分岐 ①助言をする ②引き留める ③介錯してやる ④??? ①助言をする 「死にたくなった時に死ねばよいではないですか」 「だから俺はそれで迷ってて……」 「迷っている時点で本当に死にたいのか疑わしいものです。少しでも生きたいなら、死にたくなるまで生きていればいい」 ……なんで、こんなことを言ってるのしょう、私は。  生きろなんて、魔妖に必要の無い言葉なのに。  私は光なき現世を望んでいるはずなのに。  それなのにこの男がここで死ぬことを許容できない自分がいたのです。 「……そうかもしれないね」  男は納得したように頷いた後、私に微笑みかけました。  ああ、その眼はやめてほしい。  そんな眼で私を見ないでください。  その眼で見られると、私は……。 「世話になったよ。ありがとう」  男は感謝の言葉を口にすると、何の未練もないのかすぐさまに立ち上がりました。 ……行ってしまうのですね。 「……」  これまで長かったような、短かかったような。  不思議な感覚でした  引き止めたい衝動に駆られます。  だけど私は引き止め方を知らないし、そもそも止めようとする理由もわかりませんでした。  彼は、どこに行くつもりなのでしょうか。  人嫌いの彼が、これからどうやって生きるというのでしょうか。 ……分からないことばかりです。  男の姿が遠ざかっていきます。  もうこれきり会うことはないのでしょう。  でもこれでいいのです。魔妖は人と相容れないものなのですから。  そうでなければならないのです。 ──座り込んだ私の手の甲に零れ落ちた粒は、何故だか妙に暖かかった。 END① 氷の檻に閉じ籠って