「はぁ‥‥はぁ‥‥」 命からがら、危機一髪。 迷い込んだ森の中で、怪物たちに襲われて息も絶え絶え。 少し前に高値で魔導雑貨商人から買った月の書や魔導書が無ければ、確実に殺されていただろう。そんなことを思いながら、肩で息をする。 じめじめと湿った土の上を歩くたびに靴底が泥だらけになるが、構っていられない。 少し前の事を思い出す。 可愛らしい少女が困っているのを見かけた。 助けようと近付いてみると、彼女の影から現れた巨大な蟻地獄が襲い掛かって来た。 咄嗟に手元にあった、月の書の力で眠らせ、その隙に逃げてきたのだ。 あの時の少女は、蟻地獄が襲い掛かる瞬間、笑みを浮かべてこちらを見つめていた。 それからも、蜘蛛や蟷螂、俺を捕らえようとする巨大な植物に襲われたが、何とか振り切って逃げ延びたのだ。 そして、この森の巨大な昆虫や植物の傍らには、必ずそれぞれ違った姿の少女が居た。 俺の憶測だが、きっと彼女達は、少女の姿で人間を油断させて人間を食らうのだろう。 俺はとりあえず、安全な場所を求めて歩き続ける。 すると、遠くで一人の少女が、鳥に襲われ、蹲って泣いているのを見つけた。 烏の一種に襲われ、怪我しているようだ。 俺は慌てて駆け寄りたい気持ちを堪え、慎重に少女へと近づいていく。 もし彼女が先程のような怪物だった場合、迂闊に近づく事は出来ないからだ。 だが、俺に気が付いているのなら兎も角、割と遠くにいるにも関わらず、彼女は怯えたまま泣き続け、傷を負っている。 もし化け物なら、あんな鳥なんてあっさり倒せるはずだ。 そう考えた事、そしてまだ手元には魔導書がある事を確認してから、彼女に近づいた。 「うぅ‥‥!ぁ‥‥」 呻き声を上げる少女に群がる、機械混じりの烏を追い払う。 近付いてみると、角のような物が頭に生え、ボロ布のような服に身を包んでいたその姿は、明らかに人間ではない。 あの怪物の類では無いかと、一瞬構えるが、 震えながらこちらを見るだけで、襲いかかってくる様子は無かった。 よく見ると体のあちこちに傷があり、血を流している。 恐らくは本物の傷なのだろう、偽装したにしては痛々しさが本物過ぎる。 とは言え、一度騙されて襲われた身。 懐の魔導書からは手を離さず、警戒したまま近付く。 「えっと、大丈夫?」 「‥‥ぁぅ‥‥?」 近くで見る彼女は、やはり普通ではなかった。 肌の一部は黒く染まったようだし、口の中に牙が生えている。 幸い、森の出口は近い。逃げ出そうと思えば出来るかもしれない。 だが、こうして近付いた以上、ここで傷付いてしまっているのに何もしないというのも、目覚めが悪そうだ。 俺は彼女を刺激しないように、なるべく目線を合わせながら、手持ちの包帯と軟膏で、軽い手当をした。 「これでよし」 彼女から生えた鋭い爪のような器官で貫かれる事も脳裏に浮かんだが、 抵抗もせずにされるがままになっている。 とりあえず、傷口が化膿しないように薬を塗って、包帯を巻きつけただけだが、これでも効果はあると思う。 さっきまでうめき声を出していた少女だったが、手当が終わると少し落ち着いたようで、静かになった。 一先ずの処置を終え、ほっとする。 それから、改めて目の前の少女を観察した。 「君はどうしてこんな所に居るんだ? あの化け物の仲間だったりするのか?」 俺の言葉を聞いているのかいないのか、少女はぼーっと虚空を見つめていた。 「ぅ‥‥ぁ‥‥?」 