「やっほー、ゼクストくん。支援兵くんたちの避難は完了したよー」  いつの間にか、オレのすぐ後ろにレーヴェさんが立っていた。もう避難誘導が済んだのか。仕事が早すぎだろこの人。 「感謝するっす! あと、予知の中で無様に敵に負ける姿を見せてしまったみたいで、すんません……」 「謝らないの。予知はあくまでも予知。行動次第で、悪い未来は変えられるんだから」 「レーヴェさん……」  そうだ。ゼクストさんは、今までに何度も悪い未来を変えてきた。そのおかげで、近年は異能者の仲間が淫魔に堕ちずに済んでいるんだ。オレの悪い未来も、きっと変えられるはず。 「……ちなみに、予知の中でオレの裸を見たっすか?」 「ゼクストくん! 今は余計な事を考えないように!」  レーヴェさんが勢いよく目を逸らした。  この反応、絶対見たな! クソッ、恥ずかしい! オレのちんこ、小さいから見られるの嫌なんだよ! いやでも大好きなレーヴェさんに見られたのはむしろ嬉しいかも……って、何考えてんだオレは! 「ほう。貴様ら、異能者だな。異能の臭いがぷんぷんする」  少し離れた場所から、低い声がした。  声がした方に視線を向けると、そこには戦斧を持った巨大な牛の怪物の姿があった。  ……こいつか。予知の中で、オレを倒した牛の淫魔は。 「おじさん、こう見えても毎日水浴びするくらいには綺麗好きなんだけどなあ。そんなに臭わないはずなんだけど」 「誰も体臭の話はしていないと思うっすよ……」  淫魔は異能者の体内に宿る異能の力を感知する事が可能らしい。まったく、厄介だよな。 「フン。ふざけた奴らだな。まあいい。大人しく投降しろ。そうすれば、二人並べてじっくりと優しく犯してやる」  舌舐めずりをする牛の淫魔を見て、鳥肌が立ってしまった。気持ち悪い。こんな奴にやられる姿を、レーヴェさんに見られちまったのか。最悪だ。 「悪いけど、おじさんは純愛ハッピーエンドしか認めない派なんだ。凌辱バッドエンドはお断りってね。だから、君には死んでもらうよ」 「ガハハハハッ! 俺様に勝てると思っているのか!? 面白い!」  牛の淫魔が戦斧を構えながら、レーヴェさんに向かって勢いよく突進してきた! 「レーヴェさん!」 「心配しないで! 俺は意外と動けるおじさんだからさ!」  レーヴェさんが懐から取り出した何かを、牛の淫魔に投げつける!  「うおっ!?」  レーヴェさんが投げたものは牛の淫魔の右足に直撃し、牛の淫魔はバランスを崩して勢いよく転倒した。 「支援兵くんから頂戴した強力粘着ボールの味はどうだい?」  牛の淫魔の右足に、地面に縫い付けられるような形で白い粘着剤が付着している。 「小癪なァ!」  並の相手なら動きを封じられたはずだが、相手が悪い。牛の淫魔は脚の筋肉を膨張させながら勢いよく立ち上がり、粘着剤を無理矢理にひっぺがした。 「うーん、やっぱりバカ力だなあ」 「舐めた真似をしやがって! 貴様は脚の骨を砕いてから犯してやる!」  粘着剤から逃れた牛の淫魔が、再度レーヴェさんに突進する! 「させるか!」  オレは逆手に持った燼滅の刃を、地面を切り裂くようにして勢いよく振るった! レーヴェさんと牛の淫魔の間に、一瞬だけ炎の壁が現れる! 「ちっ!」  牛の淫魔は怯み、素早くバックステップをした。その隙にを見逃すレーヴェさんではない。牛の淫魔から距離を取るために、素早くオレの元へと走り寄ってきた。 「ありがとう、ゼクストくん!」 「役に立てたなら良かったっす」  レーヴェさんの予知によるとあの淫魔に火の異能は効かないようだが、目の前に勢いよく炎の壁を出せば怯ませる事はできるだろうとオレは読んだ。その読みは、当たったようだ。  ……だが、今のオレの技に怯んだのは初見だからだ。