洋館のサロンルームを思わせる格式高い家具に、日替わりの香しいアロマと落ち着いたクラシック音楽 そして可愛らしいメイドの声が来客をドアのベルと共に迎え入れる。 此処はこの町では珍しいデュエルメイドカフェ「デッカーパイント」 「お待たせ致しましたご注文のプレミアムケーキセットです、ごゆっくりどうぞ」 黒髪の姫カットに眼鏡越しに少し自信のない笑顔を浮かべる告瑠が 格式を感じさせる木目の上にケーキと紅茶を並べ、一例をすると光沢のある黒いパンプスに包まれた 小さな足で踵を返して業務へと戻っていくデッカーパイントではカードの他に メイドカフェなので食品も提供しているのだが今持ってきたのはこの店でグレードの高いメニュー 「告瑠さん出してくるのでここをお願いしますね」 プレミアムケーキセットはショートケーキと紅茶のシンプルなセットで2500円とかなりの額だが 材料はオーナーが出資する契約牧場で広々とした自然の中のびのびと育てられた家畜に 添加物を使わず厳選した牧草や豆類をブレンドした飼料を与えることで 濃厚なのに優しい甘さと口当たりのミルクやでっぷりとした丸くコク深い卵黄の卵 これらをオートメーション化含め効率化した殺菌から輸送までの工程で町内では難しい鮮度で仕入れ 「今日はプレミアムケーキセットが多いですね」 果実や穀物も同様、こちらも出資した契約農家で品種改良された物を完熟して熟れたての状態で仕入れ 純白のふわりとしたクリームを引き立てる、真っ赤で香り高い状態が使われる 薄力粉に使われる小麦も香りづけのバニラもどれもグレードが高く これらを専属のパティシエールが腕を振るう他では味わえない贅沢な逸品。 セットの紅茶はクオリティーシーズンの茶葉をオーナーがテイスティングしその日に合わせた物を提供 力強く香り高い紅茶がケーキとお互いを高め、非日常的なデッカーパイントの店内で プレミアムの名に恥じない一時を提供してくれる。 「お待たせいたしました、ご注文のプレミアムケーキセットですごゆっくりお楽しみください。」 この店内の内装に見合う、気品あふれる佇まいを称えるようなエメラルドブルーの温和そうな瞳 白い肌に滑らかな金髪のレーネがこれを運び、客に特別なひと時を与えてるころ 別のテーブルではレーネとは違った意味でお嬢様然とした声が響く。 「お待たせいたしましたわ~!ご注文のモンブランとザッハトルテにアッサムですわ!ごゆっくりとどうぞでしてよ~!」 圧倒的なボリュームを二つの意味でふわりと揺らしながら、キラキラと輝いた目の地代が運んできたのは 先程のプレミアムケーキセットよりはグレードが落ちるがクオリティーの高いスイーツ カカオの香りを楽しむチョコレート、それを引き立たせる国産の杏子ジャムの爽やかな酸味のザッハトルテに 名前の通り山のようなシルエットに頬が落ちるような栗の甘露煮を称えたモンブラン 物によっては1000円を超える値段帯でウルトラが1枚買える…と躊躇してしまうスイーツ 「お待たせしました、ご注文のチョコレートドームとアールグレイです、ごゆっくりとどうぞ」 別のテーブルでは特徴的なフォーステールと言った茶髪に、チュロスのような房を下げた不敵な感じの少女 マキナがツヤツヤとしたドーム状のチョコレートケーキと柑橘系の香り漂うアールグレイを運んで来る 添えられた白いシロップピッチャーには、その白さに負けない生クリームが収められている。 この他にも様々なスイーツが存在するがミドルクラスの価格帯も勿論存在する 「おまたせいたしました!ご注文のショートケーキとアッサムですごゆっくりどうぞ!」 黒髪にころころとした人懐っこい笑顔の遊璃が持ってきたショートケーキ、500~700円ぐらいの値段帯のこれらは 中流層が普段注文しやすいように設定され、品質が落ちたが材料として十分な状態のミルク等の 上記のグレードで出すのに適わなくなった材料を使うなどしてコストカットをしている。 