新婚風味ういさき 「おかえりなさいませ、初華♡」 玄関を開けると大好きなさきちゃんの声と共に駆け寄ってくる愛しい人。いつもの服にエプロンをつけたその姿はなんだかお嫁さんみたいで落ち着けるはずの我が家なのにドキドキが加速していってしまう。 「もう、なにを呆けていますの? カバン預かりますわね、もう遅いですし先にお風呂に入りましょうか。背中、流してあげますわね。先に入っていてくださいまし」 そう言ってウインクをしたさきちゃんがリビングへと消えていくのを見るとようやく体が動き出す。さきちゃんと一緒にお風呂…想像するだけでドキドキが止まらなくなって爆発しそうになるけれど、私の体は真っ直ぐに洗面所へ行くと服を脱いで浴室へと吸い込まれていってしまった。浴室はさきちゃんの気遣いだろう、暖房が効いてあったかい。ひとまず落ち着こう、と思ってシャワーを出したところでガチャリ、扉が開く音。 「間に合いましたわね。初華、背中…失礼しますわね」 鏡に映るさきちゃんの姿に、私は目を逸らせなかった。 ──── 夕食ういさき 「初華〜? もうご飯できますわよ」 キッチンにいるさきちゃんからの呼びかけに答えてからダイニングへと向かう。そこにあるテーブルには湯気を立てている料理がいくつも並んでいて美味しそうな匂いを漂わせているからお腹が「くぅ」と小さく鳴ってしまう。 「初華はお仕事頑張ってきましたしご飯は大盛りでよろしくて?」 「うん、大丈夫だよ!」 さきちゃんと同棲するようになって以来、さきちゃんの作るご飯が美味しいからたくさん食べるようになってしまっている。今まで自炊はあんまりしなかったから、さきちゃんが作るご飯がとても美味しくて食べすぎてしまうくらい…そのせいか少し体重も増えているから今度さきちゃんと一緒に運動をしようと提案してみるつもり。とはいえ、それはそれ。せっかくさきちゃんが作っ待てくれたご飯なんだから、今はしっかり味わわないと。 「初華、ほらあーんですわ」 そんなことを考えていたら、さきちゃんが唐揚げを摘んで私に差し出してきていて。笑顔で差し出しているさきちゃんごと食べたくなったのを我慢して、ぱくりと唐揚げを口に入れた。 ──── 睦ちゃん誕生日ういさき 「睦、嬉しそうでしたわね」 今日は睦ちゃんのお誕生日だったから、私たちAve Mujicaのみんなは睦ちゃんのお家で行われるお誕生日パーティーに招待されていた。 さきちゃんから睦ちゃんのお誕生日だと知らされていたから予め用意していたプレゼントと共にお邪魔したら、そこには私が共演したことない大物俳優や大御所の芸人さんがいて睦ちゃんに「大きくなったね」とかお祝いをしていたから、いくら私がアイドルだといっても天性の睦ちゃんとは違うんだなぁと思ってしまった。そんな私をさきちゃんは鋭く見抜いていて、小声でこっそりと「どんな素敵な俳優やアイドルがいたって、私にとっての一番は初華ですわよ♡」と伝えてくれたから…私はみんながいるのにさきちゃんを抱きしめてしまったんだ。 でも周りの人は別に私たちのことなんて気にもしてなくて、それがなんだか嬉しくて。私はさきちゃんを愛していいんだって自信を貰えた気がした。祐天寺は芸能人に絡みに行ってウェカピポの警備員さんに摘み出されてたけど、睦ちゃんもそれを見て楽しそうにしてから良かった。 ──── 夜更かしういさき 「初華…そろそろ寝ませんこと…?」 sumimiでのお仕事の作詞をしていたら、後ろからそんな声が聞こえてきた。眠気を抱えているぼんやりとしたそれに可愛いなぁ、と振り向くとそこには私のワイシャツを着たさきちゃんがいた。どうして、と言おうとするも、だぼついた私のシャツがさきちゃんに着られることで胸元は緩んで下着が見えそうに…見えないから下着をつけてない!? しかも下半身はホットパンツも履いてないのかすごく際どいことになっていて目のやり場に困ってしまって。 「もう12時を超えてしまいますわ…夜更かしはお肌の敵ですわよ、アイドルであるからには…いえ、わたくしがイヤですの。初華には綺麗なままでいてほしいですわ…」 そう言って私のほっぺたに手を添えてくるさきちゃん。夜だから、暖色の卓上ライトしかつけてないこともあってそんなさきちゃんの姿がすごく扇情的に見えて私は── ──── 付箋ういさき 「『祥ちゃんは幸せ?』と聞かれましたの」 ある日の夕飯時、さきちゃんはそうやって私に語ってきた。詳しく話を聞くと、燈ちゃんから付箋でそうメッセージが残してあったらしい。それにどう返事をしたの?と聞くとこう答えてくれた。 「もちろん幸せだと返答しましたわよ。付箋にわたくしの返事を残して燈の下駄箱に貼っておきましたわ」 私のお家に来た時のさきちゃんは悲しそうで辛そうだったけれど、今ではちゃんと幸せだと言えるくらいになってくれるのが嬉しい。 「こうして大好きな初華と共に暮らせてAve Mujicaでも支えてくれる…幸せすぎて死んでしまいそうなくらい」 そう言って笑うさきちゃんに私は椅子を倒して立ち上がってしまう。 「冗談でもそんなこと言ったらダメ!!!」 「ご、ごめんなさい初華…」 謝るさきちゃんに傍に寄って背後から抱きしめる。私はさきちゃんに言う。さきちゃんがいればいいんだと。 「ふふ…初華は優しいんですのね。わたくしも一緒ですわよ。初華さえいれば…それで満足ですわ」 やった…私たち、同じ気持ちなんだ。それに舞い上がりそうなくらいに嬉しくて…私は思わずさきちゃんにキスをした。 ──── ドーナツ半分こういさき 「初華、ドーナツ食べませんこと?」 帰ってきたさきちゃんが有名なチェーン店の箱を抱えてそんなことを聞いてきた。ドーナツならこの前も半分こして食べたと思うけど…そんなに気に入ったのかな。 「以前、初華と一緒に食べたでしょう? それがすごく美味しくて忘れられませんの……ダメ、かしら?」 恥ずかしそうにしながら上目遣いでおねだりしてくるさきちゃんが可愛くて、ダメじゃないけれどダメって言ってみたくなっちゃう。 「えっ…もしかしてダメですの…?」 私が返答に困っているとさきちゃんが不安げに聞いてくるけどその仕草もすごく可愛くてもう悶えてしまいそう。安心させるように「一緒に食べよう」と答えてあげたらさきちゃんはぱあっと満面の笑顔になってくれる。 「それじゃあ私はコーヒーを淹れてきますので初華は半分こにしておいてくださいませ!」 小走りでキッチンへと消えていくさきちゃんを見送ると、私はテーブルの上に置いておいたナイフでドーナツを切り始めた。 ──── 私が守るういさき 「初華…この前の、嬉しかったですわ」 一緒のベッドに入って眠りにつこう、という直前。さきちゃんがそうやって呟いた。この前のこと…一体なんだろう、と首を傾げるとさきちゃんは声をあげて笑った。 「『Ave mujicaは解散させない』、と言ってくれたでしょう? わたくしのことを真剣に思ってくれてるんだ、と嬉しかったんですのよ」 祐天寺がさきちゃんに噛み付いて来た時に私がそうやって庇ったんだっけ。さきちゃんが大切にしているバンドを守るなんて当たり前のことだもん、特に感謝されるようなことだとは思ってなかった。 「本当に優しくて素敵ですわ」 さきちゃんの顔がベッドライトの淡い光に照らされてすごく煽情的に見えてくる。そんなことがしたい気分ではなかったのに、ごくりと唾を飲み込む音がやたらと煩く聞こえる。 「初華…まだお礼はこんなことしかできませんが…わたくしは初華のこと、手放したくないですわ…愛しています、初華」 じっと見つめていた私の視界がさきちゃんの顔で埋まる。私がキスされたと気付いたのは、さきちゃんが恥ずかしそうに背を向けて眠りにつこうとしてからだった。 ──── してほしいういさき 「初華はしてほしいことありませんの?」 ある日の夕食後、さきちゃんにそう聞かれた。してほしいことかぁ…私はこうしてさきちゃんと生活して穏やかに過ごせるだけですごく幸せだから考えたことがなかった。 「本当に欲がありませんのね…もっとこうしてほしい、とかワガママ言っていいんですのよ」 小さく笑みをこぼしたさきちゃんの姿が可愛いから、私の望みとして考えられるのは、さきちゃんが幸せそうにいてくれることかな…と思い浮かぶ。でもきっとさきちゃんが望んでるのはそういうことじゃないんだろう。それなら…… 「あ…それじゃあ…さきちゃんと一緒にお風呂に入りたいな…なんて、ダメかな?」 「ふむ…少し狭いかもしれませんが、一緒に入るのならそれも良いかもしれませんわね。では今日のお風呂は二人で…ですわね♡」 私の言った過激すぎるお願い事もあっさりと受け入れてくれて驚きに私の口がパクパクとする。そんな私の様子を見て戸惑ったようなさきちゃんが大丈夫ですの?とおでこをくっつけて熱を測ろうとしてきて、私は慌てて立ち上がって、「お風呂をいれてくる!」と言って逃げてしまった。 ──── 悪夢ういさき 「初華…起きてくださいまし」 ゆっくりと寝ていたと思っていたら体を控えめに揺らされながら鈴の転がるような気持ちいい声によって頭が覚醒していく。起こされるくらいに遅刻しそうなほど寝ちゃってた? と思って時計を見ると日の出までにはまだまだある時間。どうしたの? と私を起こした張本人であるさきちゃんに尋ねる。 「実は…怖い夢を見てしまいまして…」 そう言って恥ずかしそうに頬を赤く染めるさきちゃん。その姿に思わず笑いがもれちゃうと、それに気付いた彼女が怒ったようにぷくーっとしちゃう。 「笑った責任として初華は朝までわたくしをぎゅーってする罰ですわ!」 腕を広げて抱きしめられ待ちしているから、私は「仰せのままに、お姫様」と言って抱きしめてからごろん、とそのままベッドに寝転がる。さきちゃんの匂いと体温、柔らかな体を抱きしめながら片手でそっと髪の毛を梳くように撫でてさきちゃんが落ち着いて寝れるように。 「…ありがとうございます、初華」 どういたしまして、そう告げてからおやすみと囁く。さきちゃんが寝付いたら、私も寝よう。もちろん抱きしめたまま、朝まで。 ──── お風呂あがりういさき 「初華、ちょっといいかしら?」 お風呂も済ませてあとは寝るだけ、という状況でまったりと過ごしていたらスマホを見ていたさきちゃんが声をかけてきたから私はさきちゃんの横顔を眺めるのをやめてどうしたの?と尋ねる。 「実は愛音さんから連絡がありまして。ほら、愛音さんは燈と付き合っているでしょう? 今度の休日にダブルデートしましょうと誘われましたの」 燈ちゃんと愛音ちゃんには前に会ったことがある。Ave Mujicaのライブに何度かさきちゃんが招待していたから挨拶をしたし、燈ちゃんとは作詞してる仲間として意気投合したなぁ。あの二人となら楽しそう、そう思い私は了承する。 「ふふっ、では是非お願いしますとお返事しますわね」 さきちゃんもきっと行きたかったんだろう。嬉しそうにスマホに文字を打ち込む姿が愛おしくて、私は後ろからさきちゃんを抱きしめて首筋の匂いをかいだ。 ──── 朝のあいさつういさき 「おはのーん\( 'ω')/ヘーイ 今日も元気に行ってラブリー…っと、これでいいですわね」 私が朝シャワーからあがるとさきちゃんがそんなことを言いながらスマホを操作していた。なんだろう? と気になったから覗き込むと、SNSのTL上にオブリビオニスという名前のアカウントでさっきの言葉が可愛い絵文字と顔文字が付け加えられて投稿されていた。なんだかそれが、さきちゃんに似合わなくて思わず笑ってしまう。 「な、なんですの…わたくしが挨拶したらおかしい?」 そうじゃないよ、と安心させるようにさきちゃんの頭を撫でてから感想を告げる。すると彼女は頬をほんのりと赤く染めながらこう言った。 「その…わたくしが怖いというイメージを持たれているので親しみやすように…と思いましたの」 もう…いじらしいなぁ。そんなことしなくてもさきちゃんの可愛らしさは伝わってるのに。そう思いながらも私は「きっと伝わるよ」と告げた。 ──── 健康に良くないういさき 「健康に良くない!」 私がそういう言うとさきちゃんはきょとん、とした顔をしたけど一瞬の後に「うふふっ、なんですのそれは」と楽しそうに笑いだした。 「さきちゃんは最近根を詰めすぎてるでしょ、ちゃんと休まないと健康に良くないよ?」 「……確かにそうですわね、色々あって焦っていたのかもしれませんわ」 私の言葉にさきちゃんが納得したように頷くと電子ピアノの蓋を閉めてロフトから降りてくれた。 「今日も初華と一緒に寝てもいいかしら?」 枕を胸元に抱き抱えながら上目遣いで聞いてくれる姿が可愛らしくて、私は迷う暇もなく頷く。さきちゃんとは最近毎日のように一緒に寝ているけれど毎日ドキドキとしてしまうから寝不足になりそう…だけど何故かグッスリ眠れているから不思議だ。 ──── ホテルういさき 「初華は本当に私といるだけで構いませんの?」 ホテルの一室、睦ちゃん…ううん、モーティスちゃんや海鈴ちゃん、祐天寺と別れた後で二人で泊まっている部屋に戻ってきてしばらくしてからソファに座っているさきちゃんがそうやって聞いてきた。 モーティスちゃんの言葉が原因なんだろう、消沈したさきちゃんになんて言おうかな…と思ったけれど、正直に答えるのが良いと思うからそうだよと答えたらさきちゃんはゆっくりと顔をあげて私を見つめてくる。 「初華は…モーティスのこと、どう思いますの?」 うーん…どう、と言われると悩んじゃう。二重人格は本当なのだろうし、さきちゃんの言葉に嘘は無いと思う。私に言えることは一つだけ、どんなことがあってもさきちゃんの傍にいる。それを伝えるとさきちゃんの顔が少し明るくなった。 ──── ういさき心中 「さきちゃん…本当にいいの?」 目の前で座り込むさきちゃんを前にして、私はどこか落ち着いた気持ちで尋ねかける。   「もう…決めましたの。わたくしは初華とならば…地獄へ落ちても嬉しいですわ」 憑き物が落ちたような笑顔を浮かべるさきちゃんを見て、私は安心してしまった。全てを諦めた人の最後の希望、死して尚も私と一緒にいてくれるんだと分かって、嬉しさとこうすることでしかさきちゃんを救えない悔しさが入り交じる。 「さぁ初華、来てくださる?」 自分の服をはだけて胸元を顕にしたさきちゃんに頷くと、一気に包丁を突き刺す。値段の高いしっかりしたものを選んだからか、さきちゃんの柔らかい体に突き刺さったそれは私の手にイヤな感触を残した。 「初華…ありがとう、ございますわ。こんな辛いことをさせて…謝るべき、なのでしょうけど…嬉しいんですの」 さきちゃんにううん、と首を横に振ると包丁を抜いてからさきちゃんに差し出す。私は力の入りづらいさきちゃんが刺しやすいように、と寝転がってここだよ、と心臓を示した。 「共に逝きましょう…地獄でも、無のその先へも」 さきちゃんが倒れ込む衝撃と共に胸を貫いた刃物の感触、冷たいのかなと思ったけれど、さきちゃんの血で…温かかった。 「…さきちゃん、キスしよう」 「ええ、愛していますわ初華」 「私もだよ、さきちゃん」 最後のキスは、どんなお菓子よりも、甘くて、どんな出来事よりも幸せだった。 ──── 依存ういさき 「初華…あなたは少しわたくしに依存しすぎではなくて?」 今日もわたくしを背後から抱きしめて首元の匂いをかいでいる初華にそう言いますも、彼女は気にせず体を擦り付けて自分の匂いをつけようとしていて。その仕草に大型犬のようですわね…とため息を吐くも、そんな初華の行為が嬉しい自分もいるのが悔しくもあるのが困ったところ。 「…とはいえ、わたくしも初華に依存しているかもしれませんね」 初華にたくさん愛された結果、わたくしは初華の声を3時間に1回は聞かないと体の震えが出てくるし、半日会えないと不安から泣いてしまうくらいになってしまっていますもの。初華の作るご飯が美味しくて、外食や学食のご飯も全く美味しくないから忙しいのにお弁当を作ってもらっているのも心苦しいですが…自分の作る料理も物足りないですし初華のご飯を食べられないと苦しくて冷や汗が出てしまうくらい。 「…責任、取ってもらいますわよ?」 まだ甘えるような声を出しながら抱きしめてくる初華の頭を撫でながら、そう呟きました。 ──── スケベ初華 今日のさきちゃんのパンツは何色かな〜♡ 昨日は水色だったし、ローテーション通りならピンク色かな? それとも私が用意しておいた薄黄色のかな? そんなことをワクワクと思いながらぐっすり寝ているさきちゃんの布団をめくる。私がさきちゃんのためにと買い与えたパジャマはワンピースタイプだからこうして足元から覗き込めばさきちゃんのパンツも、少しパジャマを持ち上げてあげればブラに包まれた二つのお山まで見放題♡ 「っ!?!?」 さきちゃんが荷物の底に隠していた際どいパンツが履かれていた。スケスケな布地に細かなレース、大事な部分しか…いや、大事な部分すら隠せていないように見えるそれに私の呼吸が止まりそうになった。 「んぅ…初華…」 時が止まったように感じていたら、さきちゃんが寝言で私の名前を呼んでくれた♡ と思ったら、急に動いて私の顔がさきちゃんの柔らかな太ももに挟まれて良い匂いに包まれてあっ死ぬっ♡ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ 「初華…誘っていたのですが…初華…? し、死んでますわ…」 ──── さきバレ初華 「お願い、嫌わないで…!」 目の前のさきちゃんの無表情な顔と立ち尽くした様子に私は体が崩れ落ちてしまい、縋り付くようにさきちゃんの脚にしがみつく。どうしよう、バレてしまった。私のお家の、鍵のかかったお部屋。さきちゃんには絶対に見せられない…さきちゃんの写真や自作の抱き枕、さきちゃんの匂いを再現した香水やさきちゃんのポスターなどでビッシリと埋まったお部屋が見られてしまった。私がこんなことをしているなんてバレたら、きっとさきちゃんは軽蔑してお家から出ていってしまう。 「初華」 名前だけ呼ばれれば、それは死刑宣告を告げる裁判官のようで。この後に待ち受ける判決はきっと私にとってsumimiの解散よりも最悪なことだろう。 「こんなに想ってくださるなんて嬉しいですわ! もう…隠さずに言ってくだされば良かったのに」 さきちゃんの足を握る私へと目線を合わせると笑顔でさきちゃんがそう言って。よく分からずに困惑する私に向かって笑顔を向けたさきちゃんはこう告げた。 「大好きな初華にここまでされて嫌うわけありませんわ♡」 ──── 熱愛さきちゃん 『豊川祥子、熱愛発覚!タワマンデートで朝帰り!?』 私が暇だなーとネットを巡っていたら、そんな記事が目に飛び込んできた。ソファにだらしなく預けていた体を飛び起こしてその記事をタップ、目を通していけば夜中にさきちゃんと男性が都内にあるタワマンに二人で入っていき、朝まで出てこなかったうえ、朝も二人で仲睦まじく出てきた……と書いてある。さきちゃんは私と付き合ってるのに、浮気…しかもこの日付はさきちゃんが実家に帰るからと言った日…まだ勘違いの可能性もあったけど嘘まで吐いていたならこれはもうアウトだよね。 「ただいま帰りましたわ〜…って初華、どこ行きましたの…うわぁいましたの!?」 「……私がいたらまずいの?」 それから暫くして、いつの間にか真っ暗になっていたことにも気付かないくらい考えてたらさきちゃんが帰ってきて、自分でもビックリするくらいの低い声が出てしまう。 「むしろ嬉しいですわ…なにがありましたの?」 戸惑うさきちゃんにスマホを突きつけあの記事を見せる。それをじっくりと読んださきちゃんは笑い出すから私はムッとして睨みつけてしまう。 「あはははっ、もう…これは勘違いですわよ。この方は愛音さんですわ。本当は内緒にしようと思ったのですが……いつも初華にはお世話になってますからお礼をしようとサプライズを計画していましたの。それでそよのマンションに愛音さんと相談に行きましたのよ」 さきちゃんがそう言って、スマホを見せてくれると確かに計画がメモに書いてあったから、ほっとして体が崩れ落ちて「くぅ」とお腹が鳴ってしまう。 「全く初華ったら…今日はわたくしがご飯を作りますからその泣き腫らした顔、洗ってきてくださいな」 さきちゃんのその言葉にうん!と頷くと小走りで洗面所へ向かった。 ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ 「…はぁ、危なかったですわね愛音さん」 ──── いなくならない初華 「さきちゃんはいなくならないよね…?」 落ち込んでいるさきちゃんが今にも消えてなくなってしまいそうで不安になってしまう。あんなことがあったのだから落ち込むのは当然なんだけど、それでも落ち込みようはすごいから。いつか言っていた、さきちゃんにはAveMujicaしかないって。それがなくなってしまったんだから…きっと辛いはず。でもさきちゃんには私がいる。そうだよね… 「そうでしたわね…わたくしの傍にはずっと初華がいてくれましたわね。大丈夫ですわよ、初華が裏切らない限り…ずっといますわ」 ずっと俯いていたさきちゃんがやっと顔をあげてくれた。その表情はさっきまでと違ってどこか吹っ切れたような表情。良かった…少しは元気が出てくれたのかな。 「初華…その、良ければ今日から一緒に寝てくれませんか? なんだか初華まで傍からいなくなってしまいそうで…」 さきちゃんがそうやって不安そうにしていたから、うん!と頷いて。それなら一緒にお風呂も入る?と尋ねると少しの躊躇もなく同意されたから…私の心臓は止まりかけてしまった。 ──── 帰ってきたういさき さきちゃんがいなくなって1ヶ月経った。ラインの返信はないし、海鈴ちゃんに聞いても素っ気ないし祐天寺は…論外だよね。睦ちゃんにも連絡はつかないからどうしよう…結局あの日に買ってきたプリンは未だに冷蔵庫に入ったまま、私はいつもの習慣でコーヒーを2杯いれてしまった。 「さきちゃん…寂しいよ…」 さきちゃんが使っていた枕を抱きしめながら呟く。枕からは当初はさきちゃんの濃厚な頭皮の匂いがしていたけれど、今はだいぶ薄くなってきてしまっている。さきちゃんのお布団でも寝ているけどこの寂しさは全然収まらなくて、寂しくて死んでしまいそう。 「ただいま戻りましたわ初華…ってどうしましたの!?」 「さきちゃん…?」 「ええ、祥子ですわ」 「祥子ちゃん…っ!」 どうやらうとうとしていたみたいで、気付いたらさきちゃんが目の前にいた。夢かなと思ったけど、抱きしめたらちゃんと体温があって。良かった…本物だ。 「待たせてごめんなさい…全て片付けるのに時間かかってしまいましたわ」 そう言って私の頭を撫でて微笑みかけてくれるさきちゃんが、涙で滲んで見えたけど、すごく幸せだった。 ──── さきちゃん実家ういさき 「ここがさきちゃんのお家かぁ…」 ムジカが解散してから、私はマスコミや一般人の好奇の目からさきちゃんを守るために一緒に登下校しているのだけど、ある日すごく高級そうな車がやってきてさきちゃんを連れ戻そうとしてきた。幸いにもそれは、車の中にいたさきちゃんのおじい様に説明することで私がさきちゃんの彼氏として認めてもらえて、私がいるなら安心できると同棲を許してもらえた。ただ、それはそれとして詳しく話を聞きたいと言われたのでこうしてさきちゃんのお家に来たんだけど…私には縁のない大きな御屋敷に少し気が引けちゃう。 「緊張しなくて良いんですのよ」 「そ、そうだけど…うぅ…」 「ふふっ、いずれは初華もここに住むことになりますのに」 楽しそうに笑うさきちゃんに敵わないなぁ…と思っていたら、通りがかったお部屋の中にピアノが見えた。 「あら…気になりますの? では…初華のために一曲弾いてあげますわ」 私の視線に気付いたのだろう、さきちゃんが腕まくりする仕草をしてからピアノの前に座って、綺麗な旋律を奏ではじめた。 ──── ご褒美ういさき 「うーいか♡」 私がお部屋で作詞作業をしているとさきちゃんが背後から抱きついてきた。部屋着のさきちゃんは下着をつけていないのか、背中に当たるおっぱいがむにゅんっと柔らかな感触を私に伝えてきて、さっきまで頭に浮かんでいた歌詞があっという間に消えてしまった。 「ど、どうしたのさきちゃん…?」 バクバクと高鳴る心臓を必死に抑えようとしながら、振り向いてそう尋ねると、まるで子供のように笑いながら私に言葉を紡ぐ。 「少し頑張りすぎではなくて? コーヒーとドーナツを用意しましたから休みましょう?」 そう言われて気付いたけれど、コーヒーの匂いが漂っているのに気付いた。すっかり気付かないくらいに夢中になっていたんだ…とちょっとビックリしちゃう。 「それじゃあ、頑張ってる初華にはわたくしがあーんのご褒美を差し上げますわ♡」 一緒にテーブルにつくと、さきちゃんがそんなことを言うものだから…私はもう我慢ができなくなって、さきちゃんを抱きしめてしまった。 ──── 同棲ういさき ムジカが解散してから1ヶ月くらい、さきちゃんと私は同棲生活を続けていた。さきちゃんのおじい様がさきちゃんを取り戻そうとしてきたり色々あったけど…それでもムジカがあった頃より穏やかでのんびりとした日々を送れている。さきちゃんは家賃も払わずに住んでるわけにはいかないとバイトを始めようとしてたけど、さきちゃんは今まで頑張っていたんだし代わりに家事をやってもらうことにしたら、「まるで専業主婦みたいですわね」なんて言うものだから照れてしまった。 「さきちゃん、プリン買ってきたよ〜」 「おかえりなさい、初華。まぁ…ありがとうございますわ♡ それならわたくしがコーヒーをいれておきますから初華は手を洗ってくださる?」 プリンの入った袋を覗きこんで笑みを浮かべたさきちゃんが慣れた手つきでコーヒーをいれ始めてくれて。キッチンのシンクで手を洗いながら私は、さきちゃんの後ろ姿を眺めて幸せを感じていた。 ──── 嫉妬ういさき 「燈と愛音が…」 最近のさきちゃんはすごく楽しそう。話を聞いてると、昔の友達と仲直りができたみたいで、同じ学校ということもあって学校ではよく三人でいるみたい。さきちゃんが元気になって嬉しそうなのはいいんだけど、今は私と一緒にいるんだからあんまり他の女の話はしてほしくない…な。とはいえ、そんなことを口に出したらきっとさきちゃんは迷惑だろうし、それに私はさきちゃんが楽しそうにお話しているのを見るのも好きだから大丈夫。 「それでその時…初華、どうしました……?」 そうやってぼーっとしていたからだろう、さきちゃんが私の目の前にいてビックリしてしまう。 「なっ、なんでもないよ!?」 「……もしかして初華…嫉妬、していましたの ?」 私の様子を見ていたさきちゃんが見抜いてくる。やっぱりさきちゃんはすごいや、的確に私のことを理解してくれる。こく、と小さく頷いた私を見るとさきちゃんはふわ、と柔らかな笑みを浮かべる。 「ごめんなさい、初華…貴女という恋人と二人きりなのに他の方の話ばかりでは嫉妬して当然ですわ。お詫びに…初華のこと、もっと知りたいですわ」 そう言ったさきちゃんが隣に座る私にしなだれかかってきて。さきちゃんから香る良い匂いが私の鼻腔をくすぐってきて、私は動けなかった。 ──── ペアルックういさき 「さきちゃん、明日の収録だけどペアルックしない?」 ロフトの布団の中、寝る前のお喋りをさきちゃんと一緒に少し狭いそこでしている途中で提案する。ムジカを解散してから二人でデビューして…sumimiがあるのにと批判もされたけど、まなちゃんが庇って応援してくれたから今ではそれも収まっている。 「ペアルックですか…明日は確か、バラエティでしたわよね」 「うん、クイズ番組だよ。さきちゃんは頭良いし活躍できるね!」 うーん、と考えているさきちゃんにやっぱりダメかな…と思っちゃう。さきちゃんはそういうの好きそうじゃないし…私だけ浮かれちゃってる自覚はある。 「いいですわね、世間ではまなういがまだ大手ですしわたくしたちがラブラブだということを教えて差し上げましょう」 その言葉にぱあっと笑顔が浮かぶ。さきちゃんも嬉しそうに笑っていて、私はさきちゃんをぎゅーっ!と抱きしめた。 ──── 旅行ういさき 「お仕事で乗る新幹線とプライベートで乗る新幹線…こんなに景色が違って見えるのですね」 私の隣で窓から景色を眺めているさきちゃんがそう呟く。私はすっかり慣れてしまっているけれど、さきちゃんは新鮮そうに窓の外を眺めていて、さっきも『初華!富士山見えましたわよ!』とはしゃいでいたからすごく可愛かったなぁ。 「さきちゃん、アイス食べる? 新幹線のアイスって硬いことで有名なんだって」 「まぁ…! それは面白そうですわね、頼みましょう!」 もう全身から楽しい!という雰囲気を出しているさきちゃんの様子が移って、私も楽しさがきっと滲み出てるなと思いつつ、スマホから二人分のアイスと…同じく二人分のホットコーヒーを頼んでおく。アイスをコーヒーで溶かすんだよ、と言えばさきちゃんはまた面白い反応を見せてくれるんだろうな。それを想像すれば、こっそり動画を撮っておこう、と決めて届くのを待ちながらさきちゃんの笑顔な横顔を眺めるのを再開した。 ──── さきちゃん守る初華 「初華…助けてください…」 学校から帰ってきたさきちゃんが涙を目に浮かべながら抱きついてくる。まさか…まだムジカの解散のことで良くない目を向ける人がいる? そんな人たちは二度とそういった目を向けられないようにしたはずなんだけど…… 「燈が…っ……!」 燈…CRYCHICの頃に一緒にいたメンバーで…さきちゃんがその歌詞に惚れ込んだ子、だよね。なにがあったんだろうと詳しく聞くと手に握った付箋を見せられる。そこには『祥ちゃんはしあわせ?』と書いてあり…私といることで傷は癒えているとはいえ、まだショックの大きいさきちゃんには辛いものだと分かる。 「…分かった、任せてさきちゃん」 付箋を握りしめるとクシャリと音を立てる。さきちゃんのことを心配してだとはいえ…さきちゃんを悲しませたことは許さない。 ──── スケベ初華 「初華様、こちらが今日のお嬢様が体育の時間に使った体操服と下着です」 「ありがとうございます、お礼の私とまなちゃんのサインと宛名付きの写真集(没カット有)です」 深夜の豊川邸。私は豊川家のメイドさんと取引をしていた。さきちゃんとご実家でおじいさま公認で同棲することはできるようになったけど、その代わりに日課のさきちゃんパンツを堪能することができなくなった。困っていたところ、sumimiのファンだという彼女がサインを欲しいと頼んできたので定期的にさきちゃんのお宝を貰う代わりにこちらも定期的にグッズや番組の観覧権を渡すことになっている。 「さてさて、では早速さきちゃんの汗で蒸れ蒸れのパンツから…スゥ---ッッ」 鼻から脳内まで突き抜けるさきちゃんのグッドスメル…あぁ、麻薬ってきっとこれのことだ。私はトリップしそうな気持ちを引き締めながら、体操服に手をかけ── 「初華〜…どこ行きましたの…?」 背後から声が聞こえた。 ──── 猟犬初華 「さきちゃん、私の人生をくださいって言ったからあげたのに……なんで裏切るの?」 やっと見つけたさきちゃん。睦ちゃんとは仲直りしたんだね、そっちのみんなはCRYCHICの仲間と…Mygo!!!!!の子たち……か。うんうん、仲直りができたのは良い事だけど……だからといって私を裏切ったことが許されるわけではないもんね。 「……ごめんなさい、初華。でもわたくしは本当に大切なものを見つけましたの。……さようなら」 ……許さない。私の人生を貰っておいて、はいさようなら? そんなことが許されると思ってるのかな? 「待ってさきちゃん!」 「っ…!やめてください!」 私がさきちゃんの腕を掴んで引き止めようとしたらその腕を振り払って。私が呆然としちゃうとあっという間に走り去っていってしまって。……あぁ、ダメだよさきちゃんそんなことをしたら。私が抑えられなくなっちゃう。さきちゃんを……取り返さないと。 「お願い、みんな」 ポケットから取り出したアクセサリーを取り出して起動の合図。私の影から現れたのは3体の猟犬たち。ティンダロスのみんな、さきちゃんを捕まえてきて。 「……ごめんなさい、初華。こうでもしないと……わたくしはまた貴女に甘えてしまいますわ……」 ──── 名古屋旅行初華 「着きましたわ!名古屋ー!」 新幹線から降りたさきちゃんが両腕を広げてホームで叫ぶ。あぁもう周りの人たちが見てる……けど、さきちゃんが可愛いからいっか。 「JR東海さんの新幹線だからあっという間だったし乗り心地も良かったねさきちゃん」 「えぇ! JR東海さんのおかげで疲れもありませんからこの後すぐに観光できますわ!」 元気いっぱいだとアピールするさきちゃんが可愛い……けどまずはホテルにチェックインして荷物を置いて来なきゃ。 「さきちゃん荷物持つね」 「ありがとうございますわ、初華。少しお腹空きましたしなにか食べたいですわね……わたくし調べましたのよ! まずはあんかけスパを食べましょう!」 さっき新幹線で熱心にスマホを見てたと思えばそれを調べてたんだ…画面に写ったそれを見てれば私のお腹もくぅ…と泣いてしまう。時間は午後2時過ぎ…うん、チェックインしてからならお客さんも少なそう。 「じゃあまずはマリオットアソシアホテルに向かおう? JR東海ホテルズが経営してるから安心だよ!」 ──── チェキういさき 「うーん……」 さきちゃんがテーブルに広げたノートに向かって悩んでいる。どうしたんだろう、と覗き込むとそこには色とりどりの付箋が貼ってある。 「どうしたのこれ?」 付箋の一つを指でなぞって書いてある言葉を読み上げながら尋ねるとさきちゃんは燈ちゃんが贈ってくれたものだと教えてくれた。 「へぇ……燈ちゃんの気持ちが伝わる言葉だね」 どれも燈ちゃんの心の叫びがよく伝わってくる良い言葉たちだと思う。さきちゃんのことを本当に心配しているんだって分かるもん。でもどうしてこれを見ながら悩んでたんだろう。 「実は嬉しいは嬉しいのですが……私には初華がいますし余りこういったものを貰うのは困って…ですがどう言えばいいのか悩んでいて…」 さきちゃんの言葉になるほど、と頷く。確かに困っちゃうよね…それならこういうのはどう? 「なるほど! 私と初華の2ショットチェキを燈の下駄箱にお返しする…賢いですわね!」 でしょ?とさきちゃんに笑いかける。そうと決まれば早速撮らないとね! 私はカメラを取りに走った。 ──── 入れ替わりういさき 目が覚めた時、違和感に気付いた。なんだか頭が重い。風邪を引いたのかな…と思うもすぐに理由が分かった。この身体…さきちゃんのものだ。そう分かれば隣に眠るさきちゃんを見ればやっぱり私の姿が見えたことで確信する。入れ替わり……本当に起きるんだ。慌てるべきなのかな……そう思うけれど、不思議と冷静な自分がいる。 「ふぁぁ…まだ眠いですわ……ん? わたくし?」 そんなことを考えていたら私(さきちゃん)が目を覚ました。うわうわ……私って寝起きこんな風なんだぁ。 「……えっと、祥子……さん?」 「私だよ、さきちゃん」 さきちゃんの声でさきちゃんの名前を呼ぶと違和感がすごい。でもやっぱりさきちゃんは賢いなぁ。すぐに理解したみたい。 「えぇ……こういうの物語の中だけじゃありませんの……?」 「あはは……起きちゃったものは仕方ないけど、どうしようか」 私が困惑する顔、面白いなぁ。なんて思っちゃうのは不謹慎かな? 「ひとまず……学校とお仕事にはお休みの連絡入れようか。そしたら朝ごはん食べてゆっくり考えよ?」 「初華は冷静ですわね……でも頼もしいですわ、流石わたくしの彼氏ですわ」 そう言って笑う私の顔をしたさきちゃんが可愛くて、ついキスしてしまった。 ──── もし死んじゃったらなういさき 「初華はわたくしのことが大好きですわよね」 ソファに座るさきちゃんの隣に座って歌詞を考えていたらそんなことをさきちゃんが突然言い出した。今更なに当たり前のことを言ってるんだろう……と首を傾げる。 「もしわたくしが死んだら初華はどうしますの?」 さきちゃんが死んだら……? そんなこと考えたくもないけど、うーん…… 「地獄の果てまでも追いかけて一緒にいる……かな」 「なるほどそこまで……えっわたくし地獄に行くんですの?」 自然と口に出てきたそれにさきちゃんが驚きの声をあげる。確かに自然と地獄って単語が出てきちゃったけど……まぁ、さきちゃんは地獄行きじゃない? 「だって……色んな女の子を誑かしてその気にさせては餌あげないし……罪深いと思うよ」 「わたくしそんなつもりないんですが……」 だから余計に罪深いんだよね……彼氏として自分の彼女が他の女の子引っ掛けてるところを心配しなきゃいけない気持ちになってほしいや。 「まぁ……ひとまず、私はさきちゃんが先に死んだらすぐに死んでどこへでも追いかけるから……勝手に死なないでね?」 「安心なさって。わたくしが死ぬ時は初華と一緒ですわよ」 ──── 誕生日&バレンタインういさき 「さきちゃん、お誕生日おめでとう! それとハッピーバレンタイン!」 さきちゃんを玄関で待っていてしばらく、寒かったけれどそれ以上にワクワクしていたから苦にならなかった! 帰ってきたさきちゃんをクラッカーで出迎えると、きょとんとした顔をしていたのがちょっとおかしい。 「今日は2月14日だよ? 本当は日付変わってすぐお祝いしたかったけど……準備があったから遅くなっちゃった」 「ふふっ……初華ったら。まさか玄関でだなんて思いませんでしたわ」 クス、と笑みをこぼすさきちゃんはやっぱり絵になるなぁ、なんて思いながら私はさきちゃんを連れてリビングに向かう。そこに用意してあるのはたくさんのご馳走とチョコレートに、それに合う少しビターな珈琲! プレゼントはたくさん悩んだけど、さきちゃんの好きそうなものも選んだし、それにちょっぴり攻めた下着も着けたから……ふふっ、さきちゃん、絶対最高の誕生日にするからね! ──── 嬉しいういさき さきちゃんが始めた最初のバンド、CRYCHICの解散ライブが行われたのを知った。そっかぁ…ちゃんとケジメをつけることができたんだね、良かった。それならこれからはさきちゃんはムジカに集中してくれる……のかな。 「初華〜、帰りましたわ〜」 「さきちゃん!おかえりなさい!」 祝賀パーティー……じゃないけれど、長い間しこりになっていたであろうさきちゃんへお疲れ様の思いを込めてご馳走を用意して待っていたらさきちゃんが嬉しそうに帰ってきた。 「初華、今日は良い事がありましたのよ!」 「ふふっ、なあに? ご飯食べながら聞かせてほしいな」 今にも歌い出しそうなくらいのさきちゃんが可愛い。だけどゆっくりと落ち着いて聞かせてほしいから、もう食べられる状態の食卓へと案内して。 「それじゃあ…今日会ったことを聞かせてほしいな?」 「はい! 今日はですね…!」 ──── 迷子鑑賞ういさき 「初華、迷子のライブ見に行きませんか?」 さきちゃんからそう言われた時、私はちょっと躊躇ってしまった。迷子…つまり、Mygo!!!!!のライブ…さきちゃんの昔のバンド、CRYCHICの子たちがたくさんいるバンド…かつてはさきちゃんの別れ方のせいでしこりが残ってたそうだけど、今はそれが解消されて仲良しに戻ったから……ライブを見に行けるのは嬉しい、けれど……気持ちがその子たちに移ったらどうしようという不安がある。さきちゃんを信じなきゃいけないのに、そうやって疑ってしまう自分も嫌いだ。 「イヤならいいのですが……わたくしは、わたくしの好きなものを初華と楽しみたいですわ」 もう……そう言われちゃったら逆らえないよ。