今の一撃で、あいつはオレが火の異能使いだと知った事になる。 「フン、驚かせおって! 俺様に火は効かん! 貴様の手品は二度と通じぬわァ!」  牛の淫魔が叫びながら、今度はオレに向かって突進してきた! タネが割れた以上、オレの異能はもう頼りにならない。あいつは怯まず強引に攻めてくるだろう。 「ゼクストくん! ぐるぐるフォーメーション作戦で行こう!」 「なんすかそれ!?」 「君は時計回りで、オレは反時計回りで……あいつの周りを囲むようにぐるぐると逃げ回ろう!」 「逃げ回りつつ撹乱するんすね! 了解っす!」  止まっている暇もじっくりと考える暇もない! なのでレーヴェさんのネーミングセンスの悪さにも突っ込む暇はない!   オレたちは一度頷き合った後、走り出した! 今はクーゲルが到着するまで逃げ回るしかない! 「ちょこまかと目障りなやつらだ! 逃げ回って俺様の体力を削るつもりか!? ならば浅知恵であるとしか言えん! 俺様よりも貴様らの体力が尽きる方が先に決まっているからなァ!」  オレたちの体力が尽きるのが先か、クーゲルが到着するのが先か……。後者である事を祈りつつ、今は鬼ごっこをするしかない。 「いやあ、良い運動になるなあ! でも疲れてきたからちょっと休憩させてくれない? ダメ?」  レーヴェさんは走り回りつつ、適時粘着ボールを投げつけて牛の淫魔の動きを鈍らせた。 「オラ牛野郎! イキってる癖にオレを捕まえられねえのか!? バーカ!」 「何だと犬っころが!」  挑発に耐性が無い単純バカで助かるぜ。汚い言葉を浴びせれば、すぐにこっちを狙って突進してくるからな。  レーヴェさんより、オレの方が体力はあるはずだ。オレが走り回って、少しでもレーヴェさんが休憩する時間を稼がないと。 「ぬぅん!!」  いきなり、牛の淫魔が巨大な戦斧をオレに向かって投げてきやがった!  「うおっ、危ねえ!」  思いっきり身を捻らせてそれを回避したが、体勢を崩して地面に転がってしまう! 「これでくだらん鬼ごっこは終わりだァ!」  体勢を立て直すよりも先に牛の淫魔は目の前に迫り、右手で握り拳を作ってオレに叩き付けようとする構えが見えた。まずい、やられる! 「終わるのは汝の命だ」  ――低いバスボイスと共に、銃声が辺りに響いた。 「……なっ、何だこれはァ!?」  牛の淫魔が情けない声を上げる。牛の淫魔の胸には小さな穴が開いていた。その穴から外側に向かって、じわじわと氷晶が広がっていく。 「某(それがし)の友を害そうとした報いは受けてもらうぞ」  さらに二回、銃声が響く。直後、牛の淫魔の頭と腹部にも穴が開いた。開いた穴からさらに氷晶が広がり、霜が降りたかのように全身の被毛が白くなっていく。 「くそっ、俺様が、こんなところでええぇっ!!」  その叫びを最後に、牛の淫魔は動かなくなった。 「……ゼクスト。遅くなってすまない。怪我は無いか?」  蒼い鱗に全身を覆われた竜人――クーゲルが、左右の太腿に着けたガンホルダーに二丁拳銃を仕舞った後、オレに手を差し伸べてきた。 「すまねえ。助かったぜ、クーゲル」  ごつごつとした無骨な手を取り、立ち上がる。直後、何かが砕けるような音がした。 「霜降り冷凍ミンチになっちゃったねぇ」  音がした方を見ると、完全に凍り付いた牛の淫魔をレーヴェさんが真顔で蹴り砕いていた。  相変わらず、レーヴェさんは淫魔相手には容赦ねえな。文字通りの死体蹴りだ。  ……気のせいだろうか。今のレーヴェさん、怒っているように見えるし、すげえ悲しそうにも見える。何を、考えているんだろう。  §§  死体を蹴ったところで意味なんか無い。そんな事は分かっていた。でも、淫魔を前にすると憎しみと破壊衝動に身を苛まれてしまう。  憎しみは視野を狭くするから、抱くべき感情ではないんだけれどな。