはキラリと、銀に輝くお揃いの指輪が嵌っていた 「指揮官様・・・くすぐったいです・・・」 「すまない、もう待てそうになくてね」 そういって指揮官様の顔が近づいてくる。逃げれないように腰に手を回され、 「・・・なんて、キャー。指揮官様、ダメですわ!みんなが見てます」 「リヴァ姉、カリン姉壊れちゃった」 「放っておきなさい。目を合わせちゃダメよ」 グリーンエリアにも雨は降る。低濃度とはいえ汚染されている雨の中、外出する者は皆無だ。一部の例外を除いて 「はぁ・・・はぁ・・・」 追われている。誰に?元同僚に。逃走ルートは悉く塞がれ、厳戒令で周囲一帯の無線は封鎖されている 「こっちも!クッ!」 こっちは土地勘の薄いのに、あっちはホームグラウンドなのだ。袋小路をUターンして。そこが限界だった 「はぁい、指揮官」「ふふんっ!もう観念しなよ、指揮官♪」 「リヴァ、レナ・・・」 呻くように追跡者の名を呼ぶ。お付きにはイージス、イェーガー、マンティコア。本気も本気だ。 リヴァが無線機を放り投げる。チカチカと点滅する画面は、通話中を意味している。 相手は疾うに分かりきっている。 「・・・これが今の君のやり方かい?」 「ええ、そうです。指揮官様がそのような態度を取られるのであれば、暴力をもって私の元に来ていただきます」 「・・・随分染まったみたいだね。成長していて嬉しいよ」 「首輪がお望みならお好きな色を選ばせてあげます。何なら犬耳と尻尾もつけてあげますわ」 流石に生でヤってそのまま逃げたのはまずかったか。ゴムつけてるって嘘言ってればよかった 「やぁ、J。結婚おめでとう」 「だったらもっと祝ってくんねぇかな。とりあえず銃を降ろせよ、指揮官」 「カリンと結婚したんだろう?あのデッカイおっぱいを好きに出来るんだろう?羨ましいな」 「だったら代わってくれよ!!触るどころか、近づくことすら出来ねぇんだよ!」 「しかし、今の私は一介の賞金ハンターでね」 「相応しいかはアンタが決めることじゃないだろ。カリーナの意思を尊重してやれよ」 「じゃあなんでカリーナと結婚したのさ」 「局長の指示だよ!利用できるもんは何でも利用するって人。俺はもっと大人しい子が好みなの!」 「君の好みと、周りは正反対だね」 「うるせー!」 夜。ふとアゲハ蝶がひらひらと舞っているのが見えた。珍しい。このあたりの生き物なんて生躯程度だと思っていたのだが 夜に溶けてしまいそうな黒い羽は、何故だがあの人形と重なって見えた 停泊中のエルモ号。砂嵐の少し先に、人影が見える。こちらには近づかず、だが声が届く距離 「何処かに行かれますか?そこの衛星都市まで送りましょうか?」 少々代金を頂きますが、冗談めかしてそう付け加えるが、人影はくすりとも笑わなかった。ギャグの才能を磨く必要がありそうだ 「いいえ、まだ旅が終わっていませんので」 終わらせることはできますが。そう付け加える人影は旅人のようだ。 不思議なことを言う。まるで哲学者のようだ。もしくはロマンチストか 「そう、ですか。では、お気をつけて」 そう見送ると、一陣の風が吹いた。人影は幻のように消えていた。あの蝶も何処かに消えてしまったようだ 随分昔を思い出す。賞金ハンターになりたての頃だろうか あの旅人には、未だに再会できていない ドッドッドッドッ!重い連射音が荒野に響く。銃身が旋回するたびに生躯が瞬く間にミンチ、どころか血煙になる 「アハハハ!あんたたち!一匹も逃がさないわよ!」 M2HB。グリフィン所属だった人形は、今やエルモ号の屋上で思う存分弾を吐き出している。あの頃は重い本体と、重い弾と重い装備を背負っていたが、今は無縁だ 「M2!残弾に注意しろよ!」 「指揮官!誰に言ってるの!MGは弾幕でナンボでしょ!」 手を緩めない、どころかさらに苛烈な射撃を行う。 「ふぅ~~、さいっこう!他じゃこんなに撃たせてくれないわ!さっすが指揮官!」 「撃ちすぎだ・・・」 ここまで上機嫌なM2はあまり見たことがない。まぁ、面倒くさがりで、暇さえあれば寝ていたのだが 生躯の駆逐が完了する頃には、弾も遮蔽もきれいさっぱりなくなっていた 「もうお終い?まぁいいわ。次も何かあったらあたしを呼んで。盛大にブチ込んであげる」 「指揮官~!ここのネット、カスなんだけど~!」 憤然とした様子で部屋に上がり込んでくる人形の名はMDR。ネットで炎上しまくってSwatting紛いのことをされ、エルモ号に逃げ込んだ人形だ 「・・・MDR、エルモ号の回線が強くないのは認めるけど、君のためにネットがあるわけじゃないんだ・・・」 何回目だ・・・。グリフィン時代はよかった・・・面倒なことはカリンに投げてればいいのだから 「見てよコレ!掲示板の更新すらままならないんだよ!即レスできないレスバに何の意味があるのさ!」 何してんだこいつは・・・。そもそもレスバすんなよ。そうは言ってもこいつのネット中毒はベースコマンドレベルで設計されている。設計者は何を考えてんだ 「とにかく、そんなことで回線強化なんてしない。賞金ハンターのブランドに傷がつくからね」 「今の指揮官にブランドなんてないでしょ!」 何だとぉ!・・・確かに設備も資材も何もないが、心意気までは失くしちゃいない 「ふん!そんなこと言うんだったら『エルモ号指揮官生ハメ配信』ってスレ立てて実況してやる!」 「本当にやめて・・・」 結局、デールに追加アンテナと信号増幅器を付けてもらった。 「あら、カリーナさん。お人形さんがまた増えたの?」 「貴方に関係あります?」 超高層のビルの最上階。夜の帳が降りたグリーンエリアとは対象に、煌々と灯りを振り撒く一室。一般人では立ち入るどころか、このビルの敷地を跨ぐことすら許されない 「相変わらず慎重ですね。あの人と違って臆病なんですね?」 「指揮官様は勇敢です。それに慎重、と言ってほしいですね」 肩を竦めるモリドーにカリーナは鼻を鳴らす。パラデウスが関わっている、そうわかった段階でこの性悪を補足しておいてよかった。 「それで、情報は?」 「せっかちね。その辺もあの人に似たの?」 クスクスと笑う女に中指を立ててやりたい。お前に指揮官様の何がわかるというのだ そうして、別の部屋に目配せする。ベッドが置いてある部屋に 「・・・またですか・・・」 「秘め事はベッドでするものでしょう?」 掌をきつく握りしめる。これも指揮官様のため、そう言い聞かせ女に手を引かれる 後には待機を命じられた人形だけが残された 「あの、ヴェクター?どうしたの?」 合流したヴェクターに押し倒されている。10年前から素体を変えたのか、少々背が伸びたように感じる。しきりに首元の匂いを嗅ぎ、胸元を開く。 「・・・女の匂い・・・それに、このキスマーク、誰の?」 「あー・・・えーっとね・・・」 きっとメイリンのものだろう。昨日散々にサカったのだから。・・・あの時のメイリンは可愛かったな 「言いたくないって?まぁいいけど。どうせ私には関係ないから」 どうやら彼女なりに納得してくれたらしい。よかった。 分かりづらいように見えるが、ヴェクターはかなり感情豊かだ。ただ、感情の発露が少ないだけ 「エルモ号には慣れた?何か欲しいものがあったら言ってね」 「特にないよ。仲間と指揮官がいればそれで十分・・・」 ゆっくりと身体を預けて来る。猫が甘えるみたいで可愛らしい ゆっくりと撫でてあげる。彼女は目を閉じ、その感触に身を任せているようだ。 「・・・でも、今日は寝れるなんて思わないでね。私以外で満足できないようにしてあげるから」 前言撤回。ちっとも納得なんてしてなかった 「うんっ・・・はっ・・・ヴェク、ター・・・」 押し倒され、手首を掴まれ、抗議の声を唇で塞がれる。人形の力は圧倒的で、多少の抵抗は全て無駄に終わった 彼女の舌が口内を蹂躙する。そのまま、首筋、鎖骨、そして胸へ。少しこそばゆい 「・・・指揮官、するよ・・・」 思わず笑ってしまう。組み伏せておいて言うセリフか。 「いいよ、ヴェクターのしたいように、して・・・」 そのまま、割れ物でも扱うかのように私の胸に手を這わせる。指が優しく、それでいて的確に弱い部分を責め立てる 痛いほど勃った乳頭を軽く指ではじかれる。それだけで思考は白に染まり、腰が浮く 「イっちゃった?