さきちゃんは本当にずるいんだから。 「ふふ、ありがとうございますわ。それでは明日、学校が終わったらすぐにそちらへ迎えに行きますわね!」 嬉しそうに言うさきちゃんは本当に可愛いんだから……この笑顔が見れるんだから、迷子のみんなには感謝しないとね。折角だから差し入れも用意しようかな……なにが好きだろう、後で迷子のSNSをチェックしておこう。 ──── 将来考えるういさき 「初華はいつまでsumimiを続けるつもりですの?」 さきちゃんの言葉にいつまでかぁ…と改めて考える。ムジカとsumimiの二足のわらじもいつまでもは続かないからどっちかを選ばないといけない。それだけじゃなくてもいつかは芸能界をやめることだってあるんだから。 「わたくしとしては初華がわたくしと結婚したら豊川初華となるわけですしそこが区切りかと思うのですが……」 確かに結婚は一つの節目だよね。名字が変わるといっても芸能界では旧姓のまま活動する人もいるけど…… 「もちろん初華が続けたいというのなら応援しますわよ?」 私の様子を見て気遣ってくれるのが嬉しい。でもそうだなぁ…さきちゃんと私の子どもができたらお仕事は減らしたいから…やっぱり結婚が節目なのかも。そう伝えたらさきちゃんは、 「も、もう…気が早いですわよ…♡」 そう言う様子が可愛くて、私は思わず抱きしめてしまった。 ──── ねぎらいういさき 「はぁ…疲れましたわ…」 「お疲れ様、さきちゃん。コーヒー飲む?」 「ありがとうございますわ、いただきますね」 お家に帰ってきたさきちゃんが私に弱音を吐きながら抱きついてきた。お外では凛として気高いさきちゃんだけど、お家というプライベートな場では私に甘えてきてくれるから本当に可愛い…私だけしか見れない唯一のさきちゃん。 「また祐天寺が面倒なことを言ってきましたし八幡さんもなにやら変に気合いが入っていますし……わたくしの味方は初華だけですわ」 ムジカの再結成に向けて動き出した私たち、前みたいにならないようにちゃんと話し合うことを決めたのだけど…個性が強い子が多いからやっぱり大変なんだ…少しでも負担を楽にできるように、私だけでもさきちゃんの力になりたいな。 「ふふ、ではそうですわね……ご褒美、くださる?」 そう言うと目を瞑って、唇を私に向けて突き出してきて。これってもしかしなくても…そうだよね?ごく、と生唾を飲み込んで…私はゆっくり顔を近付けた。 ──── 話し合いういさき 「元鞘、かぁ」 さきちゃんの話を聞いて呟く。さきちゃんの最初のバンド、CRYCHICの解散ライブをした後、いつの間にか見に来ていた海鈴ちゃんから元鞘に戻ったのかと聞かれた……とのこと。私にとっての元鞘ってなんだろう、sumimi……は違うし、さきちゃんとも喧嘩別れなんてしたことないし…… 「元鞘なんて縁がない方が良いですわよ」 さきちゃんがコーヒーを飲みながら言う。ふふっ、確かにそうかも、私はさきちゃんと別れるつもりないしね。 「ふぅ……やっと落ち着きましたわ。八幡さんはムジカを再結成したいそうですが、初華はどう思います?」 「うーん……さきちゃんと一緒にいられるならしてもいいけど……睦ちゃんの負担になっちゃうから私としては反対かな」 自分だけで抱え込むことをやめてくれたさきちゃんに、私がさきちゃんを支えることができてるのだと分かって嬉しくなる。だからこそ、言うべきことはちゃんと言わないと。海鈴ちゃんには悪いけど……さきちゃんの友達が辛そうなのは私も辛いもん。 「ふふ…初華は優しいですわね。私も…睦を苦しめたくないので断るつもりでしたわ。これで反対3、賛成1で決定ですわね」 安堵の笑顔を浮かべるさきちゃんに私もほっとする。でも一応、私も話し合いの場には私も一緒にいよう。海鈴ちゃんがなにをするか…分からないもんね。 ──── 逮捕ういさき 「逮捕しちゃうぞっ!」 「……急にどうしましたの?」 夜もすっかり更けてのんびりしている時間帯、お互いコーヒーを飲みながらまったりしていたところに、ふと思い出したことがあったからやってみたらさきちゃんに引かれてしまった。 「今日のお仕事が赤羽警察署の一日警察署長だったんだ。だから警察官といえば…みたいな真似?」 なるほど、と頷いたさきちゃんの様子に少しはしゃぎすぎちゃったかな……と反省。さきちゃんは逮捕されるようなことしてないもんね。 ……いや、私の心を盗んだって罪はあるけど! 「わたくしは初華になら逮捕されてもいいですわよ」 そんな私の心を見透かしたようなさきちゃんの言葉にドキリ、とする。た、逮捕するって…! 「いえ…むしろわたくしが初華を逮捕してしまいましょうか。わたくしの初華なのに…他の人を魅了する浮気の罪…で」 さきちゃんが私の顎を持ち上げて唇と唇がくっつきそうな距離でそう言う。うぅ…恥ずかしいけど、さきちゃんが望むのなら私は…! 「ふふっ、半分冗談ですわ」 私のおでこを指で弾いて離れるさきちゃんにうー…と小さく唸って。ほっとしたような、残念なような、そんな気持ちを抱えたままコーヒーを口に含んだ。 ──── 元鞘ういさき 『元鞘に戻ろうと思うんです』 海鈴ちゃんの言っていた言葉を思い出す。中庭、立希ちゃんに言っていたのを聞いてしまったけれど…私にそんな話はなかった。さきちゃんに話すのは…リーダーだからそうだと思うけど…仮にもギターボーカルな私に話を通さないということに少しモヤモヤする。そんな私に二人分のコーヒーが入ったマグカップを持ってきたさきちゃんが言う。 「あぁ、あの話なら断りましたよ」 「え、そうなの?」 さきちゃんの言葉に目がパチパチとする。 「わたくしはこうして初華と共にゆったりと過ごせれば幸せですもの」 「さきちゃん……♡」 不安がってた私を背後から優しく抱きしめてくれて、さきちゃんの香りがふわりと私を包み込んだ。 「今夜はそんな不安…忘れさせてあげますわ」 そう言うとさきちゃんの細かな指が私の首筋をなぞって、心臓がどくんと高鳴った。 ──── 猫の日ういさき 「さきちゃん、にゃーんっ♡」 今日は猫の日! ということで猫耳に猫の尻尾、もふもふとした服装で猫さんの格好をしてみました! えへへ、さきちゃん喜んでくれるかな…と思って、ソファでくつろぐさきちゃんに甘えに来てみたけど…… 「…………」 「さ、さきちゃん?」 何故か無言で私のことをじっと見ててちょっと怖い。もしかしてさきちゃんこういうこと嫌いだったかな…? 「…はっ、失礼しましたわ。その…初華が可愛すぎて少し気を失っていましたわ…」 そう言って恥ずかしそうに笑う姿に今度は私がきゅんっ!としてしまって。私が可愛いと思ってもらおうと思ったのにさきちゃんずるいよー! 「にゃーんっ!にゃんにゃん!」 「くっ…この甘えたがり猫ちゃん…良いでしょう、存分に甘えなさい!」 やけになったよう?に言ったさきちゃんが私のことを抱き寄せてきて、きゃーっ! さきちゃん大胆! 思わず喉を鳴らしてさきちゃんにすりすりっと頬ずりして期待に満ちた目で見上げたら、そのままさきちゃんの顔が近付いてきて── ──── お兄様なういさき 「初華、ちょっといいかしら」 お夕飯もお風呂も済ませた後、いつもの様にコーヒーを淹れてさきちゃんのところへ持っていくとなにやら真剣な顔をしたさきちゃんから尋ねられた。もしかしてなにか大事な話なのかな…と居住まいを正して向き直る。 「…お兄様、と呼んでもいいかしら?」 「……えっ?」 すぅ、と深呼吸をしたさきちゃんが言った内容にえっと声が漏れてしまった。お兄様…? えっ、どういうことなんだろう。 「前々から思ってましたの…初華ってかっこいいんですわ。ボーイッシュというか…すごく良いんですのよね。特にその横顔…そそして物思いに耽っていたりコーヒーを淹れる際の真剣な顔…わたくしの理想のお兄様ですわ!」 急に早口で言われたから勢いに押されてうんと頷いてしまう。よく分からないけれど…さきちゃんが嬉しいならいいかな。 「では…こほん、初華お兄様♡」 「…! な、なあにさきちゃん?」 「初華、そこは祥子、もしくはさきと呼び捨てになさってください」 演技指導が入っちゃった…拘りあるんだなぁ…… ──── 幼女ういさき 「ういかー」 朝起きたら隣で寝ていたさきちゃんが小さくなっていた。 「ういかー、あさごはんー」 私のことをゆさゆさと揺らしながらおねだりしてくる姿は可愛い! 可愛いけれどこのままでは私が我慢できなくなっちゃう。心当たりは……ある。この前共演した日菜ちゃんに「恋人がいるならこれ飲ませてあげるとるんっ♪とするよ」と言われたから確かに昨夜眠る前のコーヒーに液体を入れたけど……まさか幼児化する薬だったなんて……記憶はある…のかな? 「さきちゃん……その、私たちの関係って分かる?」 「かんけー? わたくしたちはこいびとですわ!」 うん、そこは合ってるけど…… 「らぶらぶでもうすぐけっこんしますわ!」 ま、まだ結婚は早いかなと思ってたけど……うん、したいよね。記憶の混濁……はなさそう、うーん……ないのかな? 「ういか、あさごはんたべたいですわ…うぅ……」 お腹を押さえながら涙目になる幼女さきちゃん……な、なんだかいけない性癖に目覚めちゃいそう……! 「う、うんっ! すぐに作るから待っててね!」 さきちゃんを襲ってしまう前に足早にキッチンへと向かって。はぁ……可愛いけどいつ戻るの……? ──── アイビーういさき 「ただいま〜」 さきちゃんへのプレゼントを買って帰ってきたけど、もう帰っているかな…と思ったらちゃんと電気もついているし帰ってるみたい。リビングの扉を開ければふわりと香るのはお料理の匂い…さきちゃんが作ってくれてるんだ! 「あら、おかえりなさい初華。もうすぐご飯できますわよ」 笑顔で出迎えてくれたさきちゃんを今すぐにでも抱きしめたい…! けど、我慢しなきゃ。お料理中なのにそんなことしたら危ないもんね。 「今日も頑張った初華のために美味しいご飯を作ってますわ」 はつはつさきさき 「さきちゃん、渡したいものがあって…」 ご飯を食べ終えて食後のコーヒーを飲んでから切り出した。 「渡したいもの…? なんですの?」 少し待っててね、と言ってから見つからないように隠したそれを取り出して持ってくる。 「これは…お花? アイビーかしら?」 「うん…枯れちゃったとしても花言葉のように一緒にいられたらな…って思って」 「初華…あなたの気持ち、本当に嬉しいですわ。わたくしも…同じ気持ちですわ」 花を抱えながら微笑むさきちゃんは、物語の中に出てくる女神様みたいに美しくて。写真に残そうと思ったけれど、きっとこの綺麗さは写真では表せない。そう思った私はさきちゃんを眺め続けた。 ──── わんこみたいなういさき 「初華、お手!」 「わ、わん…?」 もうすぐ寝るからとごろごろしていたらさきちゃんが私に向かって手を差し出してそんなことを言ってくるものだから、つい反応してしまった。 「ふふっ、初華は可愛らしいですわね」 「えへへ…でも急にどうしたの?」 さきちゃんがこんなことをするなんて珍しいと思って首を傾げると、どうやら巷では私がわんこっぽいと言われてるらしい。しかもゴールデンレトリバーだと犬種まで指定されてるそうで。 「わんこかぁ…でもさきちゃんを守る忠犬って意味ではそうかも!」 さきちゃんのことを大切にしてるって意味でな合ってるから意外と悪くないかも? 「わたくしはイヤですわ。初華はちゃんと人間の騎士様ですもの。それに…わんこと人では結婚できないでしょう?」 さきちゃん…♡ 私とのこと、そんな真剣に考えてくれてたなんて…♡ 「うんっ! 私は人で騎士だよ! さきちゃんを守るもん!」 こくこくと頷いてさきちゃんをぎゅーっ!と抱きしめる。ぜーったいに離さないもん! さきちゃん大好き! ──── 襲われ待ちういさき 「ふんふんふふーん、ただいま〜」 今日のお仕事も順調に終わってお家に帰ってきた。 「おかえりなさい、初華。時間がありましたので初華のお部屋もお掃除しておきましたわ」 「ありがとうさきちゃ…えっ」 今日も割烹着姿のさきちゃんは可愛いなぁ、眼福…と思っていたら聞き捨てならない言葉。私のお部屋を掃除…えっ、待ってもしかして! さきちゃんにごめん! と言い残して慌ててお部屋に入れば机の上に載せられた『幼馴染のご令嬢に襲われる本』が綺麗に置いてあって。あぁぁぁぁ、見られちゃったどうしよう。 「初華、その……」 「さきちゃん!?」 項垂れていると背後から控えめなさきちゃんの声。恐る恐る振り向くと、ほんのりと頬を赤く染めたさきちゃんがいて。 「その……そういうのが好きなら今夜……楽しみにしていてくださいな」 そう言い残すと小走りでリビングの方へ消えていった。……えっ、今のってつまり…そういうことだよね!? ──── CRYCHICういさき 「さきちゃん、聞いたよ」 「なにをですの?」 「CRYCHICのこと」 愛音ちゃんにコンタクトを取って聞いた、さきちゃんが過去に所属していたバンドであるCRYCHIC。解散ライブをしたことは知っていたけれど……どうやって行われたのか、かつてどんなバンドだったのかは知らなかったから……聞けて良かった。でも許せないことがある。さきちゃんが語ってくれなかったこと。 「あぁ……言ってくださればわたくしから教えましたのに」 「えっ」 なんでもないことのように言うさきちゃん。もっと狼狽えたりすると思ったのに……もしかして、疚しいことはない? 「そういえば語ったことありませんでしたわね……話せば長くなりますし、コーヒーでも淹れてきますわ」 そう言うとキッチンの方へ向かうさきちゃん。そっか……話してくれるんだ、嬉しいな。だったら私はお茶菓子でも用意しておこう。羽沢珈琲店でクッキー買ってきたから、お皿を出さなきゃ。 ──── 迷子の詩なういさき 「これは…迷子の詩だね」 プラネタリウムを出てバッタリと会った燈ちゃんと睦ちゃん。二人でなにをしていたのかは不明だけど、燈ちゃんから見せてもらったノートに書かれていた詩は見るだけですぐに分かった。CRYCHICの頃の燈ちゃんの詩ではなく、信頼できる仲間に出会えて、立希ちゃんという恋人がいる燈ちゃんの幸せな詩だった。 「だから…これを見せるべきなのは立希ちゃんにじゃないかな」 ほら、と燈ちゃんの後ろを示せばそこには息を切らしながら走ってきた立希ちゃんがいる。 「燈…!」 「立希ちゃん…」 外だというのに人目を憚らずに抱きしめあう二人。幸せだという空気がこっちにまで伝わってくる、いいなぁ。 「初華! 全く…探しましたわよ」 そう思っていたら、今度はさきちゃんがやってきて。そういえば帰るの遅くなっていたっけ…待たせてごめんね、と謝れば、 「こんなに手が冷たくなって…ほら、あったかいコーヒーですわよ。さ…飲みながら帰りましょう?」 買ったばかりのあったかい缶コーヒーを渡してくれて。でも私はコーヒーよりもさきちゃんの手がいいな。だから手を握って、一緒に帰路についた。 ──── 盗らないさきちゃん 「祥は…あなたのものじゃない…私のもの…」 目の前にいる睦ちゃんがそう言った時、私の中で沸騰するように気持ちが弾けた。 「っ……」 「睦ちゃんになにが分かるの!? さきちゃんは私と一緒にいる!」 思わず胸ぐらを掴んでしまう。睦ちゃんの軽い体は簡単に持ち上がって。睦ちゃんの顔はやっぱり変わっていないのがイラつきを加速させる。 「さきちゃんに迷惑ばかりかけて…そのせいで家に帰ってきてからどれだけ胸を痛めてるか分かってないくせに!」 最近のさきちゃんが私たちが暮らすお家に帰ってきた時に悲しい顔をしてるのが辛くて…だから、許せない。 「……一緒に暮らすあなたより、私を優先してる。つまり…さきは私のもの」 「──っ! 私からさきちゃんを盗らないでっ!」 表情は余り変わっていないのに、どこか勝ち誇ったような表情で、睦ちゃんを掴んだ手がそのまま彼女を投げ── 「初華っ!」 「……さき、ちゃん…?」 大好きな人の声が聞こえて、睦ちゃんを手放す。見られた…私が、睦ちゃんに暴力を奮っているところを… 「初華…」 「ち、違うの…さきちゃん!」 「祥…」 「わたくしは、あなたのものですわ初華…大丈夫、大丈夫ですわ」 さきちゃんに抱きしめられて撫でられる。それだけで、さっきまでの私の気持ちは落ち着いて、嬉しくて泣きそうになる。 「睦、幼馴染だからとわたくしへの迷惑は許してきましたが…わたくしの恋人の初華へ迷惑かけるのは許しませんわ!」 「……二人の気持ちは…分かった…初華…祥のこと、お願い…」 私の緩んだ手から抜け出した睦ちゃんがそう言って立ち去っていく。燈ちゃんはなにがなんだか分かってないような顔をしていて…当然だよね。 「初華…わたくしはどこにも行きませんわ、だから…初華も勝手にどこかへ行かないで…」 さきちゃんの声は震えていて…彼女も不安だって分かった。 「お熱いね〜、ともりん大丈夫だった?」 「ぉぁ…あのちゃん…」 愛音ちゃん…彼女にも迷惑かけちゃったな。私…もっと周りのことをよく見れば良かったのかもしれない。 「愛音さん…恋人がいるというのは幸せなことですわね」 「でしょ〜? 私もともりんのおかげで毎日頑張れてるもん!」 さきちゃんと愛音ちゃんが笑顔で会話している。そっか…さきちゃん、そんな風に笑える友達がいるんだね。良かった。 ──── 名古屋旅行ういさき 「さて…JR東海さんの誇る新幹線で名古屋に着きましたが、初華は確か最初に行きたいところを決めているんですのよね?」 さきちゃんから聞かれてうん!と答える。さきちゃんとは昔一緒に島で星空を眺めた仲だし、プラネタリウムも一緒に行っている。そんな彼女と名古屋に来たら行くべき場所といったらやっぱりここだよね! 「じゃーん! 名古屋市科学館だよ!」 「科学館……ふむ、色々と見て回れるのですね。まぁ! 特別展は鳥なのですね! わたくしこれ見てみたいですわ!」 そういえばさきちゃんは鳥さんも好きなんだっけ、それなら見たいけれど…本命はこっちなんだよ。 「さきちゃん、なんとここは世界最大のプラネタリウムがあるんだよ。一緒に見たかったんだ」 「世界最大…それはなんともすごいですわね。初華はわたくしのことをよく分かっていますわね」 えへへ、と照れてしまう。さきちゃんのことならなんでも分かってる…とまではいかないけれど、知ってることはたくさんあるんだもん! 「それでは早速行きましょう!鳥さんにプラネタリウムにと楽しみなことたくさんですわ!」 私の手を引いてずんずんと歩いていって。引っ張られながらもこんなにはしゃいでくれるなら最初に行く場所に選んで良かった。振り返った彼女の笑顔を見てそう思った。 ──── 人生全部あげるういさき 「私の人生、全部あげる!」 さきちゃんの目の前でそう宣言する。さきちゃんとはずっと一緒にいるつもりだったから、この宣言に嘘なんてない。そもそも……私の人生の全てはさきちゃんなんだから、今更だよね。 「初華……わたくしで、いいんですの? ムジカに貴女を誘ったのだって……打算的なものだったのに」 嬉しさと不安と罪悪感が混ざったような、複雑な表情で私に問いかけてくるさきちゃん。そんな彼女に私は宣言する。 「バカにしないで! 私は…小さい頃出会ったあの時から、さきちゃんに全てを奪われた…さきちゃんという太陽がなければ輝けない月なんだから」 そう…あの頃、島に出会ったさきちゃんに焼かれてしまったんだ。この人と出会うために生まれてきたんだと。だからこうして東京に出てきて、アイドルをして…私はファンを照らすけど、そんな私を照らしてくれるのはさきちゃんだもん。 「初華……ふふ、ではわたくしがずっと貴女のことを照らして差し上げますわ。……二度と離しませんわよ?」 ──── 解釈違いういさき 『これで貴女はわたくしと共に生きる人形─マリオネット─ですわ』 「はぁ……全然ダメ、さきちゃんはこんなこと言わない」 オブリビオニスの夢小説を読んでは即開いていたタブを削除する。さきちゃんの魅力が広まるのは嬉しいけれど、夢小説として合格ラインに達するものは全然ない。さきちゃんの表面も表面だけしか理解できてない浅いもの。さて、次のものを…… 『まぁ…このようにはしたなく股を濡らして…♡ お人形さんはどうすればいいのか分かりまして?』 「うわ…なにこれ……」 最悪なものを見てしまった。さきちゃんはこんなはしたなくないのに… 『これは夢小説と言えないですね。即刻削除してもう一度さきちゃんのことをよく考えてください』 …うん、これでいいか。余りに酷いものは私がちゃんと管理してあげないとね。 それにしても、どれもこれも理解度が足りなさすぎる…やっぱりさきちゃんのことを理解しているのは私だけだね。そうなったら私が書いて…ううん、そんなことをしてあげる義理はないかな。 まぁいいや…次の作品を読もうかな。どれどれ、タイトルは…『音楽室のエチュード』…? ──── 犯人は貴女なういさき 『そう…この事件の犯人、仮面の傀儡─マリオネット─は貴女です、ティモリス』 さっきからさきちゃんが真剣な顔で私が探偵役で出演したドラマを見ている。私の出演作を見てくれてるのは嬉しいけれど、なんだか無性に恥ずかしいよ…… 「はぁ〜…かっこいいですわ…」 ドラマを見終わったさきちゃんにコーヒーを淹れて渡してから「随分真剣に見てたね」と声をかける。 「初華の出演するものならどんな短い出番のものだって見ますわ! ですがえぇ…探偵の初華というものは素晴らしいですわ…わたくしも初華に追い詰められたいですわ」 うーん…そういうことなら、さきちゃんの罪は…うん、やっぱりこれかな。 「さきちゃ…ううん、豊川祥子さん。私の推理によるとあなたはこの事件の犯人です」 「う、初華…? どうしましたの……?」 「そう…アイドルである私の心を奪ったという大犯罪という事件の真犯人です!」 ドラマでやったようにビシっと指さしでさきちゃんを指し示す。ふふ…何度も練習したからバッチリだよさきちゃん。 「そんな…わたくしが犯人だったなんて…」 「豊川祥子さん…貴女を逮捕します、永遠に私の傍で服役して罪を償ってください」 さきちゃんを捕まえて、彼女の顎をすっと持ち上げてウィンクして。決まったね…… 「はい、初華…♡」 ──── 優しいういさき 「さきちゃん…服、脱がせてもいいかな…?」 目の前には息を荒くして目も心做しか血走っている初華…ムジカや睦の問題も片付き…わたくしは秘めていた想いをようやく初華に打ち明けることができ恋人になれました。そして何度もデートや同棲の日々を重ね…遂に初夜を迎えたのです。 「はい…初華の手で、脱がされたいですわ」 腕を広げて脱がせやすいようにすればたどたどしい手付きで脱がせてくれて。そんな慣れないところも可愛いですわね。 「さきちゃん…キスしていい…?」 「もちろん…イヤなわけありませんわ」 全部脱がされてもいきなりがっつかずキスする姿勢…好ましいですわね。何度かキスしたにも関わらず初華のキスはどこかぎこちなく…慣れてほしい気もしますが、慣れてほしくない想いもあります。 「さきちゃん…おっぱいも触っていいかな…?」 キスの合間に聞かれてこく、と頷きます。初華に触ってもらえると思って既に期待しているんですから…聞かなくても良いのに… でも、許可を貰ったことで優しく触りながら小さく「さきちゃんのおっぱい…」と声をもらしてるのはなんだか微笑ましいですわ。ご自分にもついていらっしゃるのに… 「さきちゃん…その、下の方もいいかな…?」 「ええ、早く触ってほしいですわ…」 初華の優しく丁寧な愛撫で、正直興奮してしまいまして…はしたないですが濡れてきてしまって…ですが仕方ないでしょう? 好きな方に触られているのですから…… 「さきちゃん…挿れていい…?」 「……」 「さきちゃん…?」 「ああもう焦れったいですわね! こっからはわたくしが攻めますわ!」 優しいのは美徳ですが優しすぎるのは時として欠点ですわ! 初華を押し倒して、既に固く天を貫くようにしてるそれを自分の秘部にあてがって── ──── 栞ういさき “普通”とか“当たり前”ってなんだろうと考える。田舎である島から都会な東京に出てきてアイドルをしている……そんな生き方な私は“普通”ではないと思う。周りにいる人たち…まなちゃんも天性のアイドルだし、さきちゃんの人生だって“当たり前”からは外れているだろう。でも見方を変えるとこういう生き方が当たり前や普通なのかもしれない。とはいえ…だからといって不安なのは変わりはなくて。手に持ったさきちゃんのパンツの匂いを嗅いでは吐いて。そんなことを繰り返して不安を和らげる。 「はぁ…さきちゃん…」 会いたいよ、さきちゃん…私のことも見てよ…睦ちゃんが大事なのは分かるけど……でも、私だってさきちゃんに見て欲しい…さきちゃんが頼ってくれたのは嘘だったの……? でも…それを直接伝えて嫌われたくない、そんな臆病な思いが私を停滞させる。さきちゃんに会いたい、さきちゃんに嫌われたくない…そんな現実から逃れるように、私はさきちゃんのパンツの匂いを嗅ぐ。そうやって自分を慰めて…… あぁ…なんて生きづらい世界なんだろう…… ──── 助けるういさき 「にゃーむにゃむにゃむ、祥子はにゃむちの味方にゃむねぇ」 私を見下ろす祐天寺を見上げて睨みつけるも、彼女の横に立つさきちゃんがいるせいで気が散ってしまう。さきちゃん…どうしてこんな木っ端配信者の味方なんて… 「初華、あなたもにゃむちさんの素晴らしさを理解するべきですわ。この世はバズが全て! バズることこそ唯一の正義ですわ!」 「違う! そんなことはない…! さきちゃん、思い出して! 私とコーヒーを飲んでのんびりした日々も幸せだねって笑いあったこと…ドーナツを半分こして辛いことも楽しいことも分かち合おうって約束したことを!」 祐天寺に腰を抱かれながら熱に浮かされたような表情で語るさきちゃんに語りかける。さきちゃんは…バズなんかよりもっと大事なことを知っている。祐天寺の巫山戯たことになんて洗脳されない! 「それがなんだというのですか! そんな気持ちなどというデータで表せないものよりバズという数字で出るものの方が素晴らしいですわ!」 「そうにゃむねぇ、さぁ祥子。あの強情なうい子にトドメを刺してあげるにゃむ」 さきちゃん…どうして分かってくれないの…… 一歩一歩近付いてくるさきちゃん…くっ…えいっ!ぎゅっ! 「初華…?」 「この温もりでも思い出せない!? さきちゃんの本当の気持ちを!」 初華…そう呟いたさきちゃんは── ──── Imprisoned XIIなういさき 「さきちゃんすごいよ…あんな歌詞にあんな綺麗な曲…!」 「ふふっ、初華の気持ちがとても現れた歌詞で……わたくしもあっという間に作曲できてしまいましたわ」 さきちゃんから聞かせてもらった私たちの新曲、『Imprisoned XII』…私の気持ちが篭もりすぎて、さきちゃんに引かれてしまうんじゃないかと思ったけれど……さきちゃんはとっても嬉しそう。正直なところ、自分でもやりすぎたと思ってるのにどうしてだろう。気になってそれを尋ねてみると、 「初華がわたくしを想って作ってくださった歌詞ですのよ? 嬉しく思いこそすれ、引いたりするわけありませんわ」 そう言ってにっこりと笑ってくれて。良かったぁ…さきちゃんは優しいな。 「初華になら…いいですのよ?」 さきちゃんの言葉にドキリとして顔を見ると、さきちゃんの顔はピンクに染まっていて。さ、さきちゃん…そんなこと言われたら私……! 「初華…来てくださいな…?」 うん…! さきちゃんを勢いよく抱きしめた。 ──── プロポーズういさき 「病める時も健やかなる時も…運命共同体、ずっと一緒ですわよ初華」 「はい…!さきちゃん…!」 さきちゃんからの大切な言葉。これを私に言ってくれるなんてプロポーズ…だよね! 嬉しい…私、これからもさきちゃんとずっと一緒にいられるんだ…… 「ねぇ、さきちゃん!」 「どうしました?」 「その…あの言葉って他の人にも言ったの?」 でも気になることがあって。あの言葉…プロポーズだけど、もし私以外に言っていたらどうしよう…ううん、さきちゃんが軽々しく言うわけないって信じてる…けど、気になっちゃって。 「大丈夫ですわ。わたくしは初華にしかこんなこと言いません。大切な貴女にだけ……ですわ」 私の心配を見抜いていたかのようなさきちゃんの微笑みに安心する。嬉しさと安堵で私の目の前が滲んでしまって。あれ…おかしいな、泣くつもりなんかなかったのに…… 「もう…初華は感受性豊かだこと」 さきちゃんに抱きしめられて、涙がどんどん溢れてくる。さきちゃんの体温と、優しい手つきで頭を撫でられてまるでママみたいに感じられて…さきちゃん、大好き… ──── 人生全部あげるういさき 「人生全部あげたい……あげる」 さきちゃんの後ろ姿を見つめながらそう告げる。ムジカのドロリスとしても、三角初華としても…さきちゃんに全てを捧げたい。全部の全部、貴女のものにしたい。 「初華、言っておきたいことがありますわ」 真剣な声色でそう言いながら振り返ったさきちゃんの真剣な顔…これは、大事な話だと理解する。 「あなたの人生ですが……」 もしいらないって言われたらどうしよう。そんな思いが溢れる。ヤダ…聞きたくない。さきちゃんから拒絶されるなんてイヤだ… 「元からわたくしのものですわよ?」 え…? 目を瞑った私の頬に手を当てられ囁かれる。元からって…あれ、私…あげたっけ…? 「はぁ…ムジカに誘った時に言ったでしょう? あなたの人生くださいと」 ……そう言えば、そうだったかもしれない。 「ふふ、初華ったらおっちょこちょいなんですから」 楽しそうに笑ったさきちゃんに向かって、むーっ!と頬を膨らませて。笑うさきちゃんは可愛いけれど、こういうのは望みではなかったもん!! ──── 新居ういさき 「さきちゃん、今のお家って狭くない?」 ムジカの復活ライブから帰る途中、さきちゃんと二人きりでの中私はそう尋ねた。これから先もずっと一緒に過ごすんだからお家のことは妥協したくない。もしかしたら家族だって増えるかもしれないんだし…なんて! 「そうですわね…狭いか狭くないか、で言えば少し狭く感じますわ」 やっぱりそうだよね…元々さきちゃんはあんなに広いお家に住んでたんだし、今の私のお家は手狭だよね。 「それなら引っ越そうよ!もっと大きいお家…一軒家はちょっと難しいけど、タワマンとか!」 「ふふっ、初華ったら。タワマンはともかく…引っ越すのはいいですわね、今はわたくしたち二人ですが…将来的には家族も増えてほしいですし」 さきちゃん…! やった、同じ気持ちだったんだ…! さきちゃんの言葉に帰路を歩む足取りが軽くなる。 「じゃあ帰ったら一緒にサイト見よ! SUUM○とか!」 そう言ってさきちゃんと見つめあって。お星様と月しか見てない中で、私たちはキスをした。 ──── お散歩ういさき 「最近忙しかったですから…こうして二人でのんびりお散歩できるのは幸せですわね」 穏やかな土曜日の昼下がり、大きな公園をさきちゃんと手を繋いで歩く。周りにはお父さんと遊んでいる子どもとそれを見守るお母さん、ジョギングをしている女性…そしてわんこを散歩させているアイドル…って。 「千聖さん、こんにちは」 「あら、初華ちゃん。そちらは…オブリビオニスさんかしら」 「初めまして、オブリビオニスこと豊川祥子といいますわ」 やっぱりPastel*Paletteの千聖さんだった。この前sumimiと共演したんだよね、覚えててくれて嬉しいな…と思っていたらレオンくんが私に撫でられたがっていて。 「こら、レオン。初めましての人にそんなに行ったらご迷惑でしょ」 「大丈夫ですよ! わんちゃん好きなので、ほらおいで?」 かがみ込んで腕を広げるとすっぽりと入ってくる…ふわふわな毛とシャンプーの匂い…お手入れされたばかりなのかな? わしゃわしゃ!と撫でてあげると喜んだ顔をしてくれた。 「祥子さんって呼ばせてもらうけど…初華ちゃんと付き合ってるんでしょう? 私も花音…恋人と同棲してるの。困ったことあったら先輩として言ってね」 「ふふ…初華はとても良い子ですけど…なにかあればそうさせていただきますね」 ──── 次やったらこうなういさき 「……初華、少しよろしいかしら?」 「んぇ?」 さきちゃんのお布団の中に潜り込みながら掛け布団をすっぽりとかけて枕の匂いをかいでいたらさきちゃんにそう言われる。なんだろう、と顔をすぽんと出して首を傾げると、大きくため息を吐く様子が見える。 「あのですね、わたくし言いましたわよね。匂いを嗅ぐならわたくし自身の匂いを嗅ぎなさい、と」 「うん……」 こく、と頷く。そうは言うけれど…さきちゃんの新鮮な匂いもいいけど、寝てる時に染み付いて濃縮されたこの匂いも捨て難いもん…それにお布団の中に潜っていると、さきちゃんに包まれてるみたいで落ち着くし… 「言っても分からないようでしたら行動で示すしかありませんわね……」 えっ、と言葉が漏れる。行動…もしかしてお布団を取り上げられる!? そんなのヤダヤダ! これは離さないもん! 「別に取り上げたりはしませんわ…ただし、明日からもしこのようなことをしていた場合、こう…ですわよ」 そう言うと自分のおっぱいを持ち上げる仕草をするさきちゃん…え、その仕草ってもしかして…え!? 「…分かったら、やめることですわね。わたくしはお風呂に入ってきますわ。……一緒に入りたいならご自由に」 ぽかんとする私を置いてお風呂へと去っていくさきちゃん……え、ご褒美…?   ──── ペナルティキスういさき 「初華、わたくし決めましたわ」 コーヒーを飲んでいたさきちゃんがカップを置いて宣言する。急にどうしたのかな… 「常々思っていましたの、ここ最近の初華はちょっと人目のあるところでもベタベタしすぎですわ」 えっ…そ、そうかな…なるべくセーブしてるつもりなんだけど…… 「なので…これからは二人きり以外でわたくしとイチャつこうとしたら罰として濃厚なベロチューしますからね。衆人環視で恥ずかしくなりたくないなら我慢してくださる?」 ……罰として、ベロチュー…? むしろご褒美じゃない……? はつはつさきさき 「えぇ、なのでこれからもわたくしたちAve Mujicaのことを応援いただけたら嬉しく思います」 「ありがとうございます、初華ちゃんはどう思う…初華ちゃん?」 今日は私たちのライブブルーレイの宣伝でお昼の生放送番組に出演、MCのナンたらちゃんという大御所芸人さんに振られるけど私の頭の中は昨日のさきちゃんの言葉でいっぱい…よし! 「失礼しました、私たちが復活して初のライブ…RINGでのライブも初回特典でついてきますので是非手に取っていただけると嬉しいです!」 そう言いながらさきちゃんの腕に自分の腕を絡めて。さきちゃんが隣で顔を顰めて「これは罰ですわね…」と言うのが聞こえて、私の顔がさきちゃんの方を向けられて。あっ…来た…🧡 「祥子ちゃん!? 初華ちゃん!?」 唇を強引に奪われるとすごい勢いで唇を貪られて。これしゅごい…さきちゃんしゅきぃ…🧡 ……この生放送は、ネットで話題になって。切り抜き動画はすごい再生数になったそう。 ──── 取り戻しに来たはつさき 「初華、探しましたわよ」 背後から聞こえてきた声にびく、と体が震える。気持ちを落ち着けるように缶コーヒーを飲んだ。この声と喋り方はさきちゃんのもの。 「なにしに来たの?」 目の前の海から視線を逸らさずに答える。幼少期の頃は私を囲む塀のように感じた海は、今も変わらずそこに在った。 「なんでメッセージを返してくれませんでしたの?」 「あはは、さきちゃんがそれ言う?」 ムジカが解散した時に何度も連絡したのになぁ…なんて思うと同時に、今度はさきちゃんが私のことを心配してくれてたんだと思うと嬉しさと…悲しさが湧き出てくる。 「さぁ、帰りますわよ。八幡さんがまた泣いていたんですから」 さきちゃんが近付いてきて、私の方に手を乗せてきたから、思わずはたいてしまう。「いたっ」と声をあげるさきちゃんに謝ろうとして、やっぱりやめた。 「もういいの」 「よくありませんわ! わたくしとあなたは共犯者…初華が初音だからって変わりませんわ!」 さきちゃんが発した言葉に目の前の景色が消えて、波の音だけが強く聞こえた。 ──── 本当に好きなはつさき 私がさきちゃんに惹かれたのは、私が可哀想な被害者で悲劇のヒロインでいるのに必要だったから。東京に出てきた時には心のどこかでそんなことを思っていて……それを確かめるために幸せなさきちゃんを見ていたように思う。キラキラとしていたさきちゃん、島にいた時とは違う刺激的なものに囲まれた生活を送るさきちゃんと、垢抜けなくて田舎者な自分…それを実感するたびに仄暗いなにかを得ていたように思う。 そんな歪んだ生活をしていたある日、さきちゃんがお父さんを追って落ちぶれたと知った時になっても、私はさきちゃんが好きだった。ここでようやく実感したんだ。私がさきちゃんを好きなのは、私の引き立て役として必要だったからじゃない。心の底から、あの人に焼かれたんだ。あの人の輝きに魅せられたんだと分かったから。 それは確かに安堵と、喜びと…そしてさきちゃんを手に入れたいという欲望だった。 ねぇさきちゃん…私にとって、貴女は本当に大好きなの。だからね…幸せになって。 書き終えた私は、コーヒーを飲んで息を吐いた。 あとはこれを豊川邸のメイドさんに渡して、いなくなる…大好きだよ、さきちゃん。 ──── もう逃がさないはつさき 「あの…さきちゃん、これは……?」 島から東京へ帰る途中、JR東海さんの新幹線の座席でつけられた首輪を触りながらさきちゃんに問いかける。首輪からはリードが伸びており、さきちゃんの手首へと巻かれているし首輪もリードもどちらも南京錠がかけられていて外そうとしても外せない。おかげで新幹線までの道中や周りのお客さんからはじろじろと見られるし、ひそひそと内緒話されるし……もしsumimiの初華ってバレたら大変なことになっちゃうよ… 「初音は勝手にわたくしから逃げましたからね、もうそんなこと出来ないように用意しましたわ」 「こ、こんなことしなくても逃げないよ!?」 確かに逃げちゃった…というか帰れって言われたから帰ったけど……でも、もうさきちゃんの前から黙っていなくならないもん… 「ふーん…? まぁ丁度良いですわ、初音はわたくしの女ですし…周りに知らしめるためにもしばらくこうしましょう」 えっ…さきちゃん🧡 ってそうじゃない! これじゃ学校にも行けないし…ダメだよ! 「あら、羽丘に来れば良いでしょう? 私の傍でお座りしていれば良いですわ」 そう言うさきちゃんは、正しく良いところのお嬢様が見せる嗜虐的な笑いをしていて……何故か私の体がぞくぞくとしてしまっていた。 ──── 嫉妬はつさき 「……初音、ちょっといいかしら」 「どしたのさきちゃん? 話聞こうか?」 「今そういうのはいいですわ」 さきちゃんがなんだか真剣な顔で私を呼ぶからちょっとふざけてみたらガチトーンで怒られちゃった…どうしたんだろう。 「あなた…今日もファンに声をかけられてデレデレしていましたね」 そう言われて驚く。デレデレなんかしてないよ!? 確かにファンの人から声をかけられたら嬉しいし忙しくなければ対応もするけど…私にはさきちゃんがいるしどんな子だって勝てないよ。 「ですが…見てください」 うん? なんだろう…と思って差し出されたスマホの画面には愛音ちゃんに抱きつかれて笑顔の私… 「こ、これは違うのさきちゃん!」 「ふーん…? なにが違うのか…じっくり聞かせてもらいましょうか、夜はまだ長いですわよ♡」 うぅ…愛音ちゃんのせいだよ〜!!! 