感情に振り回されやすいだなんてゼクストくんを評しておいて、自分自身がこれだ。情けない。  ――十二年前に、大切な友が淫魔に堕とされた。そして俺は、その友の首を刎ねた。それ以降、淫魔を憎む気持ちがずっと胸の中で燻り続けている。年月が過ぎても、変わらずに。 「辛気臭い顔をしとるのう。大した被害を出さずに淫魔を追い払えたんじゃろ。もっと嬉しそうな顔をせんか」  赤いエプロンを着けたふくよかな熊獣人の中年――ハイターさんが、俺の背中をバシバシと叩きながらそう言ってきた。 「やだなー、ハイターさん。俺はいつだって嬉しそうな顔をしているおめでたい頭の獣人だよ」 「適当な事を言うでない。まったく」  現在、俺は粋蜜亭という名の酒場の中に居る。ゼクストくんとクーゲルくんも一緒だ。  クーゲルくんが牛の淫魔を倒した後、他の淫魔たちは形勢が不利だと判断したのか、ナインセントラルの近辺から退散していった。束の間とはいえ、平和な時が訪れたわけである。  平和な時は、思いっきり羽を伸ばすべきと俺は思っているんだよね。だから今日の戦闘で頑張ったゼクストくんとクーゲルくんを誘い、馴染みの酒場に来たのだ。ハイターさんは、俺が二十年近くお世話になっているこの酒場のマスターだ。 「何でも好きなものを頼んじゃってよ、二人とも。今日はおじさんが何でも奢っちゃうからさ」 「そんな、悪いっすよ」 「若者は遠慮すべきではないぞ。こいつは後輩に頼られると喜ぶ男じゃ。無趣味な奴じゃし、懐も温もってるじゃろうな」 「無趣味云々はともかく、大体ハイターさんの言う通りだよ。ほら」 「あ、ありがとうございます……」  俺はゼクストくんにメニュー表を押し付けた。  おじさんは若者が美味しそうに飲食する姿を見るのが好きなのだ。だから遠慮せずに好きなものを飲食してほしい。 「レーヴェさんはもう何を頼むか決めたんすか?」  クーゲルくんと一緒にメニュー表を眺めつつ、そう尋ねてくるゼクストくん。俺が頼むものは、メニュー表を見なくてももう決まっている。 「ペールエールとチキングリルを頼むつもりだよ」  この酒場で取り扱っているペールエールは強い苦味があって好きなんだよね。塩味が強いチキングリルによく合うんだ、これが。 「……某は、ミルクを頂いても良いだろうか」 「せっかくだから酒を飲もうぜ。お前が下戸なのは知ってるけど、一杯くらいはいけるだろ」 「むう……ゼクストがそう言うのなら……」  へえ、クーゲルくんってあまりお酒を飲めないんだ。  そういえば、クーゲルくんと一緒にお酒を飲むのは初めてだ。彼が飲み会に参加する姿を今までに見た事は無かったが、それはお酒に弱いというのが理由だったのかも。 「んじゃ、とりあえずペールエールを三つ頼むか。あとチキングリルとー……」  ゼクストくんが手慣れた様子でハイターさんに注文を伝えた。彼、この辺りの酒場街でよく飲み歩いているみたいだもんなあ。俺もお酒は好きだけど、昔みたいに色んな店を飲み歩く気力は無くなってしまったな。若さが羨ましい。  ……暫しの間、二人と他愛の無い会話をしながら注文の品が届くのを待った。と言っても、口数が少ないクーゲルくんはあまり会話に参加してくれなかったが。 「……失礼します。先にペールエールを三つお持ちしました」  程無くして、頭に包帯をぐるぐると巻いた長身の白山羊の獣人がお酒を持ってきた。初めて見る顔だ。 「新しい店員さんかな?」 「はい。今日からここで働かせていただく事になりました。ギフトと申します」  ギフトと名乗った青年は机の上にお酒を置いた後、丁寧にペコリと頭を下げた。 「その頭はどうしたんだい?」 「僕はイスト村の出身でして。淫魔に追われながらも、何とかナインセントラルまで逃げ延びる事ができました。