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────夜の街にネオンが灯る。
繁華街の一角、“誰にも気にされないような場所”にそのバーはあった。
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バー“meh”。
meh。どうでもいい、意味のない、凡庸な、とりとめる価値もない。
そのバーが意味を持たないからか、意味を持たない事を期待された故の名か。
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:
いずれにせよ、このバーには大きなひとつの役割がある。
それは、“中立地帯”である事だ。
バー“meh”には、一般客は入ることができない。
オーヴァードでないと見つけられない痕跡に気付けなければ、招かれる事はない。
それを乗り越えた先、そのバー内での規則は……あらゆる組織間のしがらみを無視し、互いに一定の不干渉を貫くことだ。
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無論、情報収集の場として使われる事はある。
しかし、“それ以上”は決して行ってはならない。
ルール
それがこの場での社交儀礼。
[main] バーテンダー : 「いらっしゃいませ」
[main] : 今宵もまた、バーのベルの音が鳴った。
[main] :
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ハセベ :
──少年がひとり、カウンターに座っている。
バーという場にはややも似付かわしくない純朴な雰囲気だ。
ノンアルコールに口を付けて、床に届き切らない足をぶらぶらと揺らしている。
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ハセベ :
それはFHがマスターエージェント。
“ソリューションマスター”の名を得た少年はひとり、ぼんやりと棚に、バーテンダーに、ドリンクに視線を彷徨わせながら座っていた。
[main] ハセベ : 恐らくはオフなのだろう。
[main] ハセベ : 「……あの」
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ハセベ :
バーテンダーとふたりきり。
少し重い空気感に耐えられなかったのか、口を開く。
[main] バーテンダー : 「はい、どうされました?」
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ハセベ :
「あの、すみません。俺あんまりこういう所に来る事なくて」
「とりあえずでオレンジジュース頼んだんですけど」
「なんか頼まないととかありますか」
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ハセベ :
──緊張、していた。
少年はマスターエージェントである以前に少年であった。
そらもう慣れない場所に来たらガチガチに緊張する。
[main] バーテンダー : バーテンダーは思った。
[main] バーテンダー : かわいーっ!
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バーテンダー :
でもそういうの表に出しちゃうとさ。
年頃の男の子って気にするよね。
わかる、わかるよ少年……大人にバカにされたって思いたくないよね。
[main] バーテンダー : 「……大丈夫ですよ。当店はお客様同士のトラブル以外、どのように過ごしていただいても問題ありません」
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バーテンダー :
なので、努めて大人として。
“あなたを一人の大人として扱う”。
それが客商売をやるものとしての姿勢だ。
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ハセベ :
「…………よかったぁ」
ぽつりと小声で。
「ありがとう、ございます」
[main] バーテンダー : バーテンダーは思った。
[main] バーテンダー : かわいー。
[main] 真田 兼定 : 「ここなら…人目につかないのです」こそこそと女子中学生(にみえる)子が入ってくる
[main]
バーテンダー :
「……おや。いらっしゃいませ」
今日は少年少女がよく来る日だ。
とは言えどのような事情があれ、客は客である事には違いない。対等に笑顔を向ける。
[main] 真田 兼定 : 手元にはペットキャリーを持ってる
[main] 真田 兼定 : 「アイスティーおねがいなのです」
[main] 真田 兼定 : そわそわと落ち着きなくチョーカーを弄り「まだなのです…」としきりに時間を機にしている
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バーテンダー :
「かしこまりました」
からん、と氷をグラスに入れて。
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バーテンダー :
「檸檬はお付けしますか?」
ステアをしながら少女?に問いかける。
[main] 真田 兼定 : 「いただくのです」
[main]
バーテンダー :
かしこまりました、と続けてカットレモンを入れて。
「お待たせいたしました。アイスティーです」
[main]
ハセベ :
「………」
「あの、何かお困りごとですか?」
そんな様子を見届けた後、少女?に対して少年が声を掛ける。
視線は少女?とペットキャリーに交互に向けて。
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真田 兼定 :
「ひうっ!」と怯えたように身をすくめて髪の毛がびっくーんと跳ねる
エグザイルのようだ
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ハセベ :
「あ、ごめんなさい!驚かせるつもりはなくて……その」
「なんか、そわそわしてたから、手伝えることあったら……って」
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ハセベ :
困ったように頬をかく。
おろおろ。優しさはあるが経験がない。
[main] 真田 兼定 : 「じーーー」
[main] 真田 兼定 : 「服をよこすのです!」無茶振りを言う
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ハセベ :
「……ぅええっ!?」
何て????????
