「ちょっ…と…!なにベルゼブモン!やめっ─────」 「まぁまぁまぁまぁ、良いから良いから。俺様に任せとけって!」 そんな感じで、無理やりに連れて来られたこの奇妙な祭り会場。 周囲を見回すと、そこらじゅうにデジモンと、そのパートナーなのだろう人間がいる。 今更デジモンぐらいじゃ驚かないつもりだったけれど、流石にこんなにたくさんいると、どうしても驚いちゃうな。 それに、遠目に人間がデジモンに変身しているところまで見えた。そういえば…鏡花さんの話でそんなのも…あったような…? でも、見えたものはそれだけじゃなかった。 「ま…昌宏くん、あーん…」 「えっ⁉︎あ…あーん…。…お!これ美味しいな日影!」 「アッ…マサヒロくん、ワタシのも…!あーん」 「あーん…。ん!セヨンのも美味し……ゔっ…」 「「大丈夫!?」」 「頭が…キーンと…」 愛に恵まれた子供達。 「ツカサ!今度はあれやりたい、あれ!」 「今度は射的か…メルヴァモンお前今度は型抜きの時みたいなことすんなよ…?」 愛し合う人間とデジモン。 「リンドウ、やっぱりこれ、あなたにとっても似合ってるわ♡」 「カメリアだって、このブローチが良く似合うよ。」 果てには愛し合うデジモン同士まで。 ここにも色々な愛があった。 そんな周囲を見ていると、やっぱり私が空っぽなような気がして、少し苦しくなった。 それらから逃げるように、どこに行くわけでもなく、何かをするわけでもないのに出店の間を歩いた。 そんな時。 何か物欲しげな様子で周りを見つめる、緑の髪の小さい子供が目に留まった。 周りに保護者がいるようには見えない。 「…君、一人?」 気付くと、私は名前も知らない子供に話しかけていた。 「……食べたいモノあったらお姉さんが奢ってあげる。何がいい?」 そんな言葉が自らの口から出て、自分でも驚いた。 私は良い人じゃない。 自分を満たすためだけに何人もの人間を誘い、喰らい、最後には捨ててきたような人間だ。 いつもならこんな子供のこと、気にも留めないはず。 なのになぜか、この子のことが気になった。私はこの子に何かを感じている。 「いいの…?じゃあね、じゃあね!あのあかくてまるいのがたべたいの!キラキラしてるあかいやつ!」 その子は無邪気に私の善意を信じ、飛び跳ねながらりんご飴をねだる。 「…はい、りんご飴。これだけでいいの?」 「………いい、だいじょうぶ!しらない人にあまりいっぱいもらうと、お母さんが帰ってきたときに怒られちゃうもん。だから、だいじょうぶ……ありがとう、お姉ちゃん!」 お母さんが帰ってきたとき。その子が言った言葉が、何か突き刺さるような感覚を私にもたらした。 …そっか。私はこの子を助けようとしたんじゃなかったんだ。 私がこの子に感じたもの、それは『既視感』だった。 この子は似てるんだ、昔の私に。 「お母さんが帰ってきた時……か。君はいい子だね…」 そう言って私は優しくその子の頭を撫でた。私がかつて、そうして欲しかったように。 ───────── 知り合いと来たわけでもないけど、思いの外話しかけてくる人はいた。 「あら?あなたのその指輪……あなたもしかして錬金術師、でいらっしゃいますの?」 私が身につけていた、鏡花さんのクロスカドゥケウスを変形させた指輪を見て、そう問いかけてきた子。 白い髪の彼女は、はぐらかした私に自分も錬金術師であると明かしてきた。 まさか向こうから正体を明かしてくるなんて…鏡花さん以外の錬金術師と会うならもっと殺伐とした状況になると思ってたんだけどな…。 その子は次に、自分に錬金術を教えてほしいと頼んできた。 私もそこまで扱えるわけでもないし…はぁ…鏡花さんがいてくれたら… そんなことを考えていたらその子は気まずそうな顔になり、だったら友達になってくれない?と問いかけてきた。 …多分声に出てたな、これ。気使わせちゃったな〜… ───────── 「なんか祭りにふさわしくない顔をしてるねー。よしわかった皆まで言うな。アタシたちがあなたが祭りを楽しく過ごすために力を貸してやろう!」 次に話しかけてきたのは謎の一団だった。 怪しい格好をした大人が子供を何人か引き連れている……どういう繋がりなの?警察とか呼んだ方がいい? 「えっと……まず…その…どういう集まりですか…?」 「野暮なことは聴きなさんな。ちなみにそこの開運おじさんがリーダーよ」 はぐらかされた。 どうしよう…まともな人たちには見えないしなぁ… 「なんか……えらいことになっとるな……?すいませーん!通りまっせー!!」 どう対応したものか考えていたその時聞こえたのは、どうにも覚えのある声だった。 「どうして……ここに………」