もしかすると、言葉が通じていないのだろうか? どうしたものかと悩んでいると、少女が突然抱き着いて来た。 襲い掛かって来るかと思い、本を握り締めたが、少女はそのまま動かなかった。 ただ、俺に抱き着いてじっとしている。 不思議に思って顔を見ると、彼女は安心しきった表情で、目を閉じていた。 ‥‥仕方がない、森の出口も近いのだ、このまま連れて行こう。 しっかりと抱き着いて離れない彼女をおぶると、そのまま歩き出す。 背中から温かな体温を感じながら、彼女を連れて人里に辿り着いたが、目を覚ました彼女は、俺の足にすがりついて来た。 辿り着いた人里で、怪訝な目で見られながらも、必死になって事情を説明し、何とか宿に泊めて貰う事に成功した。 彼女は不思議な存在だ。 何を話すわけでもなく、ただ俺の側にいるだけ。 あの森の怪物と同じような姿でありながら、どこか違う。 彼女達は俺を誘き寄せる為、助けを求めるような演技すらしていた。 しかし、この少女は言葉を話す事も出来ない。 ただ、俺の側に居るだけだ。 「君は一体‥‥」 「ぅ?」 思わず呟いた言葉に、彼女は首を傾げた。 そんな彼女の頭を撫でながら、俺はこれからどうしようかと頭を悩ませた。 「うーむ」 折角手当したのに、ここで見捨てるのも目覚めが悪い。 そうするなら、そもそも助けなければ良かったのだ。 「俺の家まで来るかい?」 「ん」 言葉が通じるかは分からないが、一応話しかけてみると、彼女は意味が分かってるのかどうか分からないが、コクリと頷いた。 そうして、馬車を借りて家へと帰る。 「今回は大分疲れたな‥‥」 一人呟き、荷物を降ろすと、彼女を連れて部屋に入った。 「ここが俺の部屋だよ」 「ほ?」 彼女はキョロキョロと辺りを見回しながら、俺の後に続く。 そして、ソファに腰かけると、彼女もその隣に座り、俺に抱き着いて来た。 「うーむ」 そんな様子に苦笑しながらも頭を撫でてやる。すると、気持ち良さそうに目を細め、 こちらに身体を寄せて来た。 「君の名前は?」 そう尋ねると、彼女は首を傾げる。 そもそも、この子自身が自分が何者かを理解していない気がする。 だが、これから過ごすにあたって、名前が無ければ呼び辛い。 「とりあえず、名前が必要だな‥‥」 そう言うと、彼女は不思議そうな顔をした。 俺は彼女を膝の上に座らせると、考える。 「お前の名前は『ルティア』だ」 確か、何処かの言葉で黄色の意味を持つその名を、彼女の瞳の色から思い付く。 「ぅー?」 どうやら気に入ってくれたようで、名前を繰り返して鳴く。 その様子に微笑みつつ、俺は彼女の頭を撫で続けた。 「これからよろしくな」 意味が分かってるのか、ただそれっぽく鳴いているだけなのか。 しかし、彼女は俺の言葉に反応するように声をあげた。 「ほー‥‥」 とりあえず、旅の疲れを取る為に風呂にでも入ろうとしたのだが、ルティアは脱衣場まで着いてくる。 引き離そうとしても、服を掴んで離そうとしない。 「仕方ないな」 俺は諦めて服を脱ぐと、ルティアを風呂場へと連れて行く。 服を脱がせてやると、やはり肌の一部は黒く染まり、角や牙が生えていた。 「ほ‥‥?」 そんな俺の視線に気付いたのか、彼女は首を傾げる。 「いや、何でもない」 危険な怪物なら、ここまで来るまでに何時でも俺を襲えたはずだ。 それをしなかったのだから、多分大丈夫だろう。 そう考え直して、彼女を洗い場に座らせると、自分も裸になり、桶に湯を汲む。 「ほら、体を洗うから大人しくしててくれ」 「うー‥‥?」 