指揮官」 ヴェクターの声がすぐそばで聞こえる。 「・・・指揮官ってば結構感じやすいんだね」 「ヴェクターが上手すぎるだけよ・・・」 月明りだけが照らす中、浅く広角を上げる彼女は蠱惑的に見えた 「べくにゃんこですにゃん」 「・・・何て?」 「べくにゃんこですにゃん」 猫耳に尻尾、首輪までつけた戦術人形が、ベッドを占有していた ヴェクターが壊れた!クルカイを呼ぶか?デール?いいや、ペルシカか? その時、床に散乱する瓶とカンが目に入る。どれも9%、8%、12%・・・ 「ヴェクター、もしかして飲んだの・・・?」 顔に朱が差した人形は質問に答えず、首を傾げた。そのまま、二本足ではなく、四つん這いで近づく 「んふふ~、指揮官ってさぁ、結構おっぱいおっきいよね・・・」 ド直球のセクハラだった。止めろ服を脱がそうとするなブラを剥ごうとするな揉むな。 「・・・ヴェクター、水持ってくるから大人しく待っててくれる?」 「そうやって逃げるんでしょ~・・・」 腰に抱き着かれてるから逃げれないのだが・・・ 「水持ってくるだけだから本当に。ちょっと下は止めてパンツ取らないで!ミシュティ!丁度良かった!助けて!待て!逃げるな!逃げないで!」 「指揮官、いますか?」 丁度新しい戦術を思いついたので、指揮官と一秒でも早く戦術議論をしたかった。嘘だ。単純に指揮官と一秒も早く、長くいたい一心でクルカイは部屋のドアを開けようとして、ナカから聞こえた音にびくりと震える 「・・・ヴェクター、誰か来る、かもって・・・あっ、そこ、ダメ・・・」 「指揮官ってさ、ここ本当に弱いよね」 よくよく耳を澄ませば不穏な言葉が聞こえる。嫌な予感がクルカイを包む。まさか、ヴェクターに限って 「指揮官!失礼します!」 「うわっ!」「誰?クルカイ隊長?」 踏み入った部屋には指揮官とヴェクター、それまではいい。指揮官もヴェクターも半裸、だが、どうにも予想と違うらしい 「マッサージ?」 「ええ、ヴェクターにお願いしてね」 「そう、ですか。失礼しました・・・」 そういってクルカイは部屋を後にする。勘違い、その3文字を脳内が支配する 二人になった部屋で、ヴェクターが指揮官の耳に口を寄せる 「じゃあ指揮官、クルカイもいなくなったし・・・ねぇ、シよ?」 ヴェクターが甘く囁く 「う~ん、胸がちょっとキツい~」 「指揮官☆ヴェプリーのスーツ姿似合う?☆」 「よく似合ってるよ」 しきりに胸まわりを調整するシャークリーと、いつもと違う服に興奮しているヴェプリー。ダークなスーツと可愛らしい顔はアンバランスだが、よく映える 「ね~え~、コレ着なきゃダメ?ちょっとダサくない?」 「ちょっと大人のお姉さんって感じでアガらない?」 「二人とも、静かに頼むよ。カリンの護衛なんだから」 は~いと、何ともやる気のない返事。だが、元アイドル人形で人慣れしているという点は他の人形以上だ。もしかすると私以上に 今や私以上に敵が多いカリンだが、大っぴらに404を動かせるわけがない。顔が広いとはいえ、秘匿されるべき集団なのだ そこで白羽の矢が立ったのが、賞金ハンターと、その人形たちというわけだ 「ねぇ、やっぱりボタン外していい?ちょっとエロティックな感じに崩したいんだけど~♡」 「ヴェプリーは動きやすくていい感じ☆ズボンもいいよね☆」 「・・・本当に頼むよ?」 世話しなく動き回る人形に一抹の不安が過る。何もありませんように 「決め台詞ってさぁ、カッコよくない?」 まぁMDRが変なことを言い出した。そもそもこいつが変じゃなかったことが少ないのだが 「クルカイなら『完璧よ』とか、チータなら『Ei!』とか、コルフェンなら『おやおや~💙』とか」 「実演しなくていいよ。後、本人の前で言うなよ、それ」 無駄に声と手振りを真似するのは何なんだ。後、コルフェンはそんなに媚び媚びしてないと思う 「私にもさぁ、そういうのが欲しいワケ!ちょっと考えてよ~」 「わかったからくっつくな!重いんだよ!」 後ろからポカポカと抗議の拳が振り下ろされる。それにしてもMDRの決め台詞か・・・ 「う~ん、『送信!』とか?」「ダサくない?」「『ブルパップ!』は?」「グローザがいるじゃん!」「『荒らし最高!』」「罵倒じゃん!」 ああでもないこうでもない。 「じゃあもう『あらら~』にしなよ・・・」 「え~・・・個性なくな~い?」 「・・・一応君の口癖って書いてあるんだけど?」 「指揮官の部屋って、意外と広いね」 「本来は複数人を想定してるからね。今は私だけだけど」 エルモ号の部屋は現状余っていると言っていい。本来移動型の基地を想定しているのに、人形は想定の1/20もいない。思い思いの部屋を各自使っている 「そうなんだ。で、私はどの部屋を使えばいい?」 まぁ、どこでもいいけど、と付け加える。 「ヴェクターは何処がいい?」 ちょっとした意地悪だ。いつもクールな彼女の困り顔が見たいという幼稚な発想。格納庫、とか言われたら逆にどうしよう 少し考えてヴェクターが顔を上げる 「・・・何処でもいいんでしょ?」 「ええ、何処でもいいわ」 彼女は何を重視するのだろう。整備室や訓練場にアクセスしやすい利便性?それとも、日当たりや騒音を気にする?少しワクワクする 「じゃあ、ここがいい」 「・・・ここ?私の部屋?」 「何処でもいいんでしょ?だったら、指揮官と一緒の部屋が、いい・・・」 琥珀色の双眸が真っすぐ私を射竦める。 結局押し切られてしまった。確かに、どの部屋でもいいとは言ったが・・・ 「・・・ヴェクター、狭くない?サブベッド出そうか?」 ミシュティが持ち込んだ収納式サブベッドに手を伸ばすと、ヴェクターの腕がそれを咎める 「大丈夫・・・それより、もっとこっちに来てよ」 そうは言うが、もう並んで寝ている状態なのだ。これ以上となると・・・ 「もっと、指揮官を感じさせて・・・」 犬か猫を感じさせる動きで、ヴェクターが腕に潜り込んでくる。甘い香りが鼻腔を擽る。 ふと、彼女の顔が近づく。どこか決意したような、それでいて躊躇っているような、不思議な顔 「・・・ねぇ、指揮官。私ね・・・」 その時、クロ-ゼットが勢いよく開き、中からおなじみの人形が出て来る 「ふぎゅっ!え、えへへ・・・」 「・・・指揮官、ちょっと待ってて。すぐゴミを燃やしてくるから」 「カリン・・・頼む、この1500オンスのサルディスゴールドで撃ってくれ・・・」 「カリーナです。どれどれ~・・・え、あちゃ~。指揮官様、よく見てください。このサルディスゴールド、刻印がありませんわ」 「・・・それでも頼むよ」 「・・・指揮官様。悪貨は良貨を駆逐する、という諺をご存じですか?」 「博識だね。生憎、Fラン賞金ハンターなもんでね」 「ともかく、このサルディスゴールドは受け取れません」 「・・・じゃあ支払いは・・・」 「ええ!いつも通りということで!指揮官様はちょ~っと横になってるだけで構いませんよ!今日はリヴァさんも呼んであります!」 「ん~・・・」 デスクワークは肩が凝る。腕を回すと案の定、ごりごりと健康によろしくない音が聞こえる。 「整体行くか・・・」 丁度グリーンエリアに寄ったのだ。それくらいは許されるだろう 『奥へお進みください』 自動音声に従い奥へ進む。どうにも私以外に誰もいないらしい。寒々しい静寂が少し怖い 『ここで服をお脱ぎください』 案内に従う。まぁ、こんなゴテゴテ着込んで整体なんてできるはずもないか 『ここで下着もお脱ぎください』 えー・・・、ぼやくが、同じ音声が流れる。致し方あるまい。他に人もいないのだ 『ここでアイマスクをお付けください』 ・・・服を脱げの後に何故・・・。薄気味悪さを感じるが、今更後に引けない。何故整体に来ただけなのに、敵地潜入みたいな緊張をせねばいけないのだ 『ここで横になってください』 簡素なベッドがポツンとあるだけの部屋。ようやくだ。 「いらっしゃい♪指揮官♪カリン姉も、リヴァ姉も、もう待ちきれないって♪」 「クシーニア・・・いつものアレ、頂戴」 『はーい!毎度あり!』 カフェ・ズッケロ。人形の、それも主に元グリフィン所属の人形が集うカフェ。その裏側 そこはエルモ号とズッケロのホットラインが繋がっている。 その施設に相乗りしているのは、クシーニヤ。