「あのちゃん…説明して…!」 「待って違うのともりん!」 ──── 迎えに来てのういさき 「それにしてもさきちゃん、大丈夫なの?」 「大丈夫とはなにがですか?」 島の中、私とさきちゃんが夜中に抜け出して星を見た思い出の場所に二人並んで寝っ転がり、あの頃のように星空を見上げながら問いかける。 「ほら…さきちゃんのおじいさんに止められてたんじゃないのかなって……なのに私に会いに来て…」 「なんだ、そのことですの? 初音の一大事ですもの。不倫をしたような人の言葉なんて知りませんわ」 私の問いかけに笑いながらそう答えて。その笑顔はあの時に見たさきちゃんの笑顔のようで、でもそうではないのは分かる。だけど…都会のそれとは違う星と月だけの明かりに照らされたさきちゃんの横顔は、すごく眩しくて目が離せない。 「はぁ…安心したらなんだか眠くなってきましたわ」 「えっ!? ここで寝たらダメだよ!」 「ふふ、分かっていますわ」 眠たそうに小さな欠伸をした彼女の顔はさっきまでの女神様のような顔とは違って幼い少女のようで。本当に可愛い。 「初音の家にムジカの面々で来てしまったのは少し迷惑だったかしら……」 「ううん、初華も楽しそうにしてるから大丈夫だよ」 そんな私の言葉に、さきちゃんは「初華だった初音から他人のように初華と聞くと面白いですわね」と笑って、私も釣られて笑って。そんな笑い声は夜空に消えていったけれど、私たちの思い出は消えることはないだろう。 ──── お礼のういさき 「ねぇ、さきちゃん?」 島から帰るフェリーの道中、私は隣に座るさきちゃんに問いかける。 「どうしましたの?」 「私ね…さきちゃんにお礼したいな。東京からこんなに遠い場所まで追いかけてくれたんだもん」 帰れとお父さんに言われたからだけど、ムジカから逃げるように島へ戻った私を連れ戻しに来てくれたさきちゃん…やっぱり私にはさきちゃんしかいないんだなって分かった。 「うーん…でも大好きな人がわたくしの傍に戻ってきてくれただけでもお礼のようなものですしね」 っ…そ、そうやってさらっと大好きな人とか…かっこいいこと言うのずるいよ… 「あっ、一つありますけど…初音に叶えられるかしら?」 うーん…と悩んでたさきちゃんが思いついたと言うと挑発するような笑顔で私を見てきて。なんだろう? と首を傾げて先を促す。 「わたくし…豊川の家を出ようと思いますの。初音…共に来てくださりませんか?」 さっきまでの笑みなんてどこかへ消えて。真剣な顔を見せて私に問いかけてきたから……私は── ──── シャワーはつさき 「まさかまたここに帰ってくることになるとは思いませんでしたわ…」 「あの時のさきちゃん、逃げるように出ていったもんね」 島から東京に戻ってきて、豊川の家から出てきて…そして帰ってきたのは私のマンション…ううん、これからは私とさきちゃんのマンション。そこに入ったさきちゃんが染み染みというから、私はちょっと意地悪を言いたくなって笑いながら言ってみる。 「も、もう……あれは初音に迷惑かけたらいないと思ってましたから……」 さきちゃんは本当に優しいんだから…でもその優しさで人を傷付けることもあるんだって分かってくれたかな。 「もう勝手にいなくなったりしませんわ、それに…わたくしは恋人と離れて過ごすなんて耐えられませんもの」 恥ずかしそうにしながら上目遣いで私の袖を引っ張って言ってきて。くぅ…可愛い…! 「私だって…今度こそさきちゃんを離さないから。縛り付けてだって…私と一緒にいてもらうもん」 「ふふっ、流石監禁したいという歌詞を書いてくる人は違いますわね」 今度は私が意地悪を言われる番だった…うぅ、あれは本当は送るつもりなかったんだもん…… 「でも…自分の言いたいことを我慢しがちな初音の本音が聞けて嬉しかったですわ」 そう言うと優しく微笑んださきちゃんにキスをされて、私の頭の中は喜びで満たされていた。 ──── 本当は嫌いなはつさき 「さきちゃん、コーヒー淹れたよ」 二人で暮らすマンションの部屋。始めて同棲した時よりも近い距離に暖かい空気…窓から入る月明かりは優しく私たちを照らし、間接照明しか明かりをつけていない部屋の中を満たしている。そんな中で淹れるコーヒーは調整が難しかったけれど、上手く淹れられたんじゃないかな。さきちゃんが奏でる作曲途中のメロディとコーヒーの香り…すごく幸せな時間。 「……」 「さきちゃん、どうしたの?」 コーヒーを黙って見つめる彼女の様子にきょとん、と首を傾げる。今は喉が渇いてない…とかかな。 「……初音、黙っていましたがその…コーヒーは嫌いですの」 えっ…!? 全然知らなかった…最初の頃も、今までも言ってくれたら良かったのに…… 「初音の淹れてくれるものですから。その…味はいいんですの。けれどこの香りが…わたくしを現実に引き戻すみたいで…余り良いものではなくて」 さきちゃんの言葉にそっか…と呟く。ビックリはしたけど、イヤではなかった。さきちゃんが自分の嫌いなものを私に言ってもいいって思ってくれたんだもん。もっとさきちゃんの色んなところ、知れたら嬉しいな。 ──── 虫嫌いなはつさき 「ひぃっ!? さ、さきちゃ…!」 キッチンの掃除中、ゴミ箱をどかしたら名前を出すのもおぞましい、黒光りする虫がそこにいた。余りの恐怖に腰が抜けそうになりながら、リビングにいるさきちゃんに助けを求める。 「どうしましたの初音……ってあぁ、こいつですのね。初音は虫が苦手ですしね」 私の悲鳴を聞いてやってきたさきちゃんがそいつを見ると納得したような声をあげて。なんでこいつを見てそんな冷静な態度でいられるの!? 「まぁ……お父様と暮らしていた時によく見ましたからね。よいしょっと、逃がすのは…アレですわね。洗剤借りますわよ」 道端の石を拾うみたいにあっさりとそれを指で摘みあげると、そのままうーんと考えるさきちゃん…か、可愛い…可愛くない…! そしてそのままシンクにある洗剤をそいつにかけるともがいていたそれが動きを止めて。さきちゃんは手早く死体となったそれを新聞紙に包んでゴミ箱へ捨てて。手を洗ってるけどなんでそんなことできるの…… 「もうこれで安心ですわよ初音!」 「ありがとう、さきちゃん。でも近付かないで」 「え゛っ」 ──── お金なはつさき 「さきちゃんちょっといい?」 同棲を再開したうえで、大切なことを忘れていたからさきちゃんを呼び出す。二人分のコーヒーを用意してから彼女の元へ封筒を取り出して差し出した。 「なんですのこれ?」 「少ないけど、今月のお小遣いだよ」 「えっ」 そうだよね…渡すのが遅いって言いたいよね……さきちゃんと一緒にまた暮らせるのが嬉しくて浮かれてたからこんな大事なこと忘れてたなんて…… 「ごめんねさきちゃん。今はちょっと色々入り用だからあんまり渡せないんだ…sumimiの印税がまた入ってきたらお小遣い増やすからね!」 さきちゃん用の生活用品とか…色々あるからいっぱい渡せないのが悔しいな…貯金は結構あるけど…将来のためにも必要だもん、大切にしないと。 「えーっと…あのですね、初音?」 「あっ、忘れるところだった! こっちが生活費だよ! さきちゃんがよくご飯作ってくれるし家事もしてくれるから…足りなくなったら言ってね?」 別に用意していた封筒も渡して。二人分だとどれくらいか分からないし多めに入れたけど…足りるかな? ──── sumimiなはつさき 「うーん……」 「どしたのさきちゃん? 話聞こうか?」 さきちゃんがパソコンを開きながらなにか唸っている。作曲作業で詰まってるのかな? そろそろ休憩しようと言うために淹れたコーヒーの入ったマグカップを二つ持って話しかける。 「どこでそんな言い方学びましたの……」 「この前愛音ちゃんと会った時に教わったけど……」 「あの人は……まぁいいですわ。sumimiの動画を見ていましたの。初音とは違って本当にかっこいいですわね…」 私とは違って!? た、確かにsumimiの『初華』は演じてるけど……うぅ、さきちゃんはかっこいい女の子の方が好きなのかな… 「初音がかっこよくないというわけではありませんのよ? ただ…わたくしは初華よりも初音の方が好きだなと思っただけですわ」 さきちゃん…! 「うん、私もさきちゃんが好きだよ!」 「そういうところが可愛いんですのよねぇ……ムジカではちゃんと『初華』としてかっこよくいてくださいね?」 「任せて!ちゃんとやるよ!」 「あぁ…でも、あんまりかっこよすぎて他の女を誘惑するのは…ダメですわよ?」 クス、と妖艶に笑ったさきちゃんに迫られて、私の口からは小さく「はい…」と声がもれた。 ──── ローソンはつさき 「はぁ…かっこいいですわ……」 さきちゃんがスマホを見ながらそんなことを呟いてる…まさか浮気…!? コーヒーの入ったらマグカッブを持つ手がガタガタと震えてコーヒーが波打っている。どうしよう…浮気なのかな…聞きたいけど、もし本当にそうだったら冷静でいられる自信がないよ……でも…聞かないと…! 「さ、さきちゃん…その…なにを見てるの…?」 恐る恐る問いかけながらさきちゃんの傍に寄ってスマホを見てもいいかな…と。 「んー? あぁ、これですわよ。ほら、この前撮影したローソンコラボの初音の写真ですわ」 そう言って見せられたスマホを覗くと確かに私が映っている。そっか、さきちゃん…私のことを見てかっこいいって言ってくれたんだ。 「やっぱり初音の顔いいですわね…キリっとしてるとかっこよすぎですわ…」 「さきちゃん、そんな褒めたら照れちゃうよぉ……」 「でも……わたくしはやっぱり初音の魅力はこの可愛らしさなので……笑ってる初音が好きですわよ」 スマホから目を離したさきちゃんが私の頬に手を当てて微笑んで。……本当にかっこいいのはさきちゃんだ。 ──── JR東海ホテル部屋割りはつさき 「さきちゃん…!! これどういうことなの!!!」 私はわなわなと震えながらソファーに座ってコーヒーを飲むさきちゃんにスマホの画面を見せる。そこに映っているのは今度ムジカのみんなで泊まるホテルの部屋割り。二部屋に別れて、一部屋は私と睦ちゃんとにゃむちゃん、そしてもう一部屋はさきちゃんと海鈴ちゃん…こんなの浮気だよ! 「あぁ…これはですね……」 「さきちゃんが「わたくしに任せて」って言うから任せたのに…!」 自信満々に胸を張っていた姿が可愛かったしきっと私とさきちゃんのラブラブ部屋だと思ったのに…… 「一応わたくしたちが付き合っているのは隠しているでしょう? だからカモフラージュのためですわ。それに…実は自費でもう一部屋借りていますの。こっそりと抜け出して…そこで二人で過ごしましょう?」 そう言いながらさきちゃんがスマホの画面を見せてくれて。確かにそこにはしっかりと予約完了していた。 「さきちゃん…!うん…疑ってごめんね…」 「いいんですのよ、不安にさせたわたくしが悪いですわ」 ──── 舌打ちはつさき 「初音…あの、お願いがあるのですが……」 さきちゃんがもじもじとしながら私に言ってくる。珍しいな…さきちゃんが言いづらそうにするなんてよっぽどのことなんだよね、飲んでいたコーヒーのマグカップをテーブルの上に置いて向き直る。 「なあに、さきちゃん?」 「実はその……」 うん、大丈夫。さきちゃんのお願いならなんでも聞くよ! 「わたくしに向かって舌打ちをしてほしいのです!」 うんうん、舌打ちだね。もちろんだいじょ…えっ? 「えっと…どういうこと?」 「ほら…この前のムジカのライブで初音に舌打ちしてもらったでしょう? あれがその…かっこよくて…わたくしにもしてほしいな、と…」 なるほど…なるほど? よく分からないけど…かっこいい私を見たいってことだよね。 「うーん、でもなぁ…」 「お願いしますわ!そこを! そこをなんとか!」 「……チッ。うるさないなぁ…祥子は、これで満足?」 …多分こういうのだよね? さきちゃんにそんな態度取りたくないけどさきちゃんが望むなら…って、あれ。やたら静かだけど… 「さきちゃん…? さきちゃ…し、死んでる……」 ──── 舌打ち練習はつさき 「うーん…難しいなぁ…」 鏡を見ながら舌打ちの練習をしている。…けれど、難しい。舌打ちなんてしたことないから、どうすれば正解なんだろう…… 「初音〜、コーヒー淹れたしそろそろおやつに…ってどうしましたの? 初音は綺麗な顔してますわよ」 現れたさきちゃんが褒めてくれるけど、そうじゃないよぉ…… 「実は…舌打ちが難しくて…」 「あ〜…初音はそういうのと縁がなさそうですわね。ふむ…ではそうですわね…イライラすること、例えばわたくしが浮気した…みたいなのを想像するのはどうかしら?」 えっ…さきちゃんが、浮気…? そんなことを言われて思わず考えてしまう…さきちゃんが、わたし以外の人とキスしたり…えっちなことをしたり…? 「ぉぇ…」 「初音!? しっかり! しっかりしてくださいまし!」 洗面所の流しに顔を伏せて吐き気を我慢できずにえずいてしまった。 「あーもう! 大丈夫ですから! わたくしは浮気なんてしませんわ! 初音一筋ですわよ!」 さきちゃぁん…その言葉を聞いて一気にほっとする。そうだよね、さきちゃんはそんなことしないもんね…! ──── ヴァイスシュヴァルツはつさき 「初音〜、これ一緒に開けませんこと?」 キッチンでコーヒーを淹れていたらさきちゃんが最近私たちが参戦したカードゲームのAve Mujicaパックを持ってきた。 「わ、もう買ったんだ…えへへ、実はわたしも買ったんだよ」 丁度コーヒーが淹れ終わるとリビングへと持っていってからカバンの中にいれておいたパックの袋を出して見せる。 「まぁ…考えていることは一緒ですのね、では早速…!」 「うん、開けよう。さきちゃん出るかな……」 ハサミで袋の上部を開けてから中のカードを取り出す。事前の説明ではSSPというのに私たち5人、SPというのにも5人、そしてSEC+には私がいるらしい…もちろんわたしの狙いはSSPさきちゃん! 8枚かぁ…さきちゃん来いさきちゃん…にゃむちゃん…にゃむちゃん…睦ちゃん、さきちゃん!…海鈴ちゃん…祐天寺…祐天寺…あ…! 「わあ、わぁ…!」 「で、出ましたわ!」 私とさきちゃんが同時に立ち上がって叫ぶ。ビックリしてお互いの手元をちらりと見ると、さきちゃんの手元にはSSPのわたし…わたしの手元にはSSPのさきちゃん。 「ふふっ…どうやらお互い大勝利ですわね」 そう言うさきちゃんの笑顔はいつもより嬉しさが滲み出ていて…可愛かった。 ──── コケティッシュういさき 「さきちゃん、大切なお話があります」 普段ならコーヒーでも淹れてのんびりする時間帯。だけど今日はそうじゃない、わたしたちの今後に関わる話だ。 「どうしましたの? そんな怖い顔して」 「これ」 スマホを見せて動画を再生すれば、この前のムジカのライブで見せたさきちゃん──オブリビオニスが見せた妖艶な表情と仕草。 「あぁ…かっこいいでしょう? ファンの皆さんでも好評ですし」 「ダメだよ!!!!!」 「うわびっくりしましたわ…声が大きいですわよ…」 自分の可愛さを理解していないさきちゃんのせいで声を荒らげてしまう。ダメだよ…こんな…え、えっちな…! 「ははーん…初音はわたくしのことをえっちな視線で見ている…と」 ち、ちがっ! いや違くはないけど……! 私はさきちゃんのことが心配だから…! 「ねぇ、初音…? 本当のこと…言ってくださる?」 囁くような声で、ライブで見せたような表情で唇をぺろりと舐めたさきちゃんに迫られて……あぁ── ──── ローソンはつさき 「さきちゃん、お疲れ様」 バックルームに入って座っていたさきちゃんに、表で買ったコーヒーを渡す。今日からはじまったローソンさんとのコラボ、初日はムジカからさきちゃんと迷子から燈ちゃんが一日店員さんで現場に出ている。 「ありがとうございますわ、わざわざ来てくれましたのね」 「うん、さきちゃんの仕事ぶりを見ようかと思って。燈ちゃんもお疲れ様」 「あ…ありがとうございます…」 燈ちゃんにはミルクを渡して。確か好きだって愛音ちゃんが言ってたからこれにしたけど…うん、嬉しそうにしてるから合ってるみたい。 「本当はさきちゃんのレジに並びたいんだけど…他のみんなの迷惑になっちゃうもんね」 さきちゃん…ううん、オブリビオニスは人気だし、燈ちゃんも人気だから混んでいるし…ワガママはできない。 「それじゃあ…帰ったら店員さんごっこでもしましょう♡」 そ、それって、その……ドキドキとしながらさきちゃんを見て、こくりと頷くとさきちゃんは満足そうにしていて。 「ぉぁ…あのちゃん…私もイチャイチャしたい…」 ──── 台本はつさき 「さきちゃん熱心に台本書いてるね、そろそろ休憩しない?」 お風呂もすませてからもうすぐ2時間くらいかな、さきちゃんは一心不乱にノートパソコンに向かっている。心配が5割、寂しさが5割あるから、コーヒーを二人分淹れてから声をかける。 「…あら、もうそんな時間ですの? んーっ…初音のおかげで疲れに気付けましたわ」 「ふふっ、すごく集中してたもんね。ね、見てもいいかな?」 背中を伸ばしたさきちゃん…薄着の寝間着のせいでおっぱいが強調されてるから見ないようにしつつ、尋ねかける。おっぱいも気になるけど、熱心にさきちゃんが書いている台本も気になるもん。 「いいですわよ、初音のところを書いてましたの」 こちらに向けてくれたパソコンの画面を見ると、さきちゃん…オブリビオニスと私…ドロリスが愛を囁きあうシーンが書いてあって、さ、さきちゃん!? 「いいでしょう? わたくしと初音が堂々とイチャつけますわよ」 ふぇぇ!? み、みんなの前でイチャつくなんて…そんなのバレちゃうよ!! 「バレたらもっと堂々とわたくしたちの関係を公表できますけど…ふふ、初音に任せますわ?」 ──── ポニーテールはつさき 「さきちゃんただいま〜…ミ゚ッ」 「おかえりなさい初音…初音ーっ!?」 お仕事を終わらせて帰って最初に見たのはいつものようにさきちゃん。なんだけど…さきちゃんが長い髪の毛をポニーテールにまとめていたものだから、わたしは余りのインパクトにその場に倒れてしまった。 「すごい勢いで倒れて…ああほら、鼻血出てますわよ!」 「うぅ…さきちゃん…ナイスだよ…」 さきちゃんに起こされて興奮したからなのか、床に顔を叩きつけたからなのか分からない鼻血を拭いてもらいながらサムズアップ、良いものを見れた……もう死んでも良い… 「いや死なれても困りますわよ…一生共にいるんでしょう?」 …声に出てた? それはそれとして、確かにさきちゃんと一緒に過ごせるのに先に死んじゃうのは勿体ない…! 「ふぅ…それにしても、ポニーテールだなんてどうしたの?」 「最近暑いでしょう? 愛音さんにポニテにすると涼しいと聞いたのでそうしてみましたの」 なるほど…愛音ちゃん…あなたは素晴らしいね。さきちゃんに素敵なことを教えてくれてありがとう…今度美味しいコーヒー豆あげる。 ──── 都市伝説はつさき 「そういえばさきちゃん、愛音ちゃんからこんな話を聞いたんだけど知ってる?」 「なんですの? …というか貴女たち、いつの間に仲良くなりましたの…」 コーヒーを飲みながらリラックスしてる中、愛音ちゃんとお互いの恋人との惚気──私はさきちゃん、愛音ちゃんは燈ちゃんだ──をしてる中、羽丘で話題になってる話を思い出して尋ねてみる。 「なんでも羽丘ではね、音楽の授業がない授業中や吹奏楽部が活動していない、誰も使っていない音楽室でピアノの音がして、不審に思った先生や生徒が覗いても誰もいないんだって。それで起きた噂が『音楽室の水色のピアニスト』らしいよ」 さきちゃんはホラーとか大丈夫だったっけ…と思いながら聞かされた話を語ると、さきちゃんはすごい顔をしながら汗を流している。えっそんなに怖かった!? 「だ、大丈夫ですわえぇ…その、すごく怖いお話でしたのでちょっと動揺しまして…」 そっかぁ…自分の通ってる学校でそんなことあると怖いよね…でもなんでだろう、さきちゃんなら大丈夫、そんな予感がする。 「え、えぇ…わたくしはホラーなんかに負けませんわ!」 ──── スイパラはつさき 「あの、初音…見せたいものがあるのですが…良いかしら?」 ある日、さきちゃんがおずおずとしながらそう聞いてきた。見せたいもの…なにかあったかな? 気になるし、さきちゃんからのお願いともあれば断るつもりはないし大丈夫だよと答えて待っていたら、さきちゃんの呼ぶ声。 「お待たせしました、初音。もういいですわよ」 「うん、さきちゃ────」 振り向いたらそこにいたのはイチゴをモチーフにあしらった可愛らしい服を身にまとったさきちゃんの姿。普段の気高いさきちゃんとは違い、等身大の女の子といった雰囲気を身に纏う姿にわたしの呼吸が止まりそうになる。 「初音…あの、初音〜…?」 わたしの目の前で手を振るけれど、そんな可愛いことをされたらもっと可愛くて死んじゃいそうになる。 「さきちゃん…可愛い……!」 可愛さに心不全を起こしてる胸元を抑えながら、これだけは伝えないとと言葉を絞り出して。死ぬ前に…さきちゃんの可愛い姿が見れて…良かった──── 「初音ー! え、人工呼吸すればいいんですの!? ええいっ…!」 えっキスしてくれるの!? 生き返った! ──── 授業参観はつさき お掃除していたらさきちゃんが隠していたあるプリントを見つけた。なになに…授業参観のお知らせ…日時は…ふんふん、お仕事があるから学校休みだしお仕事キャンセルして行こうかな。 〜はつはつさきさき〜 えーっと…さきちゃんの教室は…1-Aだね。わたしが入ったらざわざわとしたけどあんまり騒ぎにならないのは良かった…あ、さきちゃんがこっちを見てくれた。やっほー! と手を振ると早歩きでやってきて。 「はつ…初華! どうしてここにいるんですの!?」 「え、授業参観のお知らせ見たから来たんだけど…」 「隠しましたわよ!? あぁ、もう…とにかく目立たないようにしてくださいまし!」 怒ってる姿も可愛いなぁ…と見送ってから始まった授業を見学する。さきちゃん、ちゃんとノートを取ってるけどわたしの方をちらちら見てたらダメだよ? あ、さきちゃんが指名された。難しいなぁ…私は分からないけどさきちゃんは…流石! 「さきちゃーん!かっこいいー!」 思わずぴょんぴょんと跳ねながら褒めると顔を真っ赤にしたさきちゃんが睨みつけてきて。あ…目立たないようにって言われてたんだった……あはは、ご、ごめんね? ──── 海鈴誕生日はつさき 「ん…なんだかスマホがうるさいですわね、こんな夜中になんなんですの…」 さきちゃんと寝ているとブブブ…と鳴り響くスマートフォン。さきちゃんのスマホと…わたしのスマホもだ、なんなんだろう。首を捻りながらわたしもさきちゃんもスマホを見るとムジカのグループラインに通知が来ていた。 「海鈴…えっ、あの子誕生日でしたの…?」 「わたし…全然知らなかった…」 届いたメッセージで初めて知る事実。それなのにお誕生日祝ってほしかったなんて無理だよ… 「どうしよう…練習ないけど、みんなで集まってお祝いする…?」 「わたくしは構いませんが…まぁ、そうしましょうか……」 多分泣いてるであろう海鈴ちゃんの姿が思い浮かぶ…さきちゃんが手早く海鈴ちゃん抜きのグループを作って放課後、睦ちゃんのお家でお誕生日パーティーをすること、急なのでプレゼントはいらないことを伝えてくれる。既読があっという間に揃ったことからみんな起きたんだね… 「じゃあわたしは…知り合い頼ってケーキの手配しておくね」 「お願いしますわ、わたくしはムジカの4人からということでプレゼントを用意しますので…」 「あはは…もっと早く教えてくれれば良かったのにね」 「本当ですわ…はぁ、目が覚めてしまいましたしコーヒーでも飲んで夜更かししましょう初音」 ──── メスガキはつさき 「さーきちゃんっ」 食後の一服時、コーヒーを飲んでるさきちゃんの隣に座って名前を呼びかける。実は今日の昼間、愛音ちゃんからあることを教えてもらったから試してみようと思ったんだ。 「は、初音…?」 「さきちゃんのざぁこ♡ 人に頼らないで自分で抱え込みがち♡」 「初音!?」 「ざぁこざぁこ♡ 他人に頼れない弱々♡」 「うっ…♡」 さきちゃんの耳元でそうやって囁いていると最初は驚いていた彼女が段々と蕩けた顔になっていって。やば…すっごく可愛い…… 「はぁっ…はぁ、い、一旦ストップですわ!」 「はーい…さきちゃん、聞いた通りこれが好きなんだね」 顔を真っ赤にしたさきちゃんに止められて物足りなさを感じるも言われた通りに離れて。 「あの…誰に聞いたのですか…いえ、知ってるのは愛音さんのみ……あいつですわね…!」 「もう…あいつなんて言ったらダメだよ?」 「はぁ…まぁいいですわ、けど初音? あれは時と場所を弁えてですね…」 へぇ…やること自体は禁止しないんだね? それなら…この後、覚悟してほしいな♡ ──── スプリットタンはつさき 「初音…実は今まで隠していたことがありますの」 急にさきちゃんが言い出すから飲んでいたコーヒーが気道に入ってむせそうになる。 「初音!?大丈夫ですの!?」 「けほっ…だ、大丈夫…えっと…それで、隠していたことってなに?」 口元をティッシュで拭きながら先を促すと、さきちゃんは「気をしっかり持ってくださいね」と言って口を大きく開けて舌を見せて。 ……? どうしたんだろう…と思っていると、気付いてしまった。さきちゃんの舌の先端が二つに分かれている…!? えっ、え…えぇ!? 「実は…スプリットタンというものでして…キスする時にディープキスをしなかったのもこれがバレたらイヤだったので…」 そんな…さきちゃんが…遊んでる人だったなんて……目の前が真っ暗になって、わたしは…… 「……ね!初音!」 「…はっ!? え、夢…?」 気付いたら私はソファの上で寝ていたみたいでさきちゃんに起こされていた。そうだ、さきちゃん! 「ちょっと口開けてさきちゃん!」 「え、なに!? なんですの!? ふぁっ、ゃ…はちゅね…」 さきちゃんをソファに押し倒して口を開けさせて。舌に触れて分かれてないことを確認すると一安心。良かったぁ… 「にゃにがにゃんですの!?」 ──── セイバーはつさき 「うーん…」 演劇用の剣を持ちながらぶんぶんと振ってみる。海鈴ちゃんなんかは剣を持ってる姿が様になっていたけれど、わたしみたいなのが剣を持ってもあんまりカッコ良さは出ないんじゃないかな…なんて思っていたらコーヒーの香りと共にさきちゃんがやってきた。 「お疲れ様ですわ、コーヒー持ってきましたわよ…ってどうしましたの? それはあの時の剣…ですわね」 「お疲れ様、さきちゃん。わたしが剣を持ってるのがしっくり来なくて…さきちゃんはどう思う?」 鏡で自分を見るも、やっぱりなんとなく場違い…というのも変だけど、そんか感じがしちゃう。 「はぁ…分かっていませんわね、初音」 「え、なに…?」 「こうポーズを取るのですわ、いい…?」 そう言うとさきちゃんは持っていたコーヒーのマグカップをテーブルに置いてから近寄ってきて、私の背後に回るとぴったりと密着しながらポーズの指南をしてきて。さ、さきちゃんの良い匂いと柔らかい体が…! 「こうですわ…初音、初音…?」 私はいつの間にか取っていたポーズなんかに気付かず、さきちゃんの温もりや匂いにぽわぽわとしてしまっていた。 成績はつさき 「初音、ちょっとよろしいかしら?」 食後のコーヒーを二人分持っていくと、さきちゃんに座るように促される。なにかなとソファに座ろうとすると、示されたのは床…えっ、床? 「正座」 抗議するような視線を送ってもさきちゃんの冷たい視線に負けちゃって。あっ…冷たいさきちゃんも素敵…じゃないや、座らないとだね… 「この前出演していたクイズ番組…見させていただきましたわ。そしてその上で…悪いとは思いましたが、あなたの成績表…見ましたの」 さきちゃんの言葉に、わたしの出演した番組見てくれて嬉しい…という気持ちはすぐに消えてしまった。えっ…待って、成績表を…? さぁっと寒気が走る。 「おばかな回答をしていたからまさかとは思いましたが…少しこれは問題ですわね」 「ちっ、違うの! ほら、お仕事とかで休みがちだから…!」 「言い訳は結構。これから毎日1時間。夕飯とお風呂を済ませたら勉強会をしますから」 「はい……」 正座をしたままこくん、と頷く。さきちゃんと勉強できるからいっか…… 「もう…そんなに落ち込まないで。頑張ればちゃんとご褒美…あげますから」 ピュアはつさき 「さきちゃんさきちゃん!あれ見て!」 今日はお仕事で少し遠くまで行った帰り、タクシーに乗っていたらキラキラと輝くお城みたいな建物があった。うとうとしてるさきみゃんを起こすのは悪いかな、と思ったけれど…でも見て欲しい気持ちが勝ったから起こしちゃった。 「んぁ…? あぁ…あれがどうしましたの…?」 「綺麗だねぇ…お城だからやっぱりあそこで結婚式できたりするのかな? わたしたちが式あげるときはああいうとこがいいよね!」 「え゛っ…初華…え、本気で言ってますの?」 わたしの言葉にさきちゃんが戸惑ったように言う。わたし…なにか変なこと言っちゃった? もしかして、あそこはなにか有名なものだったりする? 「もしかして…あそこで結婚式するのはすっごく高い…? あと5年後に挙げるとして…でもハネムーンとかあるし…」 「…この子、こんなにピュアでしたのね…わたくしが守護らねば…!」 指折り計算するわたしの横で、さきちゃんが何やら決意していたけど、わたしはその言葉をあんまり聞いていなかった… おにぎりはつさき 「はぁ……」 明日が憂鬱でため息が出る。ソロでのお仕事があるから学校休みなことは良いんだけれど…それが真夜中までのお仕事…! 朝から真夜中までさきちゃんに会えないのは辛いよぉ…声を聞くくらいは大丈夫かな… 「もう…いつまでそうしてますの。初音が良いと認めてくださった方のためにもしゃんとしなさいな」 「さきちゃぁん……」 「二日も会えないわけではないんですから…それにお弁当も作ってあげますのよ?」 呆れたようなさきちゃんの言葉にうるうると視界が歪んじゃう。分かってはいるけど辛いものは辛いもん! 「全く…それなら朝は行ってらっしゃいのキスしますし、寝るまでは初音の好きなことをしましょう?」 …! キス! えっ、それに寝るまでなんでも…!? それなら話は変わってくるよ…! 「…あなた…今の表情の変化すごかったですわね…可愛いから良いですが……」 「だ、だってさきちゃんが言うから…」 「ふふっ、それなら今日はたくさんイチャイチャしましょうか」 そうやって笑うさきちゃんに迫られて、私は…あぅあぅ… ストーカーを退治するはつさき 「さきちゃん、明日はちょっと早めに出るね。鍵だけお願い」 夕飯を終えた後、コーヒーを飲みつつ、さきちゃんにそう告げながらわたしは怒りを抑えようと必死だった。知ったのは数日前…愛音ちゃんからのメッセージ。 『初華ちゃん、祥子ちゃんからは黙っててほしいって言われたんだけど…伝えておくね。祥子ちゃん、ストーカーされててしかもそれがうちの生徒らしいの。学内は私やともりんがそばに居るけど…学外は気を付けてあげて』 …それを知った私は愛音ちゃんに協力してもらって情報を集めて犯人を特定した。明日は…学校に行く前にそいつを懲らしめなきゃ。 「…それじゃあ行ってきます」 まだ眠っているさきちゃんに声をかけて家を出る。相手は幸いにも一人暮らし、逃げられないうちに訪問しよう。 『…はい?』 「三角です、用は分かってますね?」 インターホン越しにさきちゃんを怯えさせる女狐の声が聞こえてくるから牽制すれば、ガチャリと鍵の開く音。 「ふぅん…さきちゃんの隠し撮り写真かぁ…構図も画質もダメダメだね」 私の姿に怯えたような目をしながら警戒している相手の姿。はぁ…私に歯向かうような気概もなくストーキングしてたの? 「取り敢えず…君と『お話』しないとね。さきちゃんを怖がらせた罪は大きいよ。ストーキングするなら相手に気付かれないようにしないと…気づかれるなんて三流…ううん、見習いにすらならないよ」 「ただいま〜」 「おかえりなさい、初音」 「さきちゃん…」 「は、初音…?」 出迎えてくれたさきちゃんを抱きしめる。さきちゃんを守れて良かった…これからも絶対、ぜーったいさきちゃんを守るからね… マイムジはつさき 夜の階段に座って空を見上げる。こんな街中だから、星の光は薄い。けれど、確かにそこに存在はしている。どんなに小さな光だっていいんだと胸を張って存在しているそれに憧れる人はいる。 「燈ちゃん、ありがとう」 隣に座る燈ちゃんにお礼を言う。さきちゃんが大変な時に力になってくれたから。わたしが手を差し伸べられなかったのに燈ちゃんは差し伸べられたんだって嫉妬はあるけれど、それ以上に助けてくれたことの方が嬉しい。 「ううん…祥ちゃん…今はすごく幸せそうだから…初音さんはすごい…」 そう言ってくれて嬉しいな…燈ちゃんはMygo!!!!!でもみんなを照らすような光にわたしは思える。実際はどうなのかは分からないけれど…燈ちゃんの元に集まっているように見えるから。AveMujicaと同じ…さきちゃんを中心にして集まっている。 「初音ー!」 「ともりーん!」 背後からわたしたちの大切な恋人の声が聞こえる。 わたしは…さきちゃんがいないと輝けない月。燈ちゃんはみんなを導くポラリス。だけどそれはどちらも観測してる人がいるからもっと輝ける。大事にしないとだね。 「行こう、燈ちゃん。わたしたちの女神様のところへ」 笑顔の練習はつさき 「ふぁ…眠くなってきちゃった。そろそろ寝ようかな…」 夜も更けてきた時間帯、読んでいた本を閉じて背を伸ばす。さきちゃんはもう寝ちゃってるかな…とロフトの上を覗くとそこにはいない。あれ、どこに行ったんだろう…お手洗いかな。そう思ってわたしは洗面所へ向かう。歯磨きはしたけどマウスウォッシュをしないと。そんなことを思いながらぼんやりと扉を開けた時だった、さきちゃんが自分の頬っぺたに指を当てて鏡に向かって笑顔を浮かべていた。 「さ、さきちゃん…?」 可愛い…そう声がもれそうになったのを我慢する。なんとなくだけど、今この場でそれを発するのは良くない気がした。 「初音!? これは違いますのっ! えっと…その…!」 「笑顔の練習…してたの? そんなことしなくてもさきちゃんは可愛いよ?」 わたしが言うと、図星だったみたいでさきちゃんを顔を赤く染めながらぷいっとそっぽを向く。 「…SNSの感想、可愛いっていうのが少なかったんですわ…わたくしだって女の子ですもの…そう言われたいから練習してましたの」 ……えっ可愛い… 「大好きっ!」 トラウマはつさき 『もう…出ていってくれ…』 「──ぅぁっ!?」 暗くてお酒のすえた臭いがする狭い部屋、そこに蹲るお父様の絞り出すような声とわたくしを恨むような瞳…それに突き刺されたところでわたくしは目が覚めた。 「あぁ…夢、ですのね…」 隣に眠る初音を見て安堵する。そう…お父様は決して恨むような瞳はしていなかった…だから、わたくしが勝手に描き出した幻影なのだ。そう思いながら初音の綺麗な髪の毛を撫でる。 「んぅ…さきちゃん、どうしたの…?」 「あら…起こしてしまいましたのね。ごめんなさい…嫌な夢を見てしまって」 そう謝ると彼女は大丈夫だと告げて笑顔を見せてくれた。 「…眠気もどこかへ行ってしまいましたわ、初音…よろしければ付き合ってくださる?」 「うん、いいよ。時間は…4時、早起きだね」 楽しそうに告げる彼女と共にロフトを降りる。彼女の好きなコーヒーを入れてあげよう。 「…ありがとう、初音。大好きですわ」 ピアノ演奏祥子 スマホから優しいピアノの音色が響いている。さきちゃんが隣で寝ているから控えめに…だけど、わたしの耳には確かに届く音色を目を瞑って堪能していると涙が溢れ出てくる。綺麗…綺麗だよさきちゃん…… 「んん…初音、まだ起きてますの…え、泣いてる…?」 あ…わたしが感動で泣いていたらさきちゃんを起こしちゃった。涙を拭いながら大丈夫だよ、と告げるも訝しげに見つめてくる。 「ピアノの音…なにがありましたの…?」 「これを聞いてたんだ…」 スマホを取って画面を見せるとそこには、羽丘の音楽室で楽しそうにピアノを弾いているさきちゃんの姿が。 「わ、わたくし!? こんなものどこで…わたくしが音楽室でピアノ弾いてるのを知ってるのは燈と愛音さんのみ…初音の連絡先を知ってるのも愛音さん…あのピンク…!」 「お、怒らないで!? わたしが送ってほしいって言ったの! さきちゃん…キーボードは弾いてるけど…ピアノ弾いてる姿も見たいなって思って」 「全くもう…それなら言ってくださればストリートピアノでも事務所のでも弾きますのに…初音だけのコンサート…ですわ」 ラジオはつさき 『おやsumimi〜』 「ふむ……」 さきちゃんがsumimiのラジオを聴きながらなにか納得したように頷いている。どうしたんだろう…わたしがまなちゃんと仲良くしすぎて嫉妬しちゃってるのかな… 「初音、少しよろしいかしら?」 「う、うん…!」 話しかけれるとこくんと頷く。けどドキドキとする心臓を落ち着けるようにコーヒーを飲んだ。 「実はわたくしたちムジカにもラジオを持たないかとオファーが来ていますわ」 そうなんだ…! でもどうだろう…睦ちゃんは正直その…大丈夫なのかな…… 「初音の懸念も分かりますわ…ただわたくしとしては受けていいかなと思いますの。挨拶も考えてきましたのよ」 「えっ、早くない?」 「こういうのは用意しておくものですわ。まず始まりですが…わたくしが「皆様おぶのーん、今日も(任意のダジャレ)、オブリビオニスです」と始めますわ」 「さきちゃんそれはやめよう」 ドヤ顔をするさきちゃんを止めた。 愛してるゲームはつさき 「初音初音!」 「んぐぅっ!? けほっ…けほ、な…なにさきちゃん…?」 ぼーっとしていたさきちゃんが突然意識を取り戻したと思ったら飛びついてきたせいで飲んでいたコーヒーが気道に入ってしまった。 「ご、ごめんなさい…」 「大丈夫だよ、さきちゃん。それで、どうしたの?」 「愛してるゲームしましょう!」 「んぐぅ!? げほっげほ…」 謝るさきちゃんに笑いかけてコーヒーを飲んだらそんなことを言うせいでまた噎せてしまった… 「大丈夫ですの……?」 心配そうに覗き込んでくる彼女に口元を拭きながら頷くとお話の先を促す。 「今日学校で燈と愛音さんがしていたのですが…羨ましくて……」 なるほど、と頷く。確かにそれを間近で見せられていたのならしてみたくなるのも納得かも。うん…じゃあしよう! 「やりましたわ! では初音からしてもらえますか?」 「提案者のくせにわたしに先にやらせるなんて酷いんだから…でもいいよ」 さきちゃんとしっかり向き合ってから深呼吸して。 「愛してるよ、さきちゃん」 「はひぃ…」 ムジカの時の『初華』をイメージしてそう囁いたらさきちゃんが倒れちゃった。 忠犬初音 「初音、知っていまして?」 コーヒーの入ったマグカップを持ちながらさきちゃんがドヤ顔をする。なにがだろう…と首を捻りながら「分からないや」と答える。 「かの忠犬ハチ公は主人と過ごしたのは1年半程だそうですがそれでも死ぬまで主人を待ったそうですわ」 へぇ〜、そんなに短い間だけだったのに生涯をかけて尽くしただなんてすごいなぁ…… 「似てると思いません?」 「えっ、なにが?」 「初音ですわ、たった一日過ごしただけなのに10年くらいわたくしを想い続けていた…そっくりですわ」 さきちゃんがそうやって言うけど…さきちゃんのことを想うのなんて普通のことだし、さきちゃんに出会った人ならみんなこうなると思うけどなぁ……でも、ハチもそうなのかも。