頭の怪我はその時に」  イスト村。つい最近、淫魔に襲撃されて滅んだと聞いた村の名前だ。ナインセントラルの東に存在していて、少数の獣人が身を寄せ合って農業を営んでいたと聞く。村の自警団の中には異能者も存在したらしいが、村が滅んだという事は淫魔に敗北して堕とされた可能性が高いだろう。 「ハイターさんには感謝しています。余所者である僕に働く場所を与えてくれたのですから」 「そんなに畏まらなくても良い。人手が増えて儂は大助かりじゃよー」  ギフトくんの声が聞こえていたようで、調理場の方からハイターさんの声がした。 「そう言ってもらえると嬉しいですね。……では、ごゆっくり。後ほど料理もお持ちします」  もう一度頭を下げた後、ギフトくんは調理場の方に向かっていった。礼儀正しい子だなあ。 「……とりあえず、乾杯しよっか」 「うっす」 「承知」  琥珀色のペールエールが並々と注がれたジョッキを持って二人のジョッキに軽く打ち付けた後、まずは中身を少量だけ口に含んだ。……苦いけど後味爽やかで疲れた身体に沁みるなあ〜。今日は年甲斐もなく走り回ったからねえ。数日は筋肉痛で動きがぎこちなくなるのを覚悟しないと。 「……むう」  クーゲルくんの方に視線を向けると、顔を顰めながらちびちびとペールエールを飲んでいた。 「クーゲルくん、大丈夫? 苦手な味だったんじゃない?」 「こ、これしきの苦難、乗り越えてみせる……」  苦難って。やっぱりクーゲルくんにとって苦手な味だったようだ。 「実はクーゲルって、苦いのが苦手で甘いのが好きなお子様舌なんすよ」 「へえ、意外。……ん? ゼクストくんはそれを知っていたのに、クーゲルくんの分のペールエールを頼んだのかい?」 「へへっ、面白そうだったからつい」  そう言って、ゼクストくんは小さく舌を出して笑った。いたずらっ子め。 「某は子供舌ではない。それを証明してやろう……!」  ゼクストくんの言葉がクーゲルくんに火を付けたようだ。クーゲルくんは一度深呼吸をした後、ごくごくと喉を鳴らして勢いよくペールエールを飲み始めた! 「おお! 良い飲みっぷりじゃねえか! いけー! クーゲル!」 「いや、無理しない方がいいんじゃ……」  お酒が苦手なのに一気飲みをするなんてダメ、ゼッタイ。嫌な予感しかしない。 「料理をお持ちしました」 「熱々な内に食べるのじゃ!」  クーゲルくんがジョッキを空にしたのとほぼ同時に、ギフトくんとハイターさんが料理を持ってきた。 「ひっく、見たかぁ。某は、大人なのら……」 「おいレーヴェ。こやつ、すでに悪酔いしとるようじゃが大丈夫なのか?」 「大丈夫じゃない。問題だ……」  今のクーゲルくんは目が据わっているし呂律も回っていない。そして、顔は真っ赤。どこからどう見ても立派な酩酊ドラゴンだ。 「某はらいじょーぶ。悪酔いなんかしていない……」 「んじゃ、もう一杯いっとくか? ペールエールを」 「鬼かな?」 「いいらろう。受けてたつ……」 「あーダメダメ。お酒はストップ。ミルクを追加で頼むよ、ギフトくん」 「分かりました」  これ以上はクーゲルくんにお酒を飲ませない方が良い。そう思った俺は、お酒を追加しようと提案したゼクストくんを制止しつつ、ミルクを追加注文したのであった。 「……他にお客さんは居ないし、せっかくだからハイターさんたちも一緒に飲もうよ」  戦闘の後処理が長引いたから、粋蜜亭を訪れたのが遅い時間帯になっちゃったんだよね。そのせいか、俺たち以外に客は居ない。 「お邪魔しても良いのかのう」 「オレは大歓迎っすよ。マスターとはじっくり話してみたいと思ってたし」 「某も、問題ないのら……」  というわけで、ハイターさんとギフトくんも一緒に席に着き、男だらけの飲み会が始まったのであった。  § 「恋バナが聞きたいのう!」  クーゲルくん以外がお酒を三杯ほど飲み終えた頃に、ハイターさんが突然そんな事を言い出した。 「のう、レーヴェよ。浮いた話はないのか?」 「ありません」 「即答じゃのう……」 「おじさんは一人が性に合ってるから、恋愛とは無縁なの」  もう恋にうつつを抜かせる年齢でもないしね。 「ゼっくんはどうじゃ? 浮いた話は無いのか?」 「オレっすか!? オレは、その……」  急に話を振られたゼクストくんが、もじもじしつつ俺の方をちらりと見た。やばい。これは良くない流れだ。 「ゼクストくんは仕事が忙しいからね! 恋愛なんてしている暇は無い! そうでしょ?」 「あっ、はい。そうっすね……」 「ううむ? 何故レーヴェが慌てておるのじゃ?」 「気のせい気のせい。俺はいつだって冷静沈着なおじさんさ」  なんかそれっぽい流れになって彼に告白されたら困る。もしこの場で告白されて、それをズバッと断らないといけなくなったら流石に胸が痛む。 「クーちゃんはどうかのう?」 「某は、ずっと恋焦がれている相手なら、居るのら……」 「ほほう! どんなやつじゃ!?」  朦朧とした様子のクーゲルくんに、みんなの視線が集まる。ハイターさんもクーゲルくんも、目が爛々と輝いているなあ。クーゲルくんの好きな相手に興味津々といった様子だ。 「某が、好きなのは……」 「誰だ!? オレも知っているやつか!?」 「…………ぐごー」 「こ、こいつ! 肝心な部分を吐かずに寝やがった! 起きろ! 起きて吐け! 誰が好きなんだ!?」  机に突っ伏していびきをかきはじめたクーゲルくんを、ゼクストくんが思い切り揺さぶる。だが、彼が目覚める様子は無い。 「面白い話を聞けそうだったのにのう」 「そうですね。残念です」  コーヒーリキュールが入ったグラスを片手に、ギフトくんは穏やかに微笑んだ。 「ギフトくんはどうなの? 実は恋愛経験が豊富だったり?」 「申し訳ありませんが、僕も恋愛とは無縁な生き方をしていたもので。誰かを好きになるという気持ちが、良く分からないのですよ」 「なんじゃ、つまらんのう」  ギフトくんは真面目そうだからなあ。恋愛にうつつを抜かす姿は想像できないかも。  §  恋バナが終わってから程無くして、飲み会はお開きになった。  泥酔したクーゲルくんを俺とゼクストくんで運んで、粋蜜亭の二階にある小部屋のベッドに寝かすのは大変だったなあ。でも、防衛軍の寮に連れ帰ろうとしたらもっと大変だっただろうから、クーゲルくんを泊めると言ってくれたハイターさんの厚意に感謝だ。 「たっだいまー。いやー、楽しかった!」  ゼクストくんと粋蜜亭の前で別れた後、俺はすぐさま防衛軍の司令室に駆け込んだ。何故か、寝る前に幼馴染の仏頂面を見たくなったんだよね。 「ここはお前の私室じゃないぞ」 「細かい事は気にしない」 「はあ……」  椅子に腰掛けて書類と睨めっこをしていたヴァイスが深いため息を吐く。なんか、顔を合わせる度にため息を吐く姿を見ている気がするなあ。 「ヴァイスも来れば良かったのに」 「立場上、私は有事に備えなければならないからな。酔うわけにはいかん」 「お酒以外を飲むって選択肢もあるでしょ」 「ゼクストやクーゲルの気持ちも想像してやれ。私が飲み会に参加したら、気まずい思いをするだろう」 「そうかな……そうかも……」  仏頂面の司令が飲み会に参加したら、確かに気まずい。俺は慣れているけれど、あの二人はヴァイスと顔を合わせてじっくりと話す機会はあまり無いだろうしな。 「くだらない事を言ってないで、さっさと寝て体力を回復させろ」 「はーい」  ちょっと司令室のソファを借りて寝ちゃおっと。俺がそう思った瞬間…… 「……っ!?」  