彼女は不思議そうにしていたが、俺がタオルを濡らし始めると興味深そうに見ていた。 そして、濡らしたタオルで体を擦ってやると、気持ち良さそうに目を細める。 そんな様子に微笑みながらも、しっかりと洗ってやる。 「よし、綺麗になったぞ」 「ぅ‥‥!」 彼女は嬉しそうにした後、俺に抱き着いて来た。 異形の部分もあるが、柔らかな身体がくっついて来て少し理性に悪い。 「ほら、湯船に入るから一旦離れてくれ」 そんな彼女を引きはがし、持ち上げてゆっくりと一緒に湯に浸かる。 「あぁ、生き返るなぁ~」 思わず声が出てしまうが、ルティアは特に気にした様子も無く俺の膝の上に座っていた。 よくよく考えれば、連れ帰った少女を一緒にお風呂に入れる男、傍から見れば危険ではなかろうか? いやまあ、放っておく訳にも行かなかったが。 「ほー‥‥」 そんな事を考えていると、ルティアが心地よさそうな声を上げる。 どうやら、彼女も満足しているようだ。 「ほぅ」 「ん?どうした?」 俺に寄りかかりながら、彼女は何かを訴えるように鳴いた。 「のぼせたか?まあ、そろそろ出るか」 「ん」 素っ裸のまま抱き着くルティアを連れたまま、俺は浴室を出る。 思えば、こんな風に誰かと一緒にお風呂に入ったのは何年ぶりだろうか。 などと考えながらタオルで身体を拭き、髪を乾かす。 その間もずっと、彼女は俺に抱き着き続けていた。 「おーい、そのままだと拭けないから一旦離れてくれないか?」 「うー?」 不思議そうに首を傾げるルティアをどうにか引きはがす。 「よし、良い子だ」 そう言って頭をタオルで拭いてやる。 ボロ布みたいだった服の代わりに、馬車を借りる前に買っておいた子供用のパジャマを着せてやった。 角や突起に引っかからないよう、慎重に着せる。 「ほぉ?」 「ちょっと大きいか?」 少しダボついた感じになってしまったので、調整をしてやる。 すると丁度いいサイズになった。 「!」 彼女は楽しげに笑いながら、俺の手を引っ張る。 「ん、どうした?」 「んー」 そう言いながらも、彼女は俺の腕を抱き締めて離さない。 「全く」 手当をした時から思っていたが、この子は随分と甘えん坊だ。 しかし、それが嫌という訳ではないので、されるがままにしておく。 「さて、飯でも作るかな」 「ん!」 彼女が何をしたいのかは分からないが、どうせ暇なので、料理を作ってやる。 と言っても、そこまで手の込んだものは作れないが。 食べられない物があったりすると困ったが、ルティアは出された物を美味しそうに食べていた。 ‥‥それは良いのだが、手で食べている辺り、この子の教育をどうするか悩むところである。 まあ、言葉が理解出来てるかも怪しいのに、食器の扱いが上手いというのもおかしいか。 「ほー」 「ほら、口元汚れてるぞ」 そう言って彼女の口を拭いてやり、食事を終えると、俺はソファに座り本を読む。 意味を理解出来ていなさそうだが、徐々に言葉を教えていくしか無いだろう。 しかし、ルティアは俺の隣で、じっと俺の顔を見つめていた。 「どうした?」 「ぅー?」 本の中身が分からないのだろう、こっちの顔を見て首を傾げる。 とりあえず、読み聞かせをする事にしたが、根気良く進めていくしかない。 「昔々あるところに‥‥」 そうして、夜は更けていく。 いつの間にか眠っていたルティアを抱きかかえ、ベッドに寝かせる。 自分は別に野宿用の布団を敷こうと思ったが、ルティアが離さないから同じベッドで眠る事にした。 