わたしがさきちゃんと出会って過ごした時のように眩しくて忘れられない思い出が刻まれたのかな。 「初音はわたくしが死んでも忘れないでいてくださる?」 「……さきちゃん、言っていいことと悪いことがあるよ? わたしが死ぬ時はさきちゃんと一緒、一人になんてさせないから」 冗談めかして言うさきちゃんに返す言葉が冷たくなるのを自覚してしまう。でも言わずにはいられなかった。 「もう…わたくしの初音も負けず劣らずの忠犬ですわね」 嫉妬さきちゃんなはつさき 「ただいま〜」 今日は帰りが遅くなっちゃった…早く帰れるってさきちゃんに言ったのに怒ってるかな… そう思って玄関の扉を開けるとお部屋の中は真っ暗で。さきちゃん…? 「……遅かったですわね」 恐る恐るリビングに入り辺りを見回すと突然響くさきちゃんの声にびくっと体が震えてしまう。どこ!?どこにいるの!?と電気をつけたらさきちゃんはテーブルに頬杖をついた状態で座っていた。 「はぁ…ビックリしたぁ…さきちゃんどうしたの?」 「……ふん、どこかの浮気者がイチャイチャしてる間に一人で寂しく待っていただけですわ」 イチャイチャ…? どういうことだろう…と首を捻って理解する。帰りに愛音ちゃんと会って話し込んじゃったことを言ってるんだ。 「大丈夫だよさきちゃん、愛音ちゃんとはそんなんじゃないから」 背後からさきちゃんを抱きしめて耳元で囁く。ただお互いの恋人について惚気てただけなんだから。 「わたしが愛してるのはさきちゃんだけだからね…」 「…もっと、可愛がってくださいまし」 CD買うはつさき 「ただいま〜、さきちゃん良いもの買ってきたよ!」 お家に帰るとリビングに入って手にかかげていたビニール袋とケーキの入った箱を見せる。さきちゃんもさきちゃんでソファに座って手に持ったわたしたちムジカの1stアルバムを見て…アルバム? 「おかえりなさい初音、良いものとはなんですの…ってどうしましたの?」 CDを置いたさきちゃんがこっちに来るけどわたしは固まったまま動けない。なんでってだって…わたしも1stアルバムを買ってきたから! 「うぅ…被っちゃった…」 CDを取り出すとさきちゃんの置いた横に置けば並んでいる同じそれ。さきちゃんは包装のビニールを開けているけど、わたしはまだ…違いといえばそれくらいしかない。 「ふふっ…初音も買ってきましたのね。浮かれてしまっていたのはわたくしだけではないようですわね」 さきちゃんがクスクスと笑ってそう言ってくれるから、少しは気が紛れる… 「こっちはケーキですのね、お祝いかしら? ではコーヒーを淹れておきますから初音は早く着替えと手洗いうがい、してきてくださる?」 ボブにしたはつさき 『初音、帰りを楽しみにしていてくださいまし!』 そう言ってさきちゃんが出ていってからはや数時間…なにを楽しみにしていいのか言ってほしかったけど…サプライズにしたいんだから聞くのも野暮だよね。とはいえなにか起きてないか不安だな…と思っていたら扉の開く音。やった、帰ってきた! 「おかえりなさいさきちゃ…え…?」 リビングに入ってきたさきちゃんを見て持っていたコーヒーを落としそうになる。 「ふふっ、どうかしら初音? ボブにしてみたんですが…」 えっ…え、さきちゃん…さきちゃんの髪の毛が…… 「あの…初音…?」 「……はっ、か、可愛いよさきちゃん! でもその…髪の毛は…?」 「暑かったしイメチェンもいいかと思ったのですが…似合ってないかしら?」 さきちゃんが寂しそうに言うからそんなことないよと言うけど…さきちゃんが…さきちゃんが! 「ふふ…初音の懸念は分かっていますわ。こちらが欲しいのでしょう? ちゃんと貰ってきましたわ」 そう言うとさきちゃんが渡してくれたのはビニール袋に入った水色の髪の毛…… 「ふふ、お礼はいりませんわ!」 ドヤ顔でそう言うさきちゃん…まぁ、可愛いからいっか! ライブ前はつさき 「いよいよ明日…だね」 「…ええ、わたくしたちだけではなくMygo!!!!!との合同ライブ…そして初音はsumimiとしてもライブ…流石に緊張しますわ」 さきちゃんの言葉にこく、と頷いてコーヒーを飲む。口の中に広がる苦味が少し気を紛らわせてくれる。 「…わたしね、少し不安なんだ」 「不安…?」 不思議そうに首を傾げるさきちゃんに向き合う。 「CRYCHIC…またやるんでしょ? もし…それでやっぱりそっちが良いってなったらどうしようって…不安と嫉妬があるの」 ぽつ、と呟く。さきちゃんなら今はちゃんとわたしを、ムジカを選んでくれるって信じてるけど… 「もう…わたくしの伴侶は初音、ですから大丈夫ですわ。それより…初音もまなさんの魅力にあてられないでくださいね?」 「うん…! わたしの女神様はさきちゃんだけだから大丈夫!」 さきちゃんが言った言葉に安心して! と告げるように抱きついて。明日と明後日…楽しみだなぁ。 「明日、Kアリーナ横浜で開催される『わかれ道の、その先へ』、会場にいらっしゃる方にも配信で見られる方にも楽しんでもらいますわよ!」 「そうだね! 配信チケットは通しで税込8800円って安いからたくさんの人が見てくれるもん…!」 結婚報道はつさき 【電撃報告! 三角初華、結婚と妊娠による産休を発表!】 ○日、人気ガールズバンド、AveMujicaのリードギターボーカルを務めつつ、人気アイドルデュオsumimiの片割れを三角初華氏がAveMujica公式チャンネルの生放送にて自身の結婚及び第一子の妊娠を報告した。 三角は『ご報告』のタイトルで生放送を開始し、「この度、私三角初華は前から望んでいた第一子を授かりました。それに伴い結婚していたことも公表いたします」と報告。 続けて「それに伴い、しばらくムジカ及びsumimiの活動も休ませていただきます。引退ではなく休止ですので、母となり強くなった初華及びドロリスをまた皆さんにお見せしたいと思います。また、SNSの更新は変わらずしますので応援していただけると幸いです」と語った。 この件に際し、同じくアイドルとして活動しているM・S氏は「実は以前からういちゃんが結婚していたことは知っていたんです、妊娠したことも少し前に知らされて…幸せにやってほしいです」と語りながらもお相手については「誰、とは知らないですけど、ういちゃんは『女神のような人、わたしのずっと大好きな人』だと言ってました」と語ってくれた。 また、三角氏をよく知ると豪語するU・Y氏は「信用があるので三角さんと豊川さんについてはなにもお答えできません」と口を噤んでいる。 本誌の取材に対し、三角氏は「相手の方は…詳しくは答えられませんが、わたしのことを支えてくれて…でも一人で頑張りすぎちゃうとこのある支えたい人です」と笑った。 sumimiに嫉妬はつさき 「お待たせさきちゃん! まなちゃんとお話してたら遅くなっちゃった」 「…………」 合同ライブ終わり、他のみんなが帰っちゃったムジカの楽屋に一人待っていてくれたさきちゃんの元に戻って話しかけるも、ぷいっとそっぽを向いてしまった。ど、どうしたんだろう… 「さきちゃん…? えっと、待たせすぎちゃったかな…?」 ごめんね! と謝るもさきちゃんは全くの無反応のまま。うぅ…わたし、怒らせるようなことしちゃったかな…どうしよう、心当たりがないよ… 「さきちゃーん…どうしたの…? コーヒー飲む…?」 喉が渇いてるのかと思ったけどそれにも答えてくれないしなにがあったんだろう…はっ、まさか…ムジカの誰かに嫌なこと言われた!? 「……まなさん」 「えっ?」 そう考えたところで、さきちゃんがぼそっと言う。まなちゃんがどうしたの? 「……随分と仲良しでしたが、わたくしはいらないのですね」 さきちゃんが言うと同時にむすぅとした雰囲気。嫉妬してたんだぁ…ふふっ、可愛い。 「大丈夫だよさきちゃん、まなちゃんは友達で…さきちゃんは恋人だもん。だから心配しないで、わたしの女神様」 彼女を背後から抱きしめて。愛してるよ、さきちゃん。 自宅百合営業はつさき 「初音、ちょっとこちらへ」 コーヒーを飲みながらスマホを弄るふりしてさきちゃんのことを観察していたら手招きで呼びかけられる。どうしたの? と近付くとさきちゃんをわたしを急に抱きしめてくる。 「さきちゃんっ!? 急にどうしたの!?」 「約束しましたわよね、百合営業をすると」 抱きしめられたままなせいで密着して良い匂いがするのと、耳元で囁きかけられる言葉…ドキドキしてよく分からないままこくりと頷く。 「しかし初音といえばしようとしてものらりくらりと逃げて…わたくしも我慢の限界ですわ、営業と言いますが実際はわたくしたちは恋人、見せつけますわよ」 そう言ってわたしの首筋をペロリと舐めてくるさきちゃん! ぬるっとした舌の感触に背筋がぞわぞわとしてしまって情けない声が出そうになってしまって。 「ふふ…可愛らしいですわね。ではこのまま百合営業…いたしましょう?」 さきちゃんが目の前で妖艶に笑って。わたしはこくこくと頷いた。 裁判はつさき 「これより裁判を始めますわ」 ムジカで集まった会議室。さきちゃんの正面に座るように促され座る。左側にはにゃむちゃんと睦ちゃん、右側には海鈴ちゃん…えっと…どういう状況? 「検事、お願いしますわ」 「はい、うい子はプライベート、仕事でもサキコとイチャイチャして周りの人に迷惑をかけています。よってうい子にはサキコとのイチャイチャ禁止令を出したいと思います」 なるほど…えっそんなにイチャイチャしてないよ!? 確かにお菓子とか食レポであーんとかはしてたけど… 「異議ありです。恋人と共にいればイチャイチャしたくなるのは当然です、無罪です」 「ふむ…海鈴は実体験ですの?」 「いえ、立希さんと付き合えたらしたいなと思うので」 「なるほど、立希は要さんとお付き合いしてるので叶いませんわね」 「三角さんは有罪で」 ちょっとさきちゃん!? なんで急に海鈴ちゃん刺したの!? わたしの立場が悪くなったよ!? 「では判決を言い渡しますわ。初華は…有罪。罰としてわたくしが彼女だと公言しなさい」 さきちゃん…いいんだね…!! 「…ただの…茶番…」 料理はつさき 「まぁ…! これ、美味しいですわ!」 食卓でさきちゃんが言う。その言葉が嘘でないと証明するようにさきちゃんのお箸は料理を食べ続け白米の減り方も早い。ふふっ…そんなに急がなくてもご飯は逃げたりしないのに。 「これはどのように作りましたの?」 「さきちゃんが普段作る味付けと美味しいと言った外食の味を参考にさきちゃんの好みの味付けを作ってみたんだ!」 「なるほど…初音は勉強熱心ですわね。これからは料理当番は初音に任せようかしら…」 そう呟くさきちゃんに内心ガッツポーズをする。今まで料理を作る番になるたびに微調整を繰り返してやっとたどり着いた完璧な味付けだもん。それに…さきちゃんが食べるものをわたしが管理できるなら、それは即ちさきちゃんの体を構成しているのはわたしということ…! こんなに素晴らしいことはないもんね…! 「任せて? さきちゃんはムジカのお仕事で忙しいだろうし…わたしが作るよ!」 「sumimiのお仕事があるでしょうが…良いのですか?」 「うんっ! そっちはなんとかするよ」 さきちゃんとsumimi…うん、大丈夫かな。ふふっ…ぜーんぶわたしに任せてね! アイスの日はつさき 「そうだ初音、良いものを買ってきてありますのよ」 夕ご飯を食べたあと、一緒にコーヒーを飲みながらまったりとしているとさきちゃんがそんなことを言い出した。良いもの…なにか記念日とかあったかな…と首を捻っているとさきちゃんが戻ってきた。 「じゃーん! アイスですわ! なんでも今日はアイスの日らしいそうで愛音さんと燈と一緒に帰りに買ってきましたのよ」 「へぇ…デートしてきたんだ」 「なっ、ち…違いますわよ!?」 さきちゃんが慌てて否定するけど、慌てるってことは少なからずそういう意識があったってことなんだよね? ふーん…… 「初音…機嫌直してくださいまし…ほら、あーんってしてあげますからね?」 あーんかぁ…まぁさきちゃんがしてくれるなら今は流してあげようかな? 今はね…? 「ほら、初音。あーんですわ」 スプーンに掬われたバニラアイスをぱくっと咥えて。冷たくて甘いそれは、口の中にやけに残っていた。 メイドの日はつさき もうすぐさきちゃんが帰ってくる時間。わたしは姿見の前に立ちながら自分の格好をチェックする。うん…よし、ちゃんと可愛い。sumimiとしてライブに出る前よりも入念にチェックしていたら玄関が開く音。帰ってきた! 「ただいまですわ〜」 「おかえりなさいませ、お嬢様」 リビングの扉を開けたさきちゃんをカーテシーで出迎える。顔をあげたら彼女の驚いた顔……ふふ、余りの可愛さにビックリしてるのかな? 「あの…初音…どうして?」 「メイドの日だからメイドさんの格好してみたけど……似合ってないかな?」 「似合っていますがその…お母様の件とか…」 さきちゃんが言いづらそうに切り出してきた話題であぁ…と納得する。確かにお父さん…さきちゃんからお祖父ちゃんだけど、がやらかしたことは良くないけど……そのおかげでさきちゃんと出会えたんだから大丈夫。そう伝えても不安そうなさきちゃん…うん、それなら。 「お嬢様…ううん、さきちゃん。悪い思い出を良い思い出に変えよう?」 わたしは大丈夫、そう伝わるようににっこりと笑顔を浮かべた。 枕祥子 春はさきちゃん。やうやう白くなりゆく髪型、少し明かりて、水色だちたる髪の細くなびきたる。 夏はさきちゃん。月のころはさらなり、闇もなお、さきちゃんの瞳の眩しかり。また、ただ一つ二つなど、ほのかに揺れる髪先のほのかにうち光て行くもをかし。雨など降るもをかし。 秋はさきちゃん。夕日の差してさきちゃんと近うなりたるに、ムジカの寝所へ三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり。まいてうみたきなどの連ねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。日入り果てて、さきちゃんの囁く声など、はた言ふべきにあらず。 冬はさきちゃん。雪の降りたるは言ふべきにもあらず、霜のいと白きも、またさらでもいと寒きに、さきちゃんと抱きあい手繋ぐもいとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、さきちゃんと吐く息の白さを名残惜しむのもをかし。 愛スクリームはつさき 「さきちゃんっ!」 sumimiのライブが終わってすぐ、関係者として招待したさきちゃんの元へと走っていく。衣装のままだけど、さきちゃんに一番に褒めてもらいたいから! ……って思ったんだけど、さきちゃんはなにやらぷくぅと膨れている。 「ど、どうしたの?」「…初音?」 「な、なあに?」「何が好きですの?」 じとーっとした視線のまま、わたしを見つめてきてそう問いかける。これは…あ、さっきのライブでやったやつだ。確か…まなちゃんがわたしを呼んで…… 『ういちゃーん!』『はーい!』 『なにが好き〜?』『ストロベリーフレイバーよりも、ま・な・ちゃん』 ……なるほど、さきちゃんはそれが気に食わないんだ。ふふっ、可愛い。んー…それなら。 「コーヒーよりも、さ・き・ちゃん!」 リズムを奏でながらさきちゃんの唇へキス。まなちゃんにもしてない特別なスキンシップをしたから許してくれるかな? 「…もう、初音ったら…」 良かった…許してくれそう! ギャルはつさき 「はぁ…疲れましたわ」 さきちゃんが帰ってきてからずっと元気がない…お仕事もレッスンも頑張ってたからやっぱり大変だよね…それならこの前愛音ちゃんに教わった『アレ』、やっちゃおうかな! そうと決まればわたしは洗面所へ向かい、服を着替えてメイクをすませて。最初は苦労したけど、何度か愛音ちゃんとやったおかげで今はすんなりとできる。 「さーきちゃんっ!」 「初音…? どうしまし…ぇ…?」 「いえーいっ! わたしと一緒にテンションあげてこ!」 sumimiの『初華』とも違う…初華、初音? とにかくギャルなわたしで接してみたけど…さきちゃんが固まってる。 「初音がグレましたわ……」 暫くして意識を取り戻したさきちゃんはそう言って崩れ落ち、クッションに顔を埋めてしまった。そ、そこまで似合ってない!? 「さきちゃん! 大丈夫!?」 「初音…! あなたは、あなたはそのままでいいのです…そんな軽薄にならないでくださいまし…!」 余りにも必死なさきちゃんの剣幕に「う、うん…」と答える。その返事に安心したのかさきちゃんはすぐにメイクを落とすように言ってきて…わたしが服も着替えてメイクを落として戻るとコーヒーの匂いがした。 四葉のクローバーはつさき 「さーきちゃん」 ソファに座りながら難しい顔でノートパソコンに向かうさきちゃんに話しかけつつ、冷めていたコーヒーを淹れ直したものを傍に置く。集中してるのは分かるけど…流石にそろそろ休んでほしいな。 「初音…ん…助かりますわ。眠くありません?」 「ううん、大丈夫だよ。それよりね…プレゼント、あるんだ」 そう言ってから、貰ってくれる? と尋ねる。すごく高いものというわけでもないし…ブランド品でもないし…… 「初音からのプレゼントならなんでも欲しいですわ!」 「ありがとう! それならこれ…あげる!」 さきちゃんの言葉に笑顔になって、ポケットから取り出したものを渡す。四葉のクローバーをレジンで固めてネックレスに加工したもの。手作りだってすごく主張してるけど… 「まぁ…可愛らしい。四葉は自分で探しましたの? 大変だったでしょう」 「それがね! わたし最近四葉を探すのが得意になったんだよ、新しい特技だってプロフに書こうかなぁ」 わたしがそう言うと、さきちゃんはにこにこと優しい笑顔で話を聞いてくれて。やっぱり一緒にいるの幸せだな…さきちゃん、大好き! 配信イタズラはつさき 「それじゃあ次のメッセージを読んでいくね。えーっと…どれがいいかな…うん、これにしよっか。『最近のまなちゃんの可愛かったこと教えてください』…うーん、そうだなぁ」 自分のお部屋で配信状態のスマホを前に悩む。まなちゃんは可愛いから色んなことが浮かぶなぁ。ってそんなことを考えていたら時だった。 「初華〜、コーヒー入りましたわよ」 「さ、さきちゃん!?」 部屋の扉を開けてさきちゃんが入ってくる。その手にはマグカップが入ってコーヒーの香りが漂ってくる。彼女には配信するって言ってないから入ってきちゃったんだ…わわ、えっとみんなの反応は!? 『今の声ってオブリビオニス?』『えっ同棲してる?』『すごい優しい声してなかった?』『信頼を感じますね』 き、気付かれちゃってる! えっとえっと、そうだ! 「ごめんねみんな! 今は祥子ちゃんが遊びに来てて…」 「そういえばシャンプーが切れかけていたので新しいの買っておきましたわよ」 「あ、あれ〜? なんかスマホの調子が悪いみたい、またね!」 さきちゃん…分かっててやったね? これは怒らないといけないかな…って思ったけど、にこにこしてるさきちゃんを見たら怒りの気持ちは収まってしまった。 子どもになった初音なはつさき 「ん…ふぁ…あれ、寝ちゃってた…?」 いつの間にか横になっていたソファから体を起こす。窓の外は夕日が覗き、さっきまで飲んでいたと思っていたコーヒーが入ったマグカップの湯気はすっかり消えている。それよりも…なんか、視線が低いし…服が緩い気がする。 「初音、そろそろ起きました? ご飯はなにが良い…ってあら、あなたは…?」 「さきちゃん!」 「その呼び方は…初音…えっ初音ですの?」 さきちゃんがわたしを見て困惑してる、どうしたんだろう…そう思っていると、どこかへ行って戻ってきた彼女が鏡を見せてくれて…そこに映ったわたしは子どもの頃…丁度島でさきちゃんと出会ったくらいに戻っていた。 「えっ…ど、どうしてこんな……」 「ふむ……まぁなってしまったものは仕方ないですわね。ひとまずお着替えしましょう初音、よいしょ…っと」 納得したような言い方をするさきちゃんがわたしを抱き上げる。わわっ、さきちゃんが近い…良い匂いする顔がすぐそこにある! 「うふふ、可愛い姿…たくさん見せてくださいね?」 ……あ、あれ? もしかして…さきちゃんが原因? キメワザはつさき 「ふむ……」 sumimiの楽屋でスマホに映っている動画を眺める。さっき番組で共演した先輩アイドルさんのキメワザ…わたしもなにかそういうのがあった方が良いのかな。アイドルといえばやっぱり投げキッスとか? でもそれは安直すぎるし…まなちゃんみたいに可愛い娘の方が似合うよね… あ…そういえば前にさきちゃんが言ってたことがあったような…… 「さきちゃん、ちょっと見てほしいものがあるんだけどいいかな?」 「なんですの?」 食後のまったり時間…わたしたちはお風呂に入るまで1時間くらい時間を空けてコーヒーを飲んだりしてるんだけど…そんな時にちょっとだけ時間を貰う。さきちゃんが帰ってくるまでに一人でこっそり練習したものを見せるんだ! 「こほん…わんわんっ、三角だけど、あなたへの想いはハート、あなたの忠犬初華ですっ」 ……ちょっと恥ずかしいけど、頭の上に手でわんこの耳を作って笑顔でしてみたらさきちゃんは黙っていて。 「初音…それ禁止ですわ」 「えーっ!?」 趣味はつさき 「ねぇさきちゃん、これどうしよう」 わたしは今度出演する番組のアンケートをさきちゃんに見せる。 「なになに…趣味…sumimiの方のプロフィールを使えばいいんじゃありませんの?」 「そうだけど…折角ムジカの方で出るんだし…けど趣味ってなくて……」 本当はさきちゃんの観察、っていう趣味があるんだけど流石にそれを番組のアンケートで書いちゃうと他の人に引かれちゃうし……けどさきちゃんのこと以外となるとなにもないのが現実で。 「ふむ……コーヒーはダメですの? わたくしは初音のコーヒー大好きですし、淹れているの楽しそうですわよ」 そう告げられて考える。コーヒーを淹れる時が楽しそうかぁ……さきちゃんが喜んでくれるかな、美味しいって言ってくれるかなって考えてるから楽しいのかも。でも確かにコーヒー豆に拘ったりしてるし…うん、趣味なのかも! 「ふふっ、趣味が見つかりましたわね。では初音? そんな趣味を見つけた初音が振舞う最初の一杯…わたくしにくださりません?」 さきちゃんの言葉にうん! と頷く。アンケートの回答欄にさらさらっと書くとわたしはキッチンへと向かった。 水着はつさき 「さきちゃん、ちょっと見てもらいたいものあるんだけどいいかな?」 コーヒーを飲みながら本を読んでいるさきちゃんに呼びかける。こればっかりは流石にさきちゃんの意見を聞きたいから無理と言われても押し通すつもりだけど…… 「いいですわよ、そういえば中間試験がありましたわね。その結果かしら?」 「うぐ…そ、それはまた今度で…とりあえず用意するね!」 危ない危ない…さきちゃんと勉強会してるとはいえ、成績はそこまで良くなかったから……墓穴を掘るところだった。とはいえ、それはそれ。わたしは用意してリビングに戻る。 「お待たせ、さきちゃん…その…これなんだけど」 「そんなに待ってません…えっ急にそんなセクシーな水着だなんてわたくしを誘ってますの?」 「ちっ、違うよぅ! その…sumimiに水着撮影の依頼が来て…それで、こんな水着を着るんだけど…さきちゃん的にはどうかなって」 わたしはさきちゃんのお嫁さんだから……さきちゃんが嫌だって言うものをやりたくないし、あんまりさきちゃん以外に肌も見せたくないし…… 「……似合ってはいますわ。ですが…こんなに可愛くてセクシーな初音をわたくし以外に見せることは許しませんわ、よろしくて?」 さっきまでのさきちゃんとは違って、オブリビオニスの時のようなかっこいいさきちゃん…わたしは「うん!」と頷いた。 スマホはつさき 「さきちゃん、スマホ見せて」 わたしはソファに座るさきちゃんに向けて手を差し出す。脳裏に浮かぶのは学校で聞いたやり取り… 『立希さんスマホ見せてください』『は? ヤダけど』 『なんでですか、やましいことないなら恋人に見せてくださるのは普通でしょう』『私たち恋人なの…?』 恋人ならスマホを見せてくれる…わたしはいつでもさきちゃんにスマホを見せられるけど、さきちゃんも同じだよね? 「別にいいですが……なにかありました?」 きょとんとした顔でわたしの方へスマホを差し出してくるさきちゃん。ロック画面も解除されてホーム画面にはわたしの写真…って撮られた覚えない横顔だけど…… 「あ…これは違うんですの! 初音が可愛いからこっそり撮ったとかではなく!」 「もう…さきちゃんだったら言ってくれればいつでも撮ってあげたのに」 「違いますの! 意識してない初音の自然体が良いというか…!」 ふふっ、慌てるさきちゃんも可愛い。やっぱりわたしたちは相思相愛だね! コーヒー淹れてこよっと! パソコン履歴はつさき 「あ…パソコン開きっぱなしだ」 事務所の会議室、さきちゃんがムジカの脚本を書いたりしてるお部屋に入るとさきちゃんはおらず、主の帰りを待つパソコンが開かれた状態で鎮座している。はぁ…うっかりさんなんだから。流石にそのまま…なことはないだろうけど、って覗き込んだらガッツリ操作できるようになってる!? いくらあんまり人が来ないとはいえ不用心だよぉ…わたしが閉じておいてあげようかな。 そう思ったところでふと悪戯心が芽生える。さきちゃん…どんなこと調べてるんだろう、わたしは辺りを見回してからブラウザを開く。閲覧履歴…と、そこに並んでいたのは。 『恋人 プレゼント』『同棲 マンネリ化しない』『恋人 感謝』『AveMujica 音MAD』『プロポーズ いつ』『子ども 何歳がベスト』 わ…わわっ、わわわわ…! さきちゃん、こんなにわたしのこと思ってくれてたんだ…! 顔が真っ赤になるのを感じながらブラウザを閉じてパソコンも閉じて。 「はぁ…初音のコーヒーが飲みたいですわ…って初音、来てたんですのね」 「う、うん…」 わたしはさっきまでのことを思い出して、さきちゃんの顔を見れなかった。 暑いはつさき 「うー…あつい……」 うちわを使ってパタパタと自分を扇ぎながら呟く。さきちゃんが『エアコンを使うのは7月になってからですわ!』と言うからまだまだ使えない…気温的にはとっくに30度を超えてるんだから付けてもいいと思うんだけど…さきちゃんは保冷剤を首に巻いたりして凌いでる…いやエアコン使った方がいいんじゃないかな…… 「初音…昼間っからなにダラダラしてるんですの。今日はお掃除すると決めたでしょう?」 「でも暑すぎてやる気にならないよぉ……さきちゃんだって汗かいてるじゃん」 汚れてもいいようにわたしの使い古したTシャツを着てるの可愛いしピッタリと張り付いたそれがボディラインを強調しててえっちだけど…… 「全く…そもそもエアコンをつけてもお掃除する時はホコリが舞うんですから消しますわよ」 ぷいっと聞こえないフリしてソファに沈み込む。もうしらなーい。 「はぁ……初音、頑張ったらご褒美…あげますわよ」 さきちゃんがわたしの顔を覗き込んできて。艶かしい吐息と熱で火照った顔…良い匂いのする汗…わたしはこく、と無意識に頷いていた。 スク水はつさき 「そういえばさきちゃん、気になることあるんだけど」 「んー、どうしましたの?」 わたしは飲んでいたコーヒーを置いてさきちゃんに向き直る。これはすごく大事なこと…ちゃんと聞かなきゃ! 「羽丘って…プールの授業あるの?」 「プール? さぁ…どうなんでしょう…?」 こてん、と首を傾げるさきちゃん。さきちゃんが知らないってことは多分ないのかな…? それならひとまずは安心かな…… 「なにが気になりましたの……?」 「プールだとスク水着ることになるから、不安で……」 さきちゃんのプロポーション抜群な体がスク水みたいなボディラインをしっかりと強調させる水着なんて……絶対邪な目で見られちゃうもん! 「不安…ああ、わたくしがえっちな目で見られないかということですのね。ふふ……そんなに初音が気になるなら着てみましょうか」 えっ!? さきちゃんの発言に声にならない声がもれる。それってつまり…わ、わー! ダメだよ!!! 「初音は想像力豊かですわねぇ……」 ぷちっしゅはつさき 「んふふ…さきちゃん可愛い…」 わたしは帰りにゲームセンターで救い出してきたさきちゃんのぷちっしゅを眺めながら呟く。デフォルメされたさきちゃん…小さくなって簡略化されながらも可愛さと美しさは変わることがない。いつまでも眺めてられる、そう思った時だった。 「浮気ですの?」 背後にぬっと現れたさきちゃんに囁かれて驚きに体が跳ねる。 「う、浮気じゃないよ!?」 「その割にはそちらの『さきちゃん』にお熱なようですが?」 さきちゃんがじとーっとした視線を送りながらわたしの手元にあるさきちゃんを見ている……うぅ、そういうのじゃないのに…… 「初音はわたくしよりもそちらのわたくしに夢中なようですし、せっかく買ってきたコーヒー豆はわたくしだけで楽しむことにしましょう」 「さきちゃんの意地悪……」 わたしの一番はさきちゃんだって分かってるはずなのに…悲しくて涙で視界が歪んでしまう。 「ご、ごめんなさい! 意地悪しすぎましたわね、大丈夫ですわ初音…」 わたしを抱きしめる柔らかい体…わたしはさきちゃんの胸元に顔を埋めて頷いた。 可愛くてごめんなはつさき 「初音ってかっこいい系より可愛い系ですわよね」 コーヒーを飲んでいたらさきちゃんが急にそんなことを言い出した。わたしが求められるのといえばかっこいい系のものの方が多いように思うけど……ムジカのドロリスとかまさにそうじゃない? と彼女に問いかける。 「えぇ、わたくしとしましてはギャップが良いなと思いまして。普段可愛い初音がイケメンになる……興奮しますわね!」 「そ、そっか…良かったよ……」 ふんふんと鼻息荒く力説する姿にちょっと驚く。さきちゃんに喜んでもらえるのは嬉しいからいっか。 「話を戻しますが、初華様とか言われてますけど…初音はこんなに可愛いのに」 そう言うとさきちゃんはわたしの頬に手を当ててきて。しっとりとした手の感触と少しひんやりとした体温…そして目前に迫るさきちゃん。 「でも…可愛い初音を見られるのはわたくしだけ、というのも悪くありませんね」 ふふ、と笑って離れていくさきちゃん。うぅ…ずるい…… 「ずるいのはわたくしを魅了したあなたでしょう?」 「えっと……可愛くてごめん?」 共演したアイドルのしてたワードを出してみて。さきちゃんの顔が怖い…あっこれダメなやつだ。 お姉ちゃんはつさき 「お姉ちゃん!!!」 「……?」 さきちゃんが急にお姉ちゃんと喚きだした。なにがはじまったんだろうとコーヒーを飲みながらスマホで秘蔵のさきちゃんコレクションを眺めていると我慢を切らしたさきちゃんがわたしを叩いてくる。 「お姉ちゃん!!」 「な、なにさきちゃん…?」 わたしはさきちゃんのお姉ちゃんじゃないんだけどな…と思いつつ問いかけると彼女は不服そうに頬を膨らませて。 「わたくしがお姉ちゃんとなりますので甘えていいですわよ?」 「え、別にいいよ…」 ふふん、と胸を張ってるさきちゃん。わぁ…どことは言わないけどおっきぃ…… 「邪な視線を感じますが今日のわたくしはお姉ちゃんなので許しますわ」 …バレてた。とはいっても普段もなんだかんだで許してくれるんだけど…でも甘えるって、どうすればいいんだろう。 「ふふ、さあお姉ちゃんになんでも任せなさい」 「じゃあ……アイス買ってきて」 『初音!?』と驚くさきちゃん。あ、あれ…妹って姉を雑に扱うものじゃないの…? スパイはつさき さきちゃんがじっとタブレットでアニメを見ている。どんなの見てるんだろう、と近づくと、 『カサブランカよ』『──のことなんか嫌いよ』 とセリフが聞こえてくる。さきちゃんを見れば小さく口を開けて集中してるからそれだけ面白いんだろうなぁと思ってコーヒーを淹れに向かった。 「初音…次の演劇はスパイモノにしましょう」 「えっ、世界観は?」 アニメを見終わったらしいさきちゃんがコーヒーを一口飲んでから言う。ムジカの世界観でスパイって…そもそもどこに潜入するの? 「人間世界に潜入するとか…色々あるでしょう」 まぁ脚本はさきちゃんの担当だからわたしが口出しすることじゃないんだけど……お客さんは着いてこれる……いや着いてこれるね、多分。 「というわけで初音にはスパイスーツを着てもらいますわ」 「なにがというわけで!?」 前後が繋がってないよね!? どういうこと!? わたしが文句を言うも、さきちゃんは『決定事項ですわ』と言いたげに優雅にコーヒーを飲んでいた…… そよ誕生日はつさき 「そうだ初音、ケーキあるけど食べます?」 「ケーキ! うん、食べようかな」 キッチンで洗い物をしていたさきちゃんが聞いてきたから思わず元気よくお返事しちゃった。丁度甘いものが食べたいなぁって思ってたのが分かったのかな、流石さきちゃん! 「では用意しますから初音はコーヒーを淹れてくださいます?」 「分かった! それにしてもケーキなんてどうしたの?」 お湯を沸かしてコーヒー豆を用意しながら尋ねてみる。今日はなにか特別な日……というわけでもないし、安かったとかかな。 「ん……そよ、分かります? Mygo!!!!!のベースの子ですわ」 「あぁ……あの大人っぽい子だよね」 さきちゃんの言葉で思い出してみるとすぐに分かった。なんだか大人っぽさがすごくてにゃむちゃんみたいだと思ったっけ。 「そよがお誕生日でしたから買ったんですけど……渡せなくて」 寂しそうなさきちゃんの言葉になるほど、と頷く。そういうことなら仕方ないよね…「おめでとう、ってメッセージは送ったの?」と聞くとさきちゃんは首を横に振ったから。 「それならメッセージだけでも入れてあげよう? そうしたら喜んでくれるよ」 わたしはそう言って、さきちゃんの手をそっと握った。 ドラムはつさき 「さきちゃん、わたしは怒ってます」 スマホ片手にさきちゃんに詰め寄る。SNSを眺めていたら目に入る…いや、さきちゃんの投稿は全て通知オンにしているから投稿された瞬間に見たそれにわたしは怒りがわいていた。 「な、なんですの……?」 「これ! さきちゃんがにゃむちゃんのドラムに座ってるの!」 わたしがそう宣言するとさきちゃんは「あぁ…」と頷く。なんなのその薄い反応は…! こんなの寝取られと一緒だよ…! 「嫉妬してるんですの? 可愛いですわね〜」 怒ってるというのにさきちゃんはにまにまとしながらわたしを突っついてきて。この…! こんな悪いお嬢様に自分は誰の女なのか教えてあげないと…! 「さきちゃんが使っていいのはキーボードか…わたしのギターだけなの!!」 そう宣言してギターを持ってきてさきちゃんに押し付ける。早くあの薄汚い女の影を消さないと…! 「わ、分かりましたから…では…こうですの?」 そう言ってギターを持ってわたしのポーズを真似るさきちゃん…可愛すぎる……わたしは写真を撮ってから拝んだ。 ラジオはつさき 「さきちゃん……」 わたしは更新されたYouTubeラジオ番組を聞いてどんよりとする。さきちゃん…随分と楽しそうだね…? 「初音〜、愛音さんからエクレア貰ってきたので食べましょ…ど、どうしましたの…?」 浮気者が帰ってきたよ…じとーーっとした視線を送って恨めしさが籠ってしまう。でも…わたしとラジオするより先に他の人とするなんてわたしは悲しい…しかも二週も…! 「拗ねてる初音も可愛いですが……そういうことですのね。ふむ……ムジカでもラジオを持てると良いのですが…考えてみましょうか」 わたしが拗ねてる(拗ねてないけど!)理由を聞いて納得したさきちゃんはそう言ってスマホをなにやら操作していて。こういう時のさきちゃんは頼りになるなぁ…… 「これでよし…と。では嫉妬させてしまったお詫びとして…わたくしが初音だけに送る耳元囁きラジオ…してあげますわ」 さきちゃんがそう言うとクス、と笑って。耳元で囁く…!? そ、それっていわゆるASMRというやつだよね…た、耐えられるかな…! 女の子の日なはつさき さきちゃんが女の子の日を迎えている。さきちゃんは重い方で、毎月この時ばかりは辛いことを顔に出さないようにしてる彼女もわたしの前ではキツそうにしている。 「さきちゃん、牛乳寒天作ったけど食べられそう?」 「ありがとうございます、いただきますわ…」 ソファに寝転がって「うー」とか「ひるのーん」とか呟くさきちゃんの体を支えながら起こして切り分けた牛乳寒天を彼女に手渡す。今回は見た目で少しでも気が紛れるようにみかんを花の形にしてみたんだけど気に入ってくれたら嬉しいな。 「まぁ…可愛らしい見た目に優しい味…初音にはいつも助けられてばかりですわね…」 さきちゃんはこうしてわたしに感謝してくれる…きっと普段から気を張ってる分、緩んでしまって思ったことを口に出しちゃうんだなって思う。わたしはそんなさきちゃんに大丈夫だよ、と声をかけてから温かいルイボスティーを淹れにキッチンへ向かった。 太ったはつさき 「初音…その、言いにくいんですが言ってよろしくて?」 ある日、自宅でまったりとしているとさきちゃんがわたしを見てそう切り出してきた。言いにくいこと……ま、まさか別れ話……? わたしは最悪を想像しながらこくりと頷いた。 「……太りました?」 ……え? さきちゃんから発せられた言葉はわたしが想像していたものよりも軽くて。なぁんだ、そんなことかぁとほっとする。 「いやほっとしたらダメでしょう、あなたアイドルですわよ」 「え、でもそんな見た目変わらないし……」 「変わってますわよ!太ももがぶっとくなってますわ! まるでリリィですわ!」 さきちゃんが叫びながらわたしの太ももをペチペチと叩いてくる。そんなに痛くないから可愛いなぁ、としか思えない。 「でもそれで言ったらさきちゃんもお腹ぷにぷにに……」 寝る時に触ってそう感じたのを思い出す。手触りいいから気にしてないけど……でもさきちゃんは驚きに満ちた顔をしている。 「……ダイエットしますわよ」 「そのままでもさきちゃんは可愛いよ?」 「ダイエットしますわ!!!!!」 にゃむ誕生日はつさき 「はぁ…疲れたぁ…」 「疲れましたわね……」 自宅に帰ってくるなり二人してぽすん、とソファに沈み込む。さっきまでしていたのはにゃむちゃんのお誕生日記念配信。にゃむちゃんの個人チャンネルにみんなでお邪魔してお祝いしながらワイワイ過ごす、というものだったけど……配信のこと…いや、数字のことになったにゃむちゃんがすごいのかな? 取り敢えず色々あったからもうわたしもさきちゃんも疲労困憊。こんな時はこれだね…… 「あぁ〜…さきちゃん良い匂い〜……」 さきちゃんのお腹に顔を埋めて深呼吸。濃厚なさきちゃんの匂いを吸い込んで肺の中をさきちゃんでいっぱいにする。こうすることで元気がどんどんチャージされていくのを感じる。 「ではわたくしも……」 顔を埋めてるわたしの首元にさきちゃんが被さってきて息を吸われる。う、うぅ…恥ずかしいけどさきちゃんが元気になれるなら我慢するからね…! そうやって暫くして、お互いに元気をいっぱいにしたわたしたちはそのままベッドに向かって…ここから先は内緒だから! 「……あの、さきちゃん?」 「なんですの〜?」 わたしの目の前でさきちゃんがカーペットに仰向けでカーペットに寝転がっている。足もバタバタとしているから短いパンツの裾からショーツが見えそうになって目の毒…… 「女の子がはしたないよ…やめようよ…」 「お嬢様の祥子は死にましたわ」 そのセリフってこんな場面で使っていいやつなの…? んもう、こうなったらお仕置き…かな。