[main] バーテンダー : すげぇなって顔。
[main] 真田 兼定 : 「はっ…無茶苦茶言っちゃったのです!ごめんなさいなのです!」ぺこりと謝る
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ハセベ :
「あ、いえいえ……」
「……その、えーと……事情はお伺いでき……」
いや、もう、服を強請る時点で事情言ってるようなもんか。
「……服、か~~~~~」
[main]
ハセベ :
少年はエンジェルハィロゥ、モルフェウス、サラマンダーのトライブリードだ。
……確かに“症状(シンドローム)”的な話をすると物質生成の行えるモルフェウスは持っている、のだが……。
[main] ハセベ : 「俺作れないんだよな……」
[main]
ハセベ :
直すことは出来る。しかし、0から1は作れない。
薄い3つの症状であるが故の専門性の低さが現在仇となっていた。
[main] 真田 兼定 : 「なのです?」気安くずいっと近づいてくる
[main] ハセベ : わ。ちょっと恥ずかしくなって目を逸らしつつ。
[main]
ハセベ :
「えと……服が壊れたとかなら直せるんですけどね」
「気持ちとしては今すぐにでも服渡してあげたいんですけど」
「流石にそれだと俺、補導されちゃうから」
[main] 真田 兼定 : 「もうこんな服嫌なのです!」涙目で肩ゆさゆさ
[main] ハセベ : 「わわわわわわわわ」
[main]
ハセベ :
頭をひねって考える。あまりよくない(精神1)頭で必死で考えて。
だって、ほら。
[main] ハセベ : 困りごとをほっぽるのは嫌だもの。
[main]
ハセベ :
「…………あ、全部は無理です、無理ですけど!」
「上着!上着あげるくらいなら、全然!」
[main] ハセベ : 本当に頑張った妥協案。
[main] 真田 兼定 : 「上着……」
[main] 真田 兼定 : 「スカート脱がなきゃ意味ないのです!」
[main] ハセベ : 「そ……そんな……!」
[main] バーテンダー : 呑まれてるなぁ、少年。
[main]
ハセベ :
「ぅ……うう…………」
悩む。本当に本当に本当に悩んでいる。
目の前の問題解決手段の最短距離は……本当は理解している。
でも流石に躊躇が、すごく。
[main] ハセベ : 「…………でも……」
[main] ハセベ : 「困ってる………んですもんね……」
[main] ハセベ : 「困ってるぅ……ん、ですもんねぇ……!!」
[main]
ハセベ :
──苦渋の決断、断腸の思い。
そういった言葉を体験する機会は、中々ないだろう。
[main]
ハセベ :
「……………わ……かりました…………」
「バーテンダーさん……ちょっと部屋……借りていいですか……!」
[main] バーテンダー : OKしちゃった!??!?!?!!??!
[main] 真田 兼定 : 「なのです?」
[main] バーテンダー : 「え、あ、うん、大丈夫です、うん」
[main] ハセベ : 「ありがとう、ございます……!」
[main] ハセベ : 裏にはけていく。
[main] ハセベ : しばらくしてバーテンダーにちょいちょいと手招きをして。
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バーテンダー :
招かれて部屋へと行って、少しして。
両手に少年の服を持って帰ってきた。
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バーテンダー :
「これ、あの子から託された……ものです」
そうしてそれを少女?へと。
いいのかな。いいか。
[main] 真田 兼定 : 「ありがとうなのです!トイレ借りるのです!」
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バーテンダー :
ハイ……と見送った。
大人としてこの流れを止めるべきだったのか未だに答えを出しあぐねている。
[main] 真田 兼定 : そう言ってトイレに行って着替えて外へ出る音が聞こえた
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バーテンダー :
「あ、大丈夫でしたか?その……サイズ感とか……」
なんで僕が気にしてるんだろう。
まあ、少年に託されちゃったから仕方ないか。
[main] 真田 兼定 : しばらくして戻ってきて
[main] 真田 兼定 : 「これで大丈夫なのです!服を返したいのです!」とジャージに着替えて戻って来る
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バーテンダー :
「…………」
「わかりました!」
よかった~~~~~~~。
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バーテンダー :
てこてこと奥の部屋に戻って。
少し涙目の少年に服を返して。
[main] ハセベ : そうして少年は戻ってきた。
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ハセベ :
「よかった……本当によかった……」
少年たちの誇りは、守られた。
[main] 真田 兼定 : 「恥ずかしさのあまりとんでもないことをしてしまったのです…」
[main] 真田 兼定 : 「真田 兼定なのです…お詫びに好きなもの頼むといいのです…」
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ハセベ :