「お休み」 そう呟き目を閉じると、疲れからかすぐ眠りについた。 翌朝目を覚ますと、ルティアは俺に抱き着いた状態で寝息を立てていた。 撫でてやると、嬉しそうに身をよじる。 そんな彼女に苦笑しつつ起き上がると、朝食を作る。 「おはよう」 「ほはほー?」 彼女は首を傾げる。多分、挨拶の意味を理解していないのかもしれない。 「朝ごはん作るから、少し離れててくれるか」 そう言ってもよく理解していないルティアを引きはがし、キッチンに立つ。 近付いて来るルティアに危ないからと何度も離しながら、トーストとベーコンを焼いた。 「ぅ‥‥?」 手で食べても問題無いように、ホットサンドのようにしてやると、彼女はゆっくりとかぶりついていた。 とりあえず、一緒に過ごすにしても彼女の言いたい事、やりたい事が分からなければ何も出来ない。 子供用の絵本を使って、簡単な言葉を勉強させることにした。 「?」 絵本を読んでやると、ルティアは理解出来ているのかいないのか、首を傾げながらもこちらを見る。 「ほら、もう一回読んでやるからな」 「ほ‥‥?」 そんな様子に微笑みつつ、俺は再び物語を読み始める。 そうしてルティアに言葉を教えようと過ごした結果、めきめきと言葉を覚えていき、 一か月の間で、ある程度ではあるが、意思疎通が出来るようになっていた。 「わたし、るてぃあ」 自分の事を指でさし、ルティアはそう言った。 「ああ、偉いな」 学習の成果を受け、頭を撫でてやると、嬉しそうに笑う。 「ふぇー‥‥」 ルティアは、俺が教えた文字を紙に書き連ねている。 「どうしたんだ?」 「あいあと‥‥」 ぎこちない笑顔でお礼を言うルティア。 何の事かと聞くと、 「おにーさ、おにーさん。いたいの、なおしてくれ、ありがと」 一番最初に、彼女の手当をした事を覚えていたらしい。 律儀な子だ。 「どういたしまして」 そう言ってまた頭を撫でてやると、照れくさそうにはにかむ。 抱き着き癖は変わらないが、それでも驚くべき早さで知識を身に着けている。 一緒に街を歩いている時、奇異の目で見られる事もあったが、 確かに角や突起が目立ちこそするが、常に俺にぴったりとくっついているのもあり、危険な怪物では無いのだと分かってくれるだろう。 まあ、食事の時も、風呂に入るときも、トイレに行く時でさえ、ずっとついて来ようとするのは個人的に困るが。 「おにーさん、すき‥‥」 「はいはい」 そう言いながら抱き着く彼女を、適当にあしらう。 最初は少し戸惑ったものだが、今はもう慣れたものだ。 「んー‥‥」 彼女は不満そうな声を上げる。 「はいはい、ありがとうなー」 「んぅ」 適当に返事をする俺に、彼女は頬を膨らませながら抱き着いて来る。 「おにーさーん、すきー」 こうして真っすぐに好意をぶつけられながら抱き着かれると、流石に動揺してしまう。 「いっしょにおふろ‥‥はいる」 「よし、入ろうか」 そう言うと、彼女は嬉しそうにする。 「♪」 服の脱ぎ方も教えているからか、角に引っ掛けずに服を脱ぐのも上手くなっている。 「あらって、あらって」 「はいよ」 彼女は俺に抱き着いたまま、楽しげに笑顔を向けてくる。 その様子は本当に愛らしく、思わず見惚れてしまう程だ。 「ほー‥‥」 「はいはい」 そう言って、俺は彼女の頭や背中を洗う。 「えへへ」 「どうした?」 「なん、でも、なーい‥‥」 そう言って、彼女は俺に抱き着く。 俺はため息を吐きつつ、ルティアの髪を洗い流す。 