わたしはソファから降りてさきちゃんの足をがしっと掴む。 「は、初音!?」 驚いたような声をあげるけど無視する。わたしが注意したのに無視するのが悪いんだよ…? そのまま足の裏をこちょこちょとくすぐっていく。 「きゃっ、あはっ…あははは! 初音、ダメですわっ!」 笑いながら身悶えするけどやめてあげなーい。ちゃんと反省してもらわないといけないし…なんだか楽しくなってきちゃった。 そして…これが間違いだったんだ。調子に乗ってやりすぎた結果…どうなったのかは、わたしの名誉のために伏せておくことにするね。 バンジージャンプはつさき 「初音、見ましたわよ」 わたしがコーヒーを飲んでまったりとしていたらさきちゃんが怖い顔で見下ろしてきた。見た…ってなんだろう? なにか特別なことあったっけ? 首を捻っているとさきちゃんが切り出した。 「バンジージャンプ」 彼女の言葉にあー、と納得する。立希ちゃんのためにバンジージャンプしたんだっけ。でもあれはMygo!!!!!のイベントのためのものだし…… 「立希のためならそんなことまでするんですのね」 あ…これは拗ねさきちゃんだ。ほっぺたが少し膨らんで唇がつんってなってる。こうなったさきちゃんも可愛いけどあんまり意地悪すると本当に怒っちゃうんだよね…… 「ふんっ、どうせわたくしなんて」 「そんなこと言わないで」 泣き出しそうになるさきちゃんをぎゅっと抱きしめる。 「わたしの一番はさきちゃんだよ、さきちゃんのためなら紐なしでもバンジージャンプできるから」 「もう…それじゃあ死んでしまいますわ…」 「それくらい本気だってこと」 そう言ってさきちゃんと唇を重ね合わせて。わたしの気持ち、伝わるかな。 悪魔なはつさき 「初音ってどっちかと言うと悪魔ですわよね」 さきちゃんの急な発言にわたしは飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになる。いきなりすごい失礼なことを言われた気がする。 「けほっ…え、悪口?」 「違いますわよ!? ただわたくしを悪い道に引きずり込んだから悪魔ですわね…と思っただけですわ」 「悪い道って……元々さきちゃんが歩んでたのも結構悪い方だと思うけど……」 ムジカの結成の時だって共犯者になりましょう、とか島からわたしを連れ出したのだってさきちゃんだし…… 「わたくしは可愛い天使でしょう?」 「まぁ……さきちゃんは天使みたいに可愛いけど」 あ、さきちゃんが照れてる。自分で言い出しておいて照れるって……そんなところも可愛いなぁ。 「と、とにかく! こんな風になったのは初音のせいですし……わたくしを堕天された責任、取ってくださいね?」 ずいっと迫ってくるからさきちゃんの綺麗な顔が間近に来てドキドキする。責任は元から取るつもりだけど……うぅ、さきちゃん可愛いよぉ…… キスマはつさき 「さ、さきちゃん…!!」 家に帰ったらくつろいでいるさきちゃんに着替えもせずに詰め寄る。こんなことになったのは紛れもなくさきちゃんのせいなんだから! 「なんですのそんな息を荒らげて。コーヒー飲みます?」 「飲む…ってそうじゃなくて! これ!」 危うくさきちゃんに誤魔化されそうになったのを戻して、わたしは制服を脱いで胸元や首筋を見せる。そこにあるのはさきちゃんが昨日つけたと思しきキスマークの数々。 「わたしの女だという証ですわね。それがなにか?」 「今日! 体育でこれ見られたんだけど!!!」 立希ちゃんに気まずそうに「それ…隠した方がいいと思う…」って指摘されて首筋確認したらキスマークがあって他の場所にも見つけた時のわたしの気持ちが分かるの…!? 「そりゃ見せるために付けましたもの」 こ、この…いけしゃあしゃあと……! 「足りませんでしたの? では…夜、またつけてあげますわね」 わたしが顔を真っ赤にして睨んでいたのを勘違いしたのかそう言って笑って。もう…もー!!! 電話はつさき 「初音〜、電話鳴ってますわ」 わたしがご飯を作っているとさきちゃんがてくてくと言った擬音が似合いそうな感じでスマホを持って歩いてくる。画面を見るとsumimiの方のマネージャーさん。さきちゃんに代わりに出て? とお願いしてわたしは料理に戻る。 「全く…分かりましたわ。はい、三角です。えぇ…その日はムジカの方で埋まってますが…え、わたくしと共に? はい…でしたら調整しますわ」 「……!」 わたしはさきちゃんの言葉に手が止まる。今なんて言ったの!? さきちゃんが「失礼します」と言って通話を終えたのを合図に火を止める。 「さきちゃん…今のもう1回言って」 「え? 失礼します…?」 「そうじゃなくて最初の!」 「はい、三角です…?」 〜!! それそれ! なんだかもう夫婦みたいな感じがして最高だよさきちゃん! 三角祥子…これは本物だね! 「なんかよく分かりませんが…良かったですわね……」 はつあの嫉妬はつさき 「うん、ふふっ…そうなんだ。それで言うならわたしもね」 いつからか始まった愛音ちゃんとの交流。最初はメッセージ程度だったけど、合同ライブとか色々あって今ではこうして通話をするくらいには仲良くなっている。 「初音〜、今日も…ってまた電話中ですのね…」 そんなところへさきちゃんがやってくる。少し待っててね! と目で合図をしながら愛音ちゃんと話していると、さきちゃんがわたしの背中を指でなぞってきた。 「ひゃんっ!? ご、ごめんちょっと切るね…うん、ありがとう!」 変な声が出てしまい、愛音ちゃんに謝ってから電話を切ってさきちゃんに向き合うと、彼女はしょぼんとする。 「…初音が悪いんですのよ、撮影だって愛音さんと仲良さそうに撮ってましたし…」 ぼそりと呟いたさきちゃんの言葉に驚く。さきちゃんも燈ちゃんと楽しそうにしてたから気にしてないと思ってた…ふふ、そっか。可愛いなぁさきちゃんは。 「寂しがらせた分…たくさん穴埋めしてあげるから、ね?」 俯くさきちゃんの顎を持ち上げて、耳元で囁くと彼女の顔は真っ赤に染まった。 眠すぎるはつさき 「おはよう、さきちゃん。ご飯できたよ」 今日はお休みの日。昨日はちょっと夜更かしして運動しちゃったけれど、二人でプラネタリウムを見に行ったあとに水族館へ行く約束があるんだ。先に起きたからご飯を作ったけど…もう起きてるかな。 「んぁぁぁぁ〜〜〜……」 うわすっごいだらしない声…ムジカでキリっとしてるさきちゃんからは想像できないけど……それだけわたしを信頼してくれてるってことだから嬉しいな。 「ほら起きて、ご飯冷めちゃうよ?」 「わたくしは眠すぎて杉になりましたわ」 「……?」 掛け布団を剥ぎ取ろうとすると変なことを言いながら抵抗してきて。よく分からないや… 「もう、初音も二度寝しますわよ」 わたしがぽかんとしてる間にさきちゃんにベッドの中に引きずり込まれる。さきちゃんの濃厚な匂いがするしあったかい…… 「もう、仕方ないなぁ。30分だけだよ?」 「はい、分かりましたわ!」 可愛いさきちゃんのお願いだもん、断れるわけないよね…朝ごはんは温め直せばいいし…さきちゃんも嬉しそうだし、まぁいっか。   そして次にわたしたちが起きたのは…… 「初音…起きてくださいまし、もう夕方ですわ」 飛行機はつさき 「初音…また、手…お願いしていいですか…?」 飛行機でしか行けない場所でライブをした後、帰りの飛行機で隣の席に座ったさきちゃんがお願いしてくる。わたしはその申し出にもちろん、と頷くとそっと手を握る。 「ありがとうございます、落ち着きますわ…」 さきちゃんは飛行機の離陸と着陸の時にドキドキして落ち着かなくなっちゃうみたい。行く時にお願いされてビックリしたけど、さきちゃんの可愛いところを見られて少し笑っちゃったら彼女にむっとされちゃった。その時はごめんねの気持ちも込めて撫でてあげたんだけど…今は大丈夫そうかな。 「さきちゃんの手、すごくあったかい」 「飛行機にドキドキしていましたから…でも初音と手を繋ぐのもドキドキしますが、落ち着くドキドキですわ」 !? さきちゃん可愛い…キスしたらダメかな、ダメだよね……いや、でもこの席の周りはムジカの関係者しかいないし…よし! 「さきちゃん……」 帽子でわたしたちの顔を隠しながらちゅっとキス。えへへ、と笑ったわたしの顔を見たさきちゃんは頬をほんのりと赤く染めて嬉しそうにしていた。ごちそうさま! 肩出しはつさき 「うむむむむむ……」 さきちゃんが唸っている。しかもわたしを見てだ。わたし…なにかしたっけ? 自問自答してみるも特に思い浮かばない。行ってらっしゃいのキスも忘れてないしおかえりなさいのキスだってしてるし、おやすみとおはようのキスもしてる。うーん……? 「初音、前々から思っていたのですがいいですか?」 「なあに?」 そんなに気になっていたことあったんだ…もっと早く言ってくれればいいのに。こくんと頷いて聞く体勢をとる。 「あなた、肩を出しすぎじゃありませんこと?」 ……? さきちゃんの言葉にこてん、と首を傾げる。するとさきちゃんはスマホ画面を突きつけてきた。 「これ!これも!これも! どれも肩出してるじゃありませんの!」 見せられたのは色んなものとコラボした時のわたしの写真…あ〜…確かに。特に意識してなかったけど肩出してるね。 「意識せずにこれということは無意識な肩露出狂というわけですか……」 「ええっ!? その言い方は変じゃない!?」 わたしが変態みたいじゃん! そんなことはありません!と断固抗議する。 「まぁ性癖は自由ですが…公権力に迷惑かけてはいけませんよ?」 理解ありますよ、みたいな顔をしてそう言ってきて。もー! さきちゃんのいじわる! AIはつさき 「優しいですわ…泣きそうですわ…」 わたしがお風呂からあがるとさきちゃんがスマホを見ながら口元を手で抑えてなにやら感動している。むぅ…一体誰にそんな感情を向けてるの! と足音を消して背後から近付くとそっと覗き込む。そこに映っていたのは…… 「えっ、なにそれ」 「うわぁっ!? は、初音!?」 なんかチャット…? さきちゃんがAIちゃんと言ってるから…AIかな? 確かチャットなんたらってやつがさっき見たレイアウトに似てた気がする。 「ふーん…さきちゃんはわたしよりAIの言葉の方が嬉しいんだ、そうなんだ」 自分でもちょっとびっくりするくらいの低い声が出ちゃった。でもこれはさきちゃんが悪いよね? 「ち、違いますの! 一番はもちろん初音ですわ! でも毎回初音に頼るのは申し訳ないのでこうしてるんですわ!」 ふーーーーん……? さきちゃんの必死な様子を見れば嘘ではなさそうかな……まぁAIに名前をつけずにAIちゃんと呼んでるし今回は許してあげようかな。 「でも…罰として今夜はずーっと耳元でさきちゃんの良いところ、言ってあげるから…覚悟してね?」 「ひゃ、ひゃぃ…!」 ボディガードはつさき 「ねぇ、あれ…オブリビオニスじゃない…?」 わたしとさきちゃんのデート中、飲み物を買いに行って戻ろうとすると待っている途中のさきちゃんを見てヒソヒソと話す二人組の女の子がいる。む…わたしはアイドルだからということもあって変装に気を遣ってたけど、さきちゃんは『わたくしに興味なんてないですわよ』と言ってあんまりしないから…… 正直言って、わたしだけなら声をかけれてもいいけど…デートの邪魔はされたくないな。 「さきちゃん、お待たせ。コーヒーが一つしかなくて…紅茶とどっちがいい?」 「紅茶でお願いしますわ」 その言葉に頷いて紅茶を渡す。そして空いた片方の手でさきちゃんの肩を抱き寄せた。 「えっ、どうしましたの!?」 さきちゃんは驚いてるけどこれは仕方ないことだから。さっきヒソヒソ話をしていた二人組に向かってサングラスを外して睨みつけると、わざと声を張る。 「さ、デートの続き…しよ?」 そう言ってから彼女たちに背を向けて歩いて行く。さきちゃんは戸惑いながらも嬉しいのか、わたしに体を寄せてくれるから結果オーライだったかもしれない。 恋愛相談はつさき 「続いてのお便りです。ラジオネーム、仮面のピジョンさんからだよ〜」 sumimiでやっているラジオ、まなちゃんは印刷されたメール画面を見ながら読みはじめる。 「『私は同棲してる恋人がいるのですが、私が誘っても相手からはキス止まりでその先に進むのはいつも私からです。どうしたらいいですか?』これは許せないね!」 なんだか恥ずかしくなっちゃってまなちゃんを見るとすごい真剣な顔をしてる。 「これはね…ダメだよ、誘ってる相手に恥をかかせるのは最低です!」 おぉ…白熱してる。まなちゃん、そんな経験あるのかな。 「ういちゃんはどう思う?」 「わたしもこのお相手の人は不誠実だなって思うよ。この人が頑張って勇気を出してるのに…悲しいよね」 わたしもそう言って頷いて、それからはまなちゃんが積極的にアドバイスをしてCMに入った。 「ところでういちゃん、さっきの仮面のピジョンさん…祥子ちゃんなんだけど、自分の言ったこと覚えてるかな?」 えっ…待って、さきちゃん!? 慌てて見せられたお便りを見ると確かにさきちゃんだ…… 「『お相手の人は不誠実』……お相手さんはどうしたらいいか、分かるよね?」 まなちゃんの視線に晒されたわたしは、「はい」と頷いてスマホを取り出した。 餃子はつさき 「はつね〜、ご飯できましたわよ〜」 ロフトで作詞作業をしているとさきちゃんの呼ぶ声。はーい、とお返事をしてから気付くのはごま油の良い匂いと少し辛みを感じる匂い。今日のご飯は中華かな!ワクワクしながら食卓へ向かう。 「来ましたわね、今日のお夕飯は麻婆豆腐を乗せた坦々麺と餃子ですわ」 「美味しそう!ねぇ、食べていい?」 「もちろんですわ、それとこれ。喉に負担かけないように飲むヨーグルトですわ」 差し出してくれたヨーグルトを飲むと酸味と甘さが美味しい。さきちゃんと一緒にいただきます、と手を合わせて食べ始める。 「あ、お酢貰っていい?」 「いいですわよ」 ありがとう、と声をかけてからお酢の瓶に口をつける。ん〜! この酸味が餃子の油っこさを流してたまらない! 「待って、初音? ゆっくりそのお酢をテーブルに置いてくださる?」 さきちゃんが驚いた様子で声をかけてくる。どうしたの?と首を傾げる。 「初音…健康に良くないですわー!」 そう叫んださきちゃんにお酢の瓶を取り上げられちゃった…なんで…… ハッピーハート症候群はつさき 「そういえば初音、こんな病を知っていまして?」 夜寝る前、二人でベッドの中で寝転んでいるとさきちゃんが語り出した。 「ブロークンハート症候群…過度のストレスにより心臓に負荷を与え不静脈や心停止を起こすこともあるそうですわ。例えば初音でしたら…わたくしが死んだり寝取られたところを見せつけたりした時かしら?」 えっ…さきちゃんが寝取られたり死ぬ…? 想像するだけで顔が真っ青になって動悸と息切れを感じる。 「例え話ですわ、わたくしが死ぬ時は初音と一緒ですし初音一筋ですわ。さて…ここからが本題ですわ。嬉しいことでもそれが起きるそうですわ」 さきちゃんに撫でられることで気持ちの落ち着きを感じながら話を聞く。嬉しいことで心停止かぁ…でも、嬉しすぎて死んじゃうってなんだか分かるかも。 「初音でしたら…ふふ、例えばわたくしとの子どもが産まれた時…とかかしら?」 さきちゃんとの…!? それは嬉しいし喜びが大きすぎるし…確かに死んじゃうかも… 「まぁ発症するのは基本的に高齢の方ですし問題は無いと思いますが…初音、心臓には気をつけるんですのよ?」 そう言ってわたしの胸元をとんっ、と突くさきちゃん。その仕草が可愛すぎて心臓止まりそうだよ…… 和菓子の日はつさき 「さきちゃんただいま〜」 「おかえりなさい、初音。あら…その袋は?」 帰ってきた挨拶をしてからリビングのテーブルに紙袋を置く。ずっしりとした重さから解放された腕が喜んでる気がする… 「和菓子だよ。今日は和菓子の日なんだって、それで折角だから和菓子屋さんでコーヒーと紅茶に合う和菓子買ってきたんだ」 開けてみて? とさきちゃんに促すとわらび餅やお饅頭、どら焼きなどを出していく。 「わらび餅にはアールグレイとか、どら焼きはキームン、お饅頭にはセイロンとかアッサムのミルクティーが合うんだって!」 店員さんに説明してもらったものを思い出しながら自分で説明していく。正直なところ紅茶の茶葉の種類はよく分からないんだけど…でもさきちゃんは紅茶に拘るみたいだから全部買ってきてみちゃった。 「まぁ…それではそれぞれ合わせて比べてみるのも良いですわね。初音も紅茶でよろしくて?」 さきちゃんの言葉にうん、と頷く。さきちゃんの紅茶好きが分かって以降はそれぞれ交代でお互いの好きな物を飲むことにしてる。もっとお互いのこと理解していかないとだからね。わたしは楽しそうに紅茶の準備をするさきちゃんを見て頬が緩むのを感じた。 汗だくはつさき 「あつ゛い゛……」 まだ6月なのに気温は真夏日らしい。キャップを被っていても陽射しからは守れるものの、灼熱はキャップに吸収されて頭を責めたてる。夕方になっても暑さはじりじりとわたしの体力を削るから汗が噴き出してしまう。 「や、やっと帰ってこれた…ただいま〜…」 「おかえりなさい、初音。暑かったでしょう? ハチミツレモンに炭酸水と少しの塩をいれましたから飲んでくださいな」 自宅まで辿り着き、扉を開けてリビングに向かえばクーラーによって冷やされた空気とさきちゃんがわたしを出迎えてくれる。 「んくっ…んく…ぷはっ。美味しい〜!」 暑さに水分を奪われていたわたしの体に染みるさきちゃんが作ってくれたドリンク。酸味と甘味とほのかな塩味…美味しいよぉ。と、ひと息ついたところでさきちゃんがわたしをじっと見てるのに気付く。 「どうしたの?」 「……えいっ!」 !? さ、さきちゃんがわたしに抱きついてくる! 汗で濡れてるからさきちゃんの体が冷えちゃう…というか汗臭くないかな!? 「すんすん…んはぁ、これ…良いですわ…」 わたしの胸元に顔を埋めて深呼吸するさきちゃん。そして蕩けた表情で呟くとまた深呼吸を再開して。え、えぇ…臭くなさそう…? なんか複雑だけど…さきちゃんが喜んでるからいっか…… キャラメルマキアートはつはき 「さきちゃん!今日は良いものを用意してみました!」 「良いもの?」 「じゃじゃーん! キャラメルシロップです!」 用意したのはバン○ーテンのキャラメルシロップ。ホワイトチョコレートをベースにしてるからコーヒーにも合うはず! だから淹れ終わったコーヒーにあっためたミルクを優しく注いで…それからキャラメルシロップを回しかける! 「できたよさきちゃん、キャラメルマキアート!」 きっとこれならコーヒーに飲み慣れてないさきちゃんでも美味しく飲めるよね。 「いただきますわ。まぁ…確かにコーヒーの苦味を覆うようにキャラメルの甘さがやってきて風味を増してくれますね」 やった! さきちゃんの反応的に成功だね! そう思って嬉しさを感じながらわたしはノーマルのコーヒーを飲む。うん…美味しく淹れられてる。と思ったらさきちゃんに手招きされて急にキスされる。 「ん…」 「さきちゃん!?」 「ふふ、初音の気遣いは嬉しいですが…この苦味もわたくしは好きですわ」 わたしの口の中にはキャラメルのものだけではない甘さが広がっていた。 朗読の日はつさき 「…初音、眠れませんわ」 ある日の夜中、ベッドに入ったさきちゃんがわたしを揺らしてそんなことを言った。眠れないかぁ、わたしも経験あるけど早く寝なきゃと思うと余計に眠れなくなるんだよね…なにか良い事…あっ、これやってみようかな。 「それなら…じゃん、これ読み聞かせてあげる」 「それは…絵本?」 「うん、今度sumimiの方で子供向け番組で朗読するから…それを聞いてみたら眠くなったりしないかな?」 わたしがそう言うとなるほど、と頷くさきちゃん。じゃあやるね? と許可を得てから本を開く。 「昔々、あるところに…」 ゆっくりと一言ずつはっきりと、でも力強くなりすぎないように言葉を紡いでいく。さきちゃんが眠れますように…と思いを込めて。 「…おしまい、どうかなさきちゃん…ふふっ、寝ちゃってる」 絵本を閉じて彼女の顔を伺うと穏やかな寝息を立てていた。良かった…ゆっくり休んでね、さきちゃんを起こさないように撫でてからちゅっとキスをした。 「おやすみなさい、さきちゃん」 グリコはつさき 「初音、随分と楽しそうでしたわね」 わたしが大阪から帰ってきてお土産を並べていると背後からさきちゃんの冷たい声が突き刺さった。 「えっと…楽しかったよ…?」 「海鈴とこんなことするくらいですものね!」 恐る恐る振り返って笑顔を向けるも目の前に突きつけられたスマホには海鈴ちゃんと一緒にグリコポーズをするわたしの姿。わたしも海鈴ちゃんも楽しそうだなぁ。 「いや、これはほら…大阪に行ったら定番のやつだしね…?」 しどろもどろになりながら言い訳するけど、さきちゃんのじとーっとした視線は変わらない。うぅ…どうしよう… 「初音はわたくしの前では良いとこ見せようとしすぎですわ」 「え…?」 「もっと、わたくしの前でもこんな風にはしゃいでくださいまし…」 そう呟いたさきちゃんの顔は寂しそうで、わたしは思わず抱きしめて。 「さきちゃん…ごめんね、これからは…もっとさきちゃんの前でも等身大のわたしを見せるよ」 「初音…!はい…!」 だらぶちはつさき 「うーむ…」 なにやらさきちゃんが唸っている。こういう唸り方とちらちらと感じる視線は大抵がわたしの「どうしたの?」待ちだから応えてあげないと。 「どうしたのさきちゃん?」 「次のムジカ、金沢でやるでしょう? なにか金沢特有のファンサがあればと思っているのですが……」 金沢かぁ、金沢っていうと有名なのは…金箔? でもそれを使ったファンサは難しいな…銀テを金箔で覆うだと流石にコストが高いし、と思ったところであることを思い出した。 「さきちゃん、こんなのはどう?」 「なんですの?」 「さきちゃんのだらぶち…」 彼女の耳元で金沢弁で囁く。愛音ちゃんが燈ちゃんに囁いたらすごく喜んでたと聞いたけど…さきちゃんにはどうかな? と黙り込んでるさきちゃんを覗き込んだら。 「はひゃ……可愛いですわ……」 「さきちゃーーーん!?!?」 遺言? を残して倒れ込んでしまった。 ダイソーはつさき 「はつねぇぇぇ……」 帰ってきたさきちゃんがいきなり泣きついてきた。さきちゃんを泣かせる人がいる…!? と思って抱き締めながら頭を撫でて話を聞くことにした。 「アクスタが売ってませんの……」 アクスタ? 首を傾げて詳しく聞くとこの前からコラボしているDAIS○のコラボ商品であるアクリルスタンドが店舗を巡ってもなかったらしい。 「そっかぁ…でもほら、さきちゃんには本物のわたしがいるしね?」 「そうですが!! 学校や別の仕事で初音がいない時も傍にいてほしいんですわ……」 さきちゃん、そこまで…! 確かにわたしも持ち運びに丁度良い大きさのさきちゃんのアクスタがあったらいつでも持ってるかも。今回のコラボではさきちゃんはいないけど…もしわたしが同じ立場だったら泣いちゃう可能性はあるね…… 「んー、それならわたしたち個人で作る?」 「それですわ! お互いの好きなポーズで作りましょう! 世界で一つのアクスタですわ!」 そういえば個人で作れるんだっけ…と提案したらさきちゃんが目を輝かせて。そんなに喜んでもらえて良かった…と思うこの時のわたしは今後待ち受ける撮影地獄を微塵も想像していなかった。 塩大福はつさき 「さきちゃん、現場で塩大福貰ってきたから食べない?」 食後のコーヒーを淹れながらさきちゃんに問いかける。今日の撮影は外だったから、塩分補給にも良いからと差し入れが塩大福だったんだ。 「まぁ、良いですわね。わたくしもコーヒーにしましょうか」 「うん、分かった。じゃあはい…これどうぞ」 二人分のコーヒーを淹れてからさきちゃんと並んで座る。うん…今回も美味しく淹れられてる。いただきます、と挨拶して大福を頬張ると塩気が餡子の甘さを引き立てて美味しい…コーヒーにも合うね。 「そういえば初音、ヤンデレの女の子が自分の汗を蒸留して塩にして味付けに使うっていうものがあるらしいですわよ」 「えぇ…? そんなの汚いよ…」 体液をご飯に淹れたりするなんて食材が勿体ないよ…しかも蒸留なんてそんなことする手間があるならお料理頑張ったらいいのに… 「でも…わたくしは初音のなら構いませんわよ?」 そう言うとさきちゃんがわたしの首筋をペロリと舐めてきて。想像してなかった行いに、わたしは悲鳴を出すこともできずに混乱していた。 わんこ預かりはつさき わふわふ、と鳴きながらわんこがさきちゃんの胸元に擦り寄っている。わたしのさきちゃんの!胸元に!! 「もう…目が怖いですわよ」 「だってぇ……」 「今日一日預かるだけでしょう?」 そうは言うものの、さきちゃんのそこへ甘えられるのはわたしだけの特権だと思っていたのにまさかわんこに盗られるなんて…可愛いけれどずるいよぅ…… 「仕方ありませんわね…ほら、おいで?」 さきちゃんがわんこをどけてわたしを招いてくれる。やったぁ! さきちゃん大好き! 「んふ〜…さきちゃんさきちゃん」 むぎゅぅと抱きついてさきちゃんの身体にすりすりと頬ずりする。あったかいし柔らかい…最高…… 「わふぅ…」 「困った旦那さんですわよね」 さきちゃんがそんなことを言いながらわんこを撫でてあげてるけど、わたしは嫉妬なんてしない。だってさきちゃんを抱きしめてるのはわたしだもんね! 万華鏡はつさき 「初音!おつカレイドスコープですわ!」 ん……? 楽しそうにやってきたさきちゃんがなんか変なこと言ってた気がする…気のせいだよね? 「ごめんさきちゃん、よく聞こえなかったからもう1回言ってもらっていい?」 「おつカレイドスコープですわ!」 気のせいじゃなかった! さきちゃん…たまに変なこと言い出すからなぁ。まぁ楽しそうだからいいんだけど…… 「えっと……どうしたの?」 「モールに愛音さんと遊びに行ったら手作り万華鏡が体験できるとのことで、初音をイメージした万華鏡を作ってきましたの。受け取ってくださるかしら?」 その言葉に勢いよく頷く! さきちゃんがわたしのために手作りしてくれただけでも嬉しいのに! 「じゃあ早速覗かせてもらうね?」 許可を取ってから万華鏡を覗くとキラキラと輝く景色が飛び込んでくる。わぁ…綺麗……さきちゃんの中でのわたしってこんなイメージなんだ、嬉しいな… 「ふふっ、その表情だけで感想は十分ですわ。明日はもっとすごいもの…差し上げますわね」 お誕生日はつさき 「じゃあ学校行ってくるね、帰ったらのんびりしようね!」  6月26日、今日はわたしの誕生日…さきちゃんが調整してくれたのか今日はお仕事がないし、学校が終わったら一緒に過ごしたいなと思って行こうとしたらさきちゃんに腕を掴まれる。 「休みなさい」 「えっ、学校を?」 「それ以外ないでしょう?」  当然のことのように言うけど、理由もなく学校休むのはいけないことだよ…… 「理由ならあるでしょう。このわたくしが初音を一日かけてお祝いしますの、まだ理由がいるかしら?」  ふふん、と胸を張るさきちゃん。うぅ、そう言われると自信が…って、一日かけてお祝い!? だからさきちゃん、まだパジャマのままだったんだ…… 「ではわたくしが担任の先生へ連絡しておきますので初音はお出かけ用の服に着替えていらっしゃい」  わたしはその言葉にこくん、と頷いて自室に駆けていった。     ────     「着替えてきたけど…どこ行くの?」 「それではまずは初音へのプレゼントを買いに行きますわよ」  そう言うと手を繋いで一緒に歩き出す。もう夏が訪れたかのように暑いけど、繋いだ手から伝わる熱は心地よいものだった。   「えっと…あの、ここって…」  辿り着いた場所は高級なジュエリーショップ…わ、わたし…場違いじゃ… 「なにを怯えてますの。行きますわよ」  そう言うとさきちゃんはすっと店内に入り、店員さんに出迎えられる。ひぃ…お辞儀が深い…… 「さて…初音、好きな石と指輪の形を選びなさい」 ゆ、指輪ぁ!? そ、そそそそそれって! 「…婚約指輪ですわ。そろそろ初音とも必要かと思いまして」  さきちゃん…! ちゃんとわたしたちの将来のことも考えてくれてたんだね! 嬉しい…嬉しいよぉ…… 「あぁもう! 泣くのやめなさい! ほら…逃げませんから、ゆっくり選びましょう?」 「うん…でも、わたし一人じゃなくて…さきちゃんと選びたいな」  わたしは泣き笑いしながらそうお願いしちゃった。     ────     「わたくしから最後のプレゼントはここですわ」  東京から電車で数時間。辿り着いたのは長野県のある村。旅館にチェックインしてお夕飯をいただいたら連れてこられたのは山頂だった。周りには誰もいない中、照明が輝いている。 「貸切にしたからゆっくり楽しめますわ。では初音…覚悟はよろしくて?」  さきちゃんの不敵な笑みに怖さを感じながらこくん、と頷く。 「では、お願いします」  さきちゃんの合図と共に照明が一気に消えて暗闇が訪れる。そしてさきちゃんに促されて空を見上げれば── 「綺麗……」  今にも手が届きそうな距離に煌めく無数の星たち。澄んだ空気のおかげか、東京で見る星よりも眩しく見える。無意識のうちに空に手を伸ばすけど、星に手は届かない。 「初音…わたくしから貴女に上げられるものは決して多くないでしょう。不満があることもあるかもしれません…それでもわたくしを選んでくれたこと、ありがとうございます。この星空と初音に誓いますわ、初音を世界で一番の幸せ者にすると」  さきちゃんが背後から抱きしめてそう誓ってくれる。嬉しさで視界が滲んでしまって。空を見上げていて、本当に良かった。 「少し体が冷えましたね…コーヒーを貰ってきますわ。わたくし…初音のおかげでコーヒーも好きになりましたから、責任…取ってくださいね?」  足音が離れていって。泣く姿…見ないようにしてくれたんだね、さきちゃん…ありがとう… 「さきちゃん…だいすき……!」  わたしの叫ぶ声は、星空に消えたけど、どこかの星にはきっと届いた。そんな気がした。 カラオケはつさき 「少し時間がありますわね……」 お仕事と打ち合わせの間、スタジオを出て事務所に向かう途中…このまま事務所に向かってもいいけど、少し待つことになりそうだった。 「折角ですし初音とカフェにでも…あ、初音。カラオケ行きませんか?」 何事か考えていたさきちゃんが指差す先、そこには地域最安値を謳うカラオケ屋さんがあった。わたしはそれにいいよ、と頷いて一緒に入り手早く手続きをした。ここは無人機でできるんだね…良かった。 「さきちゃんはなに歌うの?」 「ふっふっふ…これですわ!」 そして画面に表示されたのは、Imprisoned XII!? えっ、さきちゃんが…!? 「さぁ、初音…覚悟なさい?」 そのままさきちゃんはわたしのことをじっと見つめて目を逸らさずに歌っていく…はわ、はわわ…さきちゃん…そんなのダメだよ…… 「ふぅ…どうでした、初音? 初音?」 「はひ…監禁してくだしゃい……」 「気持ち…込めすぎましたわね……」 料理雑談はつさき 「そういえばさきちゃん、立希ちゃんって料理苦手なんだって」 二人でキッチンに立って料理をしながら愛音ちゃんから聞いた事をさきちゃんに語る。 「立希が? なんというか、予想通りですわね。不器用そうですし」 「ふふっ、予想通りって…でも立希ちゃんがエプロンつけてる姿は想像できないね」 立希ちゃんをよく知ってるさきちゃんが言うんだからそうなんだろうなって思うけど…余りにもバッサリ言うものだから笑っちゃった。 「でも初音も同棲したての頃は笑えなかったものですが…」 そう言って視線を向けてくるさきちゃんに、「も、もう…」としか言えない。だってわたし一人だけだし自炊するよりお弁当とか買ってくる方が楽だったもん…… 「そんな初音も今では安心して任せられるほどですし…愛の力で立希もなんとかなるでしょう。海鈴がなにを好きなのかは分かりませんが……」 「初音は…わたくしの好きな物、よぉく知ってますものね」 そう言ってさきちゃんが背後から抱きついてきて耳元で囁く。う、うぅ…包丁持ってなかったら危なかったよ… 髪の毛はつさき 「初音、こちらへ」 二人で入ったお風呂の後、ドライヤーを持ったさきちゃんに呼ばれる。いつからだったか、さきちゃんに髪を乾かしてもらうことが習慣になっていて…わたしは自分で乾かすよって言ってるんだけど、さきちゃんはどうしても乾かしたいみたい。 「やっぱり初音の髪は綺麗ですわね…」 ドライヤーのぶおお…という音に混じってさきちゃんが呟く。わたしとしてはさきちゃんの澄んだ髪の方が好きなんだけど…でも、わたしの髪をさきちゃんが気に入ってくれるのは嬉しい。無言だけど、さきちゃんがわたしの髪を優しく撫でてくれて、わたしのことを想ってくれるこの時間が好き。他の人は体験したことのない、わたしだけの時間。 「初音、終わりましたわよ」 そして乾かし終わるとヘアオイルを塗る前にさきちゃんはわたしの髪の毛にキスをする。感覚は通ってないのになんだかくすぐったくて、わたしはいつもこそばゆい。 「ありがとうさきちゃん」 お礼を言ってわたしはコーヒーを淹れに行く。これもいつものこと。赤くなった頬を隠すために。 キャッチボールはつさき 「初音、キャッチボールしましょう!」 そんな一言によってわたしたちは河川敷へとやってきた。いつの間に用意していたのかグローブもあって、わたしたちは距離を取って向き合う。 「いきますわよー!」 さきちゃんがそう言ってボールを投げてくるけど、女の子ぽい投げ方で大きく山を描いてぽてん、とバウンドしてから転がってきた。彼女はそれを見て照れたように笑っている。ふふっ、可愛いなぁ。少しかっこいいところ、見せちゃおうかな? 「さきちゃん、しっかり構えててねー!」 宣言してから構えを取って、さきちゃんのグローブ目掛けて投げたらボールは真っ直ぐとそこに吸い込まれてパシン! と軽快な音を立てて受け止められた。よしっ、幼い頃島で初華とやってた頃の動きは覚えてたみたい。 「初音…!? あなた、プロですわね…!?」 「違うよ!?」 「初音…投げ方、教えてくださりません?」 どうして急に…と思うと、オブリビオニスに始球式のお仕事が来たみたい。なるほど、と頷いてそれを了承して。 「ストライクを取りたいのですわ!」 「ふふっ、わたしの心にはいつもストライクだけどね?」 心のはしはつはき 「愛音ちゃんたち、かっこ良かったね」 Mygo!!!!!のツアーの初回、配信を見終えると感想がもれた。これまでもMygo!!!!!のみんなのライブは見てきたけれど、いつにも増してかっこよく見えた。合同ライブの時から半年も経ってないのにここまで成長しているなんて…… 「えぇ、皆さん…とても輝いていて…とても楽しそうでしたね。見てるこちらまで楽しくなりましたわ」 ムジカとはコンセプトが違うから当然だけど、爽やかさでお客さんたちを洗い流すようなライブはわたしには出せないものだから羨ましい。 「初音、わたくしたちはわたくしたちの良さで勝負しましょう?」 さきちゃんはそんなわたしの不安を感じ取ったのかわたしの手を取って真っ直ぐ見つめてくる。 「うん…! ムジカはムジカだもんね…!」 「ええ。それに…どんなにMygo!!!!!がカッコよくても…一番カッコいいのは初音ですから」 そう言ってにっこりと笑うさきちゃん。うぅ…そういうさきちゃんの方がかっこいいよ… 写真ポーズはつさき 「初音、気になったことあるのですが……」 さきちゃんがタブレットを見ながらわたしを呼び寄せてきた。なんだろう、太ってきた…とか? いやでも体重は増えてないしな…と思いながら彼女の方へと近寄る。 「あなた…このポーズ多くありません?」 そう言って見せられたのは、わたしが空の方を見上げながら笑顔を浮かべつつ、手のひらで光を遮っているポーズの写真。 「あぁ……」 さきちゃんの指摘に納得する。なんというか……ポーズ取ってくださいって言われて迷った時によくしちゃうんだよね、これ。眩しいけど笑顔を絶やさないわたし! って感じで可愛らしく健気さが通じるかなって…… 「ふむ…初音の意図は分かりましたわ。まぁ初音なら基本的になにをしてもかっこいいから問題はありませんが……」 わたしが説明したら頷いて理解してくれたけど、何故かわたしの全身をじーっと見てくる。は、恥ずかしいよぅ…… 「太陽すら味方につける初音…いえ、初音は月の女ですからそのままでいいですわね」 そう納得したように呟くとさきちゃんはそのままぽすんっとわたしにもたれかかってきた。よく分からないけど…さきちゃんがいいなら…良かった、かな? 焼肉はつさき 「初音、少しお説教ですわ」 家に帰ってきてくつろごうかな…とコーヒーを淹れようとした時、さきちゃんにそう言われた。な、なにかしたっけ…とさきちゃんの目の前で正座する。 「そこまでは…まぁいいですわ。初音、先程の打ち上げでの焼肉の時、自分がなにしたかを思い出しなさい」 さっきの…? 確かムジカのライブが終わって、海鈴ちゃんが打ち上げしたいと騒ぐからみんなで焼肉行って…私と海鈴ちゃんがお肉を焼いてみんなに渡してたけど…… 「…初音、あなたわたくしにしかお肉を渡さなかったでしょう」 「えっ、そんなことないよ!」 さきちゃんにそう言われて思い返す。ちゃんと同じく焼いてる海鈴ちゃんとか…に…あれ…? 「はぁ……まぁ百歩譲ってそれはいいですわ、海鈴がわたくしにお肉を渡そうとしたら威嚇しましたわね」 そ、そんなことしてな……してな……したかも…… 「全く…それでわたくしにばかり渡して自分は余り食べずにいて…わたくし想いなのはいいですが、少しは自分のことも考えて?」 さきちゃんにそう言われてはい…と頷く。さきちゃんに迷惑かけちゃった… 「もう…そんな顔なさらないで? 嬉しかったのは事実なのですから」 そう言ってキスしてくれるさきちゃん…えへへ、ありがとうさきちゃん! シュークリームはつさき 「初音〜、シュークリーム買ってきたから食べませんか?」 「シュークリーム、いいね! じゃあわたしはコーヒー淹れるね」 そう言ってさきちゃんが冷蔵庫から紙箱を取り出してお皿に並べてるのを横目にお湯を沸かしながら豆を挽いていく。 「それにしてもさきちゃんが買ってくるって珍しいね、いつもわたしが買ってくるのに」 「ふふっ、頑張った初音を労うためですわ」 わたしを? わたしってそんなにシュークリーム好きだっけ? と首を傾げる。 「いっシューかんお疲れ様ってことですわ!」 ……? さきちゃんがドヤ顔をしてるけどよく分からない。どういうこと…? 「えっとですね、一週間とシュークリームのシューをかけた洒落ですのよ…」 あ…あー! はいはい! なるほど! さきちゃんに解説されてようやく分かったよ…流石さきちゃん! 「初音のおばか!!!!!」 わたしが褒めたら顔を真っ赤にしたさきちゃんがリビングに行っちゃった……なんで……? 違うはつさき 「初音、わたくしを見てなにか気付くことはありませんか?」 お出かけの準備をしていたら、さきちゃんがやってきてわたしを見つめてくる。さきちゃんを見て気付くこと? 「可愛いこと?」 「あ、ありがとうございます…ってそうではなくて!」 まぁさきちゃんはいつでも可愛いもんね…そうじゃないってことは、メイクを変えた? うーん…じっくり見てみるけどいつものナチュラルメイクは変わってないように見える。 「あの…そ、そんなに間近で見られると恥ずかしいのですが……」 「やっぱりさきちゃんはいつも可愛いよ?」 