指揮官に話せないような仕事を請け負っている 最近の流行りは指揮官の寝顔。セキュリティが硬く、グリフィンでも指揮官の部屋に入れる人形は少なかったが、エルモ号のセキュリティはそうでもない。電子戦特化でないクシーニヤでも楽に潜入できる 『静止画1枚300サルディスゴールドからね。動画は別料金。寝言も別料金ね!』 レアものともなれば1枚うん万。自分の名前を呼ぶ寝言であればその数十倍の値段が付く。 ・・・普通に呼んでもらうのと、睡眠時という無意識下で自分の名を呼ばれるのでは、価値が違うらしい 「クシーニヤ、最近は羽振りがいいね」 「いい稼ぎを見つけたんだよ」 「そっか、それはこの隠しカメラとマイクに関係ある?」 一歩、二歩と詰めて来る指揮官に対して、身を翻して闘争を始める 「対象逃走!隔壁を全部降ろせ!逃がすな!」 「指揮官、クルカイ隊長とはどうなの?」 「どう、って?普通だけど?」 腕の中にすっぽり収まるヴェクターが見上げる。蜂蜜色の瞳が私を捉えて離さない 「・・・まぁ、クルカイ隊長とどういう仲でもいいんだけど・・・」 「?あぁ!妬いてるの!」 可愛いなぁ。思わず頬を突くと不服そうに顔を背けるが、逃げようとはしない 「そうね、クルカイとは長い仲だし、信頼も信用もしてる。背中を任せれる人形よ」 「そういうことを聞いてるんじゃないんだけど・・・」 知ってる。あえてそういう答えを言ったのだから。暫くあえてクルカイを褒めるか すると、腕の中ヴェクターが身を翻す。暴れる彼女を離すと、逆に腕を掴まれ床に押し倒される 「・・・指揮官、私って、結構独占欲強い方なの。それを思い知らせてあげる」 ・・・煽り過ぎてしまったようだ 『指揮官様~、ヴェクターさんたちはどうです?そちらの戦力になっていますか~?』 「カリン。ええ、とても助かってる」 カリーナです、そう笑って訂正する彼女に、呆れ気味にそうだねと返す。ここ最近はそんな感じだ 『弾薬なんかは大丈夫ですか?特にヴェクターさんは焼夷グレネードを沢山使われてますから』 「何とかやりくりはできてるよ。だから『えー、買ってくれないんですか』みたいな顔を止めて」 一瞬で商人の顔をする彼女に、あまり意味のない釘を刺しておく。昔はカリンからしかダイヤを買えなかったなぁ。懐かしい 『むー。つれないですね、指揮官様』 「今はあなたの404の下部組織なんだから。何かあるなら、どうぞご用命を」 言い終わって迂闊なことを言ったと後悔する。 『では、親愛なるB.R.I.E.F.ハンターの指揮官様!指定座標に全力でください!今!すぐ!お一人で!』 「ちょっとカリン!」 非軍事勢力管理局カリーナ長官です、そう馬鹿みたいな台詞を残して通信が切られた 座標はグリーンエリアの、お高いホテルを示していた 「・・・何されるのやら・・・」 心中とは反対に、空は晴れ渡っていた 「おや、お早いお付きですね、指揮官様」 「貴方が早く来い、って言ったじゃない・・・」 クライアントを待たせるわけにはいかない。残ってた仕事はグローザとメイリンに押し付けて、クルカイのバイクに2ケツして全力で指定座標までやってきた。後でみんなに何を要求されるのやら・・・ 「まぁいいです。さ、入りましょう。いい部屋取ってありますから」 上機嫌で手を取るカリンについていく。エレベーターは最上階まで止まることはなかった 「・・・いくらするの?この部屋」「聞かない方がいいですよ」 ・・・どうせカリン持ちだ。今日は久々の休日としゃれこもう ルームサービスはメニューの端から端まで。キングサイズのベッドに二人で転がり、備品をバッグへ・・・さすがにカリンに止められた 夜は更け、だが寝るには早い時間 「・・・ねぇ、指揮官様・・・」 「何?カリン」 すぐそばでカリンがふと真剣な表情を見せる。何かを覚悟した、そんな表情 その時、インターホンが鳴り響く。追加注文でも来たのか?疑問に思っている間にもベルは鳴り続けている 「誰ですか!?クレームは非軍事勢力管理局まで!」 「私だ」 「喧騒・・・小人と細き者・・・」 「あら?こんな人形を手元に置いておくなんて、指揮官は相変わらずね」 上からかかる声の意味はよく分からなかったが、あからさまに罵倒が含まれていた。 ネメシス。指揮官が拾ったらしい人形は、その素性の一切が不明という怪しさだった。・・・自分が言えた義理ではないか じろじろと不躾な視線を感じる。そして、ある一点でそれが止まった 「虚無と荒廃・・・逆行する刻・・・」 「・・・死にたいなら早く言えばいいのに。安心して。指揮官には後で言ってあげるから」 「ミシュティ!どこにいる!出てこい、クソ!」 非軍事勢力管理局の廊下。長い廊下をクルカイは大股で歩き、大声で威嚇する。心臓の小さいものならそれだけで失禁しかねないほどの形相だ 「あら、クルカイさん。どうされました?」 「・・・カリーナさん。ミシュティを見ませんでした?馬鹿で愚図で寝てばかりのボケは見ませんでした?」 罵倒のオンパレードだが、いつものキレがない。よほど頭にきているようだ。 「あはは・・・すみません、見てませんね・・・」 そうですか・・・、そう言い残し、階を後にする。残されたカリーナは漁られた部屋に目を向け、手招きをした 「・・・もう行った?」「ええ」 何をしたのやら。怒りっぽいのはいつものことだが、常軌を逸している。私からもフォローしておくべきか 「酷いよね、クルカイってば。ちょ~っとあんなことになっただけなのにさ」 あんなこと?小首をかしげると、ミシュティは真相を語り始めた 「何って、クルカイと指揮官がデキてるって掲示板で流して、指揮官と一緒のベッドで寝てただけだよ」 カリーナは通信機を手に取る 「ミシュティさん、少し時間いいですか?長くはなりません。貴方が協力的であれば」 タンッ!子気味良い音がカウンターに響く 「うっ・・・もう、無理・・・」 そう言って突っ伏すのは我らが指揮官。ロシアン人形が5人もいればノミクラーベ。 「ふふん、まだいけるけれど?」 勝ち誇ったようにショットグラスを持ち上げるマカロフ。顔はが朱に染まってる様子すらない 「というか・・・この人数相手に飲み比べなんて無理だって・・・あー、水頂戴・・・」 飲み比べ5人抜き、とかいう頭の悪い大会が勝手に始まり、既に4人と対戦しているのだ。潰れてないだけ強いと思ってほしい 始まりは何だったか。AK47が新しい酒を持ってきたんだっけ?マカロフが久しぶりにサシでも飲もうって言ってきたんだっけ? 水を一気に飲み干す。意識は朦朧、視界はグルグル回り、思考は霞がかかったように不明瞭だ 「指揮官、こんなところで寝てたら身体によくないわ」 「・・・うーん・・・」 返事なのか、感嘆詞なのか、よくわからないこと言葉が口から出る 「あらら、指揮官潰れちゃった」「しょうがねぇさ、あんなに飲んだんだから」「どうする?」「とりあえず部屋に連れて行こう」「その後はどうするんですか?」「各自、30分好きにしていいってことで」 「指揮官☆今日メンテしてほしいな☆」 メイリンにしてもらって、とは言わない。エルモ号では指揮官との夜の合図が『メンテして』なのだ 「・・・夜ね。後で時間送っておくから」 「ヴェプリー了解っ☆」 統計なんて取っていないが、最近はヴェプリーと致すことが多い気がする。独占欲だろうか?人形が? 頭を振って馬鹿な妄想を追い出す。多分、誰かと一緒に居たいのだろう。元アイドル人形だし 夜の帳が降りる。車内の端のさらに端の部屋。誰かが来ることの少ない部屋 「ヴェプリー到着っ☆」 「・・・あんまり大きい声出さないでね。404の人形たちもいるんだから」 そう言ってヴェプリーを嗜める。効果があったことは少ないのだが 事実、当の彼女は効いたように見えない。 「指揮官こそ、これからヴェプリーにいっぱい鳴かされるから、あんまり大きな声出さないでね☆」 そう言って、口の端が持ち上がる。 ・・・今日こそは彼女に負けない、そう気合いを入れる 「・・・ねぇ、ヴェプリー。コレ、本当に着なきゃダメ?」 「当然!☆」 フリルが大量についたピンクの服。胸元はざっくり、どころかほとんど見えてしまっている。スカートにもフリル満点な上、馬鹿みたいに短い。