この価格帯のメニューも豊富で注文も多く、フルーツを盛ったパンケーキはコスパが良く映えると学生客に人気があり 自家製アイスとプリンを使ったアラモードも値段に対して満足感が高いと好評 「お待たせ致しましたご注文のシュークリームとシンプルプリンとコーラです、ごゆっくりどうぞ。」 最安値のグレード、主に280~380円の物にはシンプルな物と日持ちする焼き菓子等で固められて スイーツよりもカードに目移りする層をターゲットにしている。 この価格帯の需要が一番高い…ように見えるが、実は最も需要が低い価格帯でオーナーを困らせている。 「誤算だったわね、友達とシェアできるメニューも多いからデュエリスト向けに良いと思ったけど」 と…雅音の財力に物を言わせ赤字でも問題なく経営できてしまうが、そうはならず毎月黒字にも拘らずなぜこうなっているか それに関してはこのクラシカルな非日常的で、特別な時間を過ごせるような雰囲気にあった 「おまたせいたしました!ケーキセット1デュエル付きです!デュエルのほうは…分かりましたごゆっくりどうぞ!」 お得なセットメニューもあり、この店に憩いの一時を求めてやってくる客は大勢いるのだが… 「デュエル」メイドカフェとしてのデュエル部分の客層は想定より少ない、というよりも 「男の人あんまりこないねー」 「仕方がないとはいえ、男性客が少ないのは困り物だねぇ」 男性客が少ないのだった、大会前の調整にメタビートやラビュリンスとマッチ戦で戦えるため 特定の時期に男性客が増えるのだが気後れして男性客が来ないと言うパターンがとても多い。 勿論それは学生男子も含みそういった層にありがたい最安値の価格帯は真価を発揮できずにいた さらに男性客の需要もこの店では取り扱ってないタイプのフードメニューに偏り気味なのがネックとなった 「申し訳ありません…当店では取り扱ってないですね」 デュエル中の雑談で告瑠が眉をハの字にする、こんなクラシカルな店内でラーメンや唐揚げはない 丼物等もあるはずがなくコッテリとした匂いの強い、男性受けするフードメニューが存在しない だがオーナーも重めで男性向けの塩味と肉類を使ったメニューは用意していた…それが 「お待たせいたしましたわ~!ご注文のピンチョスサンドとレモネードでしてよ!ごゆっくりとどうぞですわ!」 ピンチョス風のサンドイッチセットだった、玉ねぎとレタスにシンプルながら肉厚なローストビーフが際立つビーフサンド こちらもシンプルながら卵を楽しめる卵サンドにアボガドと玉ねぎが乗ったスモークサーモンサンド 分厚いベーコンとチーズの層が美しいベーコンサンドにシャキシャキ野菜のベジーサンド。 これらを一口大六等分にして、ピンを刺してデュエルの合間に摘まめるようにしたメニュー…だったのだが 「普通のお客さんが頼むことが多いねー」 「見た目がおしゃれだから仕方がないですわー」 足りなかったのである、脂たっぷりのラーメンを好むような層が多いデュエリストには ソースが零れないよう液体ではなくジュレにして極力匂いが広がらないようにしたり工夫もされていた 「あっ!これ言って見たかったのよねぇ…そんなに食べたきゃ食べさせてやる♡」 と六等分一口大のサンドをピラミッド状に積んで、映えとボリュームを両立したお得なセットメニュー「ミレニアムサンド」と 厨房担当が「ピザなら作れますよ」と言ったことでピザが追加されフードメニューが増えた 「いい香りですわ~!レーネさん今度ピザの食べ方も教えてくださいな!」 「ピザですか?フォークとナイフで食べるイタリア式しか知りませんがそれでもよろしいですか?」 どちらもシェアができる…のだが、根本的な原因は男性側の気後れなので根本的な解決に至らず もっぱら女学生が愛用する悲劇のメニューであった。 後にデュエリスト向けの交流会を開いたことで、客層が増えてこの問題は解決することになり 最安値のグレードも需要が増えていくのであった。