「いえ……いいんです、人は困り果てると混乱するものだから……!」
「……ハセベです。漢字で書くと、……多分、長谷部です」
[main] 真田 兼定 : 「名前はないのです?」
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ハセベ :
一瞬ぽかん、とした顔をして。
ああ、と納得したような素振り。
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ハセベ :
「それで困ったことがあんまりないのもあって、無いですね」
「チルドレンなんです、俺。元々ハセベって名前もなくて……必要ならその時作ればいっか、って」
[main] 真田 兼定 : 「結婚するときに困ると思うのです」
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ハセベ :
「その時は」
ちょっとだけ考えて。
「その時好きな名前、付けようかな」
と、屈託ない笑みを浮かべる。
[main] 真田 兼定 : 「恋人の人につけてもらうのも楽しいかもなのです」
[main] ハセベ : 「あ、それアリですね!」
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ハセベ :
チルドレン。外の世界から隔絶された世界で育った少年少女。
どんなに取り繕うとも、どんなに知識をつけようとも。
根底の世界常識が、絶対的に違う存在。
[main] ハセベ : この少年はまさしく、それそのものだ。
[main] 真田 兼定 : 「でも名前がないって行ったら相手の人がびっくりしちゃうかもなのです」
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ハセベ :
「それも……そうなのか」
「……名乗る時、大体仕事だったんで意識したこと無かったです」
[main] バーテンダー : 「ビジネス上の挨拶は、苗字だけで済ますこともありますからね」
[main] ハセベ : 「なんならコードネームだけの時もあるので、……そっか、なるほどって」
[main] 真田 兼定 : 「学校行ってないのです???」
[main] ハセベ : 「あ、行ってないです。必要なら、ちょちょっと“作って”入ってますけど」
[main] 真田 兼定 : 「バレないのです?」
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ハセベ :
「意外と。転校生って言えば入りやすくて」
「あと、大きい……なんだっけ、マンモス校?って所だと、そもそもしれっと入っててもバレないですね」
[main] 真田 兼定 : 「僕はちょっと入っただけでドキドキものだったのです…」
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ハセベ :
「あ、わかりますー。最初の頃はそうですよね」
「でも実は、結構みんな見てるようで見てないから……大丈夫なんですよね」
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ハセベ :
語る姿はまるで日常の延長線上だ。
実際、ハセベ少年にとってはこれが日常なのだろう。
[main] 真田 兼定 : 「友達とかできたらどうするのです?」
[main] ハセベ : あー、と少し声を出した後。
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ハセベ :
「仕事が終わったらバイバイする事が多いかなぁ」
「残念ですけどね」
[main] ハセベ : 「LINEとかSNSとかも、その時々で作ってー、って感じなんで」
[main] 真田 兼定 : 「長い付き合いの人とかはいないのです?」
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ハセベ :
「仕事だとー……数人くらいは、流石にいますね。俺より強い人っていっぱいいますし」
「“友達”って枠だと」
ちょっとだけ沈黙。
「……ほとんどないな」
[main] 真田 兼定 : 「気軽に付き合うことも必要なのです!」
[main] 真田 兼定 : 「友だちになるのです!」
[main] 真田 兼定 : そういって手を差し出してにっこり
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ハセベ :
「………」
ちょっと呆気に取られたような顔をして。
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ハセベ :
「……ありがとうございます、嬉しいです。素直に」
そう言って、微笑んで手を握り返した。
[main] 真田 兼定 : 「ライン交換するのです!」
[main] 真田 兼定 : 「ええと私用のスマホは…」ポケットガサゴソして
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ハセベ :
「LINE……今一番安全な奴使うか」
いくつもあるスマホの中から、一番古いものを取り出す。
[main] 真田 兼定 : ガチャン!とUGN御用達しのスマホを落として
[main] 真田 兼定 : 「こっちは仕事用なのです。ええと…あったのです!」
[main] 真田 兼定 : そう言って私用のスマホを取り出して交換