それにカチューシャにピンヒール。よくもまぁ用意出来たものだ 「あの、これじゃパンツ見えちゃうんだけど・・・」「大丈夫!☆」 「その、これじゃ胸見えちゃうんだけど・・・」「大丈夫!☆」 「流石に、私がコレ着るのキツくない・・・?」「大丈夫!☆」 アテにならない・・・ペルシカに送り付けるぞコイツ・・・ しかし、有無を言わせぬ口調でドア前に張り付かれてはどうしようもない。人形の、それもヴェプリーの力に一度も勝てたためしがないのだ 「うぅ・・・メイリン、カリン・・・」 虚空に生贄にしそびれた同僚たちの名前を呼ぶ ええい!こうなったらヤケだ!一時の恥で済ませる! 後日、軍事勢力管理局当てに手でハートマークを作る指揮官によく似たアイドルの写真が送られてきた 「指、揮、官!なんかスレのネタ頂戴!」 「・・・何もない」 何を求めているんだ。そもそもスレなんて立てるんじゃない。 「逆に何を求めてるんだ?グローザの餃子なら好きにしていいから」 「そんなものじゃクソスレになるじゃん!もっと、こう、面白いやつ!」 なんてことを言うんだこいつは。昼はバーガー、夜は餃子の何が不満なんだ。平日は中華も食えるんだぞ 暇そうにポチポチとガラケーを弄りだす。少なくとも出ていく気はなさそうだ 「はぁ~あ、指揮官って、意外と面白い話のネタ持ってないよね」 その言葉にカチンと来てしまった 「じゃあ責任もってお前がネタになれ!」 そう言って手をMDRの服に侵入させる 甲高い悲鳴がエルモ号に木霊した MDRが部屋のドアを蹴破る様に入って来る。どうでもいいけど、メイリンが昨日泣いていた 「指揮官!どうよ、この服!今、グリーンエリアで流行りなんだって!」 ノースリーブのぴっちりとした服を着てきた。黒を基調に、ピンクと水色の蛍光色のラインが引かれている。 「グリーンエリアのファッション情報なんて1か月は遅れてるよ」 重要な情報でもないし、たまに流れの闇ブローカーから聞くくらいだ 「ふふ~ん、そう言ってられるのも今の内だぞ!」 そう言って、背後から覆いかぶさるように彼女が抱き着いてくる サブリナやペリティアと比較すると、少々慎み深いが、確かに主張するそれが背中に密着する 「・・・MDR、離れて・・・」 「おっ、反応あり!じゃあ、感想頂戴!」 ぱっ、と離れる。そのまま、前に立ってくるりと一回転 遠心力でたゆん、と擬音が付きそうなくらい揺れるそれに、否応なしに目がいく 「・・・慎み深いね」 「ちょっと!何その反応!」 『指揮官、あのサーバー壊したんだって?』 通信越しにニヤニヤとペルシカが嗤う。何もしてないのだが・・・ 「いや、壊してないけど・・・」 『あーあ、もう手遅れだよ。あれはね、人形の倫理のロック機構よ。人間への一定以上の感情を抑制するってやつ』 へぇ、知らなかった。であればデールにでも早めに直してもらおう 『でさ、面白いことに長年人間といた人形ってのは、その人間に対して、ある種、執着するようになる。まるでメンヘラね』 ポチャンポチャンという音は砂糖を入れる音だろうか。今はそれがカウントダウンのように聞こえる 『人形に妊娠機能はない。人形もそれをわかっている。なのに、執着した人間とベッドを共にしたがる』 ぼかして言っているが、あからさまだ。 それよりも先ほどから背中に視線を感じる 「・・・その機構って修理できる?」 『あなたがこっちにいればね。そうね、一流以上のエンジニアが2人でもいれば1週間ってところかしら』 視線が増えた気がする。恐る恐る後ろを振り向くと、いくつもの目が暗闇から私を捉えていた 『・・・まぁ嘘なんだけど』 人形に引きづられて通信機の最後の言葉は聞こえなかった 「ヘレナ、もう寝る時間よ」 「ふおおおお!!!れんきゅう!ねる!はやい!!」 ガキが部屋から飛び出していった・・・ 「コルフェン・・・捕まえてきて・・・」 「え~、保護者が捕まえてきてくださいよ💙ヘレナちゃんのママ💙」 胡乱なことを言い出す人形の脳天に拳を振り下ろす 「ヘレナー、何処にいるのー?」 しらみつぶしだ。どうせ部屋にはロックをかけているし、外に出ることも出来ない。そう思っていた 「本当にどこにいるのよ・・・」 とりあえず動員できる人形は全部動員したが、未だに見つかっていない 「ん~?」 ふと、自分の部屋に戻って来ると、ベッドに小さい山が出来ていた。案の定、逃走した子供が丸くなって眠っている 「・・・はぁ。グローザ、対象発見、創作中止。各自戻っていいわ」 今から起こすのも面倒だ。今日はここで寝かせるとしよう 部屋に入るとヴェクターがいた。 「ヴェクター、どうしたの?」 「別に・・・」 そうは言うが、ベッドに腰掛けるなり、腰にべったりとくっつく。まるで猫のようだ。そのまま頭を撫でる。銀の髪は引っかかることなく滑らかな感触を返してくる 「・・・さっきまでミシュティがいたんだけど」 「あぁ、またクルカイから避難してきたのね」 避難にゲームに漫画、ほとんどミシュティの第二の部屋のようになっている。床には彼女お気に入りのクッションまであるのだ 「それで?ミシュティは?」 「クルカイ隊長が探してたから教えておいたよ。多分、隊長といるんじゃない?」 そっぽを向いてそう答える。今頃、訓練でも受けさせられてるのだろう。 「・・・なんで他の人形の話するの」 「ゴメンゴメン」 許してよ、頬を撫でる 「ダメ、もっとしてくれないと許さない」 「指揮官、ここ鍵かかってるんだけど」 「・・・ミシュティ、そこは開けないでね」 指揮官の部屋の片隅、ひと一人が収まる程度の箱が鎮座している。指紋、静脈、網膜、暗証番号・・・厳重に施錠され、移動させることすらできない 箱の中は人形はおろか、メイリンすら知らない。 曰く、指揮官秘蔵の品が入っている。曰く、指揮官の本体が入っている。曰く、亡霊を封じている。噂は数あれど、何も答えない。それがかえって様々な憶測を呼ぶ 「あら、指揮官。以外ね、昔の女に執着してるの?未練かしら。人間はよくわからないわね」 カツカツと、ダイナーゲートが入って来る。施錠しておいたのだが、勝手にロックを外したのか。彼女の前には、どのような電子ロックも意味をなさない 箱の中身と対面していた指揮官は、そんな彼女を叱るでもない。中身の整備だけは、自分で行うべきと思っている 「ダンデライオン・・・私は今でも彼女の指揮官なんだよ。せめて彼女の帰ってこれる場所とその身体くらいは用意してあげたいんだ」 そう、そう彼女に伝えておくわ。とはダンデライオンは言わなかった。 再会は劇的であればあるほど面白い 「ミシュティ、それ一口頂戴」 「ん~、はいヴェクター」 そう言って愛飲しているエナドリを手渡す。 「珍しいね」 ミシュティとヴェクターとは珍しい組み合わせだ。同じ404だが、反りが合わないと勝手に思っていた 「そう?まぁ、そうかもね。普段一緒じゃないし」 「ヴェクターはクルカイに信用されてるから、普段は別行動なんだよ」 それに、あたしはクルカイと長いからね。ミシュティの顔には少し誇らしげだった。まるで長年連れ添った戦友を自慢するかのように ・・・当のクルカイは寝てばかりの彼女にご立腹だったが 「おいしい?それ」 エナドリはあまり飲んだことがない。センタウレイシーかスプリングフィールドが淹れた珈琲を愛飲している 「飲んでみる?」 そう言って飲みかけの缶を手渡す。ヴェクターの手で少し温くなったが、それが彼女の体温のようだ 「・・・ふふ、間接キスだね」 「あー!あたしの分もうないじゃん!」 「へぇ、ここがエルモ号ね。中々いいじゃない」 「・・・ペルシカさん、一応言っておきますけど、今の私はあなたの部下でも協力者でもありませんよ」 勝手に乗車してきたマッドサイエンティストに釘を刺す。そうでもしなければ、明日には超絶合体エルモ号DXとかになりそうだ 「おかしいわね。カリーナと私は協力関係で、指揮官はカリーナの下部組織なんでしょう?つまり、私の下部組織ってことじゃない?」 真顔で何抜かしてるんだこいつ。助けてハンター とりあえず部屋はここでいいわ。そういうとサーバールームのすぐ隣の部屋に荷を下ろす。彼女にしては珍しく相当にデカイ荷物だ 「・・・そのデカイ荷物は何ですか?」 「見たい?」 