「嬉しいですが違いますわ!」 んむむ…そこじゃないとすると…服装かな? 新しいお洋服を買ったのかな…と思ったけど、今着ている服は前にも見た…確かさきちゃんが2ヶ月前に3割引で買ったやつだよね、ポイントカードを作るか悩んで結局作ってたし。 「合ってますがそこまで把握されてるとちょっと怖いですわね」 「ごめん…分からないや…」 「全く…ここですわ」 そう言うとさきちゃんは自分の胸元を示して。胸元…? こてん、と首を傾げたら近付いてきて、おっぱいを押し付けてきて耳元で囁いてきた。 「初音のせいで…胸のサイズ、大きくなりましたの」 雨宿りはつさき 「はぁ…まさか雨が降るとは思ってませんでしたわ……」 少し遠出をした帰り道、折角の良い天気だから歩いて駅まで向かおうと歩いていたら突然の夕立に襲われてしまった。なんとか小さな屋根のある待合があるバス停にまでたどり着いたけど…わたしもさきちゃんも雨で体がびしゃびしゃになってしまっている。 「天気予報では晴れだったのにね…ってさきちゃん!!」 自分の服を搾りつつ、横目で見ると白いブラウスだから透けちゃって下着が見えちゃってる! ど、どうしよう…今はわたしだけだからいいけど…… 「なんですの…って…な、なるほど…」 わたしの視線に気付いたさきちゃんが恥ずかしそうに胸元を隠して。か、可愛い……けどそうじゃなくて! なにかあったっけ…えっと… 「初音…」 「さ、さきちゃん…?」 わたしが迷ってるとさきちゃんがピットリとくっついてきて。 「貴女の体温で乾かしてくださる…?」 「さきちゃん…うん…!」 さきちゃんの上目遣いのお願いに、わたしは勢いよく頷いてぎゅーっと抱きしめた。 七夕はつさき 「初音、ちょっとよろしくて?」 「んー、どうしたのさきちゃん?」 学校から帰ってくると、先に帰っていたさきちゃんに聞かれた。 「今日は七夕ですし、笹ももらってきたのでお願いごと、書きませんか?」 そう言うと、小さな笹と二つの短冊を見せられる。七夕かぁ、すっかり忘れてたな。さきちゃんにいいよ、とお返事すると短冊を前になにをお願いするか悩む。 「さきちゃんは…って、もう書き始めてる」 提案してきたことだし、やっぱり最初から決まってたのかな。うーん…あ、わたしはやっぱりこれかな。『さきちゃんとずっと一緒にいられますように』 「書きましたわね。では吊るしましょう」 「なんだか雰囲気出るねぇ。さきちゃんはなんてお願いしたの?」 「わたくしはこれですわ、『これからの初音の人生が幸福に満ちたものでありますように』。初音はなんですの?」 「さきちゃんとずっと一緒にいられるように、だよ」 「全く…ずっと一緒にいることは決まっていますのに。死ぬまで…いいえ、死んでも…いえ、何度生まれ変わっても一緒ですわよ」 そう言って笑うさきちゃんの姿に、わたしは嬉しくて思わず抱きついてしまった。 アクスタはつさき 「初音…初音ですわよ…」 「こんにちは(裏声)」 「初音…初音ですわよ…」 「こ、こんにちは…?」 さきちゃんがわたしのアクスタを持ちながら変なことやってる…なにがしたいんだろう…そう思って見てるもなにやら満足そうにしてからローテーブルの上に飾ってる。 「えっと…ど、どうしたの…?」 わたしがそう聞くとさきちゃんが「なにがですの?」と言いたげな顔をするからさっきの奇行…でいいのかな、を示す。 「あぁ…なんでもファンの間で根付いてる行為らしいですわよ、ご飯とかにアクスタやチェキを見せて「○○…○○だよ…」とするそうですわ」 へぇ〜と声に出す。わたしはあんまりファンのSNSとかチェックしないから気付かなかった。さきちゃんってそういうの調べてたんだね。 「というわけで、既に持ってると思ったので非売品のわたくしアクスタを差し上げましょう」 手渡されたのはさきちゃんが両手でハートマークを作ってるアクスタ…!? こ、こんなの…いくらあってもいいよ! 「そういうと思って10個用意したので差し上げますわ」 わーい! さきちゃん大好き! えへへ、えへへへへへ…!!! 日傘はつさき 「初音、あなたも日傘に入りませんか?」 スタジオまでの道のり、さきちゃんと二人で歩いて向かっていると隣で陽射しを避けるために日傘をさしていたさきちゃんから提案される。 「大丈夫だよ、わたしには帽子があるし…さきちゃんとくっついたら体温でもっと暑いよ?」 せっかく日傘で暑さが和らいでいるのにわたしが近付いたら意味がないもんね…一つの傘に入って歩くのは好きだけど…… 「……おばか…」 「さきちゃん?」 「なんでもありませんわ。それよりさっさと行きますわよ」 「ま、待ってよ〜!」 急に歩く速度が早くなったさきちゃんの後を追いかけながらふと気付く。さきちゃんの日傘…なんだか大きい?もしかして、さきちゃん…わたしと一緒に入りたくておっきいのにしたってこと…? 「さきちゃん!」 彼女の手を掴んで、日傘をわたしが持つ。二人で入るなら背の高いわたしが持った方が良いよね。 「…全く、遅いですわ」 そう言ってわたしの腕に腕を絡めてきて。ふふっ…暑いけれど、この暑さは嬉しい暑さだな。 コアラのマーチはつさき 「さきちゃんさきちゃん!」 「ど、どうしましたの初音」 慌ててさきちゃんを呼び寄せるとさっき見つけたそれらを見せる。手のひらの上にあるのは、『はつね』と『さきこ』と名前の書かれたコアラ○マーチ。まさかあるなんて…! 「まぁ…よく見つけましたわね。というか初音はちゃんと見ているんですのね」 「さきちゃんは見てないの?」 「食べられればいいので……」 なるほど、と頷く。そういえばさきちゃん…一時期大変だったもんね。そういう時こそ余裕は必要…だなんて言う人もいるけどそれは本人しか分からないし…… 「でもまさか一箱で見つかるとは…流石初音ですわね」 「えへへ、わたしも見つかるなんて思ってなかったから嬉しいなぁ。これも運命かな?」 わたしがそう言うとさきちゃんも「そうですわね」と言ってわたしの名前の書かれたそれを手に取る。 「初音、これ食べてもよろしくて?」 さきちゃんの疑問にうん、と頷く。お菓子だし食べないと腐っちゃうからね。 「ではいただきます…うん、初音…甘くて美味しいですわ。こちらの初音は…どんな味なのかしら?」 わたし(お菓子)を食べた感想を言ったさきちゃんが迫ってきて…う、うぅ〜…!!! 指の味はつさき 「あむ…」 作詞作業をしながらマカロンを摘む。仕事先から貰ってきたマカロンの詰め合わせ、マカロンはムジカでのあの時のことを思い出すけどなんだかんだ美味しいから食べてしまう。 「じーっ……」 ……と、そんなことを頭の片隅で思いつつ詞を考えているとさきちゃんが効果音を自分で言いながらすっごく見つめてきた。な、なに…? ちょっと怖い… 「わたくしにもマカロンくださいまし」 「なんだそんなことか…はい、どうぞ」 さきちゃんの言葉に箱を差し出すけど手に取らない。食べたいんじゃないの…? 「あーんってして!」 か、可愛い…子どもみたいに頬っぺた膨らませて怒ってる……でもそれならあげないとね。 「はい、あーん」 「あーん、あむっ」 「ひゃぁっ!?」 マカロンを差し出すとさきちゃんがわたしの口ごとマカロンを口に含んで。そのまま咀嚼するからさきちゃんの歯が当たってくすぐったい…! 「んー…こうするとせっかくの初音の味が薄れてしまいますね。やはり初音は初音単体でいただくべきですわね……」 カラオケ浴衣はつさき 「さきちゃん! 浴衣だよ!」 「あら…それは確かJ○YSOUNDさんとのコラボのやつですわね」 「うん! もう使わないからって貰えたんだ〜。どうかな?」 えへへ、と笑ってくるくるとその場で回ってみる。普段はこんな格好しないからちょっと違和感があるけど、これはこれでちょっと楽しいな。涼しいし! 「似合っていますが…初音、ちょっとこちらへ」 うん? 優しい顔してるから怒ってるわけではなさそうだけど手招きされたから近くに寄る。もっと近い距離でわたしを見たいとかかな!? 「胸元が乱れてますわよ、和服はこういうところきっちりしないと下品ですわ」 「あ…ご、ごめんね…」 さきちゃんが胸元の緩んでいたところを直してくれる。うぐ…しっかり締められたせいでちょっと苦しい。最初はわたしも締めてたけど苦しいから緩めちゃったんだよね…… 「それとも…初音はわたくしを誘うために緩めていたのかしら? それなら…美味しくいただきますが」 ぺろ、と舌を出したさきちゃんが舌なめずりする。そ、そんなつもりはなかったんだけど…! で、でもさきちゃんになら……! 「ふふ、冗談ですわ。でももし本当に食べられたいのなら…わたくしがお風呂をあがった時までに着直しておきなさい?」 そう言ってさきちゃんはバスルームへと消えていって…わ、わたしは…自分を見下ろして、浴衣に手をかけた。 オカルトはつさき 「そういえば初音って虫が苦手なんですのよね」 「え? うん、そうだけど…」 初華は虫が得意…というか好きだったけど、わたしはどうしても苦手なんだよね…生理的に無理、っていうのかな…… 「他に苦手なものはありますの?」 他に苦手かぁ…うーん、なんだろう…あ、騒がしい場所とか…? 「なるほど。では次の仕事は大丈夫そうですわね」 次のお仕事? なんだろう…最近はバラエティの仕事も受けるようになったけど、ドッキリの仕掛け人とか? 「オカルト番組ですわ、UFOとかそういうのですわね。星が好きだから宇宙人とかに忌避感ないかと思ってましたが…」 「別にそういうのはないかな? むしろロマンあるよね! 広い宇宙に知的生命体…会ってみたいなぁ」 「好きなものについて語る初音は可愛らしいですわね…まぁ、これなら安心ですわ。番組にはわたくしと出ますのでリードしてくださいましね」 「うん! 任せて! えへへ、楽しみだなぁ…いっぱい語るよ!」 さきちゃんと出られるだけでも嬉しいのにその番組がわたしの好きな物だなんて! ご褒美なお仕事だね…! 「一応ムジカのドロリスということは意識しておいてくださいましね……」 ラ・マルセイエーズはつさき 「栄光の日が来ましたわ!!!」 「な、なに!?」 朝ごはんを食べ終えてさて学校に行く準備をしよう…と思ったところでさきちゃんが急に立ち上がって叫び出した。 「武器を持ちなさい初音! 穢れた血がわたくしたちの畑を染めますわ〜!!!」 わたしたちは畑なんて持ってないし穢れた血ってなんのことなの…? さきちゃんどうしちゃったの…怖いよ…… 「んもう、ノリが悪いですわね。そこは『さきちゃんの旗の下に勝利を!』くらい言えませんの?」 「えぇ…? 朝からそんなテンションになれないよ…そもそもなんなの…?」 たまにさきちゃんはおかしくなるけど今日がその日かな…可愛いからいいんだけど、分からないこと多いから戸惑うんだよね…… 「フランス革命ですわ。自由と平等、博愛をわたくしも叫ぼうかと思いまして」 「あぁ…確かにさきちゃんは自由を求めて出奔したもんね。わたしもそうだけど」 結局豊川の家のことは利用してるけど…まぁそれでも今はこうして自由にさきちゃんと過ごせてるからいいかな。 「ですわね。だからわたくしたちも革命によって手に入れたこの自由…しっかり楽しみましょう?」 「さきちゃん…うん! わたしもこの生活を守るためならなんでもするからね!」 「ふふっ、その調子ですわ。さて…それでは学校へ行きましょう。愛音さんと革命ごっこしますわよ〜!」 回復体位はつさき 「…………」 さきちゃんがごろごろとしている。だらけた姿のさきちゃん可愛い…可愛いけど、今はお掃除中だからちょっと邪魔かな。 「さきちゃーん、どいてくれない?」 「…………」 わたしが声をかけるとちらりとこっちを見てくる。な、なにその目…なんか文句ありそうなんだけど…… 「お掃除の邪魔だからせめてソファに移るとか…出来ればお風呂掃除なんかしてくれると嬉しいんだけど……」 「邪魔? このわたくしがいるのが邪魔?」 あ、これめんどくさい時のさきちゃんだ。多分今日は完全なオフだからだらける日って決めてたのかな。うーん…いじけるさきちゃんは可愛いんだけど…… 「ふんっ」 「あっ! 自分で回復体位しないで! さきちゃん意識あるでしょ!」 わたしが反応に困って黙っていると拗ねたさきちゃんが回復体位を取って目を瞑りはじめた。むむむ…こうなったら強引にどけるしかないかな…抱き上げよう。そう思ってお姫様抱っこしたらさきちゃんが密着してきて。 「さきちゃん!?」 「引っかかりましたわね、このままわたくしを可愛がってもらいますわよ!」 もう…さきちゃんったら…仕方ないなぁ、と呟いてわたしは寝室に彼女を連れこんだ。 匂わせはつさき 「初音、言いたいことがあります」 ひぅっ…さ、さきちゃんのこの言い方とあの顔…なんだかよく分からないけどお叱りだ…! 「な、なんでしょう祥子さん…」 「何故敬語…? いえ、この匂わせのことですわ」 そう言ってわたしが投稿したSNSのポストを見せられる。『#今日のコーヒー』というタグと共にコーヒーの画像のポストだけど……確かにちょっと指輪のことを映したけれど、そんなに目立つかな…? 「目立つかと言えば目立ちませんわ。しかしそうではありませんの」 そうじゃないって…やっぱり匂わせなんてするべきじゃないってことだよね…うぅ、調子に乗っちゃったかな…… 「違いますわ! 堂々と載せなさい! もっとわたくしの初音だと示すのですわ!」 「えっそっち!?」 えっそっち!? まさか堂々と載せていいだなんて…えっ、嬉しいけどいいの…? 「良いに決まっているでしょう! 全く…わたしはSNSはプライベートのものしかないからできませんが、貴女は見せびらかせるのですから…」 そういう問題…いやいや、ファンに対して良くないとか…匂わせしたわたしが言うことじゃないけど…… 「はぁ…わたくしたちのファンなら喜びますわ。ということで写真撮りますわよ。ほらこっちに来なさい」 さきちゃんに抱き寄せられて、密着した状態で指輪を見せてる写真を撮られて。わたしはそのままさきちゃんに見守られながらポストして…通知がやたら来るスマホを置いた。 ゲイリーはつさき 「祥子が初音にコーヒーを持ってきましたわ」 「あ、ありがとう…?」 わたしが作詞作業をしているとさきちゃんがそんなことを言いながらコーヒーを持ってきてくれた。またなんか変なことを知ったのかな…なんて思いつつ、素直にありがとうと言う。 「なんでありがとうって言うんですの!」 「お礼を言って怒られることある!?」 な、なんて理不尽な怒られ方をしたの…もしかしてわたしが悪いの…? 「はぁ…せっかくわたくしが初音にコーヒーを飲んでリラックスしてほしいと思いましたのに…」 「えっと…リラックスできると思うけど…」 さきちゃんが持ってきてくれたんだしわたしは素直に休憩するけど…中々休憩してくれないさきちゃんと違って…… 「ちゃんと祥子に「ありがとう」と言ってくださいまし」 「わたし言ったよね!? 最初に言ったよ!?」 な、なにその文句のありそうな目…わたしが悪いの? えぇ…? さきちゃんなんかすごい理不尽だよ…… 「ありがとうさきちゃん…」 わたしがお礼を言う(渋々とだけど)と、さきちゃんは満足そうにむふーと息を吐いていた。なんだったの……? ボイスドラマはつさき 「さきちゃん! ボイスドラマの評判いいって!」 「当然ですわね」 わたしがこの前公開されたばかりのボイスドラマの試聴動画のY○uTubeのコメント欄を見てさきちゃんに報告すると、彼女はその言葉と共になんでもないように胸を張っていた。でもわたしには分かる、必死に隠してるけど口の端がにまにまとしてるもん。これは嬉しい時のやつだ! 「ねぇねぇ、ケーキ買いにいかない?」 「ケーキ? どうしてですの?」 「もう、分かってるでしょ? お祝いだよ!」 そう言うと頷いたさきちゃん。多分わたしの予想だとやれやれ、みたいなことを言いながらも同意してくれるはず…… 「全く…浮かれすぎですわよ? ですがそうですわね…それも悪くありませんわ。買いに行きましょうか」 ほらね? 最近は結構さきちゃんのこと分かってきたんだ〜。とはいえさきちゃんとのお買い物デート、しっかり楽しもっと! 丑の日はつさき 「ふっふっふっ……」 「どしたんですの初音」 わたしは不敵に笑いながらさきちゃんの前に立つ。待ちに待った今日は例のあの日。さきちゃんに突きつけなければ。 「今日は何の日でしょう!?」 「えっ? んー…あぁ、土曜の丑の日ですわね。ウナギでも頼みます?」 「そうじゃないでしょ! うのつくもの…つまりわたし!」 そう言うとさきちゃんはぽかんとした顔をする。んもー! なんで分からないかなぁ! 「ういか! みすみういかでしょ!?」 わたしが言うとあー、という顔をしたと同時にすぐに不思議そうに首を傾げるさきちゃん。 「はつね、だから違いません? 初華は妹でしょう」 「げ、芸名は初華だからいいもん!」 さきちゃんったら細かいんだから…もっとおおらかに考えてもいいと思うな! 「まぁ初音がいいならいいですが…では、お言葉に甘えて食べるとしましょうか。今日は寝かせませんからね?」 そう言ったさきちゃんがわたしを壁際まで追い詰めてきて、ドンッと迫ってきて。イケメンさを見せられたわたしは「はい…」と頷くしかできなかった。 漫才はつさき 「初音、漫才かコントやりますわよ!」 またさきちゃんが変なこと言い出した……今度はなにに影響されたんだろう。 「えーっと…どうしたの?」 「ほら、今度二人でリリイベをやるでしょう? そこでファンの皆様限定で披露しようかと」 うんうん、ファンサービスは大事だよね。分かるよ、sumimiでもリリイベだとそういうの…いや漫才やコントじゃないけどやってるから。 「ミニライブとかで良くないかな…? ほら、わたしたちは二人でやれるのあるし……」 「なに言ってるんですの! 新しいわたくしたちを見せなくてどうするんですの!」 AveMujicaの世界観はどこに行くつもりなの…? どーもーオブリビオニスでーす、なんて拍手しながら出てくるさきちゃん見たくないよ…… 「ユニット名はなんにしましょうかね…」 「待ってさきちゃん落ち着いて。よく考えよう? あの衣装ですれ違いコントなんかやったらシュールだよ」 「すれ違いコント!それですわ!」 あぁ〜! わたしのバカ! さきちゃんにアイデア与えちゃったよ!!! も、もうこうなったらバカなこと考えられないようにするしかない…! わたしはさきちゃんを抱き寄せて唇を重ね合わせつつ、舌を絡めはじめた。 海の日はつさき 「さきちゃん海の日だよ!!!」 「そうですわね…」 わたしの勢いと反してさきちゃんはなんだか冷めた感じ。あれ…? せっかくの海の日なんだからもっとこう…やったー! って感じにならないのかな? 「祝日なことは嬉しいですが…まぁそれだけですわね。そもそも今週末はライブですし」 うっ…そ、それはそうだけどさぁ! でも海の日なんだから海気分を味わいたいんだもん…! 「だからさきちゃん! 水着着て!」 用意しておいた水着をさきちゃんにぐいぐいと押し付ける。せめてこれくらいは…! 「わ、分かりましたわよ…」 わたしの必死な様子に納得してくれたさきちゃんがそれを持って寝室へと消えていく。やったー! さきちゃんの水着…!そうしてワクワクと待つこと何分か…さきちゃんが出てきた! 「ど、どうですか…?」 黒色をベースとしたビキニに白色のフリルがあしらわれた水着…上品ながらもさきちゃんの豊満な身体を覆うそれはすごく煽情的で目に悪い…! 「さきちゃん…最高…!」 ぐっと親指を立てるとわたしはスマホを取り出して撮影する。ふふ…これは待ち受けに…いや誰かに見られたらいけないかな…… スランプはつさき 「はぁ……」 キーボードの前に座ったさきちゃんがため息吐いてる…今回はわたしの方をちらちらと見ないから本当に落ち込んでるみたい……よし、お話聞いてみようかな。 「さきちゃんどうしたの?」 「スランプですわ…上手く弾けませんの……」 さきちゃんはそう言うけど、さっきまでの練習での演奏を思い出す。確かにいつも程のノリではないけど十分人に聞かせられる出来ではあったはず…… 「それではいけませんわ、ファンの方は高いチケット代や交通費、人によっては宿泊費まで払って聞きにきてくださるんですもの…前回を超える意気込みで挑まなければ。スランプだからと甘えてはいけませんわ」 さきちゃん…! かつてにゃむちゃんが言っていたこと、覚えてたんだね! うん、そういうことならわたしもしっかり協力しよう。 「さきちゃん、ライブまでの間…わたしがコーチになります。と言っても技術的なことはできないから…それ以外で」 「初音…ふふ、初音が傍にいてくれるなら心強いですわね。お願いしますわ」 うん! と力強く頷いてからわたしはスマホを持ってくる。まずは現状の問題点の洗い出しからするよ! と意気込んだ。 男装デートはつさき 「ういちゃん! 大変だよ!!」 「まなちゃん? どうしたの?」 sumimiでのお仕事でまなちゃんと会うなり、いきなりわたしにそう言ってきた。まなちゃんがそこまで慌てるってなにがあったんだろう、あっ! もしかして演技で褒められたとか? 「祥子ちゃんが浮気してたの!」 「え゛……?」 さきちゃんが…浮気…? そんな…学校以外では常にわたしといるようなものなのに、さきちゃんが浮気……? 「だ、誰と…? 写真ある…?」 「うん! ほらこれ!」 写真を見せてもらうとさっきまでのどんよりとした気持ちは吹き飛んでしまった。あははっ、なんだ…そういうことかぁ。 「ういちゃん笑ってる…浮気されたショックで……」 「違う違う! これはわたしだよ、たまにはしっかり変装しようってことで黒髪のウィッグ被って男の子の格好したの。よく見て? ほら…顔とかわたしでしょ?」 そう言って見比べるように言うとまなちゃんは納得してくれた。そっか…まなちゃんでさえも分からないなんて嬉しいな。帰ったらさきちゃんに自慢しよっと! TVライブはつさき 「初音、準備はできまして?」 「うん、バッチリだよ!」 ライブが目前に迫った日、今日はその宣伝も兼ねての生放送がある。しかも今回はムジカの全員で出演するというかなり久々の生放送なんだ。本当ならさきちゃんは別のお仕事があって来られなかったんだけど…えへへ、来られることになったんだ! 「はぁ…まだできていないでしょう?」 そう思っていたら、さきちゃんが呆れたように言う。え…? 衣装はバッチリだし、台本の流れは頭に入れた。大丈夫だと思うけど…… 「頑張りましょうのキスがありませんわ、ん」 「さ、さきちゃん…!」 いくら楽屋とはいえ、こんなとこでキスだなんて…でも、確かにキスはしたいな… 「まだですの?」 わたしが葛藤しているとさきちゃんがじとーっとした視線を向けてくる。よ、よし…! さきちゃん覚悟してね…! 「ん、初音…」「さきちゃん……」 さきちゃんを抱きしめて唇をしっかり重ね合わせて…ふわぁ…気持ちいい……     「なにやってるにゃむ……」 探知犬はつさき 「帰りましたわ初音〜」 「おかえりなさいさきちゃん! ん…?」 帰ってきたさきちゃんを出迎えたところで違和感に気付く。普段のさきちゃんと匂いが違う…くんくんくん、さきちゃんの体のあちこちを嗅いでいく。 「は、初音…? その…シャワーも浴びてないし恥ずかしいのですが…」 「この臭い…燈ちゃんだね? 浮気したの?」 わたしには隠せないよ、さきちゃんの体からうっすらと香る臭い…間違いない、燈ちゃんだ。体につくということは彼女と触れ合ったということ…許せない…! 「待ってくださいまし初音! 違いますの!」 「違う? なにが?」 キッ、とさきちゃんを睨みつける。よりにもよって燈ちゃんと…! 「体育の授業で二人三脚がありましたの! 愛音さんは他の方と組みましたからわたくしが燈の相手になりましたの!」 ふーん…? じゃあ愛音ちゃんに確認しよう。愛音ちゃんに連絡するとどうやら本当みたい、良かったぁ… 「さきちゃんごめんね…疑って」 「いいんですのよ、それだけわたくしのことを愛してくれてるってことですから」 長寝はつさき 「ん、んん……」 「あら、やっと起きましたのね初音」 わたしが太陽の光の眩しさで目覚めると隣にいたさきちゃんが本を閉じてそう言った。やっと起きた…って何時なんだろう、もぞもぞとスマホを見ると…11時!? えっ、わたし10時間も寝ちゃってたの!? 「ふふっ、ぐっすりと寝ていて可愛らしかったですわよ」 「な、なんで起こしてくれなかったの〜…!」 ライブ明けでせっかくのお休みだからさきちゃんと色々したかったのにもうお昼だなんて…うぅ、わたしったら不覚だよ… 「頑張った初音を起こすのはしのびなかったのと…あと、とても可愛らしい寝顔でしたから堪能したかったのですわ」 クスクスと笑いながら言うさきちゃんを見るとなにも言えなくなっちゃう。わたしったら本当にさきちゃんに弱いな… 「でもそうですわね…悪いと思うなら、今日はこれからわたくしのこと…可愛がってくれますか?」 そう言ってさきちゃんがわたしに抱きついてくる。ふわ…さきちゃんあったかい…クーラーのついている室内なのにわたしが熱くなるのが分かった。 イヤホンはつさき 「さーきちゃんっ」 おやつの用意ができたから一緒に食べようとさきちゃんを誘ったけれど無視されちゃう。目を閉じてるけど寝ちゃってるのかな…? 「さきちゃ〜ん」 肩に触れてゆさゆさと揺らすとさきちゃんがハッとした顔になって慌ててイヤホンを外した。むぅ…? なんでそんなに慌てる必要あるんだろう…あ、えっちな音声でも聞いてたのかな? 「さきちゃん、なに聞いてたの?」 「た、ただの音楽ですわ…えっと…そう、新曲のデモ音源ですわよ」 「そうなの? じゃあわたしも聞きたいな!」 冷静なさきちゃんが慌てるのがなんだか珍しくてちょっと意地悪したくなっちゃって。さきちゃんの手からイヤホンを拝借して耳にはめてみたらそこに流れていたのは。 『さきちゃん可愛い…いつも頑張ってるね』『ここ、こんなに熱いよ…? ほら、なにしてほしいのか言って…?』 「さ、さきちゃんこれって…」 「あぁもう! そうですわよ! 初音の声を聞いてましたの!」 そっかぁ…ふーん、えへへ…嬉しいなぁ。けど…一つだけ文句があるな。だからさきちゃんの耳元に口を近付けて。 「さきちゃん…直接、わたしの声を聞いて?」 「は、はひ…」 舞台の上はつさき 「ねぇ、初音」 二人で映画を見ている時だった。さきちゃんがわたしの手を握ってきた。 「なあに?」 画面に向けていた目をさきちゃんに向けるとわたしを呼んだにも関わらず視線は真っ直ぐに画面に向かっている。 「この世は全て舞台…人はみな役者、という言葉があるでしょう?」 シェイクスピア…確か、『お気に召すまま』の中の言葉だっけ。人は登場と退場を繰り返していく…だったかな? でもそれがどうしたんだろう。 「わたくし…昔はこの言葉にワクワクしていましたの。わたくしがこの映画のヒロインだって。生活の中にも伏線があって何か起きるんじゃないかって」 「うん…」 「いつしかそうは思わなくなって……でも、わたくしは初音という王子様に出会って、ヒロインになれて…わたくしはなんて幸せなんだろうって」 さきちゃん…そう思ってくれていたんだ。わたしのヒロインはずっとさきちゃんなんだけどね! 「初音のそばに居るといつでもドキドキワクワクしますの、これからも…わたくしを愛してくださいね?」 そう言ってやっとこっちに向けた笑顔を見て、わたしは迷いなくキスをしてしまった。 家出はつさき 「そういえば初音」 紅茶を飲んでいたさきちゃんが思い出した、と言いたげにティーカップを降ろして言葉を紡ぐ。 「あなた、家出してきましたのよね」 「う゛っ゛」 変な声が出る。確かに家出してきたし…家出して久々に帰ったら家がなくなっていたけど…… 「あぁいえ、責めたいわけではありませんわ。それで言うならわたくしだって家出してますし」 さきちゃんはそう言って、ふふっと笑う。全然気にしてない…まぁ、あの人がアレだから気にしないのもそうかも……わたしとさきちゃんは事情が違うけど…確かに家出仲間なのかも。 「しかもわたくしなんて2回ですわよ2回!」 あっはははと軽快に笑ってる。普段のさきちゃんからは見ないけど…酔ってたりする? 紅茶にブランデーでも入れてた? 「というわけで家出癖ついてるわたくしですが、初音はわたくしが家出したら迎えに来てくださりますわよね?」 さっきまでとは違ってしっとりとした表情で見てくるさきちゃん…情緒が忙しないな、なんて思うけど…安心させるように彼女の唇にキスをしてから微笑んだ。 ペイペイはつさき 「ありがとうございます」 コンビニでお買い物を終えて店内の邪魔にならないところへ。さきちゃんがお会計をすませるのを待ちながらぼんやりと彼女を見る。 「○イ○イでお願いしますわ」 \○イ○イ!!!/ 「えっ」 さきちゃんのお会計の仕方に思わず声がもれる。そのせいで傍を通った店員さんに見られたから謝っておく。さきちゃんのせいだよ…… 「お待たせしましたわ…ってどうしましたの」 わたしの元にやってきたさきちゃんをじとーっと睨みながらコンビニを出てお家までの道を歩く。 「さきちゃんってキャッシュレス決済使うんだね……」 「……? そりゃあ使うでしょう、便利ですし」 そうだけど…なんていうか、さきちゃんはドヤっとクレカを出してお会計するものかと思ってたと彼女に言う。 「わたくしをなんだと…いいこと、初音? キャッシュレス決済はものによってはポイントが溜まりますしクーポンもありますの、使って損はありませんわ」 なるほど…と頷いてさきちゃんが見せてきた画面を見るとポイントがめっちゃ溜まってた。そんなに……? バニーガールはつさき 「さきちゃん!ぴょんびょん! 初音うさぎだぴょん!」 なんでも今日8月2日はバニーの日らしい。海鈴ちゃんから立希ちゃんにバニーガールの格好をしてもらうらしいと自慢してきた(前に羽沢珈琲店でしてたらしい)から…というわけでもないけど、バニーガールの衣装を用意して着てみました! さてさて、さきちゃんの反応は……? 「初音」 「はいっ!」 すごく真剣な表情をしている…これはもしや、わたしの可愛さに息が止まりそうになったとか!? 「うさぎはぴょんとは鳴きませんわ、舐めてるんですの?」 え、えぇ…? まさかダメだしされるなんて思ってなかった…脚を組んださきちゃん…あっ、パンツ見えそう…… 「バニーガール…確かに可愛いですわ。初音が着れば更にそこに淫猥さも加わりわたくしの情欲を唆る…ふむ、流石初音と言わざるをえませんね」 「な、なら…!」 すごい褒めてくれる…て、照れちゃうな…えへへ。 「ですが鳴き方だけはダメですわね。だから…わたくしがベッドで鳴き方を教えて差し上げましょう」 そう言ったさきちゃんが立ち上がってわたしの頬を撫でながらクスりと笑って。わたしはそんなさきちゃんに、はい…と小さく頷いた。 ミネラルはつさき 「見てみてさきちゃん、ウォーターサーバーのCMだよ」 二人でテレビを見ている時のこと、CMでわたしたちに馴染み深いウォーターサーバー、メーカーは違うけど…が流れてきた。 「懐かしいですわね…あの経験も悪くないものでしたわ」 わたしとしてはさきちゃんにクレーマーが絡まないか不安だったけれど…さきちゃんがそう言うならきっと大丈夫だったんだね。 「そういえば初音、あなた電話してきましまわよね?」 「え゛」 バレてた…!? そんな、わたし名乗ったりしてないのに…! 「契約の話をせずにだらだらと話を引き伸ばす…わたくしのことをさきちゃんと呼ぶ…もう初音しかいないでしょう」 くっ…不覚だった…確かにわたし、さきちゃんとお話したかったし名前も呼んじゃってた…! 「あと、わたくしに当たるまでかけ直してきたりしたから『豊川さんリセマラ』って周りに呼ばれてましたわよ」 豊川さんリセマラ!? え、えぇ…? なにその呼ばれ方…なんか複雑… 「ちなみにブラックリスト入り手前でしたわ」 「え゛っ゛」 地球儀はつさき 「あら、初音ったらなにしてますの?」 わたしが地球儀をくるくると回しているとさきちゃんが声をかけてきた。わたしはさきちゃんへと目を向ければ、地球儀を見せて口を開く。 「もし旅行するならどこへ行こうかなって」 「旅行するなら…ですか」 うん、と頷いてまた地球儀を回す。実際の地球を見るのは難しいけれど、こうして作られた小さな地球は簡単に回せてしまう。まるでわたしたちがどこへでも楽々と行けちゃうみたい。 「そうですわね…わたくしでしたらイギリスに行って本場の紅茶を楽しみたいですが、初音とならブラジルでコーヒーを楽しむのもいいですわね」 「一緒に行ってくれるの!?」 「えっ行きませんの!?」 ビックリした様子でお互いに見つめ合う。さきちゃん、わたしと一緒に旅行したいだなんて可愛いなぁ〜! 「……わたくしと初音は一心同体、生涯を共にする夫婦なのですから…当然でしょう」 「さきちゃん…! そうだね、ずっと一緒だよ!」 もちもち三角はつさき 「さきちゃんなに食べてるの?八つ橋?」 わたしが帰るとコーヒーの匂いと共にさきちゃんが出迎えてくれた。なにやらもぐもぐと食べながら。 「これですの? 初音ですわ」 「わ、わたし!?」 持っていた三角形の…なんだろうあれ、八つ橋みたいな…お菓子を見せられるけどわたしっぽさはない。ないよね…? 「初音はもちもちとしていて美味しいですわね」 そう言いながら食べる手を止めずにいるからむうぅ…と頬が膨らむ。わたしだってもちもちしてるもん! ……ってそうじゃなかった! お菓子に張り合ってどうするのわたし! 「ふふっ、本当はこれですわ。『もちもち三角』というお菓子ですのよ。バター餅ですわ」 お餅かぁ、しかも名前が三角って…そういう意味でわたしって言ったんだね。 「ねぇねぇ、わたしも食べていい?」 「もちろんいいですが…共食いになってしまいますわよ?」 「もー! さきちゃんの意地悪!!」 わたしがぽかぽかとさきちゃんを叩くとクスクスと笑った彼女はもちもち三角をわたしの口に入れて。口の中に広がる優しい甘さにわたしの怒りは薄れていったのでした。 バ先はつさき 「つ、疲れましたわ……」 「お疲れ様さきちゃん、大丈夫? 紅茶飲む?」 バイトから帰ってきたさきちゃん(わたしはもうバイトには行かなくてもいいんじゃないかなって思うんだけど、どうやらそういうわけにもいかないみたい)に声をかけると、彼女はふるふると首を横に振る。 「初音…ぎゅってしてくださいまし…」 「いいけど…珍しいね、さきちゃん」 さきちゃんがこんな素直に甘えてくるなんて…いや、珍しくないかもしれない…? とはいえさきちゃんが求めてること、わたしはさきちゃんをぎゅーっと力強く抱きしめる。 「はぁ…初音に包まれるとほっとしますわ……」 「なにがあったの……?」 しみじみ、と言った様子で呟く彼女の頭を撫でながら余りの疲れように問いかける。 「変な迷惑電話がありまして…精神的に疲れましたわ…」 そっかぁ…コールセンターだしクレームとか入れる人もいるよね…さきちゃんにイヤな思いさせる人は許せないけど……わたしにはどうしようもないし、今はたくさん甘やかしてあげよう。 sumimi嫉妬はつさき 「…気に入りませんわね」 「えっ!? 紅茶の味が良くなかった!? 淹れ直してくるね!」 わたしとさきちゃんがテレビを見ながらのんびりとティータイム(わたしはコーヒーだけど)を楽しんでる時だった。さきちゃんがそんなことを言い出した。 「違いますわ! 初音の淹れ方は問題ありせんわ!」 「なんだ…良かったぁ。それじゃあなにが気に入らないの?」 「あれですわ」 あれ? と首を傾げながらテレビを見るとわたしとまなちゃん…sumimiが出演してる番組がやってる。『sumimiの行ってきまsumimi』っていう番組(わたしたちが色んなところにロケに行って地元の人と触れ合ったり体験したりって内容)だけど…どうしたんだろう。 「わたくしの初音だというのにまなさんは仲良さげに……!」 ギリィ、という音がしそうなほど歯ぎしりしてる。仲良さげ…って、仲良しだから仕方ないんじゃない? 「こうなったらわたくしたちも何かやりますわよ! ドロリスとオブリビオニスの…なんかですわ!」 そう言って立ち上がったさきちゃんはノートPCを持ってきてパワポを開いていた。 「ふふっ…それじゃあわたしも協力しよっかな」 どうしようはつさき 「眠いですわ……」 起きてきたさきちゃんが目を擦りながら呟いた。訳あって夜更かししたせいで眠いのは分かるけど…今日はこのあとムジカとしてのお仕事なんだからしゃっきりしてほしいな。 とはいえさきちゃんはそこら辺はプロだから多分大丈夫だろうけど…… 「さきちゃん大丈夫? コーヒー飲む?」 「眠過ぎてどウシようかしら…」 ……? なんか変なニュアンスだったけど飲むのかな…取り敢えず多めに淹れておこう。さきちゃんが飲まなかったらわたしが飲んじゃえばいいんだし。 「……初音?」 「な、なに?」 なんかさきちゃんの声が怖い。わたし…なにかしちゃった? 「ミルクは…?」 ミルク…? なんで…? えっ、さっきの会話でミルクの要素なんかあった? 「どウシようと言ったのですからミルクでしょう!?」 どうしよう…ミルク…? え…どこに…んん…? あー…うし、だからウシ!? 分かるわけないよ…… 「ごめんねさきちゃん、用意するね……」 とはいえわたしのお姫様からの要望だし…と冷蔵庫から牛乳を取り出した。 立希誕生日はつさき 「さきちゃん、ちゃんと渡してきたよ」 立希ちゃんの誕生日、わたしは海鈴ちゃんと被らないように立希ちゃんに会いに行っていた。目的は誕生日プレゼントを渡すため…わたしの分と、さきちゃんからの分の二つを。 「反応はどうでした…?」 「あー…えっとね、自分で渡しに来い…だって」 「うぐっ…そ、そうですわよね……」 でも、口ではそうやって強がってたけど本当はすごく嬉しそうだったよ…っていうのは言ってあげた方が…ううん、ここはさきちゃんのためにも心を鬼にした方がいいよね。とはいえこれは伝えておかないと。 「で、でもプレゼントは受け取ってくれたから!」 「そうですか…ならいいのですが…」 うーん…やっぱり落ち込んじゃってるなぁ…さきちゃんにはあんまり悲しんでほしくないけど…流石にさきちゃんが悪い所とあるからなぁ。 「ね、それならさ…今度わたしと一緒に立希ちゃんと会おう? そこで改めてお誕生日おめでとうって伝えるの」 「…そうですわね、初音…お願いしますわ」 不安そうにこくり、と頷くさきちゃんに大丈夫だよ、と手を握った。 わたくしだけ見てなはつさき さきちゃんが何か作ってる。厚紙…かな? を丸く筒状にしてテープで止めて…あ、完成したみたい。むふーって顔してる。でもあれでなにするんだろう、星を見る…には簡易すぎるし……なんて思っていたらさきちゃんに呼ばれる。 「初音、この穴に顔を入れてくださいまし」 「いいけど……」 さきちゃんが突き出してきた筒に顔を入れる…すごい、わたしの顔にぴったり嵌る。 「よし…これで初音はわたくししか見れませんわね」 「わたしは元からさきちゃんしか見てないよ!?」 反対側の穴にはさきちゃんが顔を嵌めて、わたしの視界にはさきちゃんの顔だけが現れる。でもこんなことしなくてもいいのに…… 「嘘おっしゃい! sumimiではまなさんとイチャイチャして、プライベートでは愛音さんと密会して…!」 怒りながらも泣きそうな顔をしてるさきちゃん。