頭痛と、目の霞みが生じた。間違いない。これは、悲劇的結末の予知が発動する予兆だ。  ――少しして、頭痛が和らぎ視界もクリアになる。  気がつくと、俺は木造の建物の中に居た。ここは、さっきまで俺が居た場所……粋蜜亭の二階にある小部屋だ。  小部屋の中に居るのは、三人。ベッドに横たわって苦しげな呻き声を上げるクーゲルくんと、そんな彼を見下ろすギフトくん。そして…… (……死んでいる、のか?)  部屋の扉の近く。その床上で、血溜まりに沈む熊獣人――ハイターさんの姿が見えた。 「ハイターさんも間が悪いですねえ。僕が、君に毒を注射する瞬間を見てしまうなんて。口封じのために殺すなんてみっともない真似はしたくなかったんですがね」 「ふざけるな……っ!」  クーゲルくんが、片手に注射器のようなものを持ったギフトくんを睨み付ける。 「良い目をしていますね。憎しみの色が浮かんだ目で睨まれると、非常に興奮します」  そう言いながら彼は、頭に巻いていた包帯を外した。  剥き出しになった彼の額。そこには、黒い魔法陣が刻まれていた。 (こいつ……!) 「どこから潜り込んできた、淫魔め……!」 「そんな事、どうでも良いじゃないですか。邪魔者は居なくなりましたし、僕と楽しみましょう。クーゲルさん」  白山羊の淫魔――ギフトは、懐からナイフを取り出してクーゲルくんが身に纏う服をビリビリと切り裂き始めた。 「や、やめろ……っ!」 「抵抗しようとしても無駄ですよ。さっき貴方に打ち込んだ毒には、筋肉を弛緩させる効果があります。まともに身体を動かせないでしょう?」 「ぐうっ……!」  ギフトの言葉は真実のようで、クーゲルくんはまともに身体を動かせないようだ。睨みつけて、抵抗の意思を示す事しかできない様子である。 「全てを曝け出して僕に身を委ねてください。僕は有象無象の淫魔とは違う。時間をかけて優しく犯してあげますから、安心してください」  ついに、クーゲルくんの身を守る最後の砦であった下着が切り裂かれた。 「綺麗な色をしていますね」 「見るな……!」  クーゲルくんの股間部にある薄桃色の縦筋に、ギフトが舐め回すような視線を向ける。  竜人の股間部には生殖器が格納されているスリットと呼ばれる割れ目が存在すると聞いた事はあるが、俺も見るのは初めてだ。 「どれ、味見をしましょう」 「ひっ……!」  スリットに顔を近づけたギフトが、長い舌を割れ目に侵入させて嬲り始める。くちゅくちゅと、湿った水音が部屋に響き始めた。 「某は、このような辱めに、屈しない……! んうっ……」  クーゲルくんの頰が、ほんのりと赤みを帯びてきた。羞恥心からだろう。  ギフトはスリットの中に舌を挿入したまま、長い示指もゆっくりと挿入した。 「うおっ!?」  クーゲルくんの口から、大きな声が漏れる。秘部に指を突き入れられたのだ。不快感で声を出すのは仕方のない事だろう。 「ゆっくりと解してあげますからね」  ギフトは優しい声色でそんな言葉を投げかけた後、クーゲルくんの中に挿入した指を引き抜く寸前まで動かし、再度根元まで挿入した。湿った音を立てながら、彼はその動きをひたすらに繰り返す。唾液が潤滑剤の役割を果たしているためか、指の動きは徐々にスムーズになっていった。 「負けぬ、某は、淫魔なんぞに……!」  クーゲルくんは歯を食いしばり、必死に与えられる刺激に抗っているようだ。だが、彼の股間部にあるスリットからは透明な汁が溢れ出ている。 「ふっ、うぅっ、んん……」  気のせいだろうか。クーゲルくんの口から漏れる声が、熱っぽく艶やかなものになっているように感じるのは。 「ふふ。さっき貴方に打った毒には、催淫効果もあったのですよ。気持ちよくなってきたでしょう?」 「ぐっ、感じてなど、いない……っ!」  