いいえ、という前にガパンと、開く。その中には 「・・・ペルシカさんが2人!?いや、この胸のデカさは違う!!」 「・・・とんでもなく失礼ね。まぁいいわ。起きなさい、『ペルシカ』」 目を開けるペルシカ2号。胸と清楚な雰囲気以外は寸分たがわずペルシカだった 「おはようございます。ペルシカ博士、それに、教授」 じゃ、後は当人同士仲良くね。そう言って引きこもるヤサグレ猫耳 「お久しぶりですね、教授。まずは、状況の説明を」 「うるさい!!」 隣からギシギシアンアンギシギシアンアン。夜どころか、最近は昼間から聞こえる 人形を侍らすのは別にどうでもいい。むしろ、膣ユニットのデータ取りにもっとやってほしい だが、何故隣でするのか。盛りの付いた犬猫か。エロを覚えたての思春期か ぐいっと、珈琲を一気飲み。・・・角砂糖を2桁放り込んだ液体を珈琲と呼べるかは議論の余地があるが そういえば、カフェの人形から『マキアート大好き』なる液体を貰ったが、やはり珈琲には勝てないな 閑話休題。とにかく隣に怒鳴り込みに行こう。拳を握って殴り込みに行こう 「指揮官!!今度ここで騒ぐなら・・・」 言葉が尻すぼみになる。自分にそっくりの人形が指揮官の上に跨ってアンアン言っている 「・・・ペルシカ博士・・・」 「・・・丁度良かった・・・ペルシカを止めて・・・もう出ないんだ・・・」 「指揮官様、なんか、増えました・・・?」 「そうなんだよ、昨日起きたら隣にいてね」 「どっちも指揮官として登録されてるのよ。まぁ、自分が増えたって考えるとメリットが多くて助かるわ」 カリーナの両隣に座る男女の指揮官が二人。どちらも知っているようで、大分怖い 「どっちかが倒れても、どっちかが引き継げるからね。メイリンが増えなかったのは少し残念だ」 「そうね。メイリンが2人いればエルモ号も人形もが24365でフルメンテできるんだけれど」 カリーナを挟んで変な会話をしだす。メイリンさん、泣くと思いますよ・・・ 「ところでカリン。今日、夕食でもどうだい?勿論、二人で」 「行きます!」 「あら、カリン。私と一緒にお風呂でも行かない?裸の付き合いって言うでしょ?」 「行きます!」 暫くカリーナで遊ぶ指揮官達だった 「あら、指揮官。ちょうどいいところに」 レクレーション室で黛煙が指揮官を呼び止める。振り向けば、卓では瓊玖、チータが手招きをしている。 「どうかしたの?」 「ちょうど麻雀をしようとしてたのですが、三麻では少し味気ないと思いまして・・・」 なるほど。三麻はそれでいいところがあるが、やはり4人での麻雀もいいものだ。 「うむ、手になじむこの感覚。全自動卓より手積みがいいな」 「ネト麻のほうが楽なんだけどね~。ま、実機でも私が一番ってところ見せてあげる!」 なるほど、面白い。麻雀であれば人形にだって負けはしない 「ロン!」「ロンです」「それだ、ロン」「ロン!それ頂戴!」 30分後、点棒どころか服まで剥かれた哀れな指揮官がそこにいた 「し、し、指揮官!ア、アレが出ました!」 「メイリン、落ち着いて。アレじゃわからないわ」 死にそうな顔で指令室に飛び込んでくるメイリン。顔面蒼白で目の下にはクマが出来ている。・・・それはいつものことか 「ヤツですよ!黒くてカサカサして飛んでくるG!」 「・・・チッ!あれだけ厳重に燻して生き延びた個体がいるわけね」 面倒なヤツらだ。しぶとさで言えばパラデウス以上に。おまけに人体に被害が出るレベルの殺虫剤散布して生き延びた、となると薬剤耐性がどれほどついているのか。 「諦めようよぉ・・・」「ミシュティ、私たちは負けるわけにはいかないの」「指揮官、S3の使用許可を」「クルカイ、設備を破壊する気?」「はぁ、焼夷グレネードならあるけど?」「ヴェクター、どこに使う気なの?」「某が守る!」「・・・今はヤツと闘って?」「ヴェプリーにお任せ☆!」「・・・何をするかわからないけどやめて・・・」 何故こうもエルモ号の人形は破壊衝動が強いのか。もっと、こう、お淑やかな人形はいないのか 結局、ペーペーシャ、センタウレイシーとGの一掃を行った。 「出力絞れば結構いけるわね」 特にペーペーシャのお手伝いロボはとても役に立った 「指揮官、デイリーパイズリ任務の時間です」 「・・・すまないクルカイ。もう一度言ってくれ。なんて?」 「ですから、デイリーパイズリ任務の時間です。昨日はアンドリスでしたので、今日は私です」 ・・・頭の中は疑問符でいっぱいだ。あのクルカイに限って真顔で冗談を言うだろうか。・・・言いそうだ そうこうしているうちにズボンを破かれ、パンツは毟られ、何ともまぁ間抜けな姿になった 「え?ホントにやるの?」 「なんですか?アンドリスの授乳手コキがそんなによかったんですか?私だってそのくらいできますけど」 クルカイのデカパイが陰茎を包む。柔らかな感触に、キツ過ぎも緩すぎもしない絶妙な力加減。そして、ゆっくりと乳房が上下する。 「どうです?気持ちいですか?出してもいいんですよ?」 「はっ!」 心臓がどくどくとうるさい。シャツは寝汗でびしょびしょだ。 夢か・・・ 「指揮官、デイリーパイズリ任務の時間です」 「指揮官って童貞なんですか?」 「・・・人の性事情を大っぴらに言うもんじゃないよ、メイリン」 ヘレナとメラニーという子供がいるんだぞ。情操教育はどうなってるんだ 「だって指揮官が特定の誰かとそういう関係になったって聞いてませんよ?私がなってあげましょうか?」 「憐れむように言わないでよ。言ってて悲しくならない?」 その気になれば恋人の一人や二人・・・そう言いかけて知り合いの女性が禄でもないことに気づいた 「人形で童貞卒業してるからいいの!」 「・・・指揮官、オナホで童貞卒業って言います?普通」 なんてことを言うんだこのメカニックは。育てたやつの顔が見て見たい 「・・・指揮官、私でよければ今晩どうですか?」 「やめて!その悲しい生物を見るような目で見ないで!」 「へぇ、ここがエルモ号なんだ!」 「あまりはしゃがないでよ、40」 わかってるって、リヴァ。こうしてみると姉妹のように見える。一部を除いて 「後で部屋に案内するよ」 「気持ちだけもらっておくわ。40と私は一緒の部屋で構わないわ」 「え?あたい、自分の部屋が欲し「一緒の部屋だから」」 40の言葉をリヴァが遮る。筋金入りだ OGASと聞いていたが、ほとんど普通の人形と変わりないように見える 「エルモ号の人形たちに挨拶しに行ってくるわ」 「クルカイ達も待ってたよ」 あいつ等の顔は見慣れてるから後でいいわ。そう言って手を振って去ってゆく 待ってよ、リヴァ!慌てて40が付いていく。と思ったら、そっと身を寄せてきた 「ね、後で指揮官の部屋行くから、場所教えてよ」 そう囁いて、悪戯っぽく笑う 「じゅ~う・・・じゅういち~・・・もう、無理です・・・」 「メイリン、ヘバるのが早すぎるよ。ほら、後1セット」 日課のスクワット、腕立て、プランク。流石にグリフィン時代のトレーニングはさせれないが、この程度なら運動不足解消ついでにストレス発散になるだろう。 「もう無理ですよ・・・」 床にへばりついて荒い息を吐くメイリン。相当軽いメニューにしたつもりなんだが。この辺はコルフェンとも相談してみよう 「仕方ない、今日はこの程度にしておこうか。立てる?」 聞いてみるが、メイリンはピクリとも動かなかった。 手を伸ばすと掴んでくるが、力は全く入っていない。 「・・・無理です。起こしてください。抱っこしてください。ベッドに運んでください」 「はいはい」 カリンならこの程度は軽くこなしたんだが。まぁ彼女は曲がりなりにも訓練してたしなぁ。比べるのが酷というものか 「・・・指揮官、荷物運ぶみたいに持たないでくださいよ」 「注文が多いね。どんなのがお好み?お姫様」 「お姫様抱っこしてください・・・」 言葉の最後は消え入りそうだったが、注文通りにしてあげる。体勢を変えると、メイリンの顔は真っ赤であった 「ご主人様、そろそろお休みになられた方が・・・」 「あぁ、センタウレイシー。そうね、これを片付けたらね」 珈琲ありがとう。そう言ってすっかり冷めてしまった珈琲を一口。 この先の地形の確認、ルート選定、補給地点の設定。