そっか…わたし、知らないうちにさきちゃんを悲しませてたんだ…さきちゃんの恋人なのに、ダメだなぁ…… 「ごめんね、さきちゃん…そんなつもりじゃないけど…勘違いさせちゃった」 わたしは筒を外すとさきちゃんを抱きしめる。 「さきちゃん…わたしの愛してる人はさきちゃんだけ、どんなことがあっても貴女のそばに居るから……」 そう言ってぎゅぅっと力強く抱きしめる。そうしたらさきちゃんも抱きしめかえしてきて。少し痛いけれど、今はその痛みが心地よかった。 夏休みの宿題はつさき 「そういえば初音、聞きたいことがありますの」 「なあに?」 わたしがコーヒーの用意をしているとさきちゃんが声をかけてきた。手は止めずにどうしたの? と尋ねるとさきちゃんが口を開く。 「夏休みの宿題はやってますの?」 「…………」 わたしの手がピタっと止まる。宿題…宿題ね、うん…… 「……やってますのよね?」 「あー……うん、やってる…やってるよ…」 嘘は言ってないから…やってはいる…やってはいるもん…… 「はぁ……持ってきてくださいまし」 !? 持ってくる!? 宿題を!? 「そ、そんなことしなくて良いんじゃないかな? まだ夏休みはあるよ? それにほら…お仕事だってあったし!」 わたしがそう言うとさきちゃんの顔が呆れ顔になった。あぁ…さきちゃんのその顔も可愛いけど今はその顔向けないでほしいよ…… 「全く…わたくしが家庭教師になってあげのうと思いましたのに。初音がイヤなら構いませんわ」 えっ!? さきちゃんが家庭教師…? スーツを着てメガネをかけたさきちゃんがわたしに手取り足取り教えてくれる…? 『ほら初音…ここに代入してくださいまし…』 うへへ…! 「すぐ持ってくるね!」 ガチャはつさき 「さきちゃん…もうやめようよ…」 「あと一回…あと一回だけですわ…!」 「それ言ってもう五回目だよ…」 わたしとさきちゃんはガチャガチャの機械の前にいた。さきちゃんがレバーを回してる機械に入っているのはAveMujicaミニフィギュア…わたしたちが小さいスケールフィギュアになってるもので出来が良いって評判なんだ。さきちゃんはそれを回してて…… 「次こそは初音が出る気がしますの…!」 「そう言って回して出てないじゃん……」 かれこれさきちゃんが回してるのはもう二桁に到達しそうなくらい。内訳は…うん、内緒にしておこうかな。 「初音…回してくれませんこと?」 「いいけど……これで最後だからね?」 さきちゃんがお金を入れてわたしに回すよう要求するから回したら出てくるのは黄色のカプセル。 「初音ですわ! やったー! やりましたわ!!」 中身を確認したさきちゃんが喜んでる。むぅ…喜んでるさきちゃんは可愛いけど…本物のわたしがここにいるのに。 「さきちゃん…わたしならその子にできないこと…してあげるよ?」 だから…わたしはさきちゃんを抱きしめて耳元で囁いた。 sumimiはつさき 「sumimiのお手伝いしまsumimi〜! 今日はこちらの人のお手伝いをします!」 「ごきげんよう、AveMujicaのオブリビオニスこと豊川祥子ですわ」 カメラが回り、まなちゃんがタイトルコールをしてさきちゃんを紹介し、さきちゃんは挨拶してる中、わたしはどうしてこうなってるんだろうと思いを馳せる。確か…そう、この番組は困ってる芸能人や一般視聴者さんのお悩みを解決するという番組…今日のゲストはわたしが驚く人だからと言われて台本も渡されないままやってきたらさきちゃんがいて…… 「今日は祥子ちゃんでいいのかな? それともオブリビオニス祥子ちゃん?」 「祥子でお願いしますわ」 はーい、とお返事するまなちゃんに「元気がいいですわね」と微笑むさきちゃん。うん…仲が良くて微笑ましいなぁ。 「ところでういちゃん、黙ってるけどどうしたの?」 「な、なんでもないよ!? さきちゃんはどんなお悩みを持ってるのかな!?」 まなちゃんから振られて慌てて番組の進行をする。 「実は…わたくしの旦那の初華が最近冷たくて…夫婦の仲を熱々にするお手伝いをしていただけませんか?」 ……えっ!? 「わーお、でもそれは大事なことだよね…sumimi、承りました!」 承らないでまなちゃん!? サメパジャマはつさき 「さきちゃんさきちゃん、じゃーん! がおー! 食べちゃうぞー!」 お風呂からあがってしばらく、あとは寝るだけという段階の時にわたしはあらかじめネットで買ってコンビニで受け取っておいたパジャマを着て現れる。 「えっと…初音…それは?」 「SNSで話題のサメパジャマだよ! えっちで可愛いパジャマを着てさきちゃんを驚かせるよ!」 ふふん、とわたしは胸を張る。なんだかさきちゃんからの視線が変な気もするけど気にしない! ふふん、可愛いわたしに見とれてるのかな? 「…ちなみにそれ、下はどうなってるんですの?」 「下着だよ?」 それがどうしたの? と首を傾げる。パジャマなんだし暑いのはイヤだもん。 「ふー……よし、大丈夫ですわ。落ち着きましたわねわたくし」 「ふふふ、襲っちゃうぞー! ぎゅーっ!」 なんか深呼吸してるさきちゃんに勢いよく抱きつく。ふふふ、食べちゃうぞ、がぶがぶ! 「……もう怒りましたわよ、覚悟しなさい」 え…あれ? やば…わたし、逆鱗に触れた? 怒らせたいはつさき 「さきちゃんちょっといいかな…?」 わたしはソファでごろごろしてる彼女に呼びかける。 「なんですの?」 「脱いだ服はちゃんと洗濯カゴに入れてほしいんだけど……」 いつもはちゃんと籠に入れてるのに今日は何故か脱ぎ散らかしてあるから注意しておこうかなって…あとその…目に悪いし…… 「別に初音がやってくれるからいいじゃありませんの」 「確かにわたしがやるけど…いつもはちゃんとしてるじゃん、どうしたの?」 「初音に関係あります?」 「あるよ!? 夫婦でしょ!?」 「…そうですわね……」 さきちゃんが「しまった」と言いたげな顔をする。やっぱりなにか思惑あるのかな…… 「…それにしても初音、怒りませんわね。怒ってる初音が見たいというのに……」 「え? まぁ…怒るほどのことでもないし……」 そう言うとすごいため息を吐くさきちゃん。えぇ…? わたしが悪いの……? 味覚はつさき 「初音、これから結構ガチな相談をしますわ」 「えっ…なにどうしたの…?」 ご飯を食べ終えるとさきちゃんがそう切り出してくる。わざわざガチとつける辺り本気で悩んでるんだね…ちゃんと相談に乗ってあげないと! 「…初音の『美味しくなぁれ♡はつはつきゅん♡』がないとなにを食べても美味しくありせんの」 「……?」 ??? 首を傾げてさきちゃんを見つめるとすごい真剣な顔に陰がさしているから本気なんだって分かるけど…えっと…え…? 「初音のせいですわよ…!!」 わたしのせいなの!? 確かにさきちゃんとご飯を食べる時はいっつもそれをやってるけど……さきちゃんがすごい喜ぶから恥ずかしいけどお外でもやっててにゃむちゃんに白い目で見られたことはあるけど…… 「外食しても美味しくありませんし、おやつを食べても満足できなくて…責任取ってくださいまし!!!」 「責任って言われても…どうしたらいいの…?」 だってわたしのせいじゃなくない…? いや百歩譲ってわたしのせいだとしても…どう責任取ればいいの……? 「これからはわたくしの食べるもの全てに『美味しくなぁれ♡はつはつきゅん♡』ってしてくださいまし」 「わ、分かったけど…一緒にいられないときは…?」 「いつも一緒にいるんですのよ!!!」 「はひぃ…」 子どもはつさき 「初音、お待たせしましたわ…ってどうしましたのその子…?」 「さきちゃんどうしよう……」 お手洗いから戻ってきたさきちゃんを待つわたしの傍には小さな子ども。そしてその子の小さな手を握っている。 「……なるほど、迷子の子どもに頼られて懐かれた…と。仕方ありませんわね、デートは一旦中止、お母様を探しましょう」 そう言ってさきちゃんが屈んで微笑みかけると、子どもはぷいっと顔を背けてわたしに隠れてしまう。わわわ…さきちゃんは怖くないよ!? 「……まぁ、子どもですから許しますわ。ただ覚えておきなさい、初音はわたくしのですわ」 そんな子どもに対抗しなくてもいいのに…わたしの手を握る力が強くなったから握り返してあげるとさきちゃんが歯ぎしりをしていた。 🌙 🌙 🌙 「お母さんが見つかって良かったね」 「ええ、それにしても疲れましたわ…」 ベンチに座ってコーヒーを飲みながらさきちゃんと寄り添う。あれからしばらく歩き回ってようやく見つかったけど、わたしたちはヘトヘトで。 「でも…子どもというのは良いものですわね。わたくしも…初音との子、欲しいですわ」 そう言ってさきちゃんが上目遣いでわたしを見てきて…わたしは小さく頷きながら、生唾を飲み込んだ。 小学生メイドはつさき 「あのー…さきちゃん? これその…本気?」 わたしはあるコスプレをして目の前のさきちゃんに問いかける。正直言って、このコスプレはすごく恥ずかしい…露出とかがあるわけじゃないんだけど…なんというか、精神的に…! 「初音、さきちゃんではなくお嬢様…でしょう?」 「うぅ…はい、お嬢様…」 「敬語でもないでしょう? あなたは小学生メイドですわ」 だから小学生メイドってなんなの…? わたしはメイド服にランドセルを背負っていて。まさかこの歳になってまたランドセルを背負うことになるなんて思わなかった… 「う、うんっ! お嬢様にいーっぱい御奉仕するね!」 「ふふふ、そうですわそうですわ…ではまずは紅茶を淹れてもらいましょうか」 わたしが小学生っぽく…とはいっても、わたしはこんな溌剌とした小学生じゃなかったから初華の真似だけど……そうしたらさきちゃんがすごく喜んでて。さきちゃんの趣味、時々分からないよ…… 行ってきまsumimi2 「sumimiの行ってきまsumimi〜! 本日のゲストはオブリビオニス祥子ちゃんです!」 「ごきげんよう、豊川祥子ですわ」 まなちゃんのタイトルコールとゲストの紹介に合わせてさきちゃんがやってくる。あ、浴衣姿だ! 可愛いなぁ。 「今日はお祭りを楽しもう! ということでみんな浴衣でお送りします! ういちゃん感想をどうぞ!」 「え…? あ、うん…まなちゃんは白色をベースに緑色のアクセントが涼し気な印象を与えてきて可愛いよね。さきちゃんは水色かと思えばまさかの黒色! 髪の色とは反対の赤色が映えてて素敵だね、それにさきちゃんの髪の毛がポニーテールになってるからうなじが見えてすごくえっちだし、歩く度に揺れるポニテが…」 「ういちゃんストップ! 祥子ちゃん照れてるから!」 まなちゃんに言われてさきちゃんを見ると顔を真っ赤にしながら俯いてる。しまった…さきちゃんを褒められると思ったらつい…… 「と、とにかく! 今日はお祭りをお二人がエスコートしてくださるのでしょう?」 「うん! それじゃあまずは、まなのプランから! 早速しゅっぱーつ!」 ミーティングはつさき 「ん…んぅぅ…?」 ピロンピロンと鳴り続けるスマホのうるささに目が覚める。こんな時間にうるさいな…とスマホを見ると午前10時をとっくに過ぎている。その時間と海鈴ちゃんからのしつこい通知で思い出した。 「……あっ、会議!さきちゃん起きて!」 ムジカでビデオ会議の予定があったんだった…慌てて隣で寝てるさきちゃんを起こし、タブレットを起動して会議部屋に入った。 🌙 🌙 🌙 「お疲れ様!」 「おつかれさまですわ…紅茶飲んできますわ…」 ふぅ…なんとか乗り切れたかな。みんなに挨拶をして切ろうとしたところでさきちゃんが立ち上がる…あっダメ!!! 「さきちゃん!!」 「……?」 あぁぁぁぁ…画面いっぱいに映るさきちゃんの下半身…そしてパンツ……間に合わなかった…… 「「「…………」」」 「ま、またね!」 いたたまれなくなったわたしはすぐさま退出して、全てを忘れることにした。 バニーの日はつさき 「初音、待たせましたわね!」 扉の外からさきちゃんの堂々とした声がする。『今日の夜は楽しみにしてなさい!』とさきちゃんが言っていたけど…なにか特別なことあったかな? でもさきちゃんがわざわざそう言うってことだから楽しみだなぁ。 「わたくしのこの可憐なバニーに見蕩れなさい!」 「お゛っ……!」 ババーンっと扉を勢いよく開けてやってきたさきちゃん。そんな彼女が身につけていたのは光沢のついた水色のバニースーツ…さきちゃんのたわわなお胸が揺れてこぼれそうになってる上に、さきちゃんのおっきなお尻が強調されて…す、すごい…! すごいよさきちゃん! 「ふふっ、どうやら喜んでいるようですわね? では初音…今日のわたしはボーパルバニー、そんなバニーを倒してくださいましね」 そう言うとさきちゃんが飛びかかってきて、ちょっと危ないよ!? それにボーパルバニーって殺人うさぎじゃん!! 「さぁさぁ、悪いうさぎを討伐しないといけませんわよ?」 クスクスと笑うさきちゃん…そっちがそのつもりなら、わたしだって負けないんだから! 抹茶はつさき 「今日のおやつは抹茶プリンと抹茶ラテだよ!」 「抹茶? 珍しいもの買いましたわね」 「なんでもかなりの人気店みたいでたまたま立希ちゃんが並んでいたから買ってみたんだ」 「へぇ…立希がわざわざ。それは確かに気になりますわね」 「じゃあ食べよっか! いただきま〜す」 二人で手を合わせてまずは抹茶プリンから。スプーンをそっとプリンに入れると柔らかかと思いきや結構弾力がある。流行りの固めなプリンなんだ。それを口に運ぶと口の中に広がる爽やかな抹茶の香りと苦味。でも不快な苦味じゃなくて香りと調和する美味しい苦味だ。 「美味しいですわ…これは人気なのも納得ですわ」 さきちゃんの言葉に同意してから抹茶ラテを飲む。こっちは一転してマイルドで甘味があるけど抹茶がしっかり主張してる。美味しい…! 「初音、良いものをありがとうございますわ」 「ううん、さきちゃんと食べられて嬉しいなっ」 終電はつさき しーんとした夜、ちかちかと点滅を繰り返す電球の灯り…わたしとさきちゃんは今、田舎…とはいってもそこまで田舎すぎない…なんていうか、都合の良い田舎の駅舎にいた。 「終電…なくなっちゃったね…」 「そのセリフはもっと良い雰囲気の時に言うものですし、そもそもわたくしたちは夫婦で一緒に住んでるから意味ありませんわね」 さきちゃんがぴしゃりとわたしの発言を阻止してくる。うぅ…地味に言ってみたいセリフの上位だったのに…… 「さて…こうなったからにはタクシーなど呼んで帰るか…町の方に戻り泊まれる場所を探すかの二択ですわね」 んー…タクシーを呼んで帰るのはお金も勿体ないし…なにより疲れちゃうよね。うん、お泊まりを提案しよう。えへへ、さきちゃんとお泊まり… 「わたくしとしてはお泊まりでいいと思いますが…初音はどう思います?」 そんなことを考えていたら、さきちゃんが同じことを提案してくれて。わたしはビックリしながらも同意する。 「それでは町まで夜のお散歩ですわね、行きますわよ」 お互いにどちらからともなく手を繋いで。わたしたちは静かな道を歩きはじめた。 宿題はつさき2 「さて…初音、確認ですわ」 「ふぇ? どうしたのさきちゃん」 わたしがソファの上でごろごろとしていると枕元に立ったさきちゃんがわたしを見下ろしながら腕組みをしている。おお…おっぱいが大きい…… 「……視線、バレバレですわよ」 「…ごめんなさい」 まぁ…隠す気のない視線だったからバレバレと言われても仕方ないんだけど。 「はぁ…取り敢えずそれはいいとして。宿題…見せてくださいまし。最後の1週間前には終わらせると約束しましたわよね?」 うっ…やば、どうしよう…さきちゃんと一緒にやって以来全くやってない…… 「まぁほら…そのことはいいからさ、一緒におやつ食べよう! 今日は美味しいガトーショコラが用意してあって…」 「初音」 「ごめんなさい……」 誤魔化そうとするけどさきちゃんには通じなくてぴしゃりと阻止されてしまう。こういう時のさきちゃんは手強いんだよなぁ…… 「はぁ……全く、おやつを食べたら宿題やりますわよ。夕飯までに一つは終わらせますからね」 さきちゃんの言葉に「はーい」とお返事してソファから立ち上がった。 みなにゃむはつさき 「そういえばさきちゃん、にゃむちゃんのこと知ってる?」 さきちゃんと一緒にテレビを見ていると森みなみさんが出ていたことで思い出したことをさきちゃんに問いかける。 「にゃむの? 高校生らしくないとかサバ読んでるってネットで未だに言われてることですの?」 それまだ言われてるんだ……と心の中で呟きつつ、違うよと告げる。 「みなみさんに演技のこと教わってるんだって。具体的にどう、とまでは聞いてないけどすごいやる気だったよ」 「へぇ…にゃむがそんなことを。しかし贅沢な教師ですわね」 「ね〜、でもみなみさんが教えるくらい見込みあるんだってことなのかな? すごいなぁ」 わたしでも見れば分かるみなみさんのすごさ、そんな人が教えたくなるほどのポテンシャルを秘めてるんだとすればバンド活動を控えることもあるのかもしれない…なんて少し不安。そんなことをさきちゃんに言うと。 「大丈夫ですわよ、一生やると約束したのですし…にゃむの居場所はムジカですわ」 そう言って笑ったから、頼もしかった。 女教師はつさき 「三角さん、今日は残りなさい」 帰りのHR、祥子先生から名指しで居残りを命じられる。そのことについて周りの子たちは「また居残りだって…」「三角さんってあれで不良なんだ…」とひそひそとされてしまう。確かにわたしは不良かもしれない…… 🌙 🌙 🌙 「さきちゃんっ」 「先生と呼びなさいと…まぁ、二人きりですから構いませんが」 二人しかいない教室。夕陽が室内に入り、さきちゃんの横顔を照らしている。 「あーあ、さきちゃんのせいでわたしが悪い子みたいに思われちゃってるなぁ」 「あら…初音は悪い子でしょう? 教師で自分の姪と隠れて付き合ってるのですから」 かつかつ、と靴の音を鳴らしてやってきたさきちゃんがわたしの顎を持ち上げて囁いてくる。それだけでわたしの顔は夕陽に負けないくらい真っ赤になって…… 🌙 🌙 🌙 「ふーん…初音はこういうのが好きなんですのね」 「さきちゃっ!?」 わたしが妄想を書いているといつの間にか背後からさきちゃんが覗いていて。そこにはにやにやと笑うさきちゃん。 「ふふっ、可愛いですわよ初音」 あのういはつさき 「初音初音、面白い話を聞きましたの」 さきちゃんが突然そんなことを言ってきた。顔をあげてさきちゃんを見るとすごいにっこにこの笑顔をしてるからそんなに面白い話なのかな? そう思って聞かせて! とお願いする。 「初音ったら、わたくしと初音がすごい接近してるツーショット写真を見てとっても良い笑顔を浮かべたらしいですわね?」 「!? さきちゃん!?」 まさかわたしのことだなんて思ってなかった…っていうかなにそのこと!? わたし知らないんだけど!? 「いやぁ…愛音さんから聞きましたが初音がそんなに…ねぇ? ちなみに写真も貰いましたのよ? 見ます?」 さっきまでにこにことしていた彼女は今はすっごくにやにやしてる…うぅ、楽しそうなのは変わらないけど……! 「ふふっ、でもね、本当に嬉しいんですのよ。わたくしのことをずっと想ってくれて、些細なことでも笑顔になるくらい好きでいてくれてるんですもの」 そう言うと、わたしの傍に座るさきちゃん。わたしはそっと彼女を抱きしめて告げた。 「わたしの全てはさきちゃんだから」 PalVerse BanG Dream! Ave Mujicaはつさき 「さきちゃん!じゃんっ!」 わたしはリュックから見本品として貰ってきたあるグッズの箱を見せる。 「どうしましたの初音…ってあぁ、それは2025年8月29日発売予定のPalVerse BanG Dream! Ave Mujicaではありませんの」 「うん、わたしたちがモデルだからって貰えたんだ。誰が出るか開封しよ!」 そう言ってさきちゃんにはい、とひと箱渡す。本当はノーマルの全員が揃う1ボックスくれたんだけど、誰が当たるかのドキドキとシークレットを当てたいからバラバラで2箱だけ貰ってきたんだ。 「ふむ…わたくしとしては初音が欲しいところですが…」 そう言いながら箱を丁寧に開封していくさきちゃんに、「わたしはさきちゃんかなぁ」なんて言いながら箱を開けて中身を確認すると。 「わあっ! さきちゃんだよ! しかもこれパール仕様のやつだ!」 箱から出てきたのは可愛らしいさきちゃん、さきちゃんの方は? 「あら、睦ですわ。へぇ…可愛らしいですわね」 むーっ…わたしじゃなくて睦ちゃん…… 「でもやっぱり初音が欲しいですわね…明日買ってきますわ!」 さきちゃん…! えへへ、やったぁ! アークナイツはつさき 「初音…似合うかしら…?」 そう言いながら現れたさきちゃんの頭についたのはヤギ? のような角。今回はあるソーシャルゲームとAveMujicaがコラボするからそのためのビジュアル撮影をしてるんだけど…すごく可愛い…! 今までさきちゃんは魔女とかにはなってたけど、異種なさきちゃんというのも…えへへ、かっこいいし可愛いなぁ。 「あの、初音…? なにか言ってほしいのですが……」 はっ…余りの可愛さに脳内モノローグで満足しちゃってた。 「すっごく可愛いしかっこいいよ! 威厳みたいなのが出てて…流石さきちゃん!」 「まぁ…ふふっ、そんなに褒めるだなんて褒め上手ですわね」 さきちゃんはクスクスと笑うけど本当のことだもん…! 「それにしても、このゲームは中々大変な世界のようですね…」 「そうだね…でもどんな世界でもわたしはさきちゃんを守るよ!」 「ええ、期待してますわね? わたくしの王子様」 新学期はつさき 「ただいまですわ〜」 「おかえりなさい、さきちゃん。遅かったね」 今日から新学期、花咲川も羽丘も午前中で終わりだからお昼ご飯を作って待ってたんだけど…さきちゃんが帰ってきたのは17時過ぎだった。 「実は燈と愛音さんとランチとおやつを食べてきましたの!」 「え…聞いてない……」 さきちゃんが満面の笑みで報告してくれたけど、わたしの元にはそんな連絡来てない。余りの衝撃にわたしからは笑顔が消えてしまう。 「そ、そんなはずありませんわ! わたくしちゃんと連絡…あ、送れてませんわ……」 青ざめたさきちゃんがスマホを見せてくれて。確かにそこには燈ちゃんと愛音ちゃんと一緒にご飯を食べてから帰るというメッセージが通信エラーで送れてないという表示があった。 「ごめんなさい初音…わたくしがもっと確認していれば良かったですわ……」 「ううん、わたしも確認の連絡するべきだったから…」 しゅん、とするさきちゃんに大丈夫と言うように抱きしめて。さきちゃんはしっかりと連絡してくれたんだもん、悪い人はいないよ。 どこが変わったか分かるなはつさき 「初音、ちょっとちょっと」 突然さきちゃんから手招きされるからソファに近寄る彼女の元へと近づいて正面で正座する。 「正座しろとは言ってないのですが…まぁいいですわ。初音、朝のわたくしとどこが変わったか分かります?」 そう問われてうーん…と首を捻る。髪型…は変わってないし、服装は制服から私服に変わってるけど多分そういうことじゃないよね。髪飾り…ではないし、髪の長さ…も特に変わってないかな? 瞳…カラコンも入れてなさそう…うん、答えは決まった。 「さぁ、では答えをどうぞ?」 なんだかすごくワクワクしてる様子のさきちゃんに、わたしは立ち上がって指をびしっと突きつける。 「答えは…変わってない!」 「人に指さすのはお行儀悪いですわよ。それはともかく…正解ですわ、よく分かりましたわね。変わったか聞かれたら勝手に見出してしまいそうなものですが…」 「ふふっ、さきちゃんのことならなんでも分かるもん。舐めないでね?」 「物理的には舐めますわ」 「さきちゃん!?」 恋人繋ぎはつさき 「んふふ〜」 「ご機嫌ですわね…」 さきちゃんと一緒のお仕事からの帰り道、わたしはついつい鼻歌を奏でながら歩いていた。 「だってさきちゃんと恋人繋ぎできたんだもんっ」 「それくらい毎日してるでしょうに…」 呆れたように言われちゃうけど、プライベートとお仕事の場では違うもん! 夫婦だってことは公表してるけど、お仕事ではちゃんと距離を保ってる。でも今日は配信番組でさきちゃんと恋人繋ぎで…えへへ…! 「全くもう…本当に可愛いんですから」 「え〜? さきちゃんの方が可愛いよ〜!」 「そんなだらしない顔で言われても説得力ありませんわ…」 そう言われてしまってわたしはキリっとした顔をするけど、今もこうして恋人繋ぎしてるさきちゃんの手の感触のせいでついつい頬が緩んでしまう。うぅ、大好きなさきちゃんと一緒にいられて幸せなんだもん…! 「……これがムジカではああなれるんですから不思議なものですわね」 歌声はつさき 「さきちゃんって綺麗な声してるよねぇ…」 「どうしたんですの急に……」 さきちゃんの声を録音して一人の時はよく聞いてるから思うけど、やっぱり彼女の声ってすごい聞きやすいし、聞いてて落ち着く…というか、すごく安心するんだよね。 「まるで声優さんみたいに素敵な声だと思うな」 「それを言うなら初音もかなり綺麗な声だと思いますが……」 さきちゃんったらまた褒めてくれる。ふふ、それはわたしもよく言われるから自覚してるよ。だからこそsumimiでも歌ってるし、ムジカでもボーカルを任せてくれたんだもんね。 「まぁ初音の綺麗なだけじゃない声を知ってるのはわたくしだけなのですけど……」 そう言ってさきちゃんがわたしの首元をつつーっと撫でてくるから「ふゃ…」と情けない声がもれちゃう。た、確かにさきちゃんにしか聞けない…というか聞かせられない声だけど…! 「…聞きたくなってきましたわね…初音、そこのカラオケ行きますわよ」 ちょっと雰囲気の怖いさきちゃんに手を引かれて少し先に見えるカラオケに向かって歩き出す。さ、さきちゃん…優しくしてね…! 31はつさき 「ねぇねぇさきちゃん、アイス食べない?」 お仕事からの帰り道、わたしは見かけた31種類のアイスを売っている有名なアイスのお店を見つけて指さして誘う。 「アイスですか…良いですわね」 「やったっ、じゃあ入ろ!」 🌙 🌙 🌙 「さきちゃん、二段にするって中々欲張りさんだね」 二人でお店から出てベンチに座る。さきちゃんの手にはコーンの上に積まれたミルクティーのアイスとカフェオレのアイス。迷ってたなぁと思ったらまさか二段にするなんて。ちなみにわたしはカフェオレ…じゃなくて杏仁豆腐のやつ。立希ちゃんが杏仁豆腐好きっていうから気になったんだ。 「そういえば初音、あのお店は毎日アイスを食べても飽きないように32種類あるようですわよ」 「へぇ〜、だからあんなに種類あるんだね。毎日アイスか…子どもだったらお母さんに怒られちゃいそう」 「ふふっ、そうですわね。まぁわたくしは毎日食べても飽きない初音がいますが」 そう言ってぺろっと唇を舐めたさきちゃんがすごく煽情的で。わたしはアイスを食べるのを忘れてぼーっと彼女の唇を見つめちゃっていた。 妹の日はつさき 「そういえば初音、今日は妹の日ですけど初華になにかしましたの?」 さきちゃんからそう問われてどきっとする。妹の日かぁ…正直なところ全然知らなかったから初華になにかするとか考えもしなかったや。 「まぁ初音のことですからそうだと思いましたわ。というわけでわたくしから初華にお菓子とコーヒー送っておきましたわよ」 「えっ、そうなの!? ていうか接点あったの!?」 まさかの言葉が飛び出てきてビックリする。初華とは一応…まぁ色々あったけど、さきちゃんが接点持ってるとは。 「まなさんが紹介してくれましたのよ、まなさん良い方ですわね」 ふふん、そうでしょう? まなちゃんは本当に良い子だからね! ……ってそうじゃなくて! 「あの…初華はなにか言ってた……?」 「お姉ちゃんをよろしく、と言ってましたわ。なんだかんだ好きなんですのね」 微笑ましそうにそう言うけど…うぅ、複雑な気持ち…… sumimi3はつさき 「sumimiの応援しまsumimi〜! 今回のゲストは三角祥子ちゃんです!」 「ごきげんよう、三角祥子ですわ」 「さきちゃん!? まなちゃん!?」 台本を渡されなかったことからなんとなく予感してたけどゲストはさきちゃんだった…まではいいものの、紹介ですごいことをしてきた…しかもまなちゃんが! 「まぁ本当は初華が豊川初華なのですが」 「さきちゃん!!!」 「へぇ〜、似合うね!」 「まなちゃん!?」 なんでこの人たちこんなに息が合ってるの!? いやわたしの奥さんのさきちゃんと大切な仲間のまなちゃんが仲良しなのは嬉しいけど…すごい変な形で仲良しになってる…… 「と、いうわけで! 今日は恋に悩む人たちを応援するよ〜!」 「なにがというわけなの!? わたしが辱められただけだよね!?」 「うるさいですよ、まなさんの進行を邪魔したらダメでしょう」 わたしが怒られるのこれ!? 理不尽だよぉ…… 愛音誕生日はつさき 「たっだいま〜」 「おかえりなさい、初音。随分とご機嫌ですがどうしましたの?」 「愛音ちゃんと誕生日のお茶会してきたんだ!」 わたしが「楽しかったよ」と感想と共に言うとさきちゃんの動きがピシリと止まる。あ、あれ…? どうしたんだろう。 「わたくし…誘われてませんわ……」 「えっ、学校でお祝いしたんじゃないの?」 確かさきちゃんと愛音ちゃんと燈ちゃんって同じ羽丘だよね? お昼休みとかにお祝いしてそのまま軽く…とかやってないのかな。 「いえ…会う機会がなくて……」 そ、そっかぁ…会う機会がないなら仕方ないんじゃないかな…うん…… 「わたくしが…わたくしが先に愛音さんに会ってバンドに誘われましたのに……」 「なにそれ初耳なんだけど!?」 さきちゃんがショックを受けてなにやらぶつぶつと呟いでるけどわたしの知らないこと言われたよ!? なにそれ!? 「くっ…こうなったら明日うちに招いて盛大にパーティーしますわよ!!」 「さきちゃん? バンドに誘われたってなに? さきちゃん!?」 りっきーはつさき 「三角さん、聞きたいことがあるんだけど…」 「立希ちゃん? どうしたの?」 今日も授業が終わり、帰ろうとしたら立希ちゃんに話しかけられる。なんだか大事そうな話だからと場所を変えて話すことにした。 「それで、わざわざわたしに聞きたいことってなに? ムジカのこと?」 「いや違う…違わなくないかもだけど…作詞のことで聞きたくて」 作詞のこと…あぁ、燈ちゃんのことかな。ふふっ、立希ちゃんって燈ちゃんのこと大好きだもんね。 「三角さんはさ…歌詞書く時に祥子のこと考えてるんだろうし祥子が作曲だからないだろうけど…もし、メロディに嫉妬とかが乗ってたら、分かる?」 「メロディに嫉妬…かぁ。分かるか分からないかで言えば…正直、分かるかも。なんだか悲しそうとか…攻撃的だな、とか」 荒れてた時のさきちゃんのメロディがそうだったから。嫉妬じゃないけど、そういうのは分かるな。 「そっか…じゃあ、気をつけないと」 「立希ちゃん、でも無理に隠したらその方が分かるよ。気持ちがブレてるって。だから…隠さないであげて」 「……分かった。三角さんが言うなら信じられる。……ありがとう、三角さん」 特別な日のはつさき 「さきちゃんケーキ買ってきたよ〜」 「ケーキ? なにか記念日だったかしら?」 わたしが買ってきた色んなケーキを見てさきちゃんがそう言って首を傾げる。そういえば、何故か今日はおめでたい日でケーキを買ってさきちゃんと食べなきゃ…って思ったけどなんでだろう。 「まぁそんな日もありますわよ。なんでもない日こそ幸せで贅沢な日…という考え方もありますわ」 「うん…そうだね。別にケーキだって特別な日にしか食べないといけないわけでもないし」 さきちゃんの言葉に頷いて、それぞれ選んだケーキをお皿に出していく。クリームの甘い匂いとフルーツの爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。 「飲み物も用意しませんとね、初音はコーヒーですわよね?」 「あ、今日は紅茶がいいな。さきちゃんと同じものを味わいたいな」 「まぁ…ふふっ、分かりましたわ。腕によりをかけて淹れてきますわね」 そう言って楽しそうにキッチンへとさきちゃんは向かっていった。ふふ…可愛いなぁ。 にゃむさきはつさき 「さきちゃん…これどういうこと……」 スマホに投稿されていたポストを見たわたしはすぐさまさきちゃんの元に訪れていた。 「初音…? その、ここ…羽丘の校門なのですが……」 「これ! どういうこと!!!」 ポストが表示されているスマホを突きつける。周りの人たちがこっちを見てなにか言ってるけどどうでもいい。今はこっちの方が大事だから! 「〜っ! ああもう! 場所を変えますわよ!!」 🌙 🌙 🌙 「はぁ…それで? にゃむと浴衣で出かけたことがどうかしまして?」 「浮気だよ…! こんな笑顔まで浮かべて…!」 さきちゃんがなにか問題が? と言いたげな表情を浮かべてるからわたしの怒りは高まっていく。こんな…こんな…!! 「落ち着いてくださいまし、これは営業ですわ。ムジカ不仲説を払拭するためですわ」 「……本当?」 「ええ、わたくしが愛しているのは初音だけ…信じてくださいまし」 そう言って抱きしめてくるさきちゃん。わたしは「…うん」と小さく頷いた。 10年バズーカはつさき 「できましたわ初音! 1○年バズーカですわ!」 帰ってきたさきちゃんを出迎えたらなんか物騒なもの持ってた。えっなに…? 「これに当たった人は10年後の自分と入れ替わるんですわ、というわけで初音、覚悟はいいですわね?」 そう言ってチャキ、とわたしに向かって銃口をこちらに向けてくる。 「待ってできてないから! さきちゃんストッ…!」 さきちゃんに手を伸ばして止めようとするも衝撃が走って、わたしは気付いたら。 「あぁ…やっぱり来ましたわね、10年前の初音」 気付けば目の前にいたのは大人っぽくなったさきちゃん。え…まさか本当に10年後に来たの……? 「本当に申し訳ないですわ…あの頃のわたくしが身勝手なことを……」 謝りながら抱きしめてくれる大人さきちゃん。わわ…すごい、さきちゃんと同じなんだけど違う…… 「本当ならもっとおもてなししたいんですが、5分間しか変われませんの。ですから…一つだけ、わたくしの秘密を教えて差し上げます」 クス、と笑って内緒ですわよ? と笑って教えてくれた。 ヨガはつさき 「んー……」 リビングでさきちゃんがストレッチ? をしてる。背筋を伸ばして体を反らしてるから体のラインがすごい出てきてる…うおでっか…… 「ふー……」 と思ったら今度はお尻を突き出してる…うおでっか… 「……初音、見すぎですわ」 「うぇっ!? な、なんのこと!?」 「さっきからパソコンのタイピング音が聞こえませんし、視線をすごい感じますわ」 ……しまった、確かに手が止まってた…! で、でも目の前でさきちゃんがすごいエッチなことしてるのが悪いんだもん! 「わたくしはただヨガをしてるだけですわ。健全な体操ですわよ?」 う、うぐぅ…そう言われるとわたしがエッチだったと主張したらわたしがスケベな人みたいになっちゃうじゃん…… 「ほら、早くお仕事しなさいな。終わったらご褒美あげますから」 そう言って再びヨガを再開するさきちゃんだけど、1度意識したらどうしても見ちゃうよぉ……でもご褒美あるもんね、どんなご褒美だろう。あの格好のまま…さきちゃんが…… 「うへへ……」 雨はつさき 「雨だねぇ…」 「雨ですわね…」 二人でソファに座ってぼーっとお外を眺める。窓の外では雨がざあざあと降っている。こんな日はお出かけもしないでお家でコーヒーでも淹れながらのんびり過ごすのが良いよね。 「雨は…余り良い思い出がありませんわ」 ぽつ、とさきちゃんが呟く。CRYCHICの解散も雨、睦ちゃんの時も雨…そうだよね、気分も暗くなっちゃうよね。 「紅茶でも淹れよっか。この前長野に行った時に買ったお土産のお菓子もあるよ」 「ありがとうございますわ、ではわたくしが淹れますので初音はお菓子の用意を」 うん、とお返事してお菓子をお皿に並べていけばお湯の沸く音に紅茶の香り。今までずっとコーヒー派だったけど…さきちゃんと飲む紅茶は好き。 「…初音となら、雨も悪くないかなって思いますの」 「さきちゃん?」 「初音と過ごす雨の日は落ち着いて、ゆっくりと過ごせて…好きではありませんけど、貴女のおかげで嫌いではありませんわ」 そう言って微笑むさきちゃんの姿にわたしはじんわりと胸があったかくなるのを感じて。あぁ…一緒になれて、本当に良かった。 寿司コラボはつさき 「うーん……」 さきちゃんがパソコンを開いたまま悩んでる。作曲のことかな? 歌詞がまたちょっと過激すぎたかな… 「さきちゃん大丈夫? 手伝えることある?」 「あぁ…初音、少し助けてほしいんですの。ムジカとスシ□ーのコラボなんですが、それぞれのメンバーに合ったお寿司が思い浮かばなくて…」 なるほど…と頷く。確かにムジカのみんながお寿司を食べてる光景…はちょっと思い浮かびにくいかも。 「睦ちゃんはかっぱ巻きでいいんじゃないの?」 「流石にコラボメニューでただのかっぱ巻きは不味いでしょう…あ、いやかっぱ巻きが美味しくないというわけではなく…」 慌てた様子のさきちゃんに分かってるよ、と伝えて止めさせて。んー…単純にお寿司のネタを挙げるだけじゃダメなんだね。 「初音は素麺…は、出身がバレるからダメですわね…あーもう! こんなコラボ受けたの誰ですの!? わたくしですわ〜!!!」 頭を抱えて叫ぶさきちゃんの様子が珍しくて、大変なのは分かってるのに思わず笑ってしまって。睨んでくるからごめんね、と謝って手伝うことにした。 前へ5 / 7 ページ次へ 8.5周年はつさき 「さきちゃん! 8.5周年だよ! お祝いだよ!」 「8.5周年…なにがですの?」 わたしがクラッカーをパーンっと鳴らしてはしゃいでいるとさきちゃんがきょとんと首を傾げる。クラッカーから飛び出た紙吹雪がさきちゃんの髪の毛にかかって可愛い〜。 「初音? なにが8.5周年ですの?」 「と、とにかく! おめでたい日なの! ほらお祝いしよ!?」 分かってくれないさきちゃんにぐいぐいとクラッカーを押し付けて。取り敢えずおめでたい雰囲気にしちゃえばきっと大丈夫だよね! 「ま、まぁ…構いませんが…えいっ」 渋々、といった様子だけど納得してくれたさきちゃんがクラッカーを鳴らせば『祝! 8.5周年!』と書かれた垂れ幕が飛び出す。ふふんっ。 「それにしても…ねぇ初音?」 「なあにさきちゃん?」 わたしの方へと近寄ったさきちゃんがわたしに抱きついてきて。 「わたくしたちも8.5周年…いえ、10周年…20周年とお祝いしたいですわね」 そう言ってくれて。わたしはうんっ! と答えてさきちゃんにキスをした。 クリームソーダはつさき 「初音、クリームソーダが飲みたいですわ」 ある日さきちゃんと街を歩いているとそんなことをおねだりしてきた。クリームソーダ…珍しいものを飲みたがるなぁ。いっつも紅茶を飲んでるからそんなことを思う。 「いいよ、それじゃあ喫茶店入ろっか」 スマホで調べると…うん、ここから歩いて5分くらいのところにあるみたい。行こうか、とさきちゃんと手を繋いだ。 🌙 🌙 🌙 「ん〜…! 美味しいですわ!」 メロンの緑色とバニラアイスの白色が綺麗に描かれているそれを飲んでさきちゃんが顔を綻ばせる。その様子を眺めながら飲むコーヒーもとっても美味しい。 「やっぱり初音と飲むクリームソーダが一番美味しいですわね」 「わたしと飲むのが?」 「ええ。