この子が言葉を覚えた事で分かった事はいくつかある。 まず、彼女はとても素直だ。 俺の言葉を疑わず、疑問にも思わない。 というよりも、俺の言葉から世界を知るから、疑うという発想が無いのだろう。 慣れて来た気もするが、彼女に抱き着かれているせいで、どうしても鼓動が早くなる。 しかし、それが嫌かと言われれば、決してそんな事は無い。 「ほー?」 「何でもないよ」 そう言って、彼女に湯をかける。 「きゃ‥‥」 彼女は楽しそうに、俺にしがみつく。 最初の頃の言葉を喋れない頃は、犬でも拾ったような感覚だったが、 こうして言葉が通じるようになると、少しこそばゆい。 「はいはい」 彼女に抱き着かれながら、一緒にお風呂から出る。 自分で身体を拭けるようになったルティアを褒めると、得意げに胸を張る。 「ふふー‥‥」 「ほら、まだ濡れてるぞ」 そう言って、彼女の髪や体をタオルで拭いてやる。 気持ちよさそうに目を細める彼女を見て、自然と笑みがこぼれる。 「ほー」 「はい、終わり」 「あいがと」 彼女は俺に抱き着き、笑顔を見せる。 「ほー‥‥」 「どうした?」 「ルティアね、おにーさん、だいすき」 「ああ、知ってる」 「むぅー‥‥」 そう言いながら、ルティアは抱き着く力を強める。 そうして、ルティアとの生活は、穏やかに過ぎていった。 ルティアの情緒の成長は、思っていたよりも早かった。 一年で流暢に言葉も喋れるようになり、見た目を除けば人間と遜色無いと思えるようになった。 だが、彼女は人前に出る事を嫌がる様になり、外に出なくなった。 俺が外に出ようとすると、不安そうにこちらを見上げる。 天真爛漫だった頃を思うと、まるで別人のように大人しくなった。 「お兄さん‥‥」 ある日、俺が外から帰ると、とことこと近寄り、俺に抱き着こうとして、思い留まる。 「最近どうした?」 「‥‥なんで?」 「いや、何と言うか、急に変わったなって思って」 彼女は俯き、黙り込む。 「何かあったのか?」 「‥‥」 しばらくすると、彼女はぽつぽつと呟くように語り始めた。 「私、お兄さんや、村の人達と‥‥違う‥‥よね」 「それは‥‥」 否定しようと思ったが、彼女の寂しそうな表情を見ると、何も言えなかった。 「お兄さんが、優しいのは分かってる‥‥けど、周りの人がどう思ってるか、分からないから」 そう言う彼女は、服の裾を強く握っていた。 「何言ってるんだ、一年ここに居て誰もルティアに酷い事しなかっただろ?」 「‥‥そう、だけど」 彼女はそう言うと、俺から離れた。 「違う、の。そうじゃなくて、そういう意味じゃなくて」 彼女は何かを言いかけて口をつぐむ。 「お兄さんの傍にいるのは好き。優しくしてくれるのも、すごく嬉しい。でも‥‥」 そう言いながら、彼女は俯く。 「‥‥私と一緒にいる事で、お兄さんが悪く言われないか心配なの」 彼女は今にも泣きだしそうな顔で言う。 「本当は、居なくなった方が、いいんじゃないかって、思って、でも、お兄さんが寝ている間に森に帰る勇気も無くて」 彼女はうずくまり、こちらを見ないままそう続ける。 「だから、こうして森の時みたいに出来るだけ居ないみたいにして、お兄さんの‥‥邪魔、しないように、って」 彼女はそこまで言うと、言葉を詰まらせた。 俺は彼女の前に座り込み、その頭を優しく撫でる。 「‥‥っ」 彼女は顔を上げ、こちらを見る。 その瞳からは大粒の涙が流れ落ちていた。 