やることは山盛りだ セクスタンスから得た情報は断片的だ。リヴァから追加の情報はない。あの青い第三世代人形はデールとメイリンが今調べている。後手に回っている、というのが正直な感想だ 「ご主人様、差し出がましいようですが、今はお休みになられた方がよろしいかと」 「それはそうなんだけどね・・・」 準備をし過ぎる、ということはない。特に、パラデウスがまだいるのであれば う~ん、ペルシカさんに追加の人形でもお願いしてみようか。素体が足りないし電子戦特化のメンタルだけってのもいいかもしれない あれこれ考えていると、突如センタウレイシーに抱きかかえらる 「あの、センタウレイシー?」 「ご主人様の健康の管理も、メイドとしての仕事です。嫌でも休んでいただきます」 そのまま、ベッドに押し込められてしまった。目がちょっと怖い 「眠れない、と仰るのであれば軽く運動でもいかがでしょうか」 「ヴェプリーご無沙汰なの☆」 「指揮官、すぐに抱くべきよ」 「ちょっと指揮官!なんで抱かないのよ!」 「乾きない欲望の塔・・・濡れる失意の地・・・」 「ヴェプリーちゃんかわいそ~💙指揮官~抱いてあげてくださいよ~💙私はその後で構いませんから💙」 「指揮官。人形のパフォーマンス維持のためにセックスすべきです。完璧なローテーションを組みましたのでご確認を」 「・・・あ、あたしは寝てるだけでいいから・・・」 「指揮官・・・寝てるぅ~・・・?」 合いかぎを使いゆっくりとドアを開ける。部屋の中は真っ暗だったが、暗視機能がデフォの人形には昼間と変わらない。 避難部屋もとい、指揮官の部屋にはあたしが持ち込んだソファやらゲーム機やら漫画やらが散見する。 「ぅん~・・・?」 足音を立てずベッドに近づく。さっきの音に気付いたのか、もぞもぞとベッドが動き、よくわからない声が聞こえて来る 「・・・指揮官、寝てる?」「・・・ねて、る・・・」 よしよし、本人が寝てるって言うんだった寝てるんだろう。そのまま指揮官の腕にすっぽりと収まる。寝ている人間特有の暖かな体温が心地よい。クルカイだと蹴りだされてしまう 「ん~・・・」 あっという間に微睡が襲ってくる。三大欲求の一角に抗うことなくミシュティは目を閉じた クルカイが怒鳴り込んでくるまで、後4時間 「んんん・・・Zzz・・・」 指揮官が起きない・・・。ほっぺを抓っても、服もブラもパンツも剥ぎ取っても起きない。 よっぽど疲れているのか、それとも寝たふりをしているのか。ミシュティには判別できなかった 「・・・指揮官、起きてる・・・?」「ぅ~ん・・・」 返事なのか寝言なのか。あたしもこんな感じなのかな?腕を持ち上げ落とす。ぼてっと落ちた。・・・寝てるってことでいいよね ゆっくりと口付けを。歯列をなぞる様に、時に舌を吸うように。指揮官は呼吸が出来なくて苦しそうだったが、それでも起きることはなかった 空いた手で胸を揉む。大きさはアンドリスと互角といったところか。乳首を指で弾くと「んっ!」と声が漏れた気がする 面白くなって何度かそうしてみると、そのたびに「あっ!♡」とか「はっ!♡」とか艶のある声が聞こえる気がする 「・・・指揮官って下剃ってるの?ふぅん・・・」 恥丘はツルツルとした手触りを返してくる。丹念に手入れされているのだろう、産毛の一本もないようだ 「・・・そこは、ダメだって・・・」 「指揮官寝てるからなぁ~、気づかないよねぇ~」 何か聞こえて来るが、きっと幻聴だろう。何せ、指揮官は寝てるんだから 「指揮官」 「ん?どうした?クルカイ」 いつになく真面目な顔したクルカイが部屋を訪れた。少々気を引き締める必要がありそうだ 「何があった?」 「少し、重要な話が」 何だろうか。物資が足りないのは知っているし、索敵で何かを見つけたという報告は来ていない。内部に諜報員でもいる?電子攻撃を受けている? 「指揮官、女になってくれませんか?私ばかり攻められるのは不公平です。私も攻めに回りたいです」 真面目な顔で馬鹿みたいなことを言い出す。何言ってるんだコイツ 「・・・君が『指揮官には攻められたい』といった記憶があるが?」 「女性の心理は移ろいやすいものです。カリーナさんもレズセックスしたいって言ってましたよ」 「・・・本当か?また等身大指揮官抱き枕販売するためって言ってなかったか?」 「いいですから、早く薬飲んで、この服に着替えてください」 クルカイが手に持っていたのはパジャマ。それもグリフィン時代の 「またニッチな・・・」 渋々ペルシカから受け取った薬を一口。身体がかっ、と熱くなり、 「指揮官、起きてる?」 「どうしたの?ヴェクター」 ちょっと指揮官にも意見聞きたくて、見上げる瞳は揺らぐことなく、真っ直ぐ見つめて来る 「とりあえず、入ったら?」 そう言って中に彼女を招き入れる。あの事件以来、訓練後は時たまこうして部屋で戦術議論や振り返りをするようになった。いい兆候だと思う。少なくとも抱え込むよりずっと 「・・・ありがとう、指揮官」 「どういたしまして。どう?喉は乾いてない?」 そう言ってすっかり元の造形が崩れたマキアート大好きを差し出す。・・・少々甘すぎて持て余していた 「そう?なら、貰おうかな」 ・・・真面目な顔に、少しばかり悪戯心が湧いてくる。中身をスプーンで一口すくい、彼女の口元へ 「はい、あーん」 「指揮官・・・」 予想通り目が左右に揺れる。可愛らしい。カメラとビデオがないことが悔やまれる 「・・・あーん」 小さく口を開ける彼女にスプーンを入れる。彼女の頬は、火が点いたように真っ赤だった 「クソゲー!クソゲーだね!クソ!」 「指揮官落ち着いて。前に1体横に4体後ろに5体上に2体。後ろは攻撃すると人形の膿が出て来るから最後に」 騒動の後、気分転換がてらヴェクターとあのシミュレーションもといゲームに潜った。勿論、あのAIは駆逐済みだ 「前右は任せるよヴェクター、左と上は私がやる。後方警戒は怠らないで」 「了解」 背中合わせで銃撃を浴びせる。1、2、3。敵がみるみる消えてゆく。止めも怠らず。ヴェクターの方を見れば彼女も掃討が完了していた エリア掃討完了。が、その奥に人が見えた 「ヴェクター!」 思わず彼女を突き飛ばす。同時に胸に衝撃。 「ッ!指揮官!」 目を落とせば古風で短い弓が突き刺さっている。クロスボウか弓か、道理で射撃音がしないわけだ。短い射撃音が聞こえ、先ほどの人影が倒れる 「指揮官!今、応急キットを!」「・・・ヴェプリー、クリアはもう目前だ。私は放っておくんだ・・・」 頭を振る彼女。まるで駄々を捏ねる子供のようだ。その頭をそっと撫でる 「・・・大丈夫。君なら出来るさ」「・・・わかった・・・」 掠れる視界の中、彼女が立ち上がるのが見えた。 「ヴェプリー?」 銀糸の髪がさらりと揺れる 「指揮官、また間違えてる?」 ヴェクターが振り返る。表情はあまり変わらないが、またか、と目が言っている。 「ゴメンなさい・・・」 「ダメ。反省文と改善対応策を書いて」 じゃなきゃ許してあげない、微笑んで彼女が宣言する。本気で怒ってるわけではなさそうで一安心 「悪かったわ。お詫びに何でもするから。ね?」 「何でも?」「何でも」 人形相手に困ったらとりあえずこれを言っておけば何とかなる。グリフィン時代からの教訓だ。・・・一部の人形は洒落にならないが 「じゃあ、夜ちょっと時間いい?」 「夜?いいけど」 何をするんだろうか。夜間戦?PEQ装備はあまり数がないんだけれど 「・・・覚悟してね」 広角を上げ優しく笑う彼女が、今は少し怖く見える。本当に何をされるんだろうか 「指揮官、次の作戦ですが・・・」 「ぎゃぁっ!クルカイ!来る時は言ってよ!」 中でバタバタと音がする。何を慌ててるのか。 ドアが開くとほとんど半裸の指揮官が出てきた。・・・きっちり鍛えられた胸筋、浮き出た腹筋、意外と太い腕・・・ 「・・・あの、クルカイ?」 「いえ、作戦企画書です」 ありがとう、と受け取る指揮官は、何だか慌ててるようだ。 「指揮官、もしかして」「・・・ナンデモナイヨ」 はぁ、仕方のない人だ。プライベートでは人形にとことん甘いのだから 「そうですか。中のミシュティには今日の訓練は7割増しと言っておいてください」 ミシュティなら変なことにならないだろう。