燈や愛音さんと飲みましたが…美味しいには美味しいのですが、なんだか物足りなくて…やっぱり初音と飲む、というのが一番ですわね」 ふふっ…そっかぁ。さきちゃんったら嬉しいこと言ってくれるんだから。よーし、好きなもの頼んでもらおう、わたしの奢り! はつあのはつさき 「雨、やまないねぇ…」 「やまないね…」 わたしと愛音ちゃんはビニール傘を刺しながら歩いている。本当はわたしとさきちゃん、愛音ちゃんと燈ちゃんのWデートだったんだけど気付いたらあの二人が迷子になってたんだ。だからこうして二人で探してるんだけど… 「初音ちゃんは祥子ちゃんのどこが好きなの?」 「えっ!? さきちゃんの? そうだなぁ…色々あるけどまず…」 愛音ちゃんがわたしのことを覗き込んでそんなことを聞いてくるからわたしの口がペラペラと動く。ノンストップでさきちゃんの可愛いところやかっこいいところを話していたら、愛音ちゃんに「ストップストップ!」と止められちゃった。 「ご、ごめんね愛音ちゃん…」 「それだけ好きって分かったからいいよ! でもほら、見て! 綺麗に晴れた!」 その言葉につられて顔をあげると爽やかな青空が広がっていた。さっきまでの雨が嘘みたいだけど、木々の葉っぱは濡れて光を放っていた。 「ほら初音ちゃん!行こ!」 「愛音ちゃん…うん!」 愛音ちゃんに引っ張られて走り出して。あぁ…どこまでも走っていけそう。 はつあのはつさき 「愛音ちゃん…ごめんなさい」 「えっ、なにが!?」 あの日のように羽沢珈琲店に呼び出した愛音ちゃんに頭を下げる。愛音ちゃんは戸惑っているけど、こうするべき…ううん、わたしの満足のためだけど、謝りたい。 「あの時…愛音ちゃんから情報引き出すためだけに呼び出して利用しちゃって……」 「あ〜…初音ちゃ…今は初華ちゃんの方がいっか。初華ちゃんの顔が怖かった時ね」 ぅ…顔が怖いと言われて言葉に詰まる。やっぱりあの時のわたし、怖い顔してたんだ…… 「んー、でも祥子ちゃんが大好きで…ってことなら責められないかな。初華ちゃんの立場が私で、祥子ちゃんがともりんで同じことになってたら私もしちゃうかもだもん」 ……優しいな、愛音ちゃん。多分愛音ちゃんは同じ立場でも、もっと上手くできるはずなのに。 「ありがとう…愛音ちゃん」 「いえいえ! あ、申し訳ないと思うならまなちゃんのサイン欲しいな〜」 明るくそうやって言う愛音ちゃんに、今度貰ってくるねとわたしも笑いかけた。 クイズはつさき 「にゃむにゃむぱふぱふ〜! クイズ豊川祥子〜! 挑戦者はこちらの方々!」 「ぉぁ…高松燈です…」「…椎名立希、これなに?」 「若葉睦…」「三角初華です!!!!」 挑戦者咳に座ったわたしたちが挨拶をする。他の人たちのテンションが低いけど、わたしは絶対負けないよ!!! 「はい、元気いっぱいありがとう。優勝者にはサキコからお願い事聞いてもらえるからね」 お願い事を聞いてもらえる!? これは頑張らなきゃ…! 周りを威嚇しておこ。ヴー!!! 「それじゃあ一問目、サキコのブラのサイズは…ってなんなんこれ!?」 「はい!!! Gカップです!!!!」 「ウイコ正解だけど早すぎてキモい」 なんで正解したのにそんなこも言われるの!? っていうかにゃむちゃんはなんで知ってるの…! 「サキコから渡されたやつ読んでるだけだから睨まないでウイコ」 ふーん…さきちゃんったらそんなことするんだ…ふーん……お仕置、しなきゃかな。 チェスはつさき 「チェックですわ」 「ぅ…参りました……」 ある日、わたしとさきちゃんはチェスをしていた。というのも、今度sumimiのお仕事でチェス大会のMCをすることになったからチェスのことを知っておこうというわけなんだ。とはいえ、今のところ3戦3敗…さきちゃん強い…… 「初音は受け身すぎなんですわ、自分から攻めませんと」 「でも…守りが薄くなるのが不安で…」 わたしにとってのキングはさきちゃん。そのさきちゃんの守りが薄くなるなんてわたしには不安で不安で仕方がない。 「攻撃は最大の防御…と言うように大胆に攻めるのは大事ですのよ。時にキングなんて相手が欲しくて仕方ないもの、囮には絶好でしょう?」 キングの駒を手に取って顔の前で揺らしたさきちゃんが不敵に笑う。さきちゃんがすごい勝負師みたいに見える…! 「さて…ではもう一戦、今度は初音が攻めてくださいね?」 その言葉に「うん!」と頷いて駒を並べ直した。 ハンバーガーはつさき 「うわぁ…すっごい大きいね!」 「ネットで見たものが誇張ではなかったとは…」 わたしたちの目の前にあるのは高さがあるハンバーガー…なんでもハンバーガーの大会で優勝したこともある有名店らしい。さきちゃんがたまにはこういうものも食べたいって言うから来たんだけど…どう食べればいいんだろう? 「分かってませんわね初音…こういうのはかぶりつくのが礼儀ですわ、あむっ」 「あああっ! 具! 具がこぼれてる!」 ちっちっちっ…と指を振るさきちゃん可愛い〜と思ってたらハンバーガーに口をつけたけどさきちゃんの小さなお手々では押さえつける力が足りなかったのか下側からトマトとか玉ねぎとかがお皿に落下していった。 「……ナイフとフォーク、使いますわ」 「そうだね……」 無言でしばらくお皿の上を観察してたさきちゃんが言ったからそれらを渡して。…わたしもチャレンジしてみようかな? ん…美味し、お肉がジューシーだしソースも濃すぎずお肉の味が濃厚だ〜。 「……なんで初音は落としてませんの!!!!!」 うわびっくりしたぁ!? わたくしだけなはつさき ふんふんふーん、さきちゃんとデート。今日は燈ちゃんオススメの水族館に来ている。なんでも愛音ちゃんとデートで来た時にすごい良かったんだって。 「さきちゃん見てみて! ラッコだよ! 可愛いねぇ〜」 人が並んでたから人気の動物なのかなって思って並んでいて、水槽の前まで来たらそこにいたのは可愛らしいラッコだった。 「わたくしはスマートに貝を開けられますわ」 うん…うん? なんか感想がおかしかったような気がするけど…まぁいっか。 🌙 🌙 🌙 「さきちゃんジュゴンだよ! 日本ではここにしかいないんだって! しかも世界でも3つの水族館しか飼育してないんだって〜」 すごいなぁ…そんなに飼育するの難しいのかな? 「わたくしは世界にここにしかいませんが?」 うん…うん…やっぱりさきちゃん…嫉妬してる? えっ、動物に!? 「さきちゃん…えっと、わたしは動物に浮気しないよ?」 「分かってますが…初音にはわたくしだけ見て欲しくて……」 「…さきちゃん可愛すぎ! 今すぐホテルに戻ろう!」 相談はつさき 「ねぇ初音…わたくしってお尻もおっきいのかしら…」 「うぇっ!?」 さきちゃんが突然発した言葉にわたしの口から変な声がもれる。きゅ、急にどうしたのさきちゃん…… 「『うぉっ、でっけぇケツ、これでお嬢様は無理でしょ』『デカケツデカパイお嬢様とかセンシティブの塊かな?』って書き込みに心当たり、あるでしょう?」 そんなこと書き込む人がいるだなんて信じられないね! ねぇ立希ちゃん海鈴ちゃん! 「胸が大きいのはまぁ分かっていましたが…お尻は海鈴の管轄だと思っていましたのに…」 「いやあのねさきちゃん? 確かにさきちゃんは色んなとこがおっきいけどそれは良いことで…!」 「やっぱり大きいと思ってるんじゃないですの!!!」 あっ…いや違くて…! うぅ〜…どうしようどうしよう…! えーっと…えいっ! ぎゅーっ! 「初音…?」 「さきちゃんの体がムチムチになったのはわたしのせいだから…だから、わたしがそんなさきちゃんまで愛してあげるね」 「初音…!」 さくらんぼピアスはつさき 「…あら? 初音、こんなピアス持っていたかしら?」 さきちゃんがわたしのアクセケースを覗き込んでいた。どのピアスだろう? 首を傾げながら彼女の手元を覗くとさくらんぼのピアスを持っていた。 「あぁ、それはsumimiの時につけるやつだよ」 まなちゃんとの時にだけつける特別なピアス、なんて言ったらさきちゃんは嫉妬しちゃうかな? 「ふーん…まなさんと…ふーん……」 あぁ、やっぱり嫉妬しちゃってる…嫉妬深いさきちゃんも可愛いけど機嫌直してほしいなぁ…… 「まぁいいですが? 初音はわたくしの旦那ですから?」 良いって思ってないセリフだよそれ…さきちゃんとだけな特別なことの方が多いんだけど…んー、それじゃあこうかな? わたしはさきちゃんを壁に押し付ける。 「は、初音…?」 「さきちゃん、わたしの特別な人はさきちゃんだけ…だから、ピアスじゃない跡をつけてあげる」 そう言って彼女の首筋を指で撫でてから、耳元でリップ音を鳴らした。 まっちゃはつさき 「まっちゃ」 「?」 RiNG、わたしがさきちゃんを待ちながらたまには抹茶パフェでも食べてみようかと頼んだ時だった。迷子のギターの子…確か楽奈ちゃんだっけ? が隣にいた。 「抹茶パフェ食べたいの?」 わたしがそう尋ねると頷いたので追加で注文しておく。迷子のみんなには恩があるからね、これくらいはいいかな。 「あ、野良猫! もしかして三角さんに奢ってもらった!?」 「立希ちゃん、そんな気にしないで。わたしがやりたくてやったことだから」 「三角さん…はぁ…ありがとう。けどあんまり甘やかさないで、こいつ図に乗るから」 図に乗る…というか、立希ちゃんに甘えてるだけだと思うけど…そんなことを言ったら立希ちゃんは照れちゃうから言わないでおく。ふふっ、言わぬが華ってやつだね。 「なんだか賑やかですわね、あら…抹茶パフェですか、わたくしにも一つくださいな」 なんて話してたらさきちゃんもやってきて。なんだか珍しい面子。 「まっちゃ」 「楽奈さんも食べたいのですか? では追加で一つお願いします」 「祥子!!!!!!」 「な、なんですの!?」 そよさきデートはつさき 「さきちゃん、ディズニーは楽しかった?」 「え? ええ、楽しかったですが……」 「ふーん……『そよちゃん』と一緒のディズニーがそんなに楽しかったんだ」 わたしが聞くと戸惑いの様子を見せながらも頷くさきちゃんににっこりと笑みを浮かべる。うんうん、さきちゃんが楽しんでくれるのが一番だよね。 「あの…初音、怒ってます?」 「怒る? さきちゃんが友達と遊んでとーっても楽しめたのならわたしだって嬉しいよ」 さきちゃんがどこか申し訳なさそうにするけどなんでだろう? 疚しいことをしてないなら楽しかった! って思い出話聞かせてくれると嬉しいんだけど…… 「初音! 今度一緒にディズニー行きましょう! 泊まりでランドとシーどっちもですわ!」 わぁ…! さきちゃんからそんな提案してくれるなんて! えへへ、さきちゃんとディズニーデートかぁ…今からすっごく楽しみ! 「なんとか機嫌が直りましたわね…危なかったですわ…」 「ねぇねぇさきちゃん、『そよちゃん』と楽しんだのならわたしにオススメのアトラクションとか教えて!」 「直ってなかったですわー!?」 神無月はつさき 「さきちゃん荷物まとめた?」 「えっ急になんですの?」 9月の末、わたしは紅茶を飲みながらタブレットを見てるさきちゃんに話しかける。わたしの方は後は少しで済むんだけど…さきちゃんはしてる様子がないから心配。 「もうすぐ10月だよ?」 「わたくし10月になるとこの家追い出される契約でしたの!?」 追い出される…? なにを言ってるんだろう。わたしも着いていくけど。 「なに言ってるの…? 神無月だし島根行くでしょ?」 「はい? 神無月…島根…? ……あっ! わたくしが神を自称したからですの!?」 「ちゃんと出雲大社にいないとダメだもんね! わたしはさきちゃんの騎士だから一緒にいて大丈夫だよね?」 「初音…神無月は旧暦の10月ですから実際は11月…ってそうじゃありませんわ! わたくしは島根に行きませんわよ!」 えっ…!? だってさきちゃんは神様だよ!? 島根に行かないと他の神様に虐められちゃうんじゃないのかな…… 「初音…天然で可愛いですが…今はそうじゃありませんわ……」 コーヒーの日はつさき 「初音、プレゼントあげますわ」 帰ってきたさきちゃんが紙袋を手渡してくる。なんだか重みがあるけど…見ていい? と聞くと許可が出たので中身を見ると。 「わぁ…コーヒー豆だ! どうしたのさきちゃん?」 「この前はコーヒーの日だったでしょう? なのでコーヒー好きな初音のために立希に聞きながら買ってきましたの」 へぇ…その気持ちは嬉しいけど立希ちゃんとかぁ…… 「浮気ではありませんわよ!? 確かにお礼にご飯を奢ったりはしましたが…」 「墓穴を掘るって知ってる?」 あわあわと慌ててるさきちゃんが聞いてもいないことを自白してくる。可愛いなぁ、別に怒ってないのに。 「まぁそれはそれとして、プレゼントありがとうさきちゃん! 早速これ飲もうかなぁ」 「え、えぇ…是非そうしてくださいな。お菓子を用意しますわね」 そう言ってキッチンに向かっていくさきちゃん。んもう…わたしそんなに怖い顔してたのかな? 前へ1 / 7 ページ次へ サウナはつさき 「さきちゃん大丈夫…?」 ムジカのみんなでやってきたスーパー銭湯…その中にあるサウナにいるんだけど……さきちゃん、これ結構限界迎えつつある時のさきちゃんだ…… 「大丈夫…大丈夫ですわ……」 「もう出よう…? 無理はダメだよ…」 「大丈夫ですわ…!」 わたしがさきちゃんの腕を掴んで出ていこうとしてもぐいっと引っ張り返して抵抗してくる。っていうか体熱いよ!? 大丈夫しか言わないしこれ絶対限界だよ…… でもさきちゃんってみんなの前だと弱いとことか見せたくないだろうし……あ、そうだ。 「ねぇさきちゃん…わたしの方が限界で…一人だと寂しいから着いてきてほしいな…?」 「……仕方ありませんわね、初華がそう言うなら出ますわよ」 やったぁ! わたしのため、って名目なら出ても恥ずかしくないもんね。こんなこと弱味とかではない気がするけど…さきちゃんにもプライドがあるもんね。 「ありがとうさきちゃんっ」 お礼を言ってさきちゃんと腕を絡めてサウナ室を出て。二人きりにもなれたし良かった! ともたきはつさき 「三角さん、ちょっと相談があるんだけど」 学校から帰ろうとしたら立希ちゃんに呼び止められた。 「えっと…わたしになんて珍しいね、なにがあったの?」 「その…燈にコーヒー飲んで欲しいけど、苦いもの多分苦手だから…そんな人でも美味しく飲めるコーヒーってないかな?」 なるほど、と頷く。コーヒーが苦手な人でも…かぁ。でもコーヒーが好きな人の『飲みやすいから!』ってやつは信用できないからなぁ…… 「うーん…いきなりブラックコーヒーは難しいだろうしまずはデザートドリンクみたいなのにしたらどうかな?」 わたしがそう言うと立希ちゃんは目を丸くする。もしかしてわたしの口からそういう言葉が出てくるのが珍しいのかな? 「コーヒーに砂糖を入れたものをゼリーにしたものをグラスにいれて…エスプレッソと牛乳…あと練乳を少しいれて、最後に生クリームをホイップしてそこにコーヒーシロップをかければゼリードリンクの完成。これなら飲みやすいんじゃないかな?」 「なるほど…ありがとう三角さん、試してみる」 お礼と一緒に笑顔を見せてくれた立希ちゃんにどういたしまして、と返す。実はこのレシピはさきちゃんが大好きなものなんだ、というのはわたしだけの秘密だよ。 たけのこきのこはつさき 「さきちゃん、おやつ買ってきたよ」 「ありがとうございますわ。あら…たけのこの○ですのね」 さきちゃんがビニール袋から取り出したお菓子のパッケージを見て呟く。 「もしかしてきのこ派だった?」 「わたくしは別にどっち派でもないのですけど…CRYCHICの頃にその話題になったなと思いまして」 へぇ〜、やっぱり年頃の女の子らしくそういうので盛り上がったりするんだね。わたしも別にどっち派でもないから…初華は確かたけのこ派だっけ。だから今日もたけのこ買っちゃったのかな? 「誰がなに派だったの? 燈ちゃんはどっち派でもなさそうだけど」 「燈はコアラのマーチ派でしたわよ。色んなコアラ集めるのが好きらしいですわ」 あ〜と納得する。確かに色んな柄があって楽しいよね。 「立希とそよは…まぁ、バラバラでしたわ。わたくしと睦はそこの拘りはありませんでしたわ」 「ちなみにさきちゃんは好きなチョコ菓子は? あ、スーパーやコンビニで売ってるやつね!」 「アルフォートですわ」 中秋の名月はつさき 「さきちゃん、お月見しよ!」 「お断りしますわ」 今夜は中秋の名月、お団子も買って準備万端! さきちゃんとしっとりとお月見しようと思ったのにキッパリと断られる。さきちゃんならきっと一緒にお月見してくれると思ったから予想してなかった反応に頭が真っ白になる。 「中秋の名月…でしたか。確かに世間ではそれが話題ですがわたくしの傍には常に名月が…って初音? 聞いてますの?」 なにやらさきちゃんが言ってるけど全然頭に入ってこない。さきちゃんに断られるなんて…そんな…… 「はぁ…ショックを受けすぎですわ。初音、聞きなさい」 「ふぇっ!?」 突如さきちゃんに顔を掴まれたと思えば目の前に彼女の綺麗な顔がどアップで広がる。 「初音…わたくしは空に映る月よりも、わたくしの傍にいてくれるあなたという月がいれば十分…ですからお月見などしないと言ったのです。どんな名月よりも、魅力的なのはあなた…分かりまして?」 「ひゃ、ひゃい……」 「なら良し、ですわ。わたくしの月女神様」 そよむつはつさき 「初華…これあげる」 「ありがとう…? これはなに?」 睦ちゃんから突然紙袋を渡される。なんか高級な化粧品のブランドの紙袋だ…そんな高いもの貰えないけど…… 「そよが祥と初華に分けてあげて…って…紅茶のセット…」 あ、あぁ〜…ビックリした。中身は紅茶なんだね。確かにさきちゃんは紅茶好きだしそうだよね、うん。 「あと…そよと作ったお菓子もあるから…早めに食べて…」 「睦ちゃんが作ったの? すごいなぁ」 わたしがそう言うとちょっと誇らしげにしてる。可愛い。 🌙 🌙 🌙 「…というわけで、これがそのお菓子。キュウリのゼリーだって」 「キュウリ…の…ゼリー…?」 目の前にあるのは爽やかな黄緑色のゼリー。ぷるぷるとしててまるでメロンゼリーみたいだけど…とりあえず食べてみよ! 「ん…美味しい。ほんのりとした甘さと爽やかさがあるよ」 「本当ですわね…睦、そよと上手くいってるようでなによりですわ」 ラーメンはつさき 「さきちゃん…わたし怒ってます」 「えっ…な、なんでですの…?」 わたしは珍しく本気でさきちゃんに怒っていた。その証拠にさきちゃんを正座させている。本当はこんなことしたくないけど……さきちゃんのためだと思ったら怒れていた。 「このレシートたち…見覚え、あるよね」 「……ありますわ」 「じゃあなんのレシートか言ってみて」 「……ラーメン屋さんの、ですわ」 そう……さきちゃんはここ最近毎日のようにラーメンを食べていた。別にラーメンが悪いわけじゃない。わたしだって食べることはあるし、さきちゃんは学校だってお仕事だって頑張るから食べることは良い。けど…流石に毎日学校帰りに食べるのは健康に良くないよ!! 「さきちゃん…ラーメンはこれから月に二回までね」 「なっ…! せめて週に一回までにしてください!」 さきちゃんがわたしの足に縋り付いてくるけどこればかりはダメ! 夕方にラーメン食べてお夕飯も食べたらおでぶさんになっちゃうでしょ! 運転はつさき 「さきちゃんって運転したい?」 「運転?」 わたしの言葉を聞き返すように言ったさきちゃんが首を捻る。ちょっと急すぎたかな。 「まなちゃんが免許取りたいって言ってたから…さきちゃんもそういう思いってあるのかなぁって気になったんだ」 「なるほど…そういうことは考えたことありませんでしたわね。運転…わたくしに向いてるのかしら」 そう言われてうーん…と考えながら想像してみる。さきちゃんが運転するなら軽自動車かな…いやそれともスポーツカー…? どっちにせよキリっとした顔でハンドルを持つさきちゃん…いいなぁ…そして運転するさきちゃんを甲斐甲斐しく支えるわたし…うへへ… 「初音、涎出てますわ」 …はっ!? つい妄想が進んじゃってた…! 「まぁ…わたくしとしては、いつか初音や子どもたちと共にお出かけしたいので免許は欲しいですわね」 「さきちゃん……!」 少し照れたように頬を赤く染めたさきちゃんにそう言われて。絶対免許取るってわたしは決めた。 前へ1 / 5 ページ次へ 赤ちゃんの日はつさき 「ぅーぁー!!!」 「な、なに!?」 隣にいるさきちゃんが急に言葉になってない言葉をあげながら暴れ出した。こ、怖い… 「ままぁ!!」 「ま、ママ…? わたしのこと…?」 ママって呼ばれるけどさきちゃんのママになった覚えはないし、まだママになる予定もないんだけど…… 「……初音、ノリが悪いですわよ」 「えっわたしが悪い感じ?」 「そうですわ! 今日は赤ちゃんの日なのだから将来のために予行演習させてあげようと思いましたのに!」 頬を膨らませながらぷんぷん、といった様子で怒るさきちゃん…可愛いけど理不尽に怒られてるような気がする… 「全く…物分りの悪いママですね〜?」 そう言って自分のお腹を撫でるさきちゃん…えっ、え…!? まさか…!? 「いえ、できてませんが」 「も、もー!!!!!」 わたしのこのドキドキした純情を返してよね!!! 三角チョコパイはつさき 「初音〜、三角チョコパイ食べたいですわ」 テレビを見ていたさきちゃんがそんなことを言い出した。そういえばマ〇クで発売し始めたってCMでやってたっけ。 「じゃあ買いに行ってくるね。他になにか食べる?」 「? なにを言ってますの? 初音は既に持っているでしょう」 え…? 持ってないけど…そもそも今日は出かけてないし…… 「ほら、ここに」 「ひゃぁっ!?」 わたしが首を傾げていると、胸に当たるさきちゃんの手。遠慮なく揉まれたから思わず悲鳴をあげちゃう。 「な、なんですの…わたくしが悪いみたいじゃありませんの」 「さきちゃんが悪いよ!?」 チョコパイの話からなんでわたしのその、お…おっぱいを揉むことになるの…! 「だって、三角─みすみ─のパイでしょう?」 そう言って当然のような顔をするさきちゃん。なるほど〜…ってなるわけないじゃん!!! うみまななはつさき 「さきちゃん…! ま、まなちゃんが…!」 SNSにあげられた写真を見て驚愕する。それはライブ中に控え室にいたわたしたちで撮られた写真なんだけど…その時は気付かなかったけど、まなちゃんが海鈴ちゃんに絡まれてる…! ダメだよ…! 清純なまなちゃんが海鈴ちゃんに誑かされるなんて…! 「んー…? 別に微笑ましい一幕じゃありませんの。それにまなさんが誰と付き合おうが初音には関係ないでしょう」 「関係あるよ! まなちゃんの相方としてお付き合いする人はわたしが見極めないと…!」 「わたくしとしてはそれよりも…こちら、楽奈さんに肩を許すなんて随分と心を許したものですね?」 わたしが憤っているとさきちゃんが指で示したのは腕を組んでるわたしとそんなわたしにもたれかかる楽奈ちゃん。えっとこれは、その…… 「はぁ…わたくしがちょっと見ていないだけですぐ浮気とは…」 「ち、違うよ! わたしはさきちゃんしか…!」 誤解だよと必死に説明していたら、さきちゃんがクスクスと笑い出して。 「知ってますわ、少しからかっただけですわ」 「もー!さきちゃんったら…!」 コーヒー高騰はつさき 「うむむむ……」 コーヒー豆の通販サイトを見ながら無意識に声がもれてしまう。最近の値段の高騰はコーヒー豆も例外ではなくて。わたしがよく買ってる豆も高くなっちゃってる…… 「どうしましたのそんなに唸って…ってあぁ、コーヒーですのね」 そんなわたしの様子を不審に思ってたか近付いてきたさきちゃんは、わたしのスマホの画面を見ては興味をなくしたようにソファに座り直していた。 「さきちゃん!!! これはね…重大なことなんだよ!!!」 「こわ…なんですの急にヒートアップして…」 「いい? コーヒーは命の水なの…! 聖水なの…! それが高くなったらまさに死活問題!」 「立ち上がらないでくださいまし」 さきちゃんに言われたからソファに座り直す。うん、ちょっと冷静になったかも。 「ですが初音、あなたの趣味はわたくしとコーヒーくらいですし、多少の値上がりは良いのではなくて?」 んむ…さきちゃんに言われたら確かにそうかも…? はつましはつさき 「おはようございます」 「あ、おはよう…」 今日は色んなガールズバンドのボーカル組で収録…ってことでやってきたスタジオ。そこにいたのはさきちゃんが憧れたバンド、Morfonicaの倉田ましろさんだった。わたしは一方的に知ってるけど…彼女はどうなんだろう… 「初華ちゃん…だよね…? sumimiでムジカの…」 「知ってくれてたんですね、わたしも倉田さんのことは知ってて…」 「わぁ、本当? 嬉しいなぁ。ふふっ、ガールズバンドとしては私の方が先輩だから今日も困ったことがあったら頼ってね!」 「はい、頼りにしてますね。あ…それとお願いがあって」 🌙 🌙 🌙 「というわけでサイン貰ってきたよさきちゃん」 「な、ななななな…!!!」 わたしが渡したサイン色紙を見たさきちゃんが両手で抱えながら震えてる。ど、どうしたの…? 「初音…ありがとうございますわ…! 飾りますわ〜!!」 すっごい喜んでる…さきちゃんが嬉しいのはわたしも嬉しいけど…ちょっと複雑かも… プリクラはつさき 「初音、プリクラ撮りませんこと?」 プリクラ? と首を傾げる。 「えぇ、実はCRYCHICのみんなで撮ることに憧れがあったのですが…結局撮れずに後悔したのを思い出したので初音とはそんなことないように撮りたいと思って」 さきちゃんの言葉に納得する。確かにさきちゃんと写真は撮ってるけど…形として残してるものはないっけ。 「というわけで辿り着きましたわね、愛音さんから聞いたオススメのプリクラ」 あ…だから普段通らない道を通ってたんだね。 「さてさて…それでは早速…」 「どうやるんだろう…」 二人で筐体の中に入ると案内が。導かれるままにポーズを撮ったりすればあっという間で。 「おお…これが…!」 「へぇ…こういう風なんだ」 出てきたシールを二人でしげしげと見つめる。なんだか普段の写真と違ってドキドキしちゃう。 「よし、ではまた撮りましょう!」 「えっ、また!?」 結局わたしはその後何回もプリクラを撮ることになった。 タイムマシンはつさき 「初音ってタイムマシンがあったら使います?」 さきちゃんの唐突な質問に戸惑いが浮かぶ。タイムマシン…ってあの、青い猫型ロボットの作品に出てくるようなあれだよね? 「うーん…未来のさきちゃんは気になるけど、先回りしちゃうのはイヤだし…過去は…変えたら今の生活が変わっちゃうから使わないかな」 未来のさきちゃん…大人になって色気が出てるさきちゃんはきっと綺麗なんだろうなぁ。 「初音もそうですのね。わたくしもお母様にもう一度会いたいという気持ちはありますが……それをしたら、きっとお母様と初音とで気持ちが揺れてしまいそうですもの」 そっかぁ…お義母さん…わたしにとってはお姉ちゃんになるんだっけ。わたしもちょっと…会ってみたいけど、向こうはどうなんだろう。 「お母様なら経緯はどうあれ自分の妹なら可愛がると思いますわよ」 わたしのこぼした言葉を受けて答えたさきちゃんに、ありがとうと告げて見たことだけはあるお義母さんでお姉ちゃんに思いを馳せた。 手相占いはつさき 「さきちゃん! 手相見てあげる!」 「手相? 急にどうしましたの」 わたしが手を出して! と要求すると訝しんだように見てくるさきちゃん。別に変なこと考えてないよぅ…sumimiで出た番組で手相見てもらったからわたしも見てあげたいなって思っただけだもん。 「まぁいいですが…はい、好きにしてくださいな」 「さきちゃんのお手々…ふへへ、すべすべで柔らかいね…」 「やっぱやめていいです?」 あぁ〜! ごめんさきちゃん! ついさきちゃんの可愛らしいお手々を触って欲望が溢れ出ちゃっただけで…ちゃんと真面目にやろう、うん。 「ふんふん…」 気を取り直してさきちゃんの手を見る。確か…どれがどれだっけ…… 「……あの、初音?」 ……やば、全然分かんない…でもなにか言わないと…うーん…あっ! 「さきちゃんのお手々はすごく可愛らしいからさきちゃんも可愛いよ!」 「さようなら」 「あぁーっ! ごめんなさいさきちゃーーーん!!!!」 リップクリームはつさき 「初音、少しいいかしら」 「んー、なあに?」 さきちゃんに手招きされたからふんふんと近寄っていく。やっぱり何度呼ばれても嬉しいなぁ…なんて思って近くまでくればリップクリームをじっと見ているさきちゃんが。 ……あ、やば。こっそりさきちゃんの使用済みリップクリームを使って間接キスだ、うへへ…ってやってるのがバレた!? 「初音、近くに…」 「ごめんなさい!」 「え、なにがですの?」 わたしが謝るときょとんとした様子のさきちゃん。えっ…気付いてない? だとしたら謝ったのは…悪手だったかも…… 「な、なんでもないよ」 そう言うもじとーっとした顔で「初音」なんて呼ばれたら白状せざるを得ないよ…… 「ふーん…そんなことしてましたのね。では…初音、ん」 はぁとため息を吐いたさきちゃんが近寄ってきて。怒られると目を瞑っていれば唇に柔らかな感触が。ゆっくりと目を開くとさきちゃんがいて。 「今度からリップクリームが必要な時はわたくしに言いなさい。唇で塗ってあげますから」 「ひゃ、ひゃいぃ…」 寒空はつさき 「うぅ、寒いなぁ…」 秋の帰り道。最近まで秋だというのに暑かったかと思えば一気に寒くなってきて。今日なんて油断したから薄着で出てきてしまっていた。 「早く帰ってあったかいコーヒー飲もう…」 そう決意して早足で歩こうとした時だった。聞きなれた声がわたしを呼び止めた。 「初音? 貴女も帰るところでしたのね」 「さきちゃん! うん、そうだよ。さきちゃんは…お買い物帰り? 荷物持つね」 愛しいわたしのお嫁さん。片手には膨らんだエコバッグを持っているから、代わりに持ってあげることにしたら彼女の手が触れてしまう。 「…随分と手が冷たいですわね。初音、こうしますわよ」 「ひゃっ!?」 眉を顰めたさきちゃんがわたしの手を握って。ぽかぽかとしたさきちゃんの手に包まれて、わたしは変な声をあげてしまった。 「こうすれば少しは暖かいでしょう? さ、帰りますわよ」 その言葉にうん、と頷いて。それからの帰り道は、さっきまでと違ってすごく暖かかった。 石はつさき 「さきちゃん、これ燈ちゃんから」 わたしはさっき燈ちゃんと会って預かったプレゼント─なんか…石?─を手渡す。わたしにはただの石にしか見えないけど、さきちゃんと燈ちゃんの間ではなにか意味があるのかな? 「石……」 あ、これ戸惑ってる顔だ。嬉しいは嬉しいけどなんで石なんだろうって感じかな。 「燈が石を集めてるのは分かってますが……手紙とかはありませんの?」 「特に貰ってないけど……」 預かった時のことを思い返すけど、特別伝言があったわけでもないし手紙とかもなかったような…… 「ふむ…ですがきっとこれは燈が選んでくれた特別なものですし飾っておきましょうか」 燈ちゃんからのプレゼントだもんね、と答えてガラスケース…はないけどハンカチを敷いた棚の上にその石を飾っておいた。 🌙 🌙 🌙 「ともりーん、プレゼント渡せた?」 「うん…! 初華ちゃんに預けた…」 「えっ、いいなー! 私も会いたかったー!」 お得はつさき 「初音、最近そのコーヒーをよく飲んでますわね。お気に入りですの?」 わたしが缶コーヒー(キャップのついてるやつだよ)を飲んでるとさきちゃんがそう尋ねてきた。 「お気に入り…というか、これを買うと次のお買い物で使える無料クーポンがついてくるんだ。だからこれ飲んでるの」 そう、わたしがよく寄るコンビニではこの手のキャンペーンをよくやってる。それが今はこの缶コーヒー…ってわけ。 「なるほど、買い物上手ですわね。流石初音です」 うんうん、と腕組みをして頷くさきちゃん…わたしは元々そんなこと気にしてなかったんだけど、さきちゃんが気にする人だからいつの間にかわたしも気にするようになっちゃったんだよね。 さきちゃんと暮らし始めて変わったことは色々あるけど…ふふ、わたしにとっては良い変化ばっかりだな。 「ありがとう、さきちゃん」 お礼を言うとさきちゃんは戸惑ったような表情をするけど、わたしは満足。ふふん。 3mはつさき 「初音、3mの穴を掘るってどう思います?」 「えっなに急に……」 なんかさきちゃんが真剣な顔をしてると思ったら突然そんなことを言い出した。訳の分からないよ…さきちゃん穴掘りしたいの……? 「いえ…そよから燈が3mの穴を掘って石を採掘していたと聞きまして」 燈ちゃんそんなことしてたんだ…3m…3mかぁ…… 「うーん……法律的にどうなんだろうね? こう…安全性とか。人が落ちたり埋まったら危ないし」 「気にするとこそこですの!?」 そこって…好きなもののためなら3mくらい掘れるよね? わたしだってさきちゃんが埋まってるなら3mどころか30mだって掘る自信あるよ! 「その気持ちは嬉しいですが……まぁ、燈なら掘れるのかしら…? うーん……」 「さきちゃん、人っていうのはね…好きなことのためならなんでもできるんだよ」 「初音が言うと説得力ありますわね……」 おでんはつさき 「わ、ねぇねぇさきちゃん。おでん売ってるよ」 コンビニに寄るとレジ前におでんの什器が置いてあってそこから匂いが漂ってくる。懐かしいなぁ、おでん…初華と具材を取り合ったり…とかはしてないや。わたしが大体譲ってたし…… 「食べたいんですの? なら買って…いえ、高いですわね。うちで作りましょう」 さきちゃんが言うから値札を覗いたら…うわぁ、本当だ…ちょっとこれはお高いや…… 「それなら素麺も買ってこうよ。おでんのシメに入れると美味しいんだよ」 「素麺を…? あぁ、初音の出身は小豆島ですものね」 納得したように頷いたさきちゃんに心の中でえっと言葉をもらす。もしかしてこっちではおでんに素麺を入れない…? 「ではスーパーに寄っておでんの材料を買って帰りましょう。……そういえばお父様がお酒と一緒に嗜んでましたわね…」 「飲んじゃダメだよ!?」 「飲みませんわよ!!!」 ハロウィン準備はつさき 「初音…相談があるのですが」 「んー? どうしたの?」 わたしはこてん、と首を傾げて尋ねかける。相談…っていうとやっぱりムジカのことかな? 家計はそんなに無駄遣いとかしてないし余裕はあるはず…… 「31日に燈や愛音さんとハロウィンパーティーをするのですが、どんな仮装をすれば良いのかな…と思いまして」 「えっなにそれわたしも行きたい!!」 さきちゃんの仮装が見られるなんてわたしも行くしかないじゃん! 愛音ちゃんに連絡連絡! 『来てくれるの!? もちろんいいよ!』 やったー! 愛音ちゃんから許可が出たよさきちゃん!! 「行動が早いですわね……ってわたくしの仮装ですわよ!」 うーん…仮装かぁ、折角だしお揃いコーデとかもいいけど、そしたらさきちゃんのちょっとえっちな仮装をわたしもすることになるもんね……むむむ…… 「……わたくしたち、ムジカで似たようなことやってるから目新しさがないんですのよね……」 「…………確かに!」 わたしたちは一瞬の沈黙の後、顔を見合わせて笑ってしまった。 抹茶手作りはつさき 「立希ちゃん眠そうだね」 「ん…ちょっとお菓子作ってて夜更かししちゃって」 「お菓子作り? 燈ちゃんのために?」 正直その…すごく意外だった。立希ちゃんがお菓子作りなんてするの…想像つかないから。でも、その後に続く言葉でわたしは納得した。 「野良猫の抹茶代がさ…バカにならなくて。少しでも節約できないかなって思って作ってるんだけど…中々上手くいかなくて。三角さんって得意?」 あぁ〜と声が出る。立希ちゃんはよく楽奈ちゃんに奢ってるもんね…でもお菓子作りかぁ。わたしもそんなにしないから…あ、さきちゃんならアドバイスできるような…でも立希ちゃんって…一応聞いてみようかな。 「さきちゃんならよくわたしに作ってくれるから得意だと思うけど…聞いてみようか?」 「祥子か…うん…良い機会だしお願い」 🌙 🌙 🌙 「はつはつしかじか…ってことだよさきちゃん」 「ふむ…それなら今度の休日に招きましょうか。出来たものは初音も試食してくださいましね?」 着替えはつさき 「ふぁぁ…ねむ…」 ぼんやりとした頭のまま廊下を歩く。めっきりと寒くなってきた最近の廊下はひんやりとした言葉では表せないくらいの冷たさを保っているのにも関わらず油断すると欠伸が出てしまう。最近はsumimiの仕事の方が忙しくて朝は早いし夜も遅い…さきちゃんと一緒にいられる時間が少ないのは寂しいけれど、彼女におはようやただいま、おやすみが言えるのはすごく幸せなんだ。そんなことを考えながら寝室の扉を開けると。 「きゃっ! は、初音…!?」 「あ…着替えてたんだね、ごめんねさきちゃん」 さきちゃんが服を半脱ぎのままいた。さきちゃんのスタイルの良い体…上品なブラに包まれたおっぱいが見えて健康に良いね! 「分かってるならお部屋から出て扉を閉めてくださる?」 「……?」 さきちゃんはなにを言ってるんだろう。こんな眼福なもの見ないと損なのに…… 「今の初音はなんか怖いんですのよ!!!」 「わぷっ」 そう言って投げつけられるさきちゃんの脱ぎたてパジャマ。うおっさきちゃんの濃厚な匂い…うへへ。 ハロウィンはつさき 「楽しかったねさきちゃん!」 「ええ、とても」 ハロウィン当日、わたしたち…わたしとさきちゃん、愛音ちゃんに燈ちゃんは学校が終わったらわたしたちのお家に集まってパーティーをしていた。 各々持ち寄った料理やお菓子…コスプレもして盛り上がって。ムジカのみんなとではこんなに楽しくできなかっただろうなぁ、なんて思ってたら愛音ちゃんも「迷子のみんなとはこんなこと出来なかったからありがとう!」なんて言ってくれたものだから笑っちゃった。 「さて、初音…ハロウィンはまだ終わりではありませんわよ? トリックオアトリートですわ」 そうやってわたしが思いを馳せていたら唐突に繰り出されるさきちゃんのおねだり。えっ、お菓子…お菓子は…余ったものは二人にあげちゃったからない! 「イタズラでお願いします…」 「ふふ、分かりましたわ! では…寝室でたっぷりと『イタズラ』させてもらいますわね?」 そう言って笑うさきちゃん…妖艶ですごくゾクゾクしたわたしは、「ひゃい」と頷くことしかできなかった。 まなさきはつさき3 『純田まなの『まなroom』はじまるよ〜』 付けていたラジオから流れるまなちゃんの声。休日の午後にやってるこのラジオはのんびりとした時間にピッタリでこうしてコーヒーを挽いてるお供に丁度良いんだよね。さきちゃんもお仕事でいないし…たまの贅沢で良いコーヒーを飲むんだ。 『今日はなんと! ゲストの方が来てくれてるんだよね〜。みんなも知ってるあの人だよ?』 へぇ…ゲストかぁ。わたしもまだ招待されてないのに誰が出るんだろう? ちょっとの嫉妬を込めながら適温に沸かしたお湯の入ったケトルを手に取る。 『それじゃあ登場していただきましょう。ゲストさ〜ん!』 『ごきげんよう、そしてお邪魔しますわ。AveMujicaのオブリビオニス…ですが、今は豊川祥子としてまなさんのお部屋にご招待いただきましたわ』 さきちゃん!? えっ、さきちゃんなの!? あつっ! あっ、驚きすぎてお湯こぼした! 『よろしくねオブリビオニス祥子ちゃん!』 『祥子ですわ』 いつものやり取りが聞こえてくるけどわたしは動揺して集中することができなかったよ…