[main] バーテンダー : あれ……ふるふるしてない……?って顔で見ている。
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ハセベ :
「……よし。交換完了ですね」
そうしてスタンプを一つ送る。ピンク色のもちもちした謎の生き物がもちもちしているスタンプ。
[main] 真田 兼定 : 「なのです!」
[main] 真田 兼定 : 「マイブームなのです???」
[main] ハセベ : 「かわいくないです?」
[main] 真田 兼定 : 「かわいい…のです?」首を傾げる
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ハセベ :
「なんかこう、ふてぶてしさがあるのが、いいです。かわいい」
ちょっとセンスが、変なのかもしれない。
[main] ハセベ : 「……へへ。でも、本当嬉しいな。プライベートで交換するとか……初めてだ」
[main] 真田 兼定 : 「なのです?」
[main] ハセベ : 「ほら、俺達のやる仕事柄あんまりプライベート詮索しないでーって人もいるじゃないですか。プライベートも仕事って感じの」
[main] 真田 兼定 : 「そうなのです?」
[main] ハセベ : 「それこそ真田さんみたいな……普通に過ごす人って、俺の環境は特にですけど、あんま会わなくて」
[main] ハセベ : 「……だから、嬉しいです。ありがとうございます」
[main] 真田 兼定 : 「普通に過ごすのもけっこう大変なのです」
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ハセベ :
「そう……そっか、そうですよね。やっぱ、どの道も大変だ」
「……普段、どんな風に過ごしてるんです?」
[main] 真田 兼定 : 「朝起きたらトレーニングして学校行って放課後仕事場に顔出して訓練とか任務とかして夜中に帰って寝て朝6時に起きる生活が続いたのはちょっと体が慣れてなかったから大変だったのです」
[main] ハセベ : うお……それはちょっと過酷……。
[main] ハセベ : 「……俺の繁忙期くらいヤバいですねそれ。お疲れ様です」
[main] 真田 兼定 : 「体力だけは死ぬほど有るのです」
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ハセベ :
「それ自体はいい事ですけど、無理しないでくださいね」
「キツかったらUGNさんに相談するの、全然アリですから」
[main] 真田 兼定 : 「UGN所属って僕行ったのです?」長髪がが?マークになる
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ハセベ :
「ん? ああ、多分そっちかなって。言わば勘ですね」
「LINE交換の話とか、名前の話とか……」
[main] 真田 兼定 : 「するどいのです!」
[main] ハセベ : 「何より……日常を大切にする。これは他でもない、UGNさんの方針として大きいものですからね」
[main] ハセベ : 良い事だと思います、と頷く。
[main] 真田 兼定 : 「そっちは違うのです?」
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ハセベ :
「あ」
「うーん」
少し悩む表情。
「……でも、友達に隠しごとするのもな」
[main] ハセベ : 「FHです、俺は」
[main] 真田 兼定 : 「やっぱりなのです」
[main] ハセベ : バレてたかぁ、と屈託なく笑う。
[main] 真田 兼定 : 「UGNに対する態度が他社に対するそれなのです」
[main] ハセベ : 「実際競合他社みたいなもんですしね」
[main] 真田 兼定 : 「まあここでは関係ないのです!」
[main] ハセベ : 「ですね。ここではその辺りのしがらみは、無しなので」
[main] ハセベ : ね、とバーテンダーを見る。
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バーテンダー :
にこ、と微笑みで返す。
そこを理解しているのであれば文句も何もない。
[main] 真田 兼定 : 「それはそれとして今度ご飯食べに行きたいのです!サイゼリアとかでいっぱい食べたいのです!」
[main] ハセベ : 「いいですよねサイゼリア。沢山食べるならあそこが一番いい……」
[main] ハセベ : 「いいですよ。最近は、ちょっと大きい案件ひとつ抱えてる代わりにフリーな日多いんで」
[main] 真田 兼定 : 「やったのです!じゃあ帰って仕事場でスケジュール確認したら連絡するのです!推しメニュー勝負するのです!」
[main] 真田 兼定 : そういって立ち上がって
[main] 真田 兼定 : お会計してる
[main] バーテンダー : 「ありがとうございます、お会計¥──です」
[main] 真田 兼定 : 「なのです」電子マネー払い
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ハセベ :
「あ、もう行かれるんですね」
「お疲れ様です」
[main] 真田 兼定 : 「…制服返さなきゃいけないのです」
[main] 真田 兼定 : 「それじゃなのですハセベ君」
[main] ハセベ : 「はい、また!」
[main] 真田 兼定 : てててと店を出て去っていく
[main] ハセベ : 去り際に手を振って、姿が見えなくなるまで見送った。