④???  彼はもう、人として壊れている。  見たところ罪人ではなさそうですが、真っ当な道を外れているのも確かでしょう。  幸せになどなれるような存在ではありません。  とはいえ本当に死を望んでいるのかと言われれば、迷いがある時点でそうとは思えません。  哀れだと思う程度の情が湧いたのも事実ですが……さて、どうしたものでしょうか。 ──嗚呼、良い案を閃きました。  全てが丸く収まる名案だと、自画自賛できるほどの──。 「あなたは、何をしていいのかわからないのですね?」 「ああ……。このまま生きてていいのか……!?」 「死ぬことはありませんよ……。そして、『このまま』生きていくことでもない道があります。……少々苦しむかもしれませんが」 「お嬢さんに、委ねるよ」 「では」  言質も取りました。  ざくり。  魔力で生み出した氷柱を自らの手首に突き刺し、血を滴らせます。  痛み?強がりでもなく、我らはこの程度では感じませぬ。 「何を……?」 「口を開けてください」  男の肩を抑えて無理矢理に座らせると、私はその口に指を差し込みました。 「お゛あ゛っ!?」 「おっと、入れすぎました。少しずつでいいので、ごくごくとお飲みなさい」  男は苦しげな声をあげていますが、私の案を達成するにはこれしか道はありません。 「んぐっ、ぐっ……ぐっ……ぶはっ!」 「完食お疲れ様でした。すぐに効果が表れますよ」 「お……おお……!?」  男の身体が痙攣し、その芯が冷えていきます。  これは、私がこれから為すことの成功を意味しているのです。 「あー……。おれは、なにをされたんだい?」 「あなたも、私と同じ魔妖となったのです」 「ほう」  人間が嫌いで、人間として生きるのが嫌で、それでいて死ぬことに迷いもある。  そんな人として幸せになれるとは思えない彼ですが、人間を辞めたならばどうでしょう。  寿命も尽きることはありません。  我らの仲間も増えて、一石二鳥。  全てが万事うまくいく神の一手と言わざるを得ません。 「まぁ、人間は嫌いだったからなぁー。これで良かったのかもしれないね」 「ええ、ええ!喜んでいただけで何よりで!」  そうして、私たちは共に生きる術を手に入れました。  それからしばらく経って。 「は、はははは!!!人間がまた一人減った!お前のくれた力は最高だ!」 「ええ、ええ……。素晴らしき殺しぶりにございます……」 「さぁ行こう!まことに好い夜だ!」  さて、こうして完治した私は、彼を軍勢に加えて暗躍を再開しました。  私たちは、共に幸せを目指している最中なのです。 ──そのはずなのです。 しかし、何故でしょう。 それは私に惹かれ、私が惹かれた彼ではなく──。  一瞬湧いた雑念を消し去り、彼の後をついていきます。  その夜は連日からうって変わって、妙に涼しい夜でした。 END④ 理解と納得