「大丈夫、俺はそんな事気にしないよ」 そう言っても彼女は首を横に振る。 「違う、の‥‥お兄さんは、優しいから、でも‥‥」 彼女は嗚咽交じりに言う。 「じゃあ、ルティアはどうして俺にくっついて来たんだ?」 そう聞くと、彼女はまた泣き出してしまう。 「‥‥」 しばらく待っていると、落ち着いたのかゆっくりと話し始める。 「わかんない、優しくしてくれて、嬉しかったから‥‥?暖かかったから‥‥?わかんないよ‥‥」 そう言って、彼女はまた泣き出してしまう。 「お礼、言えたとき‥‥凄く嬉しかっ、た‥‥お兄さんに迷惑かけるのは、嫌‥‥」 「俺は気にしないって。そもそも迷惑なんて思ってないしな」 「嬉しい、そう、言ってくれて嬉しい、のに‥‥それじゃ駄目なの」 そう言って、彼女は首を横に振る。 「一緒に居てくれて、美味しいご飯をくれて、優しくしてくれる‥‥でも、私はお兄さんに何も返せてない」 「それは違う‥‥、そうか、言い方、悪かったか」 「‥‥?」 首を傾げる彼女に微笑む。 「お前が俺に勝手にくっついてきたんじゃなくて、俺がお前を連れて来たかったんだ」 彼女は首を傾げる。 俺はそんな彼女の頬に手を当て、涙を拭う。 「傷付いてるのを助けるのも俺の我が儘だし、その後、ここにいて欲しいと願うのも、俺の我儘だ」 「‥‥なんで?」ルティアは不思議そうな顔でこちらを見ている。 俺は苦笑しながら続ける。 「‥‥恥ずかしいけどさ、寂しかったんだよ。だからさ、前みたいにくっついてくれると、嬉しい」 「‥‥うん!」 彼女は頷くと、再び俺に抱き着く。 「えへ、えへへ‥‥」 その様子を見て安心しつつ、彼女を抱きしめる。 「それにほら、可愛いしな、お前」 「‥‥!?」 驚いたルティアが赤面し、慌てて離れる。 「ズ、ズル!お兄さん、ズルイ!」 「何だよ。本当のことだろ」 「うー‥‥」 彼女は頬を膨らませ、そっぽを向く。 そんな様子に苦笑しながら、彼女の頭を撫でると、またこちらに抱き着いてきた。 ルティアはその日から、また俺にべったりとくっつくようになった。 「お兄さん、なでて?」 彼女は微笑みながら俺に言う。 「はいはい」そう言って頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。 「えへへ‥‥」 周りの人たちは、ルティアが思ってたより、彼女の事を受け入れ、可愛がってくれたようだ。 彼女は、前よりもよく笑うようになったし、よく話すようにもなった。 「お兄さん」 ルティアは俺を呼ぶと、抱き着く。 「どうした?」 「んー‥‥えっとね」 そう言いながらも、彼女は俺に頬ずりをする。 「大好き、です」 そう言って笑う彼女は、とても愛らしく見えた。 「俺もだよ」 俺がそう答えると、ルティアは嬉しそうにする。 「あれ、ちょっと待ってね、大好きだとちょっと違う‥‥?言い方、間違えたかも」 「え、そうなのか?」 俺がそう言うと、彼女は少し考えてから口を開く。 「‥‥うん、えっと、えっとね、お兄さん‥‥」 ルティアが抱き付き、耳元まで顔を近づける。 「愛して、ます」 耳元で囁かれたその声に、思わず背筋がぞくりとする。 思わず振り向いた先には、俺が名前の由来にしたルティアの黄色い瞳が、真っ直ぐにこちらを見つめていた。 「えへへ、照れちゃうね」 彼女はそう言うと、顔を赤くしてはにかんだ。 何となく、無邪気な子供のように思っていたルティアの表情が、単純な好意ではなく、恋慕の情に起因するものだと分かると、途端に今までとは違うものに見えてしまった。 