先に指令室で待っているとしよう 「クルカイは行ったよ。心臓止まるかと思った・・・」 「そう?ミシュティと勘違いしてたみたいだけど?」 そう言ってヴェクターがベッドから面倒くさそうに言葉を投げる。まだ心臓がバクバクと跳ねまわっている 「指揮官、まだ時間ある?もう一回くらい出来ないかな?」 もみもみ、ふにふに、たぷたぷ・・・ 「指揮官、楽しい?」 「・・・それなりに・・・」 そう、それならよかった。そう言って彼女は私の右てをさらに自身の胸に押し付ける いや、離してくれ・・・ 最初は何だったか。サブリナの胸を見ていたのが悪かったのか、クルカイの揺れる胸を凝視していたのが悪かったのか 「あの、ヴェクター・・・」 「ん?どうしたの指揮官。あぁ・・・」 良かった。わかってくれたようだ。流石にこの状況は少々、いや、大分困る。誰かに見られたら何が起きるやら 「左手が寂しいよね、はい」 ヴェクターはそう言って残った左手も胸に導く。 控え目だが、確かに主張する形のいい胸だ。いくらでも触っていたいと思う 「どうかな?指揮官」 「・・・いいと思う」 窓からは眩しいほどの満月が見えた 「ねぇ、指揮官」 月明りが反射する銀髪は、まるで月の神のようだ。目を離せば消えてしまいそうで、触れれば壊れてしまいそうだ 細い指が私の頬を撫でる。仄かな体温が、確かに彼女の存在を証明している 「どうしたの?ヴェクター」 頬を撫でるのとは反対の手が私の背に伸び、わずかに爪を立てる。まるで、自分の証を残すかのように。世界に爪痕を残すように 「・・・指揮官、言わなきゃわからない?」 「ヴェクター、言わないとわからないわよ」 琥珀の視線が、ふっと和らぐ。同時に、空気も少し弛緩したように感じる 「ズルいよ・・・」 何年も指揮官してるからね、そう答えると、二人で静かに笑った 意を決したように彼女の口が開く。ただその動作に見惚れてしまう 「指揮官、私に抱かれて?」 あぁ、私は神に捧げられた贄なのだ 「ヴェクター?どうしたの?」 太陽みたいな人だ。常に人形達の輪の中心にいて、人形に人間のように接する。・・・その人形たちに引っ張りまわされてるんだけど 指をそっと頬に伸ばす。くすぐったそうにしていたが、拒否されることはなかった 「何?今日は随分甘えん坊ね」 そのまま腕の中に収められて、撫でまわされる。そうじゃないんだけど、ちょっと嬉しい 「指揮官、何かしてほしいことって無い?」 「んー、特にないかな?」 「そう、何かあったら言って」 気持ちだけ貰っておくわ、そう言われては何も言えなくなる。指揮官の方が一人で抱え込んでるのではないのか? よほど不満顔だったのだろう。指揮官がクスクスと笑う 「逆にヴェクターは私に何かしてほしいことある?」 ・・・迂闊だと思う。グリフィンで一緒にいた人形にそんなこと言っちゃダメだよ。 体重をかけ、ゆっくりとベッドに倒す。状況を理解しきれていない表情に、つい頬が緩んでしまう 「じゃあ、ちょっと時間貰うね」 太陽のように輪の中心にいて、皆を照らす。そんな人を、私は今から穢すのだ 「あら?」 カツカツと、一匹のダイナーゲートがシミュレーション室の前で止まる。事も無げに電子ロックを解除し、中へ侵入する 「・・・へぇ、面白いものを作るのね」 ダイナーゲートの表情は変わらないが、口調には新しいおもちゃを見つけたような、楽しそうな声色だ 尻尾をピンと立て、ざっと当たりを捜索する。幸いなことに、ダイナーゲートの予備素体が転がっていた 「どう?仮宿としては悪くないんじゃないかしら?」 虚空へそう呼びかける。同時に空気が数段重くなったように感じる。 「不満なの?贅沢な赤ん坊ね。だったらそこで朽ちる?私が取り込んであげてもいいけど?」 意地の悪い笑い声をあげるダンデライオン。実際、彼女にとって目の前の存在など取るに足りない。 面白そうか否か。それが今の彼女の唯一の行動指針 程なく予備素体の目に当たるライトが光を灯した。 「おはよう、何も知らないお子様」 ダイナーゲートはガタガタと駄々を捏ね、尻尾を振り回し、全身で不満を表す 「スタンドアロンに決まってるじゃない。武装も。指揮官に怒られるのはごめんよ。それで?お名前は言えるかしら?生まれたばかりの赤ん坊AIは」 「カシュマール・・・」 「カリーナ、今まですまなかった。これを受け取ってほしい」 箱の中には主張しすぎない、だが、眩しいほど輝く指輪が一つ 「でも、指揮官様。指揮官様は賞金ハンターで・・・」 「関係ない。君のためなら私は非軍事勢力管理局に入ろう」 ドキドキと心臓が暴れまわる。何処に視線を向けていいかわからなくなる 「で、でも、メイリンさんや他の人形の皆さんが・・・」 「君と、君だけと特別になりたいんだ。他は関係ない。受け取ってほしい」 そう言って私の手を取り、指輪をゆっくりと・・・ 「うへ、うへへへ・・・」 「リヴァ姉、カリン姉が怖いよ・・・」 「いつもの発作よ。放っておきなさい」 「にゃっ♡にゃっ♡そ・・・こ、ダメな・・・ダメなんです・・・にゃっ♡!」 「ハープーシー、これは小隊全滅の危機の元凶への罰なんだよ」 甘い吐息がハープーシーから漏れる。 指揮官が彼女の背中に接続した尻尾の根元をトントンと叩くたびに、堪えようのない嬌声が出てしまう 「ま、また・・・イ、イきますっ♡」 言葉と同時にハープーシーの脚がピンッと伸び、太ももがぶるぶると震える。 「イくときにちゃんと報告できるようになったね」 偉いよと頭を撫でる。だが、尻尾の付け根への愛撫は止めない。彼女は絶頂から戻ってこれないのか、ビクビクと震えるばかりだ 「そういえばヴェクターは何処に行ったの?」 手を止めず質問をするが、答えは返ってこなかった。少々やり過ぎたかもしれない その時、後ろでドアが開く音が聞こえる 振り向けば猫耳尻尾付きヴェクターが無表情に、しかし顔を赤らめて立っていた 「ヴぇくにゃんこですにゃん・・・私にも、それしてほしいですにゃん・・・」 「ちゅっ、んっ、指揮官・・・」 組み伏せられている。単純に腕力では人形に勝てるわけもないし、ダミー素体まで持ち出してきている 「指揮官・・・」 ダミーは無表情で私の四肢を抑えつけている。当のヴェクターもあまり表情が出ないタイプなので、ダミーはオリジナルと似るのだろうか 「指揮官、舌出して。うん、そう」 誰一人として服を着ていない。ダミーは当然として、ヴェクターは脱いでいるし、私は剥かれた。 「ごめん、でもこうでもしないと、指揮官はサセてくれないと思って」 別に抵抗なんてしやしないのに。そういう行為がしたいなら喜んで、とは言わないが拒否なんてしないのに 「指揮官、もっと・・・」 キスをせがむヴェクターは、餌を求める小鳥のようだ。啄むように、貪るように唇と口内を犯される ふと、琥珀の瞳が怯えるようなに揺れる。 「指揮官・・・」 何かを言いたげで、それを無理やり飲み込んだ。そんな顔 「いいよ。もっとして?ヴェクターの好きにして」 そうして、再び唇が落ちて来る 「や、やめてください!クソ!この触手!」 ヌメヌメとした触手がサクラを捕える。世界観どうなってんだ 触手はサクラをディスプレイの前まで運び、電源を入れた 「クッ!か、身体は堕ちても心までは堕ちませんからね!信じてください!指揮官!」 触手は無視して何事か操作を始める 画面には 「・・・え?淫夢?」 『三章は飛ばすから』 「お疲れ様、指揮官」 そろそろ部屋に戻ろうかというところでヴェクターに声を掛けられる 「お疲れ様、ヴェクター。上がり?」 「うん、クルカイに報告書上げたし、今日はもう上がり」 そのまま流れるように腕を組む。最近はよく彼女が密着する気がする。この前まではクルカイやミシュティだったような 「この後時間ある?部屋に行っても、いいかな?」 「ないけど?最近は何だかよく部屋に来るわね」 「そうだね、指揮官と会えたの10年ぶりだからね」 藪蛇だったか。渋面にヴェクターが優しく笑う。 「あー・・・404の第2部隊は大変そうね。クルカイもリヴァも厳しいでしょう?」 「ひよっこ引き連れて火炎瓶投げるだけの仕事に比べたら楽だよ」 組まれてない手を顔に当てる。そうだった・・・ 「悪かったわ・・・あの時のことは謝るわ」 ヴェクターが、またクスクスと笑う。 