否定の言葉を口にするクーゲルくんであったが、スリットから溢れる汁の量は増え続け、彼の息遣いも荒くなっているように感じる。 「……さてと、充分に解れたようなので愛撫はここまで。そろそろ本番に移りましょうか」  汁まみれのスリットから指を引き抜いたギフトは、ズボンを下ろして巨大な男根を取り出した。そして、彼は無抵抗なクーゲルくんの両脚を掴んで大きく開脚させた後、小さく口を開いたスリットに男根の先端を突き付ける。 「屈しない……某は、絶対に屈しない……っ!」 「そうですか。頑張ってくださいね」  無慈悲な言葉を放つのと同時に、ギフトは腰を前に突き出した。 「んおおおおぉぉっ!?」  クーゲルくんの悲鳴と、ギフトの男根が秘部を貫く音が部屋に響く。 「はしたない声を出しましたねえ。でも、まだ先端しか入っていませんよ。今からもっと奥まで抉りますが、屈さないと言うのなら頑張って耐えてくださいね?」  ギフトは体重をかけ、男根を更に奥へと押し進めた。 「ひぎっ、や、無理だ、もう、やめ……がああああっ!!」  男根を根元まで一気に挿入されたクーゲルくんは、悲痛な叫びを上げた。スリットが、巨大な男根で限界まで押し広げられている様子が見て取れる。ギフトはそんなクーゲルくんの両脚を肩に担いだ後、腰を前後に動かし始めた。 「ふぐっ、ううっ、んっ、あああっ!」  ギフトが腰を動かす度に、湿った音とクーゲルくんの艶やかな声が部屋に響く。 「クーゲルさん。中で、貴方のペニスと僕のペニスが激しく擦れているのが分かりますか?」 「言うな、そんな……んがあああっ!」  クーゲルくんの言葉を遮るように、ギフトがさらに激しく腰を動かし始めた。スリット内で男根が激しく擦れて生じる刺激は凄まじいようだ。クーゲルくんの目から、止めどなく涙が溢れ出ている。 「中を抉られるのが気持ちいいのでしょう? 素直になりなさい」 「違う、某は、そんな事を思ってなど、んうううぅぅっ!」  ギフトは男根を根元まで突き入れた状態で、円を描くかのように腰をグリグリと動かし始めた。クーゲルくんの目から溢れる涙と、スリットから溢れる汁の量がさらに増していく。 「があっ、すまない、ゼクスト……ゼクストおぉぉっ!!」  その叫びと同時に、クーゲルくんは全身を大きく痙攣させた。直後、結合部から白く濁った液体がどろりと溢れ出る。どうやら、スリットの中でクーゲルくんは吐精したようだ。 「ふむ。この場面でゼクストさんの名前を呼ぶとは……。もしや、貴方が好意を抱いている相手とはゼクストさんなのですか?」 「ひぐっ、うううっ……!」 「ふふ。野暮な質問でしたね。お詫びと言ってはなんですが、貴方が淫魔になった後は僕が手助けをしてあげますよ。貴方がゼクストさんを堕とす手助けを」  泣きじゃくるクーゲルくんに、ギフトはそう言った。背筋がぞっとするほど、優しい声で。 「い、嫌だっ! そんな事、したくない……! 殺せっ! 某を、殺してくれええぇっ!」 「残念ですがその願いは叶えられません。何故ならば……」  ギフトは一旦腰を引いたかと思うと、一際強く腰を前に突き出した。直後、彼は身体を大きく震わせる。 「たった今、僕の精を中に出させていただきましたから」 「うあっ、あ、あああぁ……っ!!」  絶望。彼の口から漏れた声に宿る感情は、その二文字だった。 「安心しなさい。間もなくゼクストさんも仲間になりますよ。貴方の精を注がれて、ね」  ギフトは穏やかな笑みを浮かべながら、男根を勢いよく引き抜いた。その瞬間、クーゲルくんの太い男根が大量の白濁液とともにスリットから引きずり出される。 「……ゼクスト、もし、淫魔となった某に会ったら……」  焼き尽くしてくれ。それが、彼の最後の言葉だった。 【続く】