「お兄さんは、私に好きって言われて‥‥嫌?」 ルティアは上目使いで聞いてくる。 ふと、ルティアの表情に、森で出会った少女達のような雰囲気を感じる。 「‥‥嫌じゃないぞ」 俺がそう言うと、ルティアは恍惚とした笑みを浮かべる。 「‥‥そっかぁ♡」 彼女は俺の膝の上に跨ると、ゆっくりと顔を近づけてくる。 金縛りにあったように、近づいてくる彼女の唇から目を離せない。 「お兄さん、大好き‥‥♡」 ルティアの唇が、俺の唇に優しく触れる。 甘い匂いに包まれながら、柔らかい感触を感じていると、彼女が抱き締めてくる。 「ん‥‥♡」 彼女の舌が、俺の唇を割り開くように侵入してくる。 抱き付いてきている両手両足よりも離れがたい繋がりが、舌を通して伝わってくる。 「ふぁ♡」 長い口づけを終え唇を離すと、名残惜しそうにルティアはこちらを物欲しげな目で見つめていた。 「そっか‥‥ぁ♡くっつくのって、こんなに幸せだったんだぁ‥‥♡」 そう笑うルティアは、まるで獲物を仕留め、一口目を味わった後の獣のように、舌なめずりをする。 「もっと、もっとしっかり、お兄さんとくっつきたいなぁ♡」 ルティアは俺に抱き着きながら言う。 「ね、いいでしょ?」 そう言って笑う粘ついた視線に、俺は絡めとられてしまっていた。 無言を肯定と受け取ったのか、ルティアはゆっくりと服をはだけさせ、その肌をさらけ出す。 いつも一緒に風呂に入っているにも関わらず、俺はその姿から目が離せない。 「お兄さん、大好き‥‥♡」 ルティアはそう言いながら、俺の首に手を回す。 俺よりも小さい身体で抱き着いたまま、顔を近づけてくる。 彼女の吐息が顔にかかると、熱に浮かされるような感覚に陥る。 彼女は舌を入れながら、唾液を流し込んでくる。その甘さに頭がくらくらする。 そして、ルティアの穴とくっつく為の器官が、ズボンの中で固くなっていくのを感じてしまう。 「あっ‥‥お兄さんも、ルティアとくっつきたくなった?」 そう言って嬉しそうに笑うと、彼女は俺の服を脱がせる。 「えへへ、嬉しいな」 ルティアはそう言いながら、大きくなった俺のモノを、自分の穴に押し当てる。 その様子を見て、沸き出てくる熱。 それは、まるで娘のように思っていたルティアと繋がる事への背徳感。 それは、今まで見たことの無いルティアの表情に対しての、ほんの少しの恐怖。 それは、今、ルティアと繋がってしまえば、後戻り出来なくなるという罪悪感。 ‥‥いや、違う。 そんな不純物でしかない感情は何処かへ行ってしまい、ルティアと繋がりたいという欲求だけが心を満たしていく。 初めてだからか、上手く入れられず、押し付けるようにしているルティアの動きも、焦らされているかのような快感にしかならない。 「えっと、こうかな‥‥?」 腰の角度を変える度に、ルティアの柔らかで粘ついた膣内が、俺の棒を飲み込もうと吸い付く。 「あ、この角度かな‥‥?」 ルティアはそう言うと、ゆっくりゆっくりと腰を落とし始める。 まるで底なし沼に足を踏み込んだように、ずぶずぶと緩やかに沈んでいき、抜け出せないような錯覚に襲われる。 柔らかくて熱い、それでいて絡みついてくるルティアの膣内は、誘い込んでくるかのように奥へと引き込む。 「ほ‥‥っ‥‥♡ふぅ、入ったよ‥‥♡」 俺の全てを包み込み、ルティアは嬉しそうに微笑む。 ルティアの一番奥に、ぴったりと先端が当たると、彼女はぎゅっと俺を抱き締める。 