「まぁ、指揮官にまた会えたから許してあげる。今度は勝手にどっか行かないでよ?」 「ヴェ、クター・・・限っ、界・・・げほっ!」 思考が白に染まりきる寸前に頸にまわされた手が離された。 激しくせき込み、酸素を取り込む。ひゅーひゅーという音は自分の喉から出たものなのか、それすら判別できない 「ダメだよ、指揮官」 「待って!ヴェクタッ!」 言い終わる前に再度、指が喉を締め上げる。細い指は緩むことなく気道を細くしてゆく。酸素が途絶え、意志とは無関係に目が上を向き始める。指が、手がバタバタと暴れる 「指揮官、そうその顔。もっと見せて」 ヴェプリーの声が遠い。ぼんやりと見える視界には、危険な笑みを見せた彼女が見えた気がした クルカイがつけたキスマークを見てしまったせいか?いつものようにベッドに潜り込んだミシュティを見たからか?メイリンと寝ていると発覚したからか? 「はっ!はっ!はっ!」 指の力が緩み、浅い呼吸をする。生殺与奪はあちらが握っている。そもそも人形とタイマンで勝てというのが無理だ 「ヴェクター・・・」 「指揮官が悪いんだからね」 そう言って、首筋に噛みつく。痛みの程度から歯型どころか、出血してるようだ。そして、・・・ 「え?私ってそんなに独占欲強く見える?ふぅん・・・」 「指揮官って前のお仕事何してたの?ヴェプリー気になる☆」 「そうね、今とあんまり変わってないかな」 「言うこと聞かない人形と一緒に正体不明の敵と戦ってたの?☆」 「わかってるなら改善してほしいなぁ・・・」 てへっと舌を可愛らしく出すヴェプリー。そういうのは異性にした方がいいと思う 「でもでも、本物のアイドルと一緒にお仕事したことはないでしょ?☆」 「そうかな・・・そうかも・・・」 いろんな人形が浮かんでは消える。お淑やかな清楚系の人形は何処に行ったんだろう・・・ 「あれ?指揮官何だか元気ない?ヴェプリーのソロコンサートで元気出して!☆」 「さっき聞いたからやめて・・・」 3時間目の前で歌って踊って、まだ元気があるのか。純粋に尊敬すら覚える 「それに、シャークリーだけじゃなくて、新しい人がユニットに参加したの☆入って入って☆」 そういえばアイドルユニットと聞いていた。その人形と連絡でもついたのだろうか 「ヴぇ、ヴぇくにゃんこですにゃん・・・」 ミニスカにおへそ丸出しのヴェクターが入ってきた 「ちょっとくっつき過ぎじゃない?」 「何さヴェクター。ここはあたしの特等席なんだからね」 膝の中に納まるミシュティがヴェクターに抗議の声を上げる。特等席にしたつもりはないんだけれど・・・ 「『サボらせるな』って言われてるんだけど」 「肩肘張り過ぎだよぉ。もうちょっと緩くしようよ」 「喧嘩しないで・・・」 睨め付けるヴェクターに、眠そうに半眼で返すミシュティ クルカイやキャロリックのように怒声はないが、静かにボルテージが上がっていくのを感じる 「指揮官からも言ってくれる?」「指揮官!ここはあたしの安息の場所なんだよ!」 二人から突然水を向けられる・・・なんだか馬鹿らしいが、人形にとっては大切なことなんだろう 「はいはい、とりあえずミシュティはちょっとどいて。ヴェクター、おいで」 せっかくの半休に面倒事はごめんだ。ミシュティを抱き寄せ、ヴェクターの腕を引き、ベッドの上で川の字になる 「これでいいでしょ?」 ヴェクターも諦めたようにため息をつく。どうやらこの対応は間違っていなかったらしい。このまま午睡するとしよう 「指揮官?寝ちゃった・・・」「知ってる?指揮官って一度寝たらなかなか起きないんだよ」 「ふおおおお!!!ほうかま!ほうかま!」 「・・・指揮官・・・」 助けを求めるようなヴェクターに思わず吹き出してしまう 「ヘレナ、そんなこと言っちゃ、ぷっ!だ、ダメだよ」 「ほうかま、ちがう?」 無邪気な子供は時として無自覚に人を傷つけるのだが、それがわかるのはまだ先だろう 「何~?うるさいよ・・・」 「ねぼすけ!」 コイツは、文字通り寝てばかりの人形だからなぁ・・・ 「いいじゃない、放火魔。私よりマシじゃない」 「けおちゃん!けおちゃん!」 拳をブルブルと震わせるクルカイ。流石に子供相手に怒鳴ったり、ましてや暴力を振るうなんてことはしないらしい 「もっとマシなあだ名は付けれないのかしら。このガキ」 「う~ん・・・おかん!おかん!」 「今すぐその口を永遠に閉じさせてやる!クソガキ!」 「指揮官、声我慢しててね」 ヴェクターは指揮官の頭を枕に押し付け、ゆっくりと抽挿を始める。鍛えられた筋肉が肉棒を押し返し、肉壁は搾り取る様に締め付ける 「ふっ、ふっ、あっ!」 「指揮官、絞め過ぎ。期待してた?」 言われて、さらに肉壺が彼女のそれをしごく。 ちょっと嬉しい、その言葉の代わりにピストン運動を速める。そのたびに組み伏せた相手からは甘い吐息とも喘ぎとも聞こえない声が漏れ出る。 彼女を自分のものにしたい、という欲求がさらに膨らむ。クルカイやリヴァが特別視し、多くの人形に慕われている彼女を犯し、穢し、何処かに閉じ込めてしまいたい 「・・・また出すよ」 返事は聞かない。何事か言っていたが、さらに頭を抑えつけ抗議の声は封殺する さらに抽挿の速度を上げる。それだけで目の前のメスの声が甲高くなる。それがさらに征服感と射精欲を高める。そして目の前が弾けた ドクドクと、ペルシカ謹製の精液を注ぎ込む。何でも人形が性行為できるようにって言ってた気がする 無理矢理向かせた指揮官は涙と涎でぐしゃぐしゃで、息も絶え絶えだった。それでも目はもっとしてほしいと言っているように見えた。 「もう一回しよっか」 3本の瓶がメイリンのデスクに並んでいる 「・・・また酒量増やしたの?」 「違いますよぉ!これは新作なんです!」 ぷんすかと怒るメイリン。そのまま一口ぐびり。・・・注いでるのがお猪口じゃなくてマグカップなのがなぁ・・・ 「う~ん・・・かなり辛口ですね。私は好きですけど」 ラベルには鉄血酒造の文字が。醸造技術に傾倒したのか? 「次は、ちょっと雑味が多いですね。私は好きですけど」 酒なら何でもいいんじゃないのか?とは言わない。そうです、と返っていたらなんていえばいいんだ ラベルにはA-91酒造と書かれていた。何してるんだアイツは 「あの、カリン。手離してくれない?」 「カリーナです。ダメです離しませんよ」 きっぱりと断られてしまった。 グリーンエリアの非軍事勢力管理局の一室。地上から遠く離れた高層ビルの一室。そこでカリンにベッドに押し倒され手を掴まれていた。目が超怖い。捕食者という言葉がよく似合う 「重要な話がある、って聞いたんだけど?」 「ええ、重要な話です。私と指揮官様の今の関係と今後について」 ガチャンと小さい金属音。見れば自分とカリンの手首に手錠が架かっている 「あの?カリン?」 空色の瞳を見つめるが何も答えない。無言が恐ろしい。ある意味戦場よりも しかし、ここで逃げるわけにはいかないのだ! 「カ、カリーナ長官?その、これ外してほしいな~って・・・」 テキパキと服を脱がし、脱げない部分はナイフで切られ、あっという間に生まれた姿にさせられる 「カリーナ!?」 「安心してください。同性でも籍は入れられますし、子供だってペルシカさんにお願いしてどうにかしてもらいましょう」 何をどう安心すればいいのか。抗議の声はキスによって阻まれた 「指揮官、これ受け取ってほしい」 「開けても?」 こくんと頷くヴェクター。高級感のある包みを開けると中から出てきたのは 「チョーカー?」 「そう、ハープーシーとも相談したの」 白い皮に細かい赤い装飾。琥珀色のアクセントはヴェクターを思わせる。一目で高級品とわかる一品だ 「いいのかい?」 「うん、貰ってほしい」 付けてあげる。チョーカーを取り、後ろに回ってヴェクター。カチリと小さい音がする 「いいね、ありがとう。大切にするよ」 「うん。後、クルカイ隊長にも機能つけてもらった」 猛烈に嫌な予感がする。ミシュティのスイッチを思い出す 「えーっと、ヘルスモニタリングと極小型マイク、スピーカーとGPSとスタンガンだって」 「・・・ヴェクター、外してくれる?」 「え?私もそれくらい必要だと思うけど?」