「お兄さんの全部、私の中にぴったりくっついてる‥‥♡」 今までに無いほど密着した状態のまま、ルティアはこちらを見つめる。 お互いに動かず、完全にくっついた状態を味わう。 動いて少しでも離れるのが嫌で、お互いにこのままでいる事に固執していた。 まるでこうしているのが自然だったように、お互いがお互いの体温と鼓動を感じる。 「えへへ、幸せ‥‥だね♡」 ルティアはそう言うと、抱き締める力を強める。 お互いに求めあっている事を改めて実感しながら、俺はルティアの背中に手を回し、強く抱き締め返す。 挿抜する事なく、ただ繋がっているだけで、ルティアの温もりと、とろける様な快楽が俺を満たす。 「お兄さん、好き♡大好き♡愛してる♡」 ルティアはそう言うと、俺の胸元に頬ずりをする。 「ずっとこうしたかった‥‥♡」 その言葉が嘘では無いと証明するように、ルティアの中はひっきりなしに痙攣し、肉壁がうねる。 一番奥、子宮口が離れがたいと吸いついて来ているような錯覚を覚える程に、彼女の中は俺を求めている。 じわじわと高まる快楽は、徐々に高まり、まるでゆっくりと零れるように限界を迎える。 「私‥‥っ♡これ、好きっ♡」 ルティアも同じようで、ゆっくりと絶頂を迎えているようだ。 始まりも終わりも分からない絶頂が、ずっと続くような感覚。 脳が溶けるような多幸感に身を任せ、ルティアを強く抱きしめると、彼女はそれに答える様に抱き返してくる。 「んん‥‥♡」 彼女の身体に力が入り、それと同時に膣内の収縮が強くなる。 こちらも、いつの間にかとぷとぷと射精していて、ルティアの奥に精液を流し込んでいた。 瞬間的に弾けるような絶頂ではなく、登り詰めた後も下りる事が出来ないような感覚。 お互いの境界線が曖昧になるような、そんな感覚が心地良い。 「お兄さん‥‥♡」 ルティアはこちらに顔を向けると、舌を伸ばしてくる。 俺はそれに応えるように舌を伸ばすと、ルティアは舌を絡めてきた。 舌を絡めながら、ルティアは俺に抱き着き、腰をぐりぐりと動かし始める。 「んー‥‥っ♡ちゅ、じゅるる‥‥っ♡」 舌を絡ませ、全身で繋がり合う事を確かめ合いながら、ゆっくりとした動きで、ルティアは俺を責め立てる。 1mmも離れないようにしながら、腰を回したり、前後に揺すったりと、様々な方法で俺を責めてくる。 「気持ちいい? 私はとっても、とぉっても、気持ちいいよ‥‥っ♡」 ルティアはそう言って笑うと、再び舌を絡めてくる。 ルティアは俺に抱き着いたまま、まるで搾り取るかのように、ぐいぐいと膣圧を強めて来る。 お互いに何度達したか、あるいは、最初の絶頂がずっと終わっていないのか、もう分からなくなっていた。 ただ、永遠にも思えるような幸福感だけが、俺たちを満たしていた。 そうして、お互いの意識も溶け合って、何も考えられなくなる。 いつの間にか差し込んで来た太陽の光が瞼に当たり、目を覚ました事で、眠りについていた事に気が付く。 あの後、いつまで繋がっていたかは分からないが、ルティアが腕に抱き着いたまま眠っているのを見ていると、どうやら寝落ちしてしまったらしい。 ルティアの頭を撫でようと手を動かすと、彼女が眠ったまますり寄って来て、思わず笑みがこぼれた。 昨晩の行為が夢ではないと教えてくれる温かさを感じながら、しばらく彼女の髪を優しく撫で続けた。 ルティアが起きるまでの時間、彼女